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245 苦労人②

①カッターナは順調に回復中

②ゼニーさんの鑑定眼

③エッジさんは苦労人

 南北長いカッターナ王国の東には、南北に延びる山脈が存在する。その山脈には穴人(ドワーフ)が住み着き、更にその東にはイラ国が存在する。


 100年ほど昔、カッターナ王国がカッターナ地域と呼ばれていた頃……南北に延びる山脈に沿う様に深い森が広がっていた時代では、森には獣人や森人(エルフ)の集落が多数点在し、少ない平地には草人が小さな国を作り、山脈には穴人(ドワーフ)が穴を掘り住み、お互いに緩やかに交流していた。


 そんな場所へ、前触れもなく山脈を越え、イラ国が侵略を開始した。


 当然のことながら、現地に住む者たちが抵抗しない訳が無い。多大な被害を受けながらも、イラ国の侵略を押し留める事に成功する。


 ここでイラ側にとって想定外だったのが、一回目の侵略でそれ程の被害を出せなかった事と、カッターナ側が結託する機会を与えてしまった事だろう。カッターナに作り出した拠点は、あっという間に攻め落とされ、後が続かなくなる。


 思い通りにいかない進軍、一度に進軍できる規模も限られ、国からの支援もままならない。


 更に山脈は穴人(ドワーフ)達の住処であり、敵視されてからは山越えすらも困難となる。国土拡大を目論んでいたイラ国にとって、この山脈は厄介極まりないモノとなる。


 だが、彼等が諦める事は無かった。


 彼等が次にとった行動は、トンネルを掘る事。イラ国とカッターナを直接つなぐ、直通の通路を作り出したのだ。


 無謀とも思える山脈貫通だが、土魔法を応用すれば、それ程馬鹿げた行為でもない。


 それ以外の方法となると、最初と同じように山脈を超えるか、北に大きく迂回し今は無き魔の森を抜けるか、南に広がる海を渡るしか方法がない。距離と労力を考えれば、挑戦するには十分だっただろう。


 穴人(ドワーフ)の住処である坑道を避けて作られている為、曲がりくねり平坦でも無い、その数もカッターナの南北に2つしか造ることができなかったが、そのトンネルにより、イラ国の侵略は再開することとなる。


 だが、手間取り過ぎた。


 トンネルが完成する頃になると、カッターナの防壁は粗方完成されており、それこそ進軍を諦めざるを得ない状況となってしまっていた。


 これは、エスタール帝国の先見の明の勝利と言っていいだろう。イラ国との争いが沈静化し、人間が……邪魔物(ケルド)が少しずつ流入するようになるまでは。


 ここで彼等にとって問題だったのは、エスタール帝国への流出が殆ど起こらなかった事だろう。入ってもケルドの能力では真っ当に生きていくことなどできず、大半が犯罪者として勾留され、処分されるか突き返されるか……今ではカッターナからでは審査が厳しすぎ、入国する事すら困難なほどである。


 彼等はカッターナを経由し、エスタールへケルドを浸食させる目論見だったのではと考察しているが、それがほぼ阻止された結果、今のケルドだらけのカッターナができてしまったのではないか……真実はいまだ定かではないが、大きく外れてもいないだろう。


 流出するはずだったケルドが国内に滞留すると、新たな問題が浮上する。ケルドでは真面に国など維持できないのだ。


 勿論その負担は、当時カッターナに住んでいた亜人や獣人達に寄せられた。


 強盗、強姦、脅迫……いつ頃からか王族貴族に位置する者達の変死が相次ぐ様になってからは、新たにその地位に就いた者による迫害や奴隷制度の導入と……カッターナ国内は荒れに荒れ、当然の流れで内乱が発生。そんなとき支援を申し出たのがイラ教である。


 イラ教による、人間以外を人とも思わない非道な扱いに、未知の魔道具の導入。彼等人族側も抵抗しなかったわけではないが、あっという間に内乱は鎮圧され、イラ教が幅を利かせるようになる。


 だが、所詮はケルド。彼等ではその場凌ぎが限界。イラ教、更にその裏に居るイラ国による支援が絶対必須。侵略の為に造られたトンネルは、イラ国との行き来を担う重要な場所となった。


 ―――


「で、そのトンネルが有る南側周辺が、未だに抵抗が激しいと」

「ここから近い位置に有るから、安全確保の面からも押さえておきたかったのだが、物資がイラから流れている事もあって、どうも食いつきが悪い」


 残った南のトンネルは、奴らの生命線。その手前の土地を手放すことは、今後の侵略に多大な影響を及ぼすでしょう。未だに諦めていないのであれば、手放す事はないでしょうね。


 ここに至っては、軍事的な側面が強く出てしまっているのか、商人であるゼニーさんが手を出せる領分を超えますか。利益で動かないのでは仕方が無いですね。


奴ら(イラ教)の下僕が所有権を握っている内は、どれ程金を積んでも、手放す事は無いだろうな」


 あぁ、ドラゴンズの経路から外れていて、未だにイラ教が元気なのもあるか。


 川を挟んだお隣さんは、最終地点って事もあってボロッボロですが、そこからさらに東、トンネルがある山脈の麓までは被害はほぼない状態ですもんね、


 そんな感じで、手をこまねいているゼニーさんに土産です。

 カッターナの南に広がる森、その縁の土地の所有権を握っている森人のエイブリーさんと、山脈の穴人のガスさんとの、連絡手段と紹介状をプレゼントです!


「ほう、あの女傑と引きこもりに話を付けたのか!」

「ゴトーさんの知り合いだったので。その内で良いので、顔合わせをお願いしますね?」

「ゴトーの旦那~、知り合いならよ~、もっと早くよ~」


 横からエッジさんの文句が垂れ流れるが……うだうだと拗ねているのは、失恋ダメージから回復していないだけが原因ではないご様子。


「拗ねるなエッジよ。ワシも言いたいことがない訳ではないが、聞かなかったのはワシ等だし、紹介されるまで成果を上げられなかったのもワシ等だ」

「一月でなにができるんだよって話だが……はぁ、まぁ、そこを抑えられたなら、俺も楽ができるか」


 何があったのかと話を聞けば、外からケルド共が入ろうとしてくるらしい。

 見た目は人なので、見極めが面倒で、後手に回る事が多いのだとか……ケルド、本当ケルド。


 主な経路は、夜間に森からや用水路、どっかに穴が空いているのか、地下道などが主流と見込まれていて、その範囲のひろさから、カバーし切れていない。


 然も、最近はそれだけではないらしい。


「スラム~?」


 スラムと言っても、貧しい人々の溜まり場よりも、貪るだけ貪って、残りかすだけが残った掃きだめ……みたいな所を想像すると良いかも知れない。治安が悪いとか、ヤバい連中が屯しているとかではなく、文字通り何もない。ケルドから逃れた者達が、ひっそりと隠れ住むぐらいでしょうかね?


 そこから、子供のケルドが大量に侵入、流れて来ているのだとか。


「ガキの成りをしてるってだけで、士気が駄々下がりだ」

「割合的には?」

「五割以上ケルドが、八割と言った所だ。真面なのは二割だな」


 相手の良心に付け込む、嫌らしい手ですね。そりゃ、善良であればあるほど、食い物にされますわ。


 ケルドは基本、子育てをしない。孕ませた女に丸投げです。そしてある程度育った子供は、育ての親を殺すなりして財産を奪い逃走し、外へと勢力を拡大していく。

 その逃走先に、ここが選ばれている感じですか。他に行っても、奪えるモノのなんて残っていませんからね。


 そして、ケルドから逃げる事を考える位には、スラムに住んでいる人はケルド率が低い。ケルド率が低いと言う事は、真面な方が多いという事でもある。

 またケルドは、上位のケルドかケルド率が高いモノに従う習性がある。ちょっとでもケルドが混じっていれば、ケルド率が低いそいつらを犠牲に、上位のケルドが育つ仕組みだ。

 最終的には、よりケルドではない奴に、ケルドの子育てをさせているのだから、呆れを通り越して、感心しちゃいますよ。


 しかし子供ですか……子供の姿をしていなければ、問題解決ですね。丁度いいモノがあります。


【倉庫】から瓶を取り出し、机の上に置く。


「なんだ、この瓶。薬か? すっげ~嫌な予感がするんだけど」

「ケルド共は、上位者からの命令で、溜め込んだ経験値とか魔力を使用して、邪魔物状態に変異することは、理解していますよね」

「ん? あぁ、まぁな」

「これは、その変異命令を与えられたと誤認させる……まぁ、結果だけ言うと、ケルドを邪魔者状態に強制変異させる薬です」


 当然の事、その変異命令を受ける機構を持たないモノには、何の効果も持たない。ケルドを含まない犯罪者で治験済みだそうですので、安全面もばっちりです。


「そんなモノがあるなら、もっと早くくれよ!?」

「俺が寝ていた間にできたらしいので……すまんの」


 意味も理由も無く、子供の姿をしたモノを如何にかするのは、世間体が悪いですからね~。警備担当の印象を考えると、エッジさんの叫びも致し方なしでしょう。


 あ、使い方は、このメモを見て下さい。


「……順調のようだな」

「目的までは、まだまだ遠いですけどね~」


 穴が開きそうな勢いで、メモを読み始めるエッジさんを尻目に、ゼニーさんが真剣な表情を浮かべる。


 魂からの、ケルド部分の切除。これができなければ、ケルドを含む者は根絶しなければならなくなる。ゼニーさんも、その事は気にしていたご様子。


 魂の正確な観測は未だ果たしていないですが、その取っ掛かりを掴んだと考えれば、大きな一歩です。


 まぁ、これのお陰で、ケルドでない者達を殺す必要が無くなりました。最悪、ケルド部分の切除ができなくても、この薬を世界規模で散布すれば、潜伏はほぼ不可能になるでしょう。


「そうそう、話は変わるが……土産のお返しという訳ではないが、渡したいものがあったのだった」

「おや、なんでしょう?」

「アルベリオンの土地を幾つか手に入れた、それを渡したい」


 あぁ、アルベリオンですか。もうそっちにまで手を伸ばしていましたか。カッターナと違って、所有権は国や領主が持っているので、簡単に手に入れられないと思っていましたが、良く手に入れられたものです。


 しかし、う~ん、そっちは後ですかね~。今は立て込んでいるので、ちょっと待っていただきたい。


「お前さんのちょっと待っては、すぐにやると変わらん」

「てか、もうちょっとゆっくりやってくれ。俺等の方が追いつかねぇ」


 まぁ、それなら良いですけどね。今、家の庭先に、厄介なお客さんが来ているので、そっちに集中したいんですよ。


「「厄介な客?」」


 エッジさんがメモから目を離し、窓越しに外へ視線を向ける。

 ここは拠点、別荘的な立ち位置ですからね? 実家の方の庭ですよ。


「旦那が厄介と評価する相手とか、一体誰だよ?」

「名前はジャックさん。白いお髭が似合う、筋肉隆々のかっこいいおじい様です」

「ジャック? 誰だそれ?」


 名前を言えば、エッジさんは知らないのか首をかしげ、反面ゼニーさんは思い当たる人がいるのか、目を見開いて驚きを露わにする。


「ジャック……まさか、ジャック・バルバス・リューデルか!?」

「あ~~~……やっぱり、そうなりますぅ?」


 鑑定する訳にもいきませんからね~。ほぼほぼ確定事項でしたが、一縷の望みで聞いてみましたが……うん、特徴と名前、全被りですからね~、結果は変わりませんか~、はぁ……。


「ジャック・バルバ~……誰だ、そいつ?」

「エッジよ、何でお前は知らんのだ……ジャック・バルバス・リューデル……別名【破壊者】の異名を持つ、Sランク冒険者だ」


 アルサーンの方もあるって言うのに、面倒事が寄って来る寄って来る……いい加減、心の底から安心しながら、のんびりしてぇ。


「川向こうに居るドラゴンズの所、何で森になっているんですか?」

「竜族から漏れた魔力で、木々が急成長したらしいぞ?」

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