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275 冒険者⑧(分岐点)

①Sランク冒険者

②絶対破壊の拳

③黒い靄の正体が!?

「グルルルルル」


 予想していた通りの種で嬉しい気持ち半分、外れていて欲しかった気持ち半分、といったところかのう。


 威嚇する様に唸り声を上げる(キャルト)の姿は、細部や大きさは違えど、今まで森で見て来た種とほぼ同じじゃ。

これは、こ奴だけが特別な種ではないと言う事じゃろう? こんな魔物がポンポン生まれでもしようものなら、世界が滅ぶぞ!


「ガーーーーーーーー!!!」


(キャルト)は一声上げると、ゆっくりとではあるが、身体の至る所から黒い塊が突出し、黒い靄を上げ始める。

あれこそ、ワシが今し方ぶっ壊したモノじゃろう。また全身に纏おうとでもいう心算か?


「させる訳が無かろう!」


 タイミングを掴んだとはいえ、もう何度も拳は撃てん。生身を晒している今の内に、その体、ぶっ壊させてもらうぞ!


 この期に及んで、隠し玉を持って居るとも思えん。最短距離を最大速度で進み、もう片方の拳でぶっ壊す!


「ぬぅりやぁ!」

「ガーーーーーーーー!!!」


 優先的に纏ったのか、黒い塊を纏った前足を突き出し飛び掛かって来る(キャルト)

だが、今までと速度も変わらず、気配を感じ取れる状態では、最早ワシの敵ではない。黒い前足を避け懐に入り込み、確実に殺す為に頭部へと拳を放とうとした瞬間……


「あ~~~もう! 何なんですかこの状況は!?」


ワシと奴との間に何かが割り込み……気付けばワシは、宙を舞って居った。


「な? ぬ!?」


余りにも予想外且つ突然の出来事に、ワシとしたことが、状況の理解に一瞬思考が止まってしもうた。


「く!」


周囲の気配を読み天地を確認。身体を捻り態勢を整えると同時に、(キャルト)の位置を確認する。奴は……ワシ同様、宙を舞って居った。


 視線を気配のする方へ向ければ、天地が逆転した状態で人型の何かに鼻先を掴まれた奴の姿が……ワシが地面に着地する頃には、人型の何かに振り被られ、派手に地面に叩き付けられ、めり込んどった。


「ちょっと、何でこんなところに居るんですかフサフサさん!?」

「ガーーーーーーーー!!!」


人型の何かが、(キャルト)に向けて声を掛ける。内容からして。奴はこの(キャルト)の正体を知っておるだけでなく、それなりに親しい仲の様に見える。

だが一方で(キャルト)は収まりが付かないのか、憤怒の形相を浮かべ、人型の何かに対し黒く濁った瞳を向け吠え立てておる。

 更に仰向けの状態から寝返ると、人型の何かに向け黒い前足を振り上げよった。


突然湧いて出て来た、会話のできる情報源じゃ。咄嗟に守りに入るべきかと足が出掛けたが、その必要がないことをすぐに知る。


「あ?」


たった一声と共に放たれる、感情の欠片も無い、重いだけの無機質な威圧。

到底、生き物が放ったモノとは思えんそれが、物理的な力を持って(キャルト)を地面に押し沈めよった。やはり、こ奴も化け物か!?


「ガーーーーーーーー!!」

「あ゛?」

「が、ガーーーー!」

「……あ゛ぁん?」

「…………ミー」

「うむ、よろしい」


(キャルト)が足掻く度に圧力が増し、怒気が混じり、殺気が混ざる。


後ろ姿しか見えん故に人型の表情は見えんが、(キャルト)の方は、余程恐ろしい目に合っとるんじゃろう。最後には身に纏う黒い靄も消え、涙目を浮かべながら情けない声を上げ、地面に沈んだまま小刻みに震えて大人しくなりよった。


「ストレスが溜まっているのは分かりますから、ね?」

「グルル……」

「戻ったら思いっ切り遊びましょう? ですから、ね? 取り敢えず帰りましょう?」

「ウンニャウ……」

「待てぇい!!」


 (キャルト)の頭を撫でながら、この場から引き上げる算段を立て出しよった人型に待ったをかければ、人型の何かは、ため息交じりに振り返る


 黒い髪に、黒い瞳。何処にでもいそうな普通の顔立ちをした若造がそこに居った。


「……え~? ここで話しかけます~? 有耶無耶にしときましょうよ~」

「駄目に決まっとろうが!? そ奴は何だ、お前は何だ、それを知れなければ、引くに引けんわい!」


人型が、至極面倒くさそうな顔でふざけた事をぬかしよった。こんな中途半端な状態で、引き下がれるわけが無かろうが!?


「そもそもじゃ、そ奴はお前の配下か? こちとらそ奴に襲われ、少なくない被害を被ったんじゃ。詫びの一つでもあって然るべきじゃ無いかのう? おお?」


ワシが要求すれば、人型の何かは気まずげに頬を掻く。感性は人に近い様で安心したわい。

こちとら死にかけたんじゃ。野生の魔物相手ならいざ知らず、管理下に置かれた者であれば、管理者に対しそれ相応の対応を求めて然るべきじゃ。


「むぅ、そこを突かれると痛いですね。ですがそれを言ったら、そちらもここを滅茶苦茶にしてくれましたよね?」

「不可抗力じゃ。そ奴が襲って来んかったら、こうなる事も無かったわい。そもそも、土地を如何こうと、お前さんが何か言える立場なのかのう?」


 まるでこの地の所有者とでも言いたげな発言を指摘すれば、人型の何かは肩をすくめて見せる。

なるほどのう……お前さんの正体は何となく察したわい。言う気はないが、隠す気も無い事ものう。


「う~~~ん。そうですね~~~……ではこうしましょう!」


 眉間に皺を寄せ、考える素振りを見せる人型は、ぽんと手を叩く。


「この子の情報含め、こちらの事情についてはここの奥に進めばわかります。この子の様な魔物が現れる事はありません。完全なイレギュラーだと思ってください。それとこの一件の詫びに、こちらをどうぞ」

「な、ぬ?」


一方的に捲し立てる人型は、最後にどこからともなく二本の瓶を取り出すと、それをこちらに投げよこしよった。

……今、何処からコレを出しよった? <空間魔法>では無い、全く別なのにかじゃ……って!?


「こ、これは!?」

「奥まで来たら、もっと良いモノ用意しますよ~。ではでは失礼」

「なんじゃ……と!?」


 投げ寄こされた品に目を奪われている内に、反論する間もなく、終わったとばかりに人型が口を開きよる。

視線を戻せば、(キャルト)共々、既にその姿は消えて失せておった。


 あ、ア奴……詫び品を押し付けるだけ押し付けて、一方的に終わらせよった。


「ぐ、ぐぬぬ……これに手を付ければ、納得したことになるんじゃろうのう……」


 投げてよこした二本の瓶。中に詰められている琥珀色の液体を、太陽の光に透かして眺める。

瓶の外からでも分かる。改めて見ても、ため息が漏れそうな程に素晴らしい逸品じゃ。


「……【世界酒】と【世界樹の結晶命薬】、か」


 これは、一般人が飲める代物では無いのう。個人で楽しむ……いやいや、奴に物申す為にも、これに手を付ける訳には……


「旨い!?」


 か~~~、スカスカになった体に、酒が染み渡るわい……は!? ワシとしたことが、つい手が……まま、ええわい。情報を得られんかったのは癪じゃが、被害云々については、それ程気にしとらんかったからのう。


それよりも、やらなければならんことができたわい。


【世界酒】(これ)よりも、良いモノ……か」


 取り敢えず、戻るとするかのう。相も変わらず、迷宮は丈夫じゃわい……転移の術式の方も無事だと良いのう?



―――



「じじい!」

「お師匠様、無事でしたか!」

「……無事? これって無事?」

「生きてた! 良かった、よかったよう」


 迷宮の転移装置を利用し人里に戻れば、坊主共が群れてきよった。村の連中も、野次馬しとるわい。

特にララの錯乱が酷いのう。最初に奴の存在に気付いたのがララじゃったから、<鑑定>でも仕掛けたか?


「ふ~~~……」


その場に腰を下ろす。安全を実感したら、どっと疲れが湧いてきたわい。


残り魔力残量、2割っといった所かのう……いやはやギリギリだったわい。最後の一撃が入らなければ、死なんまでも逃走する羽目になっとったわい。


「じ、じじい、大丈夫か?」

「あぁ、ちぃとばかし疲れただけじゃわい」

「あ、いや、それもあるけど……」

「その、手が」

「手?」


 両手を寄せて見れば、片手が黒い塊となっていた。

 ……あぁ、そうか。奴が纏っていった黒い塊をぶっ壊した時か。今の今ままで、気付かなかったわい。気付いた今ですら、ここに手があったのかと疑いたくなるほどに、感覚も実感もないわい。


「か、回復するわ!」

「あぁ、無駄じゃから気にせんでよい。それよりロビン、保存用の袋があったじゃろ」

「え? うん」


黒くなった手を、根元からもぎ取る。


「お、おう……」

「調べられるのであれば、調べて貰え」


 もぎ取った黒い塊()を、ロビンが取り出した袋に放り込む。これで、奴の正体が少しでも分かればよいのじゃがのう。期待薄じゃわい。


 ……そう言えば、奴が寄こした瓶が、もう一本あったのう。

【世界樹の結晶命薬】……奴が詫びとして寄こしたんじゃ。<鑑定>結果に間違いがなければ、効果が有るやもしれんのう。

 

試しに一口……く~~~! 少々癖が強いが、これはこれで旨いのう!


「お?」


全身から煙が上がり、ボロボロと黒いカスが落ちる。全て避けたつもりじゃったが、それなりに貰っとったらしいのう。無くなった手に視線を落とせば、そちらも同様に崩れ落ちとった。これは、もぐ必要も無かったやもしれん。


「崩れたと言う事は、ここにも効果が有ると言う事かのう?」


今度は、もいだ手があった場所に、直接ぶっかける。勿体ない気もするが、どうやら当たりらしい。


骨肉が盛り上がり、新しい手が生えよった。そうじゃそうじゃ、こんな感じの手じゃった。まぁこれで、被害は最小限に収まったと言えなくも無い、か。


「さて、お前たち……ワシはやる事ができた。お前たちは好きにせい」

「おぉう。いつもながら突然だな」


二度三度、新しい手の感触を確かめ、重い腰を上げる。流石に今日は疲れたわい。


「やる事とは……お師匠様、結局あれは何だったのですか?」

「さぁのう……ワシにも分からん。故に、それを知る必要がある」


 あの存在は、決して放置してよいモノではない。既に遭遇しておるので、刺激するしないの段階は超えてしもうた。


「お前たちも十分に実力は付けた。お前達だけで充分やって行けるじゃろう。やる事は今までと変わらんじゃろうしのう」

「それは……そうかもしれませんが」

「冒険者として活動するにも、ここは丁度良いしのう。あの様なイレギュラーは出ないと、奴も言っとった」

「奴?」


 何を隠して、何を知らせたいのか……貴様が望むのであれば、本気で踏破してやろうでは無いか。のう? 迷宮主(ダンジョンマスター)よ! 旨い酒を用意して、待っておれ!


ララさんによる<鑑定>結果


名称:終わりを告げるモノ (半変異)

氏名:フサフサ

分類:---

種族:使徒

LV:---

HP:---

SP:---

MP:---

筋力:---

耐久:---

体力:---

俊敏:---

器用:---

思考:---

魔力:---

適応率:---

変異率:---

スキル

・肉体:---

・技術:---

・技能:---

称号:<終わりを告げるモノ>

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、やっぱ幹部なんですね…チートなはずのクラッシャーでも倒せない魔物が奥地とはいえモブだとしたらこの世界が心配になってt…いや邪神に侵略されてるからそこそこ手遅れ() こうして増えていく主様…
[一言] ああー、鑑定結果をみたら恐怖におちるわw わからないから鑑定掛けたのに見てもわからないっていうw
[良い点] いつも楽しく読ませていただいております。 [一言] フサフサさんの「ミー」が可愛かったです。
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