260 カッターナ連合国会議②
①亜人組、顔合わせ
②自己紹介
③色々壊れてる、苦労人エイブリー
必要となる物資。提供可能な情報や技術、資源。
問題が起きた時の対応、所謂法の整備。
お互いに歩み寄り、共に生活しようものなら、何処かしら歪は生まれるもの……最も慎重になったのは、種族部族の違いによる常識のすり合わせだろう。その為に各種族が集まっているのだ。
そこで頭角を現したのが、エイブリーだった。
「ギルドよギルド! 今は兎に角、ギルドの整備が急務よ。今、真面に機能しているギルドって言ったら、ハンターギルドと商業ギルドくらいのものじゃない。それも全部、ゼニーのバラン商会が仕切っているし。今はまだ、回復して無い人も多い……って、悲惨すぎる状況を言ったら限が無いから脇に置くけど……それもあって、国として完全に機能しているとも言えないわ。これから国力が回復して事業も拡充していくことを考えると、バラン商会のキャパシティーを超える日が来るのも、そう遠くない筈よ。今はまだ例のアレのお陰で機能しているけど、その内立ち行かなくなるわ」
畳みかける様に、現状の問題と打開策を挙げるエイブリー。実質、領地運営の経験を持つ者が、この中で彼女だけなのだから、当然の成り行きである……寧ろ、その為に彼女は引き入れられたとも言う。
生きる為に守る為に、貪欲に乱雑に知識を求めた彼女は、専門家程深くはないが、一般人では到底知り得ない広い知識を有していた。
「最優先でいるものと言ったら?」
「そうね、日用品を作る為の鍛冶、木工ギルドね。ハンターギルドがちゃんと機能しているから、肉と野菜、薬草が比較的安定して手に入るのが救いだわ。でも、資材があっても、それだけじゃダメよ。食料があっても、食べられる様に加工する必要があるし、薬草類もちゃんとした知識が無ければ、加工できても処方できない。種族によっては毒になる事もあるしね。加工、生産、運搬、管理……兎にも角にも、技術・生産関連のギルドの設立が急務よ!」
「その為の人材発掘が必要か……ふむ、思い当たる人物は数名いるが、受けてくれるかは話してみんことには分からんな。後で打診してみよう」
伊達に自分の領地を守ってきたわけではない。カッターナの現状を見て、その改善案を挙げ連ねる。特に重宝したのが、体質の違いを理解していた事だろう。
生きる為に水が必要なのは、人として生物として当然と思うだろうが、穴人に限っては、比喩表現抜きに酒があれば生きていけるし、寧ろ普通の水を飲むと腹を下すなどの体調不良に陥る。
森人は、魔力濃度が低い環境や、魔力保有量が少ない食品を口にし続けると、体調を崩す……などと言えば、その重要性が分かるだろう。
その危険性を正しく把握し管理し運用できる専門家集団……所謂ギルドが、今のカッターナに最も足りないものだ。
「ま! 鍛冶ギルドはガスの旦那の所でいいでしょ」
「俺等か!?」
「そうね、立場づくりの為にも、どこかの役職に就いた方が良いでしょうね。貴方も、また穴人だけ取り残されるのは、本望では無いでしょう?」
「ぐ、ぬぅ……ギルドって、何すりゃいいんだ……?」
「後で説明してあげるわよ。基本、今までとそう変わらない様に配慮するから安心なさい。優秀な職人を無駄にする心算はないもの」
ガスの担当が早々に決まり、その手筈もエイブリーが自ら受け持つことが決まる。
着々と話が進むのは、各々の役目を理解し自分にできない事を把握している為だろう。そこに、全体を把握している者が加わりまとめ役をかって出れば、文句を言う者は居なく、会議がスムーズに進む。
ストレスフリーの素敵な会議であるが、反面、横のつながりが希薄になり易く、まとめ役が居なく成れば容易に瓦解する……以前のカッターナもそうであり、痛し痒しである。
「うんじゃ、警備関係は俺な! いや~、忙しくて他に手が回らないな~、はっはっは!」
思いの外話が進むこともあり、職業柄この手の話を面倒に思うエッジが、自分の役目はもう決まっていると言わんばかりに笑う……が、そうは問屋が卸さなかった。
「うむ、それはエッジに任せる。カッターナ全域とアルベリオンの土地、それとこれからは北の【魔の森】付近にもハンターギルドを構えたから、範囲が今までと比べ物にならないレベルで広がる事になると思うが、全部任せるぞ」
「ダンジョンマスターの魔物が支援に付くなら、戦力的にも問題ないだろうし……実績も有る様だし、まぁ、良いんじゃない? よろしくね、エッジさん」
「…………ん? む? 何か不味った気がするぞ? ちょっと待って? なぁ、聞いてる? お~い?」
「俺は何かあるか?」
……そんなエッジの懇願を無視し、ゼニーがエイブリーへと視線を向ける。
「ゼニーのバラン商会は、今までと変わらないわ。人材紹介だけして貰えれば……いえ、他の所に役目を振りなさい。アンタだけで回し過ぎなのよ」
「そうだな……そろそろ一介の商人に戻る頃合いか」
「……考えて見たら、今まで商売の片手間でやっていたって事になるのよね。頭痛くなるわ」
今までのカッターナは、経済の再生や運営だけでなく、その他の雑務すら、傍から見れば、実質一つの商会だけで行っていた事になるのだ。治安維持などの現場活動はエッジが行っていたとしても、異常な状態である。
だが、そんなエイブリーの評価に対し、ゼニーの眉間に皺が寄る。
「ア奴の援助なしに、こんな馬鹿げたことなんぞできるか。実際は裏で相当な量の人員、いや、魔物員を回して貰っていたからこそできた事だぞ。規格外は、ア奴一人で十分だ……いや、派遣された奴らの処理速度も、十分すぎる程に異常だったんだがな?」
「あぁ……そうなの。いまいちピンと来ないのだけど、やっぱりあの糞ガキって、おかしい存在なのね」
「「う~ん」」
ふと上がったエイブリーの呟きに、エッジとゼニーが唸り声を上げる。
「な、なによ? 私、変な事言った?」
「おかしいっちゃおかしいし……なん言うかな~……めっちゃ常識人だし優しいんだけどよ、常識と道徳を完全に無視できると言うか~……常識的な行動がとれる、鬼畜外道って感じか?」
「酷い言い草ですね~、ズズズ~」
「フベルヒホボホ!!??」
この部屋に居る者とは違う声が聞こえ、ガスによる悲鳴にすらならない奇声が上がった。
―――
「あ、ダンの旦那。来てたのか」
「なんか呼ばれた気がしたので。会議は順調ですか~?」
「あ~……うむ、大体の事は決まったところだ」
おお、こっちも今日の用事は終わったので来てみれば、ナイスタイミングでしたね。取り敢えず、ゴトーさんが淹れてくれたお茶を一口。う~ん旨い。
「いいいいいいいいいきなり出てくんじゃねぇよ!!!???」
余韻に浸っていたら、ガスさんから非難の声を浴びせられた。あぁ、うん。ガスさんは俺の内面が見えるんでしたね。配慮が足りませんでした、ごめんなさい。
えぇっと、前はこんな感じだったかな? なんか違う気がする、あぁ、そうそう、こんな感じだ。
「クソ!! 目の前でくねくね変えるんじゃねぇよ、気持ちわりぃ、うっぷ」
「ガスの旦那には、何が見えてるんだろうな」
「こ奴の内面だろう? どうせ禄でもないものだ」
「エッジさんもゼニーさんも酷くね?」
まったく失礼しちゃいますね。人間の内面なんざ、大概が禄でもないモノですよ。それを俺だけがおかしい奴扱いだなんて、貴方達も人の事言えないですからね?
「それで、何の用だ? 意味もなく顔を出さんだろう」
「偶には用事が無くても顔を出しますがね。今日はエイブリーさんに用事があって来ました」
「私に? 何よ」
ちょっと撒き餌を増やそうかと思いましてね? 以前お願いしていたあれこれの中で、近々開催する催しがあるではないですか。詳しい内容は後で話しますが、あれにちょっと追加注文したいのですよ。
「あぁ……あれか。今度はどんな騒動を起こす気だ」
「ゼニーさん……俺の事トラブルメーカーか何かかと思っていません?」
ゼニーさんも少し関わっているので何のことか思いついた様ですが、騒動を起こす事前提で話すのを止めませんか? 俺は穏やかな日常を求める、平和主義者ですよ。
「旦那って、存在自体がトラブルの元じゃん」
「ダンジョンってトラブルが、ケルドってトラブルを潰しているだけって事だな!」
エッジさん迄、ゼニーさんの発言に乗っかって、ここぞとばかりに嫌味をぶつけて来る。
何ですか? ここは被害者の会ですか? 鬱憤でも溜まっているんですか? エッジさんは相当溜まっていますね! ごめんなさいね! ですが、皆さんが苦労している原因はケルドであって、俺ではないですからね? 其処の所を間違えないで下さい。
そしてガスさんや、彼方の中での現状のイメージはそんな感じなんですね…………畜生、こればっかりは否定できねぇ!!
「トラブルと言えば、アルサーン王国は如何した。何かあったんだろう?」
「あぁ……粗方片付きましたから、後処理は丸投げしてきました」
「どこもかしこも、お前さんの周りは被害者だらけだな」
俺の周りに疲れている人が多いのは、仕事を丸投げしているのが原因でしょうかね? う~ん、自重した方が良いだろうか……でもな~、後々の事を考えると、可能な限り人族のことは人族に任せたいんですよね~。
因みに家の子達は、嬉々として取り組んでいます。世間体とか関係なく、制約とかも殆ど無いからこそでしょうけど。
あぁ、世間と言えは、アルサーン王国と関わった事も有って、これからは人族との表立っての関わりも増えるでしょうね。そうなって来ると、カッターナの動き方も変わったりするのでしょうか。
折角、表ではダンジョンが関わっている事を完全に隠蔽できているんですから、この利点は潰さず、最後まで行きたいものです。
……世間では、ダンジョンが関わっていない事になっているんですから、隠蔽は成功しているんです~。例え勘づく要素が山盛りだったとしても、裏で情報を流しまくっていたとしても、明確な証拠は与えていないから問題ないんです~。
文句があるなら証拠を見せろ、何処ソースの情報か言ってみろ。言えないでしょうね~。下手な事を言えない国の上層部となれば、尚の事。たとえあからさまであろうとも、決定的な根拠がなければ突っつけないのだ。
まぁ、そんな訳で……本格的に外交を行う事も考えていい時期だと思うんですよ。カッターナも順調に回復している様ですし、領域内でのケルドの排除も終わっていますしね。
「そんな訳で、余所との繋がりも増えると思うんですよ。その度に全員が集まるのって難しいですか?」
「むぅ、移動はお前さんの所の転移門を使えるのであれば、問題は無いだろうが……全員が全員いつでも集まるとなると、少々難しいな」
「問題ごとを起こす馬鹿は、時間を選んでくれねぇからなぁ……大半は現場に任せられるけど、絶対じゃねぇな」
「まぁ、そう言う事だ」
「では、代表者を一人決めておきましょうか。基本的な対応はその人に任せて、対応できない、専門的な知識が必要などの場合は、その人に任命された人が対応するって事で……因みにここを仕切っていたのは、どなたで?」
俺の提案に特に異論は無いのか、反論の言葉が上がることなく、エイブリーさんに視線が集まる。成る程、成る程。
「では今後カッターナの責任者は、エイブリーさんに一任で」
「異議なし」
「異議なしだ!」
「以下同文」
「は~い、満場一致で可決で~す。今後エイブリーさんは、カッターナ王国国王様って事で」
「え? ……ん? …………んんん??? …………え゛? えーーー!?」
だって、他に任せられる人が居ないじゃん。
頑張れ、サポートはする! ……特にゴトーさんが。
ガスさんのイメージ図
エッジ :黒鉄でできた十徳ナイフ
ゼニー :宝石の目が飾られた、片や金銀財宝、片や鮮血滴る肉が乗った岩石の天秤
エイブリー:捩じれ、軋み、引き千切れる寸前の真銀の枯れ木。
ダンマス :あwせdrftgyふじこlp




