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247 冒険者②

①魔物車による定期便

②ダンジョンの最前線は、何かがおかしい

③早速ダンジョンへ!

(でっか)

(たっか)

(ふっか)

(こお)

「「「「やばくない?」」」


 ケルド共が出入りしている場所から、更に北に行った場所。そこで冒険者一行は、目の前に聳え広がる森を見上げ、各々抱いた感想を垂れ流す。


 大型の魔物であっても、覆い隠してしまえるほどに太く高い木々。深い森であれば、この程度の木は普通に自生しているが、数カ月程度で生まれる様な大きさではない。


 埋め尽くす様に生える木々は、切り分けられたかの様に不自然なまでに綺麗に途切れ、防壁のように外と内を隔てている。内包された魔力は、外とは比較にならない程に濃厚で、殆ど外に漏れていない。僅かに漏れ出した魔力を元に、短い草が森から這い出る様に茂るのみだ。


 一目見て分かる異常な風景、縄張りを持つ魔物の領域に足を踏み入れた経験がある者ならば、ここが何者かによって敷かれた境界線であることは、すぐに気が付くだろう。


 故に、彼等はこう評価した……ヤバいと。


「こりゃ、思っとったよりも深いのう……今日は軽く様子見程度で止め、本格的な探索は明日からにしようかのう」


 顎の白髭を摩りながら、考えを改める【破壊者】。


「問題は……後ろの連中ね」

「野次馬がうぜぇ」


 おこぼれ目当てか、横取り目当てか……みすぼらしい姿のケルド共が、ぞろぞろと後を付けていた。

 物陰から覗くモノ、目線を逸らして誤魔化すモノ、誤魔化す気がはなからないモノ……反応は様々だが、その隠密はお粗末の一言だ。


「因みに、強さの参考になりそうな奴って居るか?」

「いない、雑魚」

「だよなぁ」


 ロットが自身よりも鋭いロビンに問いかけるが、帰ってきた回答は、自身が抱いた感想と同様の物だった。


 辺境へ挑むのは、基本自己責任。


 他人がどうなろうとどうでも良いのだが、実力が足りないのなら挑むんじゃねぇよと、ロットは露骨に嫌な顔を浮かべる。


 ケルドが相手であれば、例え不意を突かれたとしても対処できる。だが、襲って来るならまだしも、探索途中で邪魔をされてはたまらない。


 そして、明らかに自分達を狙っている、下卑た笑みを浮かべた連中がいた。その装備は、森を探索するには明らかに身軽であり、何を獲物として見ているかは、容易に想像できるだろう。


「優遇するルールがない、ねぇ……森に入れば問題はないってか?」

「自分達がやり返される事を、考えて無いのかしらね~……無いんでしょうね~」

「「「「は~……」」」」」」

「な~に、しみったれとる」


 もうウンザリと肩を落とす冒険者一同。そんな中、子供の様にイキイキと歩く老人が一人いた。


「じじいが元気すぎんだよ」

「なに、今回は様子見。深くは潜らん」


 【破壊者】の二つ名を持つその老人は、立ち止まり周囲を窺う様に一瞥すると、ふむと頷き森の奥へと視線を向ける。


「先ずは……挨拶からじゃの」

「挨拶?」

「うむ、ここらへんでいいじゃろ」


【破壊者】は両の足で地面を掴み固定すると、腹の底から大きく息を吸う。


 その動作を見た弟子一同ははっとし、咄嗟に耳を塞ぎ、腹に力を籠め、全身に魔力を漲らせる。


『たのもう!!!』


 一声……たった一声。魔力が込められたその一声は、大地を揺らし、空気は震え、周囲を漂う魔力共々、舞っていた粉塵を吹き飛ばす。


『ワシの名はジャック・バルバス、冒険者じゃ! これからワシ等は、探索の為に、お前さんらの領域に足を踏み入れる! だが、敵意は無い! 寛大なる対応を切に願う!』


 竜の咆哮に勝るとも劣らないその一声を前に、森は騒めき、鳥が飛び立ち、獣は逃げ惑う。


 木霊する音が萎み、しばしの静寂が流れる。


 吹き飛ばされた風が戻り世界に音が蘇ると、止まった時が動き出す様に、人々の口から溜め込んだ息が吐き出される。


「……よし、行くぞい!」

「よしじゃねぇよ、この糞野郎が!」


 やれやれと言いたげな弟子達を余所に、【破壊者】がやり切ったと言わんばかりに、ふんすと鼻息を鳴らせば、後ろから、罵倒が飛び込んでくる。


 後ろを向けば、息も絶え絶えで、生まれたての小鹿の様にプルプル震えながら立つ、ケルドが居た。

 さらにその後ろのケルド共は、白目をむいて痙攣し、色々なモノを色々な所から垂れ流す……口に出すのも躊躇う程の、汚らしい状態で地面へ倒れ伏していた。


「なんじゃい、あの程度で気絶するとは、軟弱な連中じゃのう」


 立っていたケルドは軽装で、先ほどまで冒険者たちを、獲物を見る様な視線で見ていた連中の一人だ。

 つまり、殺して奪う事に躊躇いの無い連中……殺した分だけレベルも高く、外部からの魔力に対する抵抗が他と比べ高い。その為、他のケルドと違い醜態を晒さずに済んだのだが、真面に動ける様な状態では無かった。


「一般人ならともかく、戦闘職がこの醜態は無いわ~」


 高濃度の魔力を浴びたとしても、指向性を持たない魔力であれば、短時間であれば然したる影響にはならない。人から発せられた魔力なので、多少は指向性を持っているが、攻撃性は持ち合わせていないので、多少の圧迫感や浮遊感に似た感覚がある程度だろう。


 能力が低い子供でも、根性があれば問題にすら成らない。

 周囲に漂う魔力が押し出されたことで一時周りが騒然となったが、生物に直接的な影響はない。


 つまり、先ほどの一声はデカいだけで、心身にはほぼ影響はないのだ。


 では何故、ケルド共は気絶したかと言えば……放たれた魔力にビビっただけ。彼等が呆れるのも、当然の反応だろう。


「アンタ等は、そこで大人しく震えてなさい。ぶっちゃけ邪魔よ」

「く、そ……がぁ!?」


 冒険者一同は、悪態を吐くことしかできないケルドに邪魔される事無く、悠々と森へと歩みを再開するのだった。


 ―――


 森の前まで来ると周囲を窺い、近くに危険がないことを確認しつつ森の中へ入る……事なく、生えている木々へと視線を向ける。


「この木、何の木?」

「多分、アブナの木? でも、ちょっと違う? 魔力の保持力が高すぎるし……」

「突然変異か、環境による成長の違いか、はたまた全然違う種か?」


 ララが疑問を口にすれば、マリアとロットが観察し感想を述べる。

 その横では、ロビンが荷物から本を取り出すと、見知らぬ木や草の絵や特徴を、空白のページに黙々と描き込んで行く。


「う~ん、<鑑定>結果も芳しくない。この木、殆ど情報が無いわね」

「情報として、認知している人族がいない……新種と考えて良さそうですわね」

「専門家案件だな。サンプルだけ取っとくか」


 高レベルの<鑑定>は、世界の記憶へとアクセスすることで、その情報を閲覧することができる。情報が無いと言う事は、人には殆ど知られていない種であることを意味していた。


 その為、薬効や性質など、<鑑定>で見ることができない情報に関しては、専門家の手を借り、危険性や利用方法などを見極めて貰うのだ。

 その為のサンプルとして、ナイフで木の皮や枝などを採取し、個別にラベリングし保存してゆく。


「あ、そう言えば……ケルド共、ここの木を燃料にしようとしてたよね?」

「この、魔力パンパンの木を? 魔力濃度の薄い街中で?」

「……適切に加工しないで火を点けたら、たぶん、爆発する」

「うわぁ……カッターナ、文字通り壊れるんじゃね?」


 気安い雰囲気で話しつつ、お互いの位置と生存を確認しながら作業を進めてゆく。


 ロットは他に目ぼしいモノが無いか、上から下まで地面を這う勢いで見渡し、ララは周囲のモノを片っ端から<鑑定>し、マリアは周囲に<結界>を張り、魔力保有量の高いモノを探しつつ、広範囲の警戒を行う。


 その後は、それの繰り返し……彼等の、いつもの探索パターンである。


 一般人の印象では、豪快で華やかなイメージが有る冒険者だが、その殆どが地元ハンター達による危険度が高い魔物の討伐話や、辺境の奥地にて起きた予想外の展開が取り上げられているのみであり、冒険者の大半が、この地味で地道な作業の繰り返しなのだ。


「お、ここに爪痕があるぞ。鳥族のかぎ爪跡か?」

「複数種類の、フンと、足跡もある。入ってすぐ、痕跡だらけ、無能ばかり」

「大きさから言って、小型が多いな。けど姿はなし、こりゃ、じじいの声で逃げ出したな」

「わっはっは、許せ!」


 必要な事だったと理解している為、それ以上何かを言う事は無い。領域に入ってすぐに、その地の主やその眷属に襲われる事は、ざらにあるからだ。


 魔力を込めた声は、意味を理解するだけの知能がある存在であれば、言語を理解していなくとも意思疎通を可能にする。理解できなくとも、放たれた魔力量を感じ取れば、真面な魔物であれば不用意に襲おうとはしない。


 安全に探索する為には、自分の存在を主張するのも一つの手なのだ。


「師匠、師匠! こっち、これ!」


 森にちょっと入ったところで、いつも物静かなロビンが、が鼻息荒く手招きする。その先には、様々な種類の小さな実が大量に実った、群生地があった。


「おう、大漁じゃ! この赤い実は、ココルの実か? 他にも貴重種が大量じゃわい」

「こっちには、見た事のない実がってる!」

「おう、採れ、描け! 新種じゃ新種じゃ、わっはっは!」


 【破壊者】とロビンが子供の様にはしゃぎながら、作業に没頭する横で、ララとロットが実に目もくれず、周囲の環境を調べ始める。


「……古めの糞が大量に積もってる。何かの群れの巣跡かしら?」

「そこから発芽して、群生したのか……形からして小型の鳥族? 食性は穀物中心っぽいな」

「どんな姿かしらね? ふふ」


 姿見えぬ新種の生き物の痕跡を前に、ララが笑みをこぼす。


 富、名声、力、好奇……冒険者として本格的に活動している者達の動機は様々だが、その根底に存在しているのは、未知へ対する飽くなき探求心。

 そんな彼等からすれば、ここは余りにも魅力的すぎる場所なのだ。足を止める(・・・・・)のも仕方がない程に。


「森の外周だけで、これだけ調べる対象を発見するとは……時間が掛かりそうですわ」


 マリアの予想通り、その後の彼等は森の外周の探索だけで、数日を要することとなるのだった。


隠密部隊、領域外周監視隊


「報告―、報告―――!」

「ヤバいのが来たー!?」

(落ち着け、何がヤバイのか報告しろ)

「分かんない! 分かんないレベルで、ヤバいのが来たー!」

「近づくのも無理っす! あ、ちょ、やば?」

「これは……気付かれてるっぽい?」

「やっべ、目が合った」

「もうちょっと下がるっす~!」

「「「退避、退避~!!」」」

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