271 アルベリオン②(開拓)
①アルベリオンの国際事情
②無能アルベリオン領主、捨て駒説?
③ダンマス、アルベリオンの避難場所設営予定地訪問決定?
アルベリオンの土地の視察をした翌日。方針が確定したので、早速実行に移す事となった。とは言っても、俺ができる事なんて皆無なので、お飾りの現場監督として、現場で茶でも嗜む事しかできませんが……。
「な~のな~のなのな~の~、なのなのな~の~なのな~の~」
「楽しそうですね~……ずずず~」
白いワンピースと、琥珀色の髪を靡かせながら、切り株だらけの更地を駆けまわるエマさんを眺めながら、設置した白いテーブルと椅子に座り茶を啜る。お、今日のはフルーティーな紅茶系、ジンジャーぽいクッキーと一緒に味わえば、更にうまうまである。
「久しぶりの開通でしょうけど、龍脈の流れに問題は有りますか?」
「なの、問題ないなの! 多くもなく少なくもなく、適度な量が周囲に漏れて、流れに詰りも無いなの!」
それは良かった。意図的に自然を歪める様な事をして居ましたから、ちょっと心配だったんですよね。まぁ、エマさんは問題ないって言っていましたし、実際に問題ないようでよかったよかった。
「東への流れは、予定通りに止めちゃうなの?」
「ですね~。家の子達は、魔力濃度が低くても普通に動ける子が多いですからね~。ダンジョンの領域の境界辺りで止めといてください。わざわざ、敵に利益を与えてやることも無いでしょう」
「は~いなの!」
「あ、クッキー食べます? 美味しいですよ」
「食べるなの!」
トテトテ走り寄り席に着けば、口いっぱいに放り込み、モッシャモッシャと音を立てながら幸せそうに眼を細めている。頬袋かな?
「主様~、穴掘る場所、この辺りで合っていますか~?」
「合っていますよ~。じゃんじゃん掘っちゃってくださ~い」
「主様主様~。掘り起こした切り株を処理するのに、<倉庫>開けて下さ~い」
「はいは~い、場所はそこで良いので? 開けますね~」
長閑な時間を満喫していると、背後から声を掛けられたので、<マップ>を見ながら適宜了承を出す。
何をするにしても、この切り株だらけの土地は利用し辛いって事で、取り敢えず全部撤去することになったんですよね。
そんな訳で今俺の背後では、土木工事特化のアルトさん達と、土塊でできた人型が切り株だらけの土地をせっせと整地している最中である。
現地住民の許可? 既に俺の所有地ですが何か?
因みに、アルトさんはともかく、土塊でできた人型は、うちで生産された人工ゴーレムです。人里での作業、且つ速度を優先して行動するって事で、居てもおかしくない、又は説明できる存在として、今回初実装となりました。
スピードと精度は劣りますが安定した出力を見込めるので、排土などの重機で行うような単純作業で力を発揮して貰っています。
「なの……精霊でもないのに動いているのが、不思議な感覚なの」
「あ~、まぁ、普通はそうなのかな?」
ただこの人工ゴーレム。エマさんには不評のご様子。
本来この世界でゴーレムと言えば、魔物を意味する。虚体……魔力だけで構成された魔物である精霊が、安定した肉体を求め物質に憑依したモノになる。
……適当な物体に、魂が乗り移った様なもんなので、魂とか魔石とかの代わりにアンテナとか専用の魔道具とかを適当な人形に突っ込めば、晴れて人工ゴーレムの完成である。
人工ゴーレムとか既に有りそうなものですが、意外や意外、そんな技術は無いらしく、確認できた範囲で初の人型魔道具である。
因みに今作業しているゴーレムは、魔道具と魔物の半々です。精霊は自由奔放ですからね~。全て精霊ゴーレムでは安定しないので、言い訳も兼ねて魔道具ゴーレム大量投入です。
「……ここも、森に戻すなの?」
「様子を見ながらですが、幾らかの範囲は自然に任せる事になるでしょうね。その時はエマさん方に任せますよ」
「任せるなの!」
植林とかそこら辺は、地元の植生を確認してから本格的に行う。まぁ、専門家が目の前に居るので、その辺りに心配はしていませんがね。
また、その過程で幾つか建物も造る。地質調査用の縦穴を隠す為や、隠し通路でしたり、<倉庫>等の迷宮の機能を利用する際の目隠しに使う建物ですね。外見は工場風の殺風景な建築物になるでしょうが、その分中身を想像するのは難しくなるでしょう。
普段はバラン商会が利用する倉庫として擬装する予定ですが、多少敷地容量以上の物資が出ても、大丈夫大丈夫、誤魔化せる誤魔化せる。住宅などの他の建造物については現地の方に任せるので、こちらが主導で建てる建物は数件だけですし。
……おっと、そろそろ予定時間なのですが……田舎の人は時間にルーズなのか、まだ来ませんね。何をしているのか、ちょっと<マップ>で村の様子を確認……。
「もぐもぐもぐもぐ……どうしたなの?」
「なぜか知りませんが、予定よりも多く人が来そうな?」
村の様子を見れば、地図上には村からこちらに向かって移動する点がワラワラと……これ、この村の住民の殆どが来ていません?
「客が増えるっすかご主人!?」
「席増やすっすかご主人!?」
「茶菓子増やすっすかご主人!?」
「日除けも増やさなくっちゃ!」
「ステイステイステイステイ、落ち着きたまえ皆の衆。今の君らは、命令に従順な土木作業員だ」
「「「は!? そうだった!!!」」」
手足に牙にと土木作業用魔道具を付けたアルトさん達が、想定以上の人が来る事に気付き色めき立つ。
だがしかし悲しい事ながら、今の彼等は与えられた仕事を従順にこなすだけの、自我の薄い可哀想な従魔たち……と言う設定である。人里での活動の為、そう言う事になった。
アルベリオン王国はカッターナとは違って、表面上は辛うじて人の国なので、魔物達の活動は自粛気味で取り組みます。その為の人工ゴーレムですしね。
そんな訳で、とぼとぼと哀愁漂わせながら作業へと戻るアルトさん達……おもてなし精神が染み付いちゃって……どうしてこうなった。
「旦那様~。連れて来たっす~!」
「なの、なんか草人が沢山来たなの」
このままでいいのかと若干の不安を抱いていると、現地人の皆々様がご到着。おうおう、随分な人数を引き連れて……大体50人くらいかな? この村の殆どの人が来ましたね。
「あー! あの時の!?」
「こ、こら! 待ちなさい!?」
そんな人混みの中、大人の影に隠れてこちらを覗いた子供が、エマさんを見て声を上げる。ご両親なのか、飛び出した子供を止めようと手を伸ばすも間に合わず、一足先に到着する。
「なの? あぁ、あの時のガキんちょなの」
「お前だってガキだろ!」
「ガキじゃ無いなの、エマ、なの」
「お知り合いで?」
「……知、らない、なの」
へ~? ふ~ん? ほ~ん? 知らないと? 成る程成る程……では、何故相手はエマさんを知っているのかな~? あの時のって、どの時のことなのかな~? な~んで、視線を逸らすのかな~?
自分の名前に力が籠っていたので、何となく察しましたけどね。当時は何を突然自分の名前をと思いましたが……ほら、素直になりなさい、ウリウリ。
まぁ、その辺りの事情は念のため後で聞くとして、先行してきた子供に追いつく形で村人たちが到着したので、今はこっちを優先しますか。
「こら! 勝手に動くな!」
「すいません! すいません! お許しください!」
追いついたご両親? が、必死になって頭を下げるので、大丈夫だと適当に流しておく。気にして無いことが分かったのか、子供の襟を引っ掴んで下がって……いや、あれは逃げているって言ったほうが良いかな? 滅茶苦茶怯えていたし。う~ん、俺から何かが漏れていたりはして無いはずですし、内面とか他とは違うモノが見えている様でも無いですし……解せぬ。
「エマー! また後でなー!」
「……ガキに興味ないなの」
逆に子供の方は特に気にした様子もなく、両親に引きずられながら、エマさんに向けて手を振っている。まぁ、エマさんの依り代は、可愛い外見していますからね。
だがしかし、対するエマさんは本気で興味がないご様子。う~ん、人の営みとか技術とかその産物とか、その手の物には興味を持つのですが、個人はどうもパッとしないんですよね……種族としての、視点の違いでしょうか。人だって、虫とかに興味がある人でも、群れの中の個に興味を持つかと言われても、認識できるかすら怪しいですし、こればっかりは仕方がないですかね。
「あ~、その~、すまないっす、大旦那。何か大所帯になっちまったっす」
逃げ帰る村民と入れ替わりで、ここまでの案内を頼んだ従業員さんが到着。予定外の人数に、気まずそうにしている。
いやまぁ、良いんですけどね? 何故この様な状況になったのか、端的かつ正確に、誤解を招かない表現で説明を願います。
「え!? えっと……新領主の顔を知らないとか、今後の~……うっす、偽るのは無しっすね、すいませんっす。時間が有り余っているのと、大旦那の事が気になったってだけっす」
「……暇だから野次馬に来たと?」
「っす」
おぅ、流石は田舎。遠慮がねぇや。その割に、先ほど子供をひっ捕まえて逃げたお二人は、終始怯えていたのですが?
「そりゃ、これからここの領主になる人っすよ? 大旦那の事を知らなければ、不敬を働けば首が飛ぶって、普通はびくつくもんっすよ」
「……あの程度で? 世の領主は、どれだけ器が小さいと思われているんですか」
「……世の中には、本当に、信じられないくらい、訳の分からない人が上に立つことが有るっすからね。警戒するに越した事は無いっすよ?」
遠い目をしながら、妙に実感の籠った言葉を吐く従業員……そこで何故、俺に視線が向くのですかね? おん?
「さ、ささ! 大旦那、大~旦那! ご老体を待たせちゃ悪いっすよ! 連れてくるんで、少々お待ち下さいっす」
「あなたも大概、ゼニーさんの仲間ですわ」
俺の問い詰める視線から逃れる様に、人混みへと踵を返す従業員。
もう、調子が良いんですから……言っていることが尤もなところも、反論の機会を潰しているし。いや~……やっぱバラン商会の人たちは怖いですわ。思考誘導とか誘導尋問とか、普通の会話に盛り込むんですもん。
この人たち、俺等に出会う前から、絶対に堅気の商売以上の事やっていましたよ。相手を潰すってなったら、容赦ねぇもん。
……まぁ、だからこそ重宝しているんですがね。
「ひひひ、お二人は仲が良いんだねぇ」
「そうなんっすよ村長。大旦那はものすんごい良い人っすから、安心するっす!」
人混みの中から、ご老人と従業員との会話が聞こえ、腰を曲げたご老人を引き連れ戻ってくる。取り巻きが何人かいますが、席はちょっと足りないかな?
まぁ、良いや。勝手に増やしたのは相手ですし、これから用意するってなると、色々諸々少々面倒です。
「こんな村はずれ迄お越しいただき、ありがとうございます。申し訳ありませんね~。何分、地質調査を兼ねてのご挨拶でしたもので」
「なに、老体にはいい運動になったよ」
どうぞと席を勧めれば、村長さんと比較的若い人が数人座り、座り切れなかった人が控える様に立つ。更に他の人たちは遠目から様子見、いえ、これは野次馬ですね。席を用意されても困るでしょうし、あれは放置で良いでしょう。
「ではでは、先ずは自己紹介から。ダン・マス・ラビリアと申します。以後お見知りおきを」
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