317 帝国の使節団③
PC不調……(; ・`д・´)
「本当は前日にやる予定だったが、各種トラブルによって本日迄縺れ込んでしまったこと、お詫び申し上げる。早速だが今日の予定を通達する、事前の予定と変わっている部分が多岐にわたる為、皆心して聞く様に」
流石は最高級の宿か、盗聴対策が施された一室には、ワシ含め使節団の各トップが集められとる。ここでの話がこ奴らを通じ、方々に伝わるのじゃろうて。
「こんな朝っぱらからやる事無かろう」
「今日の予定だっつってんでしょ。今やらないでどうするのよ」
朝っぱらから連れ出されたかと思えば、面倒じゃのう。まぁ、予定通りにいかない事は分かり切っとった事じゃから、協力位はしてやるわい……協力的でない奴が隣に座っとるがのう。
「まぁ、それは兎も角……問題はテメェだゴラァ、ロロイラ、話を聞きやがれ!」
「僕はこの資料の熟読に忙しいのですよ! 行程などはそちらの領分。私が参加する意義を見出せませんね」
「黙らっしゃいトラブル筆頭! 元々、本国待機だったアンタが紛れ込んでなければ、ここまで拗れなかったのよ、この魔境オタクが!」
「魔境オタクだなんて……そんなぁ、褒めないで下さいよ」
「キーーー話が通じない!」
エレナが頭を掻きむしっとる。
魔物やダンジョン、未開拓地の気候や資源などの調査、解析等を担う魔境省。そこの最高責任者である魔境大臣、ロロイラ・ロ・ベ・フェト・ファラモルテ。森人であるこやつは、見た目若々しい青年に見えるが、その実、何年生きとるか分からん化け物爺じゃ。
「ロロイラ、なんじゃいその資料の束は」
「そうなのですよ、聞いて下さいますか【破壊者】さん! 我々魔境省の本幹は辺境の地にての調査と監視にあるのは御存じかと思われますが、此度の訪問先が辺境のそれもダンジョンとのことで現地の視察及びアドバイザー的な立場での参加と成った訳です」
「呼んだのは魔境省の連中で、アンタは勝手について来ただけでしょうが……」
「我々の経験と知識を遺憾なく発揮する所存でありますが当然事前調査は必要になる訳です。情報と言えば冒険者ギルドですがここには未だに支部がないとの事でハンターギルドの方に顔を出したのですがこれが、これが大当たりでして! 出るわ出るわの情報の山! 辺境に生息する魔物の情報にその分布! 未知の資材や植生! 各地に転々と存在する迷宮の詳細! こちらは【破壊者】さんのお弟子さん方のご貢献が凄まじいようですね大変ありがたいことです! はぁはぁ……冒険者ギルドでも、これ程の情報が整理された状態で誰でも観覧できるとは思っておらず、思わず全ての情報を購入してしまいました、うへ、うへへへへへ」
興奮し早口でまくし立てるロロイラに、エレナが理解しがたい生き物を見るかのような視線を向けとる。
……どちらかと言うと、ワシもロロイラ寄りじゃから、ロロイラの気持ちも理解できてしまうんじゃよな~。ワシは未知の探求、ロロイラは未知の解明、方向性がちぃとばかし違うがのう。ここは未知の宝庫、興奮するなと言う方が無理と言うモノじゃ。
エレナがロロイラを魔境オタクと揶揄している様に、こ奴は魔物や魔境と言った事柄に対し尋常ならざる好奇心を持っとる。普段は国で大人しくしとるようじゃが、此度はその好奇心が爆発でもしたのじゃろう。使節団に紛れ込み、街に潜入。ハンターギルドで狂喜乱舞しとる所を発見され、連行と相成った訳じゃな。
ほっとくと何するか分からんから連れて来たんじゃろうが……ロロイラの独断専行無我夢中は今に始まった事ではない。森人全般に言える事じゃが、興味をそそる事柄を見つけると、極端な執着を見せる者が多いのじゃ。夢中種族、偏食種族と揶揄される事も少なくない奴らじゃからな。
まぁそれも種族として、納得できる理由があるのじゃがな。寿命が無いに等しいこやつら森人は、ホイホイ興味が移ってしまってはあっという間に人生の意義を失ってしまう。時間感覚も兎に角悠長で、飽きるまでの時間が他の種族とは段違いじゃ。
それによる他人種との弊害も多いのじゃが、まぁそれはよかろう。問題は、こ奴の行動は国益に直結する為、頭ごなしに止められない事じゃ。
ロロイラが国に所属しとるのも、情報が入って来るからじゃろうし、情報と束縛を天秤にかけ、束縛に少しでも傾こうものなら、簡単に見限るじゃろうからのう。
そしてそれ以上に、死なせるわけにはいかんことじゃ。
興味がない事はどんどん忘れるが、興味のある事は些細な事でも覚えておる、生きた情報源じゃからな。叡智の結晶、歩く大図書館……存在するか分からん情報を探す方が早いか、その情報に興味を持った長く生きた森人を探す方が早いか、と比較される様な奴らじゃからな。帝国関係なしに、死なす訳にはいかん奴じゃ。
まぁ、それは抜きにして……ロロイラではないが、ワシの役目なんぞそっちで勝手に決めればよかろうて。こちらは雇われておるだけ、なぜワシが同席せねばならんのじゃ?
「ある程度予定は決まってはいたけど、事情が変わり過ぎなのよ。てか、国連中に向けた言い訳や建前を損なわないようにしながら目的を達成しなきゃならないから、割と真面目に困ってるのよ。依頼外なのは分かっているけど、迷宮関連の事だけでも良いから手伝ってちょうだい」
エレナが疲れた様に額を抑え、切実に訴えて来よる。昨晩のゲッコウの飯が相当効いたかのう? 一番の原因はロロイラの若爺じゃろうが。
ロロイラは逃がす事も、死なす事も出来ん貴重な人物じゃ。場合によっては皇帝の命よりも優先される。そりゃ周りの連中は、心労で過労死して仕舞うわのう。調整を入れねばならぬか。
しかし、むう……下手に安請け合いするのも憚られる。事情が事情だしのう、ワシ個人としては手を貸すこともやぶさかではないが、安くみられるのも癪じゃわい。
「酒許可」
「仕方がないのう……ほれゴトー、出てこい出てこい」
「メルル、ではお言葉に甘えまして」
「ふぉ!?」
ま、渋る程の事でもあるまい。国の体裁なんぞ一介の冒険者であるワシが知った事ではないが、迷宮との顔つなぎ程度なら構わんじゃろ。
先程からしれっと紛れ給仕に勤しんでおった、獣顔状態のゴトーを呼び寄せる……背後から現れるのは、こ奴らの趣味か何かなのかのう? ゴトーのほうが完全に趣味じゃろうのう。またエレナが被害にあっとるわい。
「何者!? どこから入った!」
「最初から居ったぞ? 給仕しとったじゃろ、ほれゴトーワシにも茶ぁくれ」
「はい」
「いやいやいや、部外者は全員退室しているのを確認して、え? あれ? あれぇ???」
慣れんと、ゴトーの潜入スキルを見切るのは困難じゃからのう。認識した今でも現実と現状の齟齬を正せず、混乱しとるわい。心の隙に入り込み、違和感を消し去りつつ場の空気に馴染み溶け込む。警戒する切っ掛けを掴めなければ、警戒も注意もできんわな。機械的に処理する以外に、こ奴を止めるのは困難じゃろうて。
……魔道具の類でどうこうするのも困難じゃろうがのう。ゴトーは悪魔族ゆえ、魔力や瘴気に干渉するのも干渉されんようにするのもお手の物じゃ……ん? こやつの侵入を防ぐには、どうやればよいのじゃ?
「メルル、お初にお目に掛かります。私めはゴトー。【世界樹の迷宮】への水先案内人とでも思って頂ければ」
「ほほう、迷宮の魔物ですか? 私、とても興味がありますよ」
「メルル、私めもでございます。ロロイラ・ロ・ベ・フェト・ファラモルテ魔境大臣様」
「おや、私の事もご存じで。はっはっは、これは帝国内にも目耳が入り込んでいそうだね」
「ちょっとそれ、笑い事じゃないわよ!?」
ゴトーが興味を持っとるのは……ロロイラの知識か。この世界から見た迷宮は、新参者と言っても過言ではないからのう。奴らが求めるのは、過去の知識や情報じゃ。そう考えれば、ロロイラは涎が出る程に欲しい存在じゃろうて。
そしてエレナよ、そこは気にするだけ無駄じゃ。こやつらの技術は既に帝国を超えとる。何せ迷宮の不思議パワーを使って、人と人に準じる魔物が魔道具を作っとるんじゃ。厳重警戒でも施されておらん街中には、入り放題じゃろうて。
―――
「全員を比較的安全に運ぶとなると、やはり【転移塔】の地下ダンジョンを攻略して貰うのが順当かと」
「やはり、そうなるのか」
「転移塔は、攻略すればするほど、利用できる範囲が広がる仕組みになっております。外周の簡単な【転移塔】であれば、運が良ければ一般人でも抜けられるレベルですので、誰かを護衛しながらでも攻略できることでしょう」
【世界樹の迷宮】の大まかな構造は、表層、上層、中層、下層、深層に分かれとる。その各層に均等に【転移塔】が設置され、【転移塔】への到達者や地下の迷宮の攻略者に、利用権を与える仕組みじゃな。
【転移塔】の到着者にはその【転移塔】と、その【転移塔】より浅い層にある最寄りの【転移塔】までを転移できるようになる。表層より外には該当する【転移塔】は無い為、そこだけは例外じゃのう。
【転移塔】の地下迷宮を攻略すれば、同じ層の両端と最寄りの深い層の【転移塔】までを転移できる。
極端な事を言えば、【転移塔】の地下迷宮を攻略していけば、世界樹の深層迄移動できるわけじゃな。まぁ、そんな簡単な話はなく、【転移塔】の地下迷宮の難易度と、地上の危険度はどっこいどっこいじゃ。
そこで、導き出される選択肢は三つじゃ。
一つ、ワシの様に順当に地上を攻略し、世界樹の元迄赴く。
二つ、上層の【転移塔】を攻略し、アルベリオン側の外周【転移塔】へ転移する。
三つ、街中にある外周の【転移塔】の低難易度ダンジョンを攻略し、上層の最寄りの【転移塔】へ転移。そこから更に上層の【転移塔】を攻略し、アルベリオン側の外周【転移塔】へ転移する。
裏の目的である迷宮との友好関係構築は、ゴトーを通せばどうにでもなるじゃろう。問題は表の目的である、アルベリオンの戦争観戦じゃ。
「一番の場合、ジャック様の同行はご遠慮願います」
「なんでよ」
「野生の魔物が怯えて近づかなくなるため、迷宮の防衛能力が著しく低下するのです。それを強行されるのであれば、私どもも黙ってはいられません。それに、物理的に距離が有りますので、時間がかかりますよ?」
「では三番かのう。二番では【転移塔】に着くまでの道のりと補給が面倒じゃからな」
「それしかないのね……はぁ」
話し合いの結論を前に、エレナがため息を吐いとる。迷宮の攻略なんぞ、全く考慮に入れとらんかったじゃろうしのう。
融通? 忖度? ゴトーにバッサリ切り捨てられたわい。迷宮としての矜持だとか、迷宮の設定を変更するには手間がかかるとか、色々難色を示して断わりよった。
まぁ、あまり便利に利用されても困るわな。
来週投稿できるかも知れないし、出来ないかもしれません。投降がなかったら御察し下さい<m(__)m>




