263 露見①
①オークション終幕
②神話級存在のたたき売り
③おいで~おいで~、死ににおいで~
さてさて……決算のお時間ですよ~! 徹夜明けですが、お通夜状態の参加者さん達に代わってテンション上げて行きましょう!
まぁ、決算と言うか、悪巧みの成果ですがね。
主催者であるエイブリーさんは、会場と人員を提供しただけなのでこの場にはいませんが、代わりにゼニーさんが成果をまとめた資料を持って来てくれたので、そちらで確認と参りましょう!
「ふむ……取り敢えずは、南は南東以外の土地はほぼ回収出来たな」
「中央と北はどうですか?」
「北は5割、中央は8割って所だ」
ざっと結果を確認した結果、それなりの成果が出ましたね。特に南が一掃できたのが、とってもありがたい。これでドラゴンズを引き上げられますね。
「特に苗木を競り落とした中央の富豪が破産して、資金回収の為にたらい回しにされた挙句、バラン商会に縋って来たのがデカい」
あぁ、最後に勢いに任せて競り落としたおじさまですね。
「あの人は、植えたのですかね~……苗木」
「植えたらどう……いや、聞きたくない」
え~と……何だ、植えて無いのか…………ッチ。
因みに、1イラは10円から100円ぐらいとして……物価が滅茶苦茶ですが、ここは無視するものとして、金貨一枚が1,000イラ。それが210万枚だから……ざっと200から2,000億円前後か。搔き集めたと言え、個人がよく持っていたもんです。
「まぁ、どれだけ財があろうとも、幾ら物件や土地を持って居ようとも、カッターナ国内に存在する硬貨の絶対数が足りんがな」
「お金が無ければ、支払いできませんもんね~」
財力があろうとも換金する術がなく、換金できるとしても、大量にできるのはバラン商会のみ。更に、オークションの支払いと土地の所有権を一括交換する、一括交換決済が受けましたね。例え見積額が支払額に満たないとしても、追加請求しないのが人気の秘訣です……まぁ逆に、見積額が請求額以上であっても、報告せずに全部貰うんですがね。
処理の簡略化です。そう言う契約です。手間賃だと思って貰いましょう。ぶっちゃけ計算が面倒なだけですがね、元々採算なんて度外視ですし。
「よくもまぁ、こんな力技を考えるものだ」
「土地を手放さないのが悪いのです。結果的に、今もケルドが大量検出されていますからね。俺の行動に間違いは無かった、うん!」
「まぁ……なぁ」
未だ全ての土地を領域化できたわけではありませんが、それこそ棚の後ろに巣くったGの如くワラワラと……害虫の温床は排除しなければならないのです。お掃除は大事なのです。
そして、カッターナの残りは中央の2割と北の5割ですか、中央は……あぁ、穴人さん方の魔道具の売買で成り立っている人が大半か。なら放って置いても消えますね。何か新しい商いに手を出そうものならゼニーさん方が気付くでしょうし、流通経路は領域的な意味でほぼこちらが抑えたので、密輸や密会の類も事前に押さえられる。
最後に北は……放っておいて良いか。あそこはこれから、色々忙しくなるでしょうしねぇ。
目の前にエサがぶら下げられ、尻に火が付いている状況、動かない事は無いでしょう……慎ましく生きるなら別ですがねぇ。
「で、ワシは暫くこの処理をやるが、お前さんは?」
「そうですね……色々とやりますが、ゼニーさん達に関わるものとなると、アルベリオンですかね」
「アルベリオンだと? アルサーン関係か?」
まぁ、それも関係なくは無いのですが……ほら、以前アルベリオンの土地をくださったじゃないですか。そこを拠点に、ちょっと無関係な方用の避難場所でも確保しておこうかと。
アルベリオン国内の市民の調査結果と、アルサーンでの捕虜の健康診断で、ケルド率が0%か90%以上のどちらかと、極端に分かれていると出たんですよね~。
それも、浸食されていると思われるのは国の上層部のみで、イラ教も未だ市井に広まっていないので、ケルド侵略が始まったのはごく最近であることが予想されるのです。
カッターナでも、最初は上層部が狙われて、一般市民が逆らえない様にされてから浸食されていましたからね~。カッターナと状況が違うので時間が掛かったのでしょうが、同じことをアルベリオンで再現しようとしているのでしょう。
逆に言えば、まだ間に合うとも取れるのですよね。無駄な犠牲や巻き添えは望むところでは無いですし、後々に虐殺やらなんやらと難癖付けられても嫌なので、形だけでも配慮しませんとね~。受けるかどうかは相手に任せますが。
「……この捻くれもんが」
「なんの事やら」
お茶を啜りつつ、素知らぬ顔を決め込む。
面倒な後始末が起きない様にしているだけです~。他人なんて知りません~。俺は身内が無事ならそれでいいんです~。茶がうめぇ、ズズズ~……って……ん? 廊下から足音が。どなたか来ましたかね?
「邪魔するぜ~」
「お、エッジさん、いいタイミングです。新作のお茶請け持ってきましたが食べますか?」
「お? マジか! ダンの旦那が持ってくるもんは、何でも旨いからな!」
貰うぜ~と言いながら、差し出したチョコもどきを口に放り込むエッジさん。
最初は、初めての舌触りと香りに戸惑ったのか、ん? って反応でしたが、気に入ったのか、旨いなと嬉しそうにしていた。
以前あった時よりも、心身共に回復しているようですね~。領域内のゴミが減ってきて、余裕が出て来たのでしょうか?
……今回の件で、更に警備範囲が増えたと思いますが、後で増員送っておきますので、頑張ってと心の中で声援を送って置こう。
「エッジ、食ってないで要件を言え」
「うんっぐ……そうだった、ゼニーの旦那に客だ」
「ワシに客だぁ?」
「高圧的な態度からして、ケルド関係じゃないかと思うんだよな」
「っち。面倒な……悪いダン、少し席を外すぞ」
「あいあい、いってらっしゃい。暫くいるので、なにかあったら呼んでくださいね」
エッジさんと共に出て行くゼニーさんを見送りつつ、コアさんの<カメラ>で来訪者を盗み見する。
……おん? …………お~ん? ほうほう、ほうほうほう! これはこれは、見逃せないのが居ますね~。
―――
別室でゼニーさん達が対峙したのは、エッジさんの予想通りケルド関係。然も、イラ教の関係者連中でした。う~ん、とうとうイラ教が表立って突っかかってきましたか……遅。
人数は10人。8人が白い法衣に武装して、座って居るゼニーさんを囲みつつ威圧し威嚇して、デブオヤジと枯れ木の様な爺の二人が座って、ゼニーさんと対峙している。無駄にジャラジャラ金品を着飾っているのは、自分を大きく見せようとする虚勢ですね。服に着られてら。
「直ちに貴様らが不当に奪った財産を返還し、出頭せよ!」
「身に覚えがないのですが?」
「強盗、詐欺、殺人……上げたら限が無い、言い逃れなどできんぞ! 証人は幾らでも居るのだ!」
「証人? 証拠ではなく、人の言葉のみですか? 判断の材料にはなるでしょうが、それだけで決め付けると? 底が知れますね」
「唯一神イラ様の教えに逆らうと言うのか!? よくもこの方の前でその様な言葉を吐けたな、この背信者が!」
「そもそも、私はイラ教なんぞに入信しておりません。関係ないことを出されましても、対応しかねます」
しかし、さっきからデブオヤジの声がうるさいですね。一応商人なのかな? 交渉担当としてゼニーさんと話していますが、前提条件が間違えているのに、それを無視して自分の事しか言わないから、話にならない。
会話が成立しない相手に延々と絡まれ、うんざりとしているゼニーさんの後ろで、護衛として立っているエッジさんが、ゼニーさんに向けて憐みの視線を送っている。
うん、こいつ等に論理的な考えを期待すると疲れるだけですよ。自分に都合が良いかどうかでしか判断して無いでしょうし。
「ふぅん」
「司教様」
おっと? 平行線の繰り返し。意味のない押し問答が続いていると、今まで黙っていた枯れ木爺が反応した。これで少しは話が動きますかね~?
「貴様は、少しは頭を使ったらどうだ」
「そっくりそのままお返しいたします」
商人風のデブオヤジに司祭と呼ばれた枯れ木爺は、その見た目とは反して、若々しく幼稚な言葉を発した。
「全く、仕方のない。これだから下等生物は使えん。ワシ等は、イラ教の正式な使者であることは、理解してお―――」
「知りません。開口一番挨拶も無しに捲し立てたのはそちらだ。知っている訳が無いでしょう」
「……つまり、ワシ等に対するその横暴な態度は、イラ教に対する侮辱だ。理解したか?」
「そんな当たり前の事を今更……何を言いたいのやら」
「……下等生物が、お前のその態度が何を引き起こすか、想像しやがれ」
ゼニーさんが嫌味たっぷり丁寧に返せば、枯れ木爺の顔が醜悪に歪む。おうおう、本性が顔に出ているぞ~。薄い面の皮だな~。
「はぁ……何を言いたいのか、はっきりして欲しいのですが?」
「這いつくばって許しを請え。今ならまだ、テメェの命一つでこの場は収めてやる。残った富はすべからく、崇高なる我等が使ってやろう。感謝せよ」
「あ˝ぁ?」
あ、とうとうゼニーさんがキレた。
「散々虐殺を行い、不都合を擦り付ける、貴様らイラ教なんていう邪教に従えと? タダで済むと思ってんのか、あぁ? 侮辱も大概にしろよ、消耗品共が」
「じゃ、邪教だと!? 何と罰当たりな!」
「ここではイラ教は邪教認定されてんだよ。そうなるに至った理由を知らねぇとは言わねぇだろうなぁ、えぇおい? 今お前らが生きているのはただ見逃されているだけなんだよ、その程度の存在なんだよ、その程度の扱いなんだよ。生きているだけで自分達の悪行を証明する汚物共が、臭ぇ口を開くんじゃねぇ。正体が明るみになった時点で、お前らの存在価値なんぞ地に落ちてんだよ。対処法がある時点で、お前等に抗う能力なんぞねぇだろが。裏からの手助けが無けりゃ何もできねぇ無能共が、いっちょ前に吠えてんじゃねぇよゴミが」
……おっかねぇ。
ゼニーさんの邪教発言にデブオヤジが身を乗り出して反応するが、うん、役者が違うわ。口を開く隙すら与えず、言葉だけでソファーに押し付けた。
「貴様らが教会で仕出かした事は、こちらは把握済みなのだぞ」
「あん? ……あぁ、あの時逃がした爺か?」
「ん? 知っとるのかエッジ」
「俺が取り逃がした奴だわ。旦那が放っておけって言ったから放置したけど、無事に逃げられたんだなぁ」
エッジさんが腕を組み、しみじみと懐かしむ様に頷いている。ありましたね~そんな事も。あの時、ケルドに埋もれた方達を優先して放置しましたっけ。
その代わりに、イラ教共が使っていた逃走用の裏ルートを幾つか潰しましたけど。
「教会襲撃を、認めると?」
「認めるもなにもなぁ、それが? としか。仕留められなかったのは、まぁ、ちょっとばかし悔しかったけどな」
「それを議題に出すと言う事は、貴様らは、貴様らの悪逆非道を認める事だぞ? 正式な使者だと言ったからには、その覚悟有っての事だろうなぁ、えぇおい?」
「……死にてぇらしいな、あ˝ぁ?」
おっと、おぉっと~? 枯れ木爺の口から、決定的な発言が出ませんでしたか~?
……今俺、すっごい顔しているんだろうな。やべぇやべぇ、ちょっと油断しすぎですね。引き締めておきましょう。
イラ国に資金となる物が流れて仕舞い、スッカスカの貧乏国家であるカッターナ。これで殆どの財が、バラン商会ないし迷宮のものとなりました。




