261 オークション①(開催)
①国家運営は大変だ……
②適材適所(仕事のぶん投げ)
③カッターナ新国王、爆誕
ビャクヤによるアルサーン王国での蹂躙が行われている頃、カッターナでは、新たな企みが着々と進められていた。
企ての対象となった者たちに共通する点は、広大な土地を持ち、財を抱え込み、何よりバラン商会との商談を避けている者たちだ。
例え自分達よりも勢力を伸ばしていると言っても、カッターナではバラン商会は新参者。そんなモノの言葉や商談を一蹴することは容易である。
だが、彼女の名を無視することはできなかった。
カッターナでバラン商会以外から食料を得ようとしたら、どう足掻いても南の森が関わってくる。金も権力も人命すら好きに出来た彼等であるが、食わねば死ぬのだ。エイブリーの名で出された招待状は、現状のカッターナでは強制招集と言っても過言では無かった。
出ないわけにはいかない……それに、招待の内容も加味すれば、それ程警戒する必要も無い。
その催しとは、オークション。
破産した者が現金を得ようと、今までも同様の催しが幾度か行われていた。エイブリー主催は初めてであったが、情報のやり取りをするには良い機会だと、招待を受けた者達は準備を整え、会場へと足を運んだ。
開催時刻は深夜。闇の帳が降り、人々が寝静まる頃……明かりの少ないこの世界で、この様な時間帯に催しを行う事は極めて稀であるが、その理由も、会場に近づくにつれ明らかになる。
会場は、カッターナ国内でも一等地に位置するエイブリーが所有する館の一つ。元は貴族の屋敷であったが、没落の末借金の形に売られ、碌に管理もされず廃屋となっていたものだ。
だが、今はどうだろう。
今回の為の改装が施されたのか、立派な劇場へと様変わりし、周囲に広がる闇と隔絶するかのように、大量の明かりでライトアップされていた。
室内に入れば、そこは昼間と見紛う程に明るく、表以上の衝撃を来場者に与える。視覚は他の感覚と比べ、圧倒的情報量を誇る。魔力に敏感ではない者にとっては尚の事だ。
明かりの魔道具の確保と維持。館の改築の技量と人材。それらを可能とする財力と人脈……この催しに掛ける気合と覚悟を表すパフォーマンスとして、これ程有用な方法は無いだろう。
続々と馬車が乗り付け、貴族や大商会の重鎮たちが敷地に足を踏み入れる。バラン商会の経済攻撃のどさくさに紛れ成り上がった者も多いが、一流と言っても差し支えない者たちだ。
何故か、一部の者が会場を前にして、逃げる様に踵を返すも、その殆どが唖然と会場を見上げ、更に内装を見て驚愕する。動じることなく平静を装う者は、極一部だ。
そんな招待客から難癖を付けられない様に、動揺している内にスタッフによって会場へと案内されれば、明るい光と共に広大な空間が現れる。
2階と3階が吹き抜けになった ひな壇状の大きな会場に、正面中央には重厚な赤い幕が下りたステージ。
上階にはベランダの様なVIP専用の個室が幾つも設けられ、認識を阻害する魔道具が設置されているのか、そこに居る者の身姿をハッキリと確認することはできない。
そして、予定していた時間となる。
未だに到着していない者もおり幾つか空席が見られるが、そんなモノお構いなしと言わんばかりに、出入り口が閉じられ施錠される。
その音に驚き、一部の来場者が出入り口に視線を向けるも、続けて会場の明かりが落とされ、代わりに壇上に明かりが灯り、幕が開く。
会場の者たちの視線が集まるなか、壇上裏から一人の女性が現れた。
「皆々様、今宵はようこそお越しくださいました」
拡声の魔道具を用いているのか、閉鎖空間も相まって落ち着いた女性の声が、会場の隅々にまで届けられる。
現れたのは、今オークションの主催者。南の森の女傑、森人エイブリーだ。
青と緑を基調とし、極限まで露出を削った深緑のドレスは、女性特有の美しいボディラインを余すことなく引き立てる。彼女の種族と相まって、その美しさを遺憾なく発揮する。
男尊女卑が蔓延るカッターナに於いて、女性の扱いは悲惨の一言だ。欲望の捌け口としか見ていない男も多く、女性の衣服も拘ったものは、そういったモノが多い。そんな中、下品さを完全に取っ払い、女の色香を遺憾なく発揮する淑女然とした姿は、男性陣の視線を引き付ける。
そして、決して表に出ない彼女の素を知っている者からすればこう思う事だろう。誰だこいつ……と。
「急な開催でありながら御来場頂き、恐悦至極に存じます。今オークションは、私の知人伝手にもたらされた依頼で開催したモノになります。出品内容も、その者のコレクションでございます」
個人の所有物のみで構成されたオークションなど聞いた事が無いと、破産した者の金品財宝の類を想定していた一部の者達から、小さなざわめきが上がる。出品数に品質にと、個人の私産では開催しようにも採算が合わないのだ。
だが納得がいく部分もある。
出品物の内容や輸送手段など、方々から集めたのであれば、良く通る耳を持つ彼等の下へ何かしらの情報が入って然るべきであるが、個人の所有物と成ればその経路も限られる。情報が入って来なくても不思議ではない……が、それ程の財を持つ者であれば注目されて然るべきであり、出品者が誰か全く思い至らない事に、改めて首を傾げていた。
「その者のコレクションとは……才能。武具、魔道具、魔法薬、それらを生産する素材と、入手するための武力と情報。ありとあらゆる才能を元に手に入れ、作られた品々が、今オークションの内容でございます。主催者として、責任をもって断言いたしましょう。全ての品が類を見ない逸品。目の肥えた皆々様であろうとも、熱狂させる事間違いなし……どうぞ御ゆるりとお楽しみください」
にっこり微笑みつつ一礼し、壇上裏へと消えるエイブリーと入れ替わりで、一人の男が壇上に立つ。
「今オークションの進行を致します、ゴトーと申します。短い時間ですがよろしくお願いいたします」
男ですら色を覚えかねない絶世の美男子が一礼する。それに合わせて、壇上裏から台車に乗せられた品が、壇上中央へ運ばれスポットライトに照らされる。
「先ずは小手調べと行きましょう」
剣、柄、鞘に至るまで、すべてが朱色に輝く黄金の金属で作られた剣。その姿に、一部の者が、特に穴人が身を乗り出す勢いで目をひん剥いて驚愕する。
「一品目……【オリハルコンの剣】でございます」
にこやかに告げられた品に、ざわりと会場に動揺が走る。
真金は各鉱山で普通に産出される。寧ろ加工できない分、悔しいながら邪魔者扱いせざるを得ない金属でもある。だが、剣の形をした真金はあれ、真金で作られた剣など、お目に掛かれない。あったとしても、それは国家が所有する宝剣や、神器と評される国宝級の逸品、又は迷宮産なのだ。
真金の加工は、穴人の中でも一部の部族だけが確立した門外不出の技術だ。エイブリーの前説に偽りがなければ、これは作られたものであり、出品者はその加工技術を確立している事になる。
「先ずは金貨1枚から」
有り得ない値段設定も相まって、大半が驚愕。一部が様子見を決め込んだため、会場が静寂に支配される。
そんな静けさを破る様に、色とりどりの幕が掛けられた上階のVIP席の中から、動きがあった。
「はい! 黒幕様、50枚!」
進行の男……ゴトーが、黒い垂れ幕が掛けられたVIP席を指しながら、そこに座る男が指で提示した金額を告げる。
「……ほかに御座いませんか?」
……切っ掛けさえ与えれば、後は勝手に動き出す。【オリハルコンの剣】が金貨50枚で手に入る。自分ならともかく、他人のそんな姿を見逃すなど、無駄なプライドを蓄えた成り上がり連中にはできはしなかった。
「100」
「500!」
「800!!」
次々上がる声に、段々と熱が籠る。自ら上げた熱に浮かされ、金額が釣り上がる。最終的に金貨1,500枚と、一品目から大金が動くこととなった。競に参加した者達は、緊張と懐へのダメージに息も絶え絶えである。
「一品目から白熱した競売となりました。この熱が冷めやらぬうちに二品目と参りましょう! 二品目、【ミスリルの全身鎧】でございます」
真金から一転、加工が可能な真銀製品が運ばれる。順番的におかしいと困惑する者と、呆れて鼻で笑う者がでるが、続けてゴトーが上げた内容に、会場の者たちは絶句することとなる。
「こちら、魔武具となっております。<自動修復><物理無効><属性攻撃無効><重量軽減><サイズ調整><魔力貯蔵><自動反射>が付与されております」
多重付与が施された、美しい鎧。飾って良し、使用して良し、鑑賞実用共に優れた逸品だ。最初と違い、未だ熱に浮かれる者達は、切っ掛けを与えるまでもなく、次々と現れる品々に喰らい付く。
「同じ武具関係だけではつまらないでしょう。次の品は趣向を変えまして、魔道具になります……12品目、【秘密の倉庫】でございます」
武具だけでは無いと、次に出されたのは魔道具。これには、今まで動かなかった者たちも、重い腰を上げる。
ゴトーの説明を要約すると、所謂アイテムボックスである。商人としても、やましいものを隠す先としても、これ程有用で優良な魔道具も無い。関心の薄かった者達も手を出しかける程に、魅力的な品である。
これを手に入れれば再起を図る事も可能と、先行投資と言わんばかりに、最初の競で散財し財が底を尽きかけている者ですら手を上げる始末……競売と言う名の底なし沼に、完全にハマっていた。
銅貨 :1イラ
鉄貨 :10イラ
銀貨 :100イラ
金貨 :1000イラ
真銀貨:1万イラ
真金貨:100万イラ
大体こんな感じ。現在のカッターナは物価が滅茶苦茶になっているので、1イラ10~100円程度で考えています。




