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243 穴人④

①酒、飲まずにはいられない!

②宴会

③化け物登場

「「「あ」」」

「「「主だーーー!!!」」」

「「「わーーーわーーー」」」

「あ、ごふ!?」


 飛び掛かるアルト共に埋もれ、得体のしれない何かの姿が見えなくなったことで、如何にか動くようになった体にムチ打ち、その場から距離を取る。


「このこの! 僕らが居ない時に起きやがって!」

「「「そうだそうだーーー!!!」」」

「他の奴といちゃいちゃしちゃってさ、僕達にも構えー!」

「「「構えー!」」」

「えぇい、群がるな纏わりつくなよじ登るな突っつくな! てか、さっきから噛んでいる子は誰だ!? 地味に痛い、地味に痛い!? えぇい、離れろ酔っぱらい共がーーー!」

「「「わーい♪」」」


 掴み上げ引き離され、ポンポンとアルト共が宙を舞う姿を見て、周りの馬鹿共は、囃し立てる様に笑い声が上がる。


 今この場で、此奴の異常性に気付いているのは俺だけらしい。


 一目見て直感した。他の奴に任していい奴じゃねぇ。かと言って、俺が如何にかできる様な存在でもねぇ。


「く……お前が、こいつ等のボスか!?」

「あ、はい。お見苦しい姿をお見せしました。家は、楽しく自由に、やりたいことをやりたいように、がモットーな所がありますもので、お許しを」


 手に持ったアルトを後ろに放り投げ、人の形をした何かが俺に向き直る。


「お初にお目に掛かります。この馬鹿共の責任者です。お話は通っていますか?」

「おう、こいつ等の大ボスが来るもんだと思っとったが、意外なもんが来たぜ! まさか人型とはな!」

「ははは、では先ずはご挨拶から……俺の名は、ダン・マス・ラビリア。ここより北の地に迷宮を構える、迷宮主(ダンジョンマスター)です。気軽にダンとでもお呼び下さい」

「こりゃまた、大層な肩書が出て来たもんだぜ……俺はガス。頭領と呼ばれちゃいるが、肩書だけで他と大してかわりゃしねぇ、何処にでもいる引きこもりだ」


 精一杯の虚勢を張って見せるが、全く通用している気がしねぇ。そもそも、交渉事なんぞ俺等はド素人同然、頭を使うだけ無駄ってもんだ。


「アルトさん達から話は聞いていますか?」

「あぁ、聞いてる。本格的な交流だろう? 断わらせてもらうぜ!」

「……理由を聞いても?」


 俺の返答を聞いて、周りの馬鹿共が目をひん剥いて驚きを露わにする中、目の前の化け物は表情一つ変えず、理由を聞いてくる。


 理由だぁ? そんなもん決まってる!


「お前が信用ならねぇ! お前の存在が分からねぇ! お前が何を抱えているか分からねぇ! お前が何なのか分からねぇ!!」


 幾つもの金属が折り重なり、けれど決して混じり合う事なく流動し続ける……見上げる程の巨大な金属塊。

 淀み、揺らめき、変幻自在に姿を変え、内にある何かを飲み込み続け、捕らえ、本当の姿を(存在)捉えさせねぇ。


 何処までも不気味で、巨大で、不安定で……見ているだけで吐き気がしてきやがる!


 有り得ねぇ……何なんだこいつ、有り得ねぇ!? こんな滅茶苦茶に形が変わって、どうやって自我を保ってんだよ!?


「お前はその中に何を隠して……何を閉じ込めていやがる!?」

「……ぶ、あはははははは!」


 こちらの言葉に、キョトンとした表情を浮かべた化け物は、口をへの字に結び、こらえきれずに噴き出した。


「いい、いいわ~。技術面以外では期待して無かったのですが、面白いのが居るじゃないですか~!」


 愉悦に歪んだ顔を隠しもせず、俺を見ながら心底嬉しそうな声を上げやがる。こっちは、震える体を抑え込むのに必死だってぇのに!? 


「くふ、くふふふ……そんな怯えないで下さいよ~。適当に契約して終わらそうと思っていましたが、まさか、俺の内面に目を向けられる方が居るとは……気が変わりました、仲良くしましょう?」

「い」


 興味を持ったためか、金属塊がドロリと形を変え、俺を目掛けにじり寄ってくる。思わず情けない声が口から漏れ出すが、こんなもん、どうしろって言うんだよ!?


「……主様ってあれだよね。勘の悪い奴には舐められるけど、勘のいい奴にはトコトン警戒されるよね」

「あはは……まぁ、ですが、そんな状態だと、話し合いもあったもんじゃ無いですし……うんじゃあぁよ、こんなのはどうだ?」


 アルトの一体に指摘され、ばつの悪そうな笑いを上げる化け物は、何を思ったのか、まるでチンピラの様な横柄な態度で、俺の目前まで迫って来る。


 だがその一方で、今までの不安を掻き立てる印象は一変し、聖人と見紛うばかりの【真銀(ミスリル)】でできた、美しい立方体を幻視する。


「どうだ? 正気に戻ったか?」

「た、態度と印象が違い過ぎて、なお気色悪いわ!」

「あっははは! それだけ虚勢を張れるなら、大丈夫そうだな! ……これから貴方の様な方に合う時は、こちらで対処することにしましょう。その方が、都合が良さそうです」


 子供の様に笑ったかと思ったら、老紳士の様な落ち着いた態度を繕う。だと言うのに、その存在(聖人)感が変わる事はねぇ。


 態度も、気配も、口調も……何もかもがちぐはぐで、滅茶苦茶で、変幻自在で、何もかも偽って覆い隠しちまう。


「俺の事は最悪どうでも良いんですよ。俺達との交流が、あなた達にとって、有益なものであるかどうかの方が重要では? 皆さんだって、美味しいお酒を、これからも飲みたいでしょう!?」

「「「おーーー!!!」」


 分かって居ねぇ周りの馬鹿共が、化け物の煽りに乗っかって、汚ねぇ声を上げる。俺がだめなら、周りの連中からってか!?


「こうでもしないと、頑なに拒絶しそうなんですもん。話を聞くぐらいはして頂かないと」

「畜生が! こんなもん、もう、拒否できねぇじゃねぇか!?」


 やけになって、持ってたコップの中身を一気に飲み下す。


(うんま)!?」


 なんだこれ、旨! 旨すぎる!? この世のモンか!?


「あ、それですか? 家の特産品です」


 あまりの旨さに言葉を失っていると、化け物が空間に腕を突っ込んで、そこから液体の入った瓶を取り出す。

 その瓶には見覚えがあった、横目でだが、最初にこの化け物が持ってた瓶だ。


 恐らく酒であろうそれを見て、直感する。ありゃ、駄目な奴だ。


「……それ、何だ?」

「良いお酒。因みに名前は【世界酒】です」

「……原料は?」

「世界樹の樹液」


 これは……あれだな! 目を付けられた時点で、終わっている奴だ。抗うだけ無駄だわ。何だよ世界樹って。世界(・・)の決定に、ちっぽけな亜人が逆らえるわきゃねぇだろ。


 そう思うと、肩に圧し掛かって居た荷が下りた気がした。


 ―――


 契約を結ぶにあたり、多重契約に成らない方が良いからと、穴人共のトップ……要は俺が結んでいる契約を見て、比較する必要があるとか言い出しやがった。


 まぁ、言わんとしている事はわかるがよ……空間からドバドバと雪崩落ちる、その紙束の山はなんだ?


「え~と? 先ずは、これと、これと……お~い、そっちはどうですか~?」

「「「はいは~い、契約書はこれね~」」」

「ちょ、おま!?」


 それ、代々頭領を継いだもんが受け継いでる、契約書じゃねぇか!? どっからくすねて来やがった!?


「「「え? ……奥の金庫から」」」


 堂々と盗みを暴露してんじゃねーーーよ!? そして、勝手に渡してんじゃねぇよ!?

 そんな俺の叫びなど無視して、化け物の手に契約書が渡ってしまう。


「え~っと……これと、これがセットですね。これとこれ、これとこれ、これとこれ……」

「はい、これ無効契約! これも無効契約! 無効契約! 無効契約! 無効しかない!」

「こっちは、何重にも譲渡と改変が繰り返されて、中身ぐっちゃぐちゃだよ~。原本は何処~?」

「あ、生きてる契約あった」


 一セットにして、どんどん纏められていく契約書。圧倒的に持ち込まれた契約書のほうが多いが……これ、全部効果ねぇのかよ……って、その書類ケースは!?


「待て待て待て待て!!?? その契約書は待てぇい!?」


 そいつの中身は、カッターナ国との契約書じゃねぇか!? 

 それは、金庫に厳重にしまって……金庫からって言ってたな畜生が!?


「あ~、この契約、もうほぼほぼ切れてると思っていいですよ」

「なんだと!?」

「カッターナ、イラ教に浸食されて、ほぼ滅んでいるって言っていいですし」

「なん!?」


 俺の制止もむなしく、ケースから契約書が取り出されれば、化け物が訳の分からねぇ事を口走りやがった。


「信じられませんか? では時間も経っていますし、契約更新でも申請してみてはどうでしょう。多分応じないと思いますよ?」

「ぐぬぅ」

「てか、この契約相当古いですよ。設定された相場もそのままで、今の相場を鑑みると暴利も良い所です。今ですと、家と取引している位が相場と思って良いと思いますよ」

「なん!!??」

「こっちとしても、このレベルの魔道具を、イラの連中に使われ続けると、ちょっと面倒になりかねないので、やめて欲しいんですよね~」


 待て待て待て!? 情報過多だ、処理が追いつかん! カッターナが滅んでいる? イラ共が浸食? 取引品の質が年々悪くなってたのは、情勢の悪化が原因じゃ無かったのかよ!? 


「待て……って事は……いままで俺らは、糞イラ共に物を下ろしてたって言うのか!?」

「「「ですね~」」」


 軽い! 俺らの半生を、そんな軽く流すんじゃねぇよ!?


「頭領、頭領」

「あん?」


 軽く項垂れていると、背後から軽く突かれ声を掛けられる。振り向くと、そこには指揮官アルトが居やがった。


「因みに、このままイラ共に物を流し続けると、主様の敵になるからね」

「敵だぁ?」

「うん。主様、敵には容赦ないから……頭領には死んでほしくないの、お願い」


 ちらりと視線を戻せば、化け物が未だ聖人の気配を纏いながら、アルト共と一緒に猛スピードで選別作業を続けていた。


 まぁ、その選択(敵になる)は、ねぇなぁ。


「……うし、整理完了!」

「「「お疲れさまでしたーーー!」」」

「これが、意味のない契約。こっちが、更新した方が良い契約。これが、俺らに取って邪魔な契約。最後にこれが、相談したい契約ですね」

「お、おぉ……」


 時間にして、数分。乱雑に積み上がっていた書類が綺麗に仕訳され、目の前に並べられていた。余りに見事な仕事っぷりに、感銘の息が漏れちまったぜ。


「そして、契約内容を見て、現状で組める契約内容がこれです」

「そんなもんまで」

「鉄は熱いうちに打てって言いますからね」

「成る程!」


 確かに、それならこの仕事の早さも頷けるってもんだ。

 手渡された契約書の内容を見るが……ごちゃごちゃとしてて、良く分からねぇ。


「俺らはその手の契約とか、細かいもんが苦手なんだよ。引きこもり舐めんな!」

「自分から言いますか……まぁ、状況が状況でなければ、外と接触なんて殆どなかったでしょうしね~」


 元を辿れば俺らの先祖は、迫害の末に、当時何も無いとされてたこの山に押し込まれちまった連中だからなぁ。それから何代も代を重ねた今、俺等にとってここ(地下)が普通であって、外は興味の対象外なんだよ。


 簡単に説明を受けたが、施設と物資を提供するので、俺等は技術を提供しろって内容だそうだ。作った物をどうするかは、また別らしい。

 このまま、イラ共に流すのも、アルト共に流すのも自由。カッターナに居るイラ共はその内亡ぼすから、時間の問題だそうだ。おぅ怖ぇ。


 こりゃ、一人で抱え込むもんじゃねぇし、他も巻き込むか。北はともかく、南の連中は頑固だからなぁ。こいつの異常性を分からねぇと、延々と……いや、先にこの化け物の方が見限るか。その前に説得しねぇと、夢見が悪そうだぜ。


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