55 エスタール帝国③
①スタンピードの説明
②信用皆無のアルベリオン王国
③世界樹の葉
「話を戻しましょうか。原因が本当に世界樹だとしたら、既に無くなっている可能性が高いですね」
「そう結論するのは早計だぞ?」
「調査は必要じゃのう」
「それは、冒険者に任せればいいだろ。あいつらはプロだからな」
冒険者、魔物のスペシャリストであり、未開の地を探索する開拓者。
人種が国の体制を確立する以前から原型が存在しており、地域によって特色はあるが組織化された現在でも、国を跨いで存在する数少ない自由組織である。
「あぁ、それが良い。なるべく数を導入してくれ」
「ん? 何かあったか?」
「正確な情報が確実に欲しい事と、仕事の斡旋だな。今回のスタンピードで、国内のハンターギルドと冒険者ギルドから仕事が不足していると、報告が来ていると言っただろう?」
魔物の被害が無視できないこの世界において、必要不可欠な存在である冒険者。そんな彼らに蔑ろな対応をする国や町は殆どない。冒険者は他国でも活動できて仕舞うからだ。その為、国から依頼も出すし、要望にも必要な場合は応える。
「そう言えばあったな。依頼料は財務省との相談だな」
「今回の様な大規模な事例がないからのぅ。軍務省に、いや軍務大臣ヴォウ、君に任せますぞ。君の方が、どの程度で彼らが食いつくか、分かっているだろうからのぅ。」
「上限は?」
「今回は無しじゃ、前例が無いからのぅ。あまりにも膨大ならば、調整を入れるがのぅ」
「了~解」
「後は追加情報が入ってきたらですね」
「…調査をギルドに任せるとなると、防衛戦力が余るな。軍務省、警備の人員は足りているか?」
「なにせ、な~んにも無くなっちまったからな。視界が通らない場所なんてない状態で、警備も何もねえよ。都市内部についても、現地の人員だけで事足りているぜ~」
頭の上で手を組み、背もたれに寄り掛かった状態で、ふてぶてしく答える。会議の終盤に差し掛かると、飽きから対応が適当になるこの光景も、いつもの事である。それでも、ミスをすることは無いので、誰も咎めることは無い。むしろ、この状態の方が、調子がいいほどなのだ。
「む!? ならば! 以前から出ていた、『地下からの襲撃に対する都市防衛方法の確立』、これをやってみたらどうだ?」
技術大臣のドットンより、提案が上がる。
『地下からの襲撃に対する都市防衛方法の確立』、地中を移動する魔物や、穴を掘る魔物や敵に対して、重要拠点に張られている、結界の魔道具の範囲を地中にまで伸ばす方法や、地中にある空洞を探知する、魔法や魔道具の開発。純粋な魔力の探知による、地中の魔物を感知する魔法や魔道具の開発など、複数の方法が挙げられた、研究レポートだ。
これには、魔道具の開発に技術省も関わっているため、出た案であった。特に、重要拠点の防衛は最優先事項にあたる為、周りからも悪くはない反応が上がる。
「何もない土地も、丁度ある…悪くないな」
「ならば、魔術師も必要ですね。魔術省から何人か出しましょう」
「魔道具関係に、技術者もだな!」
「軍務省、人員配置を頼んだぞ?」
「お、おう? 分かった」
その後も、スタンピードによる被害や対策について、話し合いが続き、意見が出し尽くされる。そして
「では、命を言い渡す」
会議の様子を静観していた、皇帝レウスが発言し、周りの者の注目が集まる。
「内務省、引き続きインフラ整備、及び治安維持に努めろ」
「はっ」
「外務省、諸外国の被害状況の確認を急げ、それによって対応が変わる」
「承知いたしました」
「財務省、各省と連携し必要経費の算出を急げ」
「了解じゃ」
「防衛省、魔術省、防衛対策に人を回せ、無駄だとは思うが、ポロロの奴にも言っておけ」
「はっ!」
「…分かった」
「技術省も同じく防衛対策に人を回せ。そして、開いた土地の活用方法をまとめ提出しろ。検証する」
「おう!」
「軍務省、冒険者ギルドへの交渉。防衛対策の人員配置。各地の物資の確認及び再配置。殉職者の確認と弔慰金の算出。孤児や、不可労働者の確認と、各施設へ連絡対応。それぞれ、各省と相談の元に行え」
「ちょっと、俺だけ多くね? 他の仕事も溜まってんだけど…」
そんな発言に対して、皇帝はやれやれと言いたげに、頭を左右に振る。
「ヴォウよ」
「な、何だよ?」
「…そう言うことは、本当に出来なかった時に言え」
ニヤリ、と笑みを浮かべながら、言い放つ。文句は受け付けていない様だ。
「だーーーー! 分かったよ! やりゃぁ良いんだろ!? 間違いが起こっても知らねーぞ!?」
「問題が起きたら、お主の責任になるに決まっておるだろう?」
「まったくじゃのぅ」
「…当然だ」
周りの大臣たちから、追従する声が上がる。皇帝エスタールができると判断したならば可能、彼等の共通認識であった。ヴォウもその事は分かっているため、「うげ~」と言いながら、机に突っ伏している。実際に皇帝からの無茶ぶりは、全てやりのけるのがヴォウと言う男である。
その後、派遣された魔術師によって、地中の探査魔術の開発が開始。そして、地中にベテルボロ・ラッチの卵が埋まっていることを発見する。
その情報を得た国は、被害にあった国ほど怯え、早急な解決策を模索するが、スタンピードの被害への対応に追われ、場当たり的な対処が精いっぱいな現状であった。
そんな中、エスタールの技術省によって、数日の内に卵の発見・処理技術の確立がなされる。その技術を外交カードとし、諸外国との交渉に優位に立つことに成る。
実力者の国エスタール、転んでもただでは起きない。かの国の発展は未だ暫く続く。




