249 アルサーン解放②(観戦準備)
①猛毒散布
②甘えん坊のビャクヤさん
③リリーさんは有名人?
<門>の扉がゆっくり開かれる……途中で、吹き飛ぶ様に開かれ、プルプルと球状の粘液が洪水の如く溢れ出す。
(お待たせ~)
「「「うぎゃ~~~!?」」」
周囲に軽く<念話>を飛ばしながら散っていくプルさんズに続き、後続部隊も続々と現れる……てか、プルさん洪水に押し流されて現れる。機材とか薬品箱とかを手放さないのは流石ですが、そのままだと溺れますよ?
(パ~パ~?)
「ん?」
(な~んで、すぐ呼んでくれなかったの~?)
「あ、うん、ごめんなさい」
溢れかえる粘液の中、俺の目の前にプルンと一体だけ飛び出し、不満げな<念話>を飛ばしてくるプルさん。
ビャクヤさんの圧に負けて、完全にすっぽ抜けていました。謝りますから、そんなむくれないで下さい。周りを巻き込まないであげて下さい。何体かプルさんに呑まれて、本気で溺れかけていますので、助けてあげてください。てか、お前らも一旦そのデカい機材諦めて放せ。
「お待ちしておりました。プル様」
(ご苦労様、ミルキー。どんな感じ?)
「正直、芳しくありません。プル様が居なければ、何もできずに手をこまねくだけだったでしょう」
早速プルさんが、現場の魔物に聞き取りを開始した。そう言えば、リリーさんを吊るしている白蛇さんの顔に見覚えがないですね。どちらさんで?
「主様がお休みになられてから迷宮へ入りましたので、御存じないのも当然かと。お初にお目に掛かります。白厄……ミルキーとお呼びください。プル様の元、薬毒の開発・解析に従事しております。主様の記憶の片隅に止めて頂けたならば存外の喜びに御座います」
「あ、これはご丁寧にどうも」
頭を垂れつつ、自己紹介をする白厄さん。そっかー、プルさんの配下か~……厄シリーズ生まれちゃったか~、あぁ厄い厄い。また、ヤバイ子が増えてしまった。
(……あ)
「ん? どうしましたプルさん?」
(あ~、うん。ここの僕から情報貰ったんだけど……これ、ここじゃどうしようもないやつだ)
おう、早速プルさんが匙を投げた。ドンだけヤバイ毒なんですか。
(うんとね~、コレ、毒よりも呪いに近い……呪毒って言えばいいのかな? 魂を侵食して、その副次効果で肉体を壊す……っぽい?)
うっわ、それはまた厄介な毒ですね。
肉体と魂は精神で密接に繋がっていますからね。スキルや魔法での肉体の再生は、魂の情報を元に行われる。その設計図たる魂が壊されれば、当然肉体の再生は正常に行われず、寧ろ魂の情報通りに肉体を再構築する関係上、肉体の崩壊を促進する可能性すらある訳ですね。
然も聞くに、その効果範囲は獣人の魂に限定している。
正確に言えば、亜人や人間にはなく、獣人にしかない魂の特徴を狙い澄まして発動する……邪魔な獣人だけを殺す、獣人専用の農薬みたいな毒のようですね
加熱すると気化は加速、風で押し返すも、焼け石に水。
汚染されていない空気がほとんど残っていないだろう現地では、無理に押し流そうとしても新たに入り込んで来るのは、毒に汚染された空気。
水も同様で、毒が少しでも溶ければ、広がった水で足場を失うことになる。魔法で作った水が魔力に戻っても、毒は消えませんからね~。
全てを吹き飛ばす様な大規模な魔法であれば、話は変わるのですが……獣人は、小規模高出力などの瞬間出力は別ですが、体外に魔力を放出する魔法が苦手な傾向にありますからね~。高い身体能力に傾倒した獣人には、効果絶大でしょう。
魂的に弱い植物とかにも影響がある様ですが、亜人には影響はなく、獣人には効果絶大。そんな毒が大量に撒き散らされれば、そりゃ容易に侵略されますわな。
(植物にも効いているし、完全に獣人だけって訳じゃないっぽいよ?)
「侵略している亜人やケルドは、普通に行動している様ですが?」
(……直ちに影響はない感じ?)
つまりはあれですね、枯葉剤散布しているようなもんですね。
所詮、亜人もケルドも使い捨て。後にどんな弊害が現れても、どうでも良いって訳ですか。
……あ、だから勇者とか引っ込ませたのか?
勇者が少しでも人道的な感性を持っているなら、この非道に何かしら思うところがあって然るべき……まだ使う予定なら、反感を買って離反されるのを避ける意味でも、隠れているのを含めて獣人を根絶やしにする意味でも、勇者撤退の理由としては十分でしょう。
勇者……勇者か~。情報が少なくてどんな奴か分かりませんが、碌な奴じゃないでしょうね~。
(取り敢えずここじゃできる事も限られるし、迷宮内の施設に運んでも良い?)
「良いですよ~、よろしくお願いしますね」
(うん! リリーもミルキーも、搬送と説明説得、手伝って~)
次々に倒れた獣人さん方に、プルさんが張り付いて行く。これなら死んでいても、魂が残っていれば、ちゃんと蘇生できるでしょう。プルさんの安心感が半端ないです。
「……ご主人」
「おん?」
「無理言ってごめんなさい」
興奮が冷め大人しくなっていたビャクヤさんから、謝罪の言葉が漏れる。
膝の上のビャクヤさんの顔に視線を向ければ、申し訳ないと言わんばかりにク~ンと鼻を鳴らし、上目遣いでこちらを見ていた。
その仕草、何処で覚えて来たんです? 無意識? あざとい、圧倒的にあざとい。
ビャクヤさんが可愛いのは当然なので、脇に置いておくとして……アルサーン王国にちょっかいを出す予定がなかったのを、ビャクヤさんのお願いで前倒ししたことを言っているのでしょう。
そんなに深刻に捉えなくても良いんですがね~。そもそも、ビャクヤさんがしたかった事で、俺が横からとやかく言う事でも無いですしね。
まぁ、危ないのは困りますが、手助けできる様な内容であれば、矢鱈目ったらとやかく言ったりはしませんとも。基本方針さえ逸脱しなければご自由にどうぞ、です。
寧ろ、ある程度自己判断してくれた方が、こっちも助かります。自主性はとっても大事。勝手に動いてくれるなら、指示する手間が省けますしね……あ、報告くらいはして下さいね。
「ワッフゥ! じゃぁ、全力で潰しに行っていい?」
元気を取り戻したビャクヤさんが、嬉しそうに尾を振りながら物騒な事を口走る。
まったく、何を言っているんだか……元々、イラとその手先は、エマさんの為にも全部駆除するんですから、遠慮せず思いっきり行きましょう。
「寧ろいい機会です。加減なんぞするな、徹底的に潰せ、生かして返すな。持てる力の全てを用いて、最大限の成果を上げろ」
「ワフ……ワフフフフフフ」
頭を撫でながらビャクヤさんの要請を認めると、犬歯を剥き出し、心底嬉しそうな笑顔を浮かべるビャクヤさん。
うん、やっぱりこの子は狩猟犬ですわ。我慢させてごめんね~。思う存分やっちゃってください。俺だけでなく、皆さんバックアップする気、満々ですからね。
「プルさん」
(な~に~?)
「これから、もっと増えると思いますが、対応できますか~?」
(問題ないよ~。迷宮の力が使えるなら、幾らでも捌いて見せるよ~)
う~む、頼もしい。
「ワフ」
一声上げ、ビャクヤさんが膝から顔を離し立ち上がる。
分かった分かった、待ちきれないのは分かりましたから、そんなギラギラした目で見ないで下さい。
え~と、後は~っと?
「あ、ミルキーさ~ん」
「え!? は、はい、なんでございましょう!?」
「何か必要なモノとか欲しいモノは有りませんか~?」
「え、えっと……毒の原液があれば、是非。解毒薬の開発もそうですが、その組成を調べれば、魂への干渉手段の一つになるかも知れません。開発部共が喜ぶかと」
「だそうです。見つけたら、取って来て下さい。他の方に裏で取ってきてもらうので、無理はしなくて良いですよ~」
「うん、駆る。刈る! 狩ってくる!! ワッフゥー!」
気合十分、遠吠えを響かせ駆けだすビャクヤさんは、あっという間に見えなくなった。そんな後ろ姿を見送りつつ立ち上がり、服に付いた汚れを払い落とす。うん、汚れ一つなし。普段着の性能じゃ無いですわ。
……さてと。こっちはこっちで、動きましょうかね~。
「ホロウさ~ん。予定通り、お使いをお願いできますか~?」
「は! 承知いたしました。お任せください」
近くの異空間で隠れて待機していたホロウさんにお使いを頼みつつ、<門>から魔道具を持って来ているアルト達の間をすり抜け、脇でひっそりと用意されていた椅子に腰を下ろす。
「はい、椅子!」
「はい、テーブル!」
「メルル、緑茶になります」
「はい、モニター設置!」
「はい、スピーカー設置!」
「はい、接続完了!」
「はい、ドローン発進!」
「「「映像でま~す!」」」
周りに次々と設置される魔道具は、大型モニターにスピーカー、それらに情報を送るドローンカメラなどなど……細かいモノを上げればきりがないですが、俺が元居た世界の技術と遜色ないレベルのモノが沢山。
バカに施設と資源と時間を与えるとこうなるって、いい例ですね。後で他の魔道具も見せてもらいましょう。
映像が映し出される。お~、中々の画質。流石にコアさんの<カメラ>には劣りますが、十分見られますね。
未だアルサーン全域は領域外ですからね~、<カメラ>で見ることができないので、当面はこれで観賞です。
脚を組んで背もたれに体重を預け、リラックスモード。ゴトーさんが用意してくれたお茶に口を付ける。ではでは、領域外で初めて行われる大規模作戦。ビャクヤさんのお手並み、拝見と行きましょう……うむ、お茶が美味い。
リリー 「ミルキーミルキー、厄シリーズって、何?」
ミルキー「そうですね……自然環境から極端に外れた環境、もしくはそれに準する何かに適応した種、かしらね。領域内でしたら、野生にも何体かいますよ」
リリー 「さっきダンマスが、ヤバイ子とか言ってたけど?」
ミルキー「そうね……私を直視すると、普通の生物は死ぬ位かしら」
リリー 「え゛?」
ミルキー「この魔道具が無ければ、みんな死んでるわね」
リリー「や、厄い」




