254 アルサーン解放⑦(白狼)
①よ~いどん!
②(((((((((((((((((((((U^ω^)わんわんお!!
③隊長、突貫!
「……ふぅ~~~」
空中へと霧散して行く魔力を眺めつつ、ウォー隊長が一息つく。ウォー隊長へ絶え間なく向かって来た攻撃が、ピタリと止まったのだ。
「流石に、吹き飛ばしてしまえば、再利用はできん様だな」
剣に付着した無駄な魔力を振り払い、腕の傷に持っていた回復薬を振りかける。
ウォー隊長がやった事は簡単である。
殺傷力を上げる為に、剣へと纏わせていた圧縮した魔力を、相手に突き刺した状態で解放し、内側から吹き飛ばしたのだ。
圧縮した魔力と、霧散した魔力。その扱い方は極端に違う。
圧縮し安定した獣の姿であれば、多少の魔力で妨害されることは無いが、霧散し形を失った状態で乱されれば、容易に操作権を失ってしまうのだ。
更に、これ程繊細な魔法であれば、他者の魔力が大量に混ざった時点で、再利用することは困難となるだろう。
これ程に驚異的な魔法、発動、維持するための何かしらのネタは有るだろうが、基本は同じ。ウォー隊長の予想は、見事に的中した。
「倒した後、吸収される前に魔力で吹き飛ばせ! 多少のロスは気にするな! これ以上強化されると、時間稼ぎもできんぞ!」
「「「おぉ!」」」
対処法さえ分かればまだ戦えると、勢いを取り戻した一同は、次々と敵の攻撃を処理して行く。
他の隊にも情報が回され、アルベリオン側は反撃を開始する。
「さて……っと!」
「ワフ!」
二度三度腕を振り、傷が治った事を確認すると、すぐさま剣を振り、飛び掛かって来ていた相手の前足を振り払う。
「貴様らの動きは、既に見切っている!」
怯んだ攻撃に剣を突き刺し、先ほどと同様に、内側から魔力で吹き飛ばす。
改めてこの方法の効果を実感すると、続けて向かって来る攻撃も、同様に処理していく。
攻撃の性能が変わらない事を良いことに、この攻撃を放ち、操っている大本を叩ければ、などと思考を巡らしていた……その時だった。
「!?」
サクリと、軽い刺し心地と共に、突如、ウォー隊長の<危険感知>が全力で警報を上げた。
突き刺した攻撃の目と、ウォー隊長の目が合う。今まで、規則的に襲って来ていただけの相手が、明確な意思の下、自分の事を見ていたのだ。
「ワ~フ♪」
「チィイ!?」
獣の型をした攻撃は、剣で刺された状態で、可笑しそうに目を細め鳴き声を上げる。
それをウォー隊長は、足で押し出し剣から引き抜くと、その反動も利用して、全力でその場から退き、全力で防御態勢へと切り替えた。
その咄嗟の行動が、功を奏した。
― ドン! ―
霧散するはずの魔力が、その場でとどまり収縮すると、強烈な衝撃を放ちつつ爆発した。
「「「隊長!?」」」
衝撃を受け、ほぼ水平に吹き飛ばされるウォー隊長を、後方で陣取っていた兵達が受け止め、地面に溝を刻みながら威力を殺す。
「埋めろ埋めろ! 絶対に通すな!」
隊列に開いた穴を塞ぐ兵たちの後ろ姿を、歪む視界で眺めつつ、先ほどの現象に思考を巡らせる。
そして、一つの答えを出す。
「くそ……自爆、とはな。散って再利用できないならば、その場で全て攻撃に使うとは……何と思い切りのよいこと、か」
「喋らないで下さい! 今回復しますから!」
予想外かつ効果的な対処法を前に、ウォー隊長の口から悪態が漏れる。
見出した対処を簡単にひっくり返されれば、焦りもする。居ても立ってもいられなくなったウォー隊長は、周りの制止を振り切り、すぐさま立ち上がる。
「隊長、まだ前線は持ちます! 今しばらく回復を」
「あの程度の威力であれば、大した怪我にはならん!」
だが、威力はそれ程ではない。他の者たちも、無防備な状態で受けたとしても、死ぬことは無いだろう……そう結論を出し、動きが止まる。
「た、隊長?」
「……死なない程度に、威力を、抑えた?」
刺し応えが軽かったのは、込められた魔力が少なかったからではないか? その可能性に至り、憤怒とも恥辱ともとれる感情に、ワナワナと剣を持つ手が震える。
武装破壊に、取り押さえ、そして極めつけは、今回の威力調整。疑い様もない手加減……舐められていると感じても、致し方がない事だろう。
だがしかし、そんな些事に捕らわれている暇などかった。考える時間など与えない、作らせない……そう言わんばかりに、至る所から炸裂音が響き渡ったのだ。
あっという間にひっくり返された戦況に、俄かに戦場が騒がしくなる。
何せ今までは、相手が無傷で捕えようと武装破壊を行っていた故に時間が掛かり、アルベリオン側は何とか持っていたのだ。
爆発に使った魔力は散り散りとなり、再利用ができないだろうが、ダメージを伴う攻撃を相手が始めたことで、アルベリオン兵たちに動揺が広がる。
「伝令、伝令だ! 道を開けろ!」
目まぐるしく変わる戦況に、ウォー隊長の前へと、前線から必死の形相の兵が飛び込んでくる。
「隊長! 不味い事になった!」
「分かっている。勝手に散ってくれるなら、防御を固め……」
「違う! 爆発じゃない! 敵戦列にデカい奴が……!?」
不味い状況である事は、見れば分かる事だろうと、ウォー隊長は多少の苛立ちを覚えながらも、それを表に出さず対応する。
だがしかし、そんな対応に構う余裕が無いのか、すぐさま否定し、焦った様に自身の報告を続ける……その時だ。
爆発とは異なる衝撃音と共に、前線に張っていた兵が宙を舞った。
頭上を飛び越えて行く姿を、唖然としながら見送っていると、まるで床を掃く様に、次々と吹き飛ばされ、ウォー隊長の元へと距離を縮めて来る。
ウォー隊長が入る事で戦力差を埋めていた事もあり、薄くなっていた隊列は、瞬く間に突破され、ウォー隊長の下へと辿り着く。
「グルルル~~~」
人の間に腕を突っ込み、掻き分けるように左右へと押し出し現れたのは、他とは二回りほど大きい、白いそれだった。
唸り声を上げるそれは、魔力で作られた側だけの攻撃とは、動きの洗練さも放つ存在感も隔絶していた。
他の者など眼中に無いのか、その目はウォー隊長へと釘付けであり、作り物とは思えないほど爛々と輝いていた。
周りにいる者たちと言えば、後衛ゆえに、接近戦を主軸とする者達では無いのだが、この戦場の支えであるウォー隊長を失えば、自分達の敗北が決まると、刺し違えてでも時間を稼ぐ捨て身の覚悟で、四方八方から向かおうとしていた。
そんな彼等の事など一瞥することなく、白い相手は代わりに両の手に風を纏う。風切り音を上げ渦巻くそれは、明らかに殺傷を目的としていた。
「散れーーー!!」
相手に手心が無くなっている事を察知したウォー隊長は、他の兵が向かう前に自ら距離を詰める。周囲の兵は、覚悟空しく命令の前に、反射的に距離を取ってしまう。
突進の威力を加えた袈裟懸け斬りは、風を纏った片腕で受け止められ、ガリガリと音を立てながら火花を散らす。
「隊長!?」
「来るな! こいつは私が、やる!」
鍔迫り合いの後、横薙ぎに振るわれた腕に、ウォー隊長の剣が弾かれる。
更に相手は、弾いた勢いのまま前へ踏み出すと、反対の腕で拳を作り、ウォー隊長へ向けて殴りかかる。
対してウォー隊長は、踏ん張るでも下がるでもなく、その場で弾かれた剣から片手を放し、後方に流し衝撃を逃すと、振り回される前に自ら剣を手放し、前へと距離を詰めた。
距離を詰めて来るとは思っていなかったのか、虚を突かれた相手は、放った拳も紙一重で避けられ、懐へ潜り込む事を許してしまう。
「ワフ!?」
「『燃えろ燃えろ、我が激情。滾り、沸き立ち、収縮し、猛り任せ解き放たれよ』」
その詠唱は周囲の魔力へ干渉し、武器を手放し空いた手に、魔力が集まり熱を帯びる。
操る事は出来ずとも、周囲には誰の支配下にも属さない魔力が満ち溢れている……魔力を元に作り出した現象の燃料として、これ程最適なものはない。
危険を察知した相手が、後ろに下がろうとするが、ウォー隊長が前に出る方が速い。魔力を帯びた両手を相手の腹に押し当てつつ、完成した<呪術>の発動呪文を紡ぐ。
「『爆裂』!」
解き放たれた魔力が爆炎となり、相手を飲み込み吹き飛ばす。その衝撃を前に、相手は宙を舞い、黒煙の尾を引きながら、隊列の外まで吹き飛んで行った。
「これ以上の時間稼ぎは不可能だ! 各自カバーし合い、撤退に入れ!」
「隊長は!?」
手短に命令を出すと、地面に突き刺さった剣を取り、兵の問いかけに応えることなく、吹っ飛んだ相手へと向かって行く。
改めて対峙した相手は、空中で体制を立て直し、器用に地面に着地していた。
直接爆炎を受けた腹は多少焦げているものの、目に見えるダメージは見られない。その焦げも、片手で叩けば綺麗に落ち、真っ白な美しい毛皮が露になる。
「まぁ……この程度か」
元々ダメージを期待していなかった為、無事な姿も見ても動揺はない。しかし、続いて起きた現象には、反応せざるを得なかった。
「……ん?」
周りで動いていた攻撃の動きが、止まっていたのだ。
突然止まった攻撃に、周囲の兵から困惑した様な騒めきが上がるが、未だ戦闘は続いているのか、遠くから戦闘音が聞こえる、不自然な静寂が出来上がった。
「おい貴様、何の真似だ?」
「ワフフ」
両手を地面に突き立て力むと、全身から魔力が噴き出すと幾つもの塊となり、白い獣型の攻撃へと変貌する。
スッと上体を起こすと、掛かって来いと言わんばかりに、指で手招きして来た。
それは、パフォーマンスでもあっただろう……自分がこの攻撃の中心であると。そうでなければ、新たに作らず、周囲に溢れているのを使えば良いだけの事なのだから。
こいつが、この攻撃の術者で間違いない……そう確信したウォー隊長は、今まで節約していた力を使う事を決意する。
そもそも、この規模の攻撃を一体で行うなど、土台無理な事だ。そうであれば、相手は複数。全て相手になど到底できない。
ならば、その内の一体と思われる目の前の相手を叩ければ、周囲の獣型の攻撃諸共、始末することができる。そう考えれば、力の使い所としては十分だと判断したのだ。
「ふぅ~~~……」
「グルルル~~~……」
高密度の魔力を纏わせた剣が、周囲の濃度差から魔力光を放ち、更に過剰に込められ操作下から漏れ、バチバチと音を立てながら弾ける。
漏れた魔力は当然ロスとなるが、無駄を気にしながら戦い、容易に勝てる相手でもない。
― ドン! ―
示し合わせたかのように、同時に相手との距離を詰め、斬り結んだ。
「あの女騎士さん、頑張りますね~」
「意地ですわね!」
「どちらかと言うと、やけくそですかね~」
「やけくそです?」
「うん、やけくそ」
「アルベリオンです?」
「ですね~」
「ケルドです?」
「でしょうね~」
「世の中、不条理ですわ。哀れですわ」
「諸行無常」
―――
火属性の魔力が自分の魔力と、周囲から集めた魔力《沸き立ち》、押さえつけて圧縮し、戻ろうとする力押さえつけが弱くなった所から勝手に吹っ飛べ
詠唱の内容はこんな感じです。いつ、どこで、何処に、誰が、誰に、などが無いので、結構短めです。更に<詠唱短縮>や<詠唱破棄>を加えると、さらに短縮可能です。




