表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/334

40 黒い濁流(平民)

①害虫駆除!

②大金を手に入れたらどうします?

③ダンジョン運営開始!


エスタール帝国:貿易都市エンバー 街道


魔の森と街を繋ぐ街道、先日の雨でぬかるんだその道を、一人の人間を乗せた二足歩行の蜥蜴の姿をした魔物が、本来ならあり得ない速度で疾走していた。


「シュー! シュー! シュー!」

「踏ん張れ、アムド! もう少しだ! もう少しで、エンバーに着く!」

「フシャーーー!!」


地蜥蜴(ランドリザード)は、その馬力と速度、何より優れた持久力から昔から足として親しまれている。

アムドは、生れた時から一緒に居る俺の相棒だ。そこら辺に居る地蜥蜴(ランドリザード)では、足元にも及ばない。


「カシュー! カシュー! ゲボゥ、カ˝シュー!」


そんなアムドでも、全速力で一日中走れば流石に限界だ。いや、限界なんて、もうとうに過ぎている。

嘔吐しながらも走り続ける姿を見ていると、何もできない自分が無性に情けなくなってしまう。それでも、止まる訳にはいかない。速く、少しでも早く! この事を伝えないと。手遅れになる前に!


道中頃、進路に影が見える。あれは、馬車? 商人か! 道のど真中で止まりやがって!


「おーい! 道を開けろーーー!」


聞こえてないのか? いや、車輪が道にハマって動けないのか? クソ!


「そこのお前! 止まれ!」


商人の護衛か? 動けなくなった馬車なんて、魔物や盗賊からしたら格好の獲物だ。

普段なら警戒して当然。だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない!


「緊急事態だ! そこを通し――!?」


突然、空中に投げ出され、地面に叩き付けられた。まともに受け身も取れず、激痛が走る。あばらが折れたか?


「ゲホッ、ゴホ! ・・・!? アムド!!」


先日の雨で泥んだ街道、そこに空いた溝に足を取られてしまった様だ。相棒も泥のせいで、気が付かなかったのだろう。馬車もこれにハマったのか?

急いで相棒に駆け寄る・・・足が折れてしまっている、これでは、・・・もう走れない。


「何もんだてめぇ! 盗賊か!」

「違う! スタンピードが起きたんだ! 直にここまで来る、お前たちも荷物を捨てて速く逃げろ!」

「・・・プ! アハハハ! スタンピードだってよ!? 吐くならもっと上手いウソを吐けよ」

「今の体制になってから約20年、スタンピードを見逃したなんて、聞いたことがない」

「そんなもんが起きたら、すぐに知らせが入るようになったもんな」

「今時、そんなので騙される奴なんて居ねーよ! 仲間は何処だ? それとも、置いていった荷物を掻っ攫う算段か?」


護衛の人間たちが口々に否定してくる。殆どが20代の若造共、こいつらはスタンピードの恐ろしさを知らないんだ。

しかも、護衛の一人が剣先を向けてくる。このガキどもが! 説得する時間も無いと言うのに!


「スタンピードだと!? それは本当か!」


馬車から人が降りてきた。現れたのは、五十代半ばの男だ。その顔には、驚愕と恐怖の色がありありと現れていた。

この方なら、分かってくれるか!?


「貴方が主人か! 足が無くなってしまった。貴方の地蜥蜴(ランドリザード)を一匹貸してほしい! 頼む!!」


その男は、私と相棒のアムドを一瞥すると、少し考える素振りを見せる。


「・・・分かりました、お譲りします。馬車から外しますので、少々お待ちください」

「助かる!」

「おい、マジかよ」

「君達も手伝いなさい、荷物を下ろします。全てですよ」

「はぁ!?」


言い争いが聞こえてくるが、気にする余裕もない。俺は相棒のアムドへと向き直る。

アムド、すまないアムド、最後まで一緒に居たかったが、その足ではもう無理だ。置いていく俺を許してくれ。


― ドゴ! ―


「フシャーーー!!」

「ア、アムド・・・」


鼻先で殴られ、威嚇される。長年一緒に居たんだ。何を言いたいかくらい・・・わかる。


馬鹿にするな、サッサと行け!


そう、言われてしまった。


「外しました、急いでください!」

「助かった!」


譲ってもらった地蜥蜴(ランドリザード)に跨り、相棒を改めて見る。


「・・・シャ!」

「・・・あぁ、じゃぁな相棒」


今度こそ前を向き、走り出す。急げ、相棒の犠牲を無駄にしないために!


―――――


「行っちまった」

「雇い主さんよぉ、あいつが言ったこと、マジで信じるんですか? 今時スタンピードなんて・・・」

「当然だ、地蜥蜴(ランドリザード)を、相棒を犠牲にしてまで何故馬車なんぞを襲わねばならん」

「犠牲?」

「・・・この子、もう死んでるよ。全部出し切ったんだね、命が燃え尽きてる」

「え?」

「長年商売をしているとな、相手がどんな事を思っているか分かるようになる。命懸けなら尚更だな」

「・・・」

「事の重大さが分かったか? ・・・ターニャ、来なさい。若いもんも、死にたくないなら急げ、出発だ」

「わ、分かった」

「・・・うん・・・じゃあね、蜥蜴さん」


全ての荷物を捨て、全速力で街道を突き進む。この英断が、彼らの命を救う事となる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ