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43 黒い濁流(ハンター)

①即断即決の男

②腹黒執事

③スタンピード確定!

 

 エスタール帝国:貿易都市エンバー 街道


 エスタール帝国にある街道の一つを、貿易都市エンバーに向かって進む。

 日が傾き、青々とした草原が赤く染まる。気温も下がり、馬車の揺れと、リズミカルな馬の足音が哀愁を漂わせる。

 そんな中、戦士のロット、狩人のロビン、治療師のマリア、そして魔法使いである私ことララの四人は、少々焦っていた。


「……何とか、今日中には着くか?」

「この調子なら多分ギリギリね、それもこれも、お師匠さんが道草を食うから」

「わっはっは!」

「笑って誤魔化さないでください!」


 まぁ、お師匠様が居る限り、雰囲気を楽しむとか無理ですね。


 私達四人は皆、子供の頃にお師匠様、『破壊者(クラッシャー)』の二つ名を持つジャック・バルバス・リューデルに拾われ、それ以降一緒に旅をしている。子供の頃は養ってもらい、さらに生き方を、戦い方を教わり、今では他のハンター達にも注目される程になった。

 そんな、恩人であるお師匠様は、自由奔放かつ戦闘狂。気が向くまま、強そうな相手が居る所へと移動する。

 今回もお師匠様の一言、「東……森へ行くぞ!!」によって、魔の森へと向かう事になったのだから、その奔放さは分かってもらえることでしょう。


 ―――


「着いたぜ!貿易都市エンバー!!」

「煩いわね、もう夜なんだから大人しくしなさい!」

「夜って言ってもよ、これだけ活気があるんだし問題ないだろ?」

「恥ずかしいって言ってんの!」


 今、一番騒いでいるのは私達でしょうね。

 ロットが叫び、マリアが怒鳴る、ロビンと私は他人のふり……いつもの光景です。

 ……何でしょうか、周りからのこの生温かい視線は、これが田舎者に向ける目線なのでしょうか……私は無関係ですよ?

 でも、本当に賑やか。今まではお師匠様に付いて行って、辺境やその周辺の村しか行った事が無かったから、新鮮だわ。


「それでは、私はギルドに行ってきますね」

「お? そんじゃ、俺は宿とっとくわ」

「あれ? お師匠さんは?」

「ん」


 ロビンが街の中心方向、商店が立ち並ぶ道を指さす。

 そこには、迷いなく、悠然と、真っ直ぐ、酒場に向かう御師匠様の姿が有りました。これもいつもの事です。


「ま、またあの爺は……」

「もういいわよ! さっさと用事を済ませて、今日は休みましょう?」


 その後は、何事も無く就寝しました……本当に何もありませんでしたね、いつもなら何かしらトラブルに会うのに……逆に不安になりますね。


 ―――


 翌日、宿で朝食を済ませながら、今日の予定を確認する。お師匠様?帰ってきませんでしたが、なにか?


「取り敢えず、消耗品の補充だな。これは俺がしておくわ」

「装備の点検とかは?折角の都会、しかも貿易都市だよ?新しいのを見てみるのもいいかもね!」

「魔の森に行くのも時間が掛かるし、新調しても慣らす時間はあるか」

「では、ギルドで依頼を確認して、それから各自行動でどうでしょう?」

「「異議なし!」」


 魔の森方面へ行く輸送や護衛の依頼が無いか、ギルドへ確認に向かいました。街のギルドと言うことで、期待していたのですが、大きさはそこまで変わりませんね、すこし残念です。考えてみれば、都市だけあって魔物の被害も少ないですし、当然かもしれないですね。

 そんな事を思いながら、店内に入りました……が。


「なんだか騒がしくないか?」

「後にした方が良いかしら……」


 混んで居るのとは違う慌ただしさで、ギルド内が満ちていた。

 軽く依頼を見るだけの予定でしたし、後でも良いかも知れないですね。それよりも、この慌ただしさの原因を知るほうが先ですね。


「……ん」


 私が、賛成の意思を伝える前に、ロビンが室内の中心部にある掲示板を指さす。


「スタンピード……?」


 そこには、強制依頼……スタンピードへの対処依頼が掲示されていました。

 慌ただしさの理由はこれですか。……まさか、お師匠様はこれを嗅ぎ付けたのでしょうか?あり得そうで怖いですね……。


「Cランク以上の方は東門へ移動、戦闘用意をして下さい!Dランク以下の方は後方支援です!ギルド職員の指示に従い行動して下さい!!」


 ギルド職員の声が響く。突然の事で、動揺している人が見られますね、能力も低いですし、質は悪そうです。ハンターならば、突然の出来事にも即座に対応できないと……死にますよ?


 そんな私たちは、すでに東門に向かっていた。ギルドで確認しましたが、敵の規模すら把握できていない。これは流石に異常事態です。早急に確認し、対策を立てないといけないですね。


「取り敢えず、ララの魔法で一掃か?」

「魔法が効くタイプだと良いのですが……」

「幸い防壁はしっかりしてるし、ロビンが撃ち落として、ロットが切るなり、突き落とすなりすればいいかしら?」


 小走りしながら、大雑把に相手への対応策を話し合う。


 ― ……ーー~~ォォォォオオオオォォォン~~ーー……!! ―


 そこへ、突然お腹の底、内臓にまで響き渡る音が轟いた。


「これって、爺のだよな……」

「そうね」

「急ぎましょう!」


 ―――


 ゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワ


「「「うわぁ~……」」」


 防壁を登り、私たちが見た風景は一面の黒。何処までも続く、蠢く黒でした。なんですか、この状況は……。


「これって……もしかしてラッチか?」

「ひぃ!!??」


 ロビンが悲鳴を上げる。そう言えば、ラッチが苦手でしたね。


「ぬぁーはっはっはっはっはっは!!」


 ― ……ーー~~ォォォォオオオオォォォン~~ーー……!! ―


 お師匠様が腕を振るうたびに、吹き飛び、土に埋もれ、叩き潰される。その度に、幾つもの黄色い花が咲く。それも、すぐに黒い波に呑まれて消えていく。……花が虫の体液でできてなければ、幻想的な光景なのですけど。


 昔は、ここも魔の森や他国に接しており、この防壁はその名残だそうです。その分、とても頑丈な為、破られる兆しはない。まさか、今になって役に立つとは、誰も思っていなかった事でしょうね。

 流石のお師匠様も、一匹も通さないのは無理でしょうし。有り難い事です。

 あ、撃ち漏らし。端の方から上がってきたラッチを焼き払う。


「正面は御師匠様に任せましょう。私は端から焼き払って行きます。ラッチならば燃えるでしょう」

「うんじゃぁ、俺は苦戦してるところに応援にでも行くわ」

「私は、後方で治療と支援ね。ロビンは……」


 彼女は既に、防壁を登ってくる敵をせっせと弓で射貫いていた。正面から来なかった理由は、御師匠様だけでは無かったのですね。……目が血走っています、必死ですね。


「放置で良さそうね」

「お、おう」

「では、行動開始!」


 安全地帯からの飽和攻撃。楽な仕事ですね。


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