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233 地上げ②

①お抱え商人?

②奴隷漁り(保護)

③さて……獲るか。

「お、おい、まて、この金額は何だ!?」

「何……と、申されましても。今週分の食料の請求書になります」

「以前の3倍近い金額ではないか!?」


 奴隷も売り渡し、支払い能力に危機感を抱きだした頃……集金にやって来た商人が提示した金額に、声を荒げるケルドの貴族。

 確かに今、カッターナは食糧難に襲われている。日に日に餓死者が増え、それこそ、同胞(ケルド)同士で争いが起こるレベルの深刻な食糧難だ。


 だが、この金額の上がり方は明らかに異常だ。これなら、他から取り寄せた方が良い。そもそも今まで、適正価格で仕入れていたこと自体がおかしかったのだ。

 こいつの代わりなど幾らでもいる。いや、契約の打ち切りを突き付ければ、追い縋って契約の更新を求めて来るだろう。そうして買い叩けばよい……そんな妄想は、儚く散る事となる。


 そもそも、ここに商いを目的に訪れる人はもういない。いや、この地域全体と言った方が正しい。それもこれも、この地を管理する貴族共が搾取を続けた為、まともな能力を持つ亜人が軒並み居なくなってしまったからだ。


 ある者は抜け出し、またある者は奴隷としてゴミの様に扱われ死ぬ。自らの意思でここに留まる者など居るはずもなく、何とかやっていた商人は新天地に招待(・・)され、既にこの地の経済と物資を回す者は誰も居ない。


「まさか、奴らが来なくなったのは!?」

「えぇ、あなたの様な負債を肩代わりして新たな販路を紹介すれば、簡単にここの情報をいただけました。皆さん、我らバラン商会の下請けとして、生き生きと働いておりますよ?」

「負債……我を負債と申したのか!?」


 ケルドだけで回せるほど、経済と言う仕組みは甘くない。負債(ケルド)を負担する亜人が枯渇すれば、形だけの国など崩壊するのみ。その日が少々早まっただけの事だ。


「で、お支払い方法をお伺いしても?」

「そうか。ゴミの中でも、君は随分使える類だと思っていたが、ここ迄か……おい!」


 他の部屋に控えていた使用人……いや、武装したケルド共が部屋へと入って来る。


「これで分かったかね?」

「はぁ、それで?」

「死にたいのか!?」

「それは脅し……と、捉えてもよろしいでしょうか?」

「ッチ。やれ」


 全く動じる様子の無い商人の態度に、我慢の限界を迎えたのか、武装ケルドに向けて命令を下す。


「よろしいので?」

「ふん! 手足のニ、三本切り落とせば、立場と言うものを理解するだろう」

「……だ、そうだ。へへ、悪いな」


 間合いを詰めると剣を振り上げ、商人の腕へ向けて振り下ろす。


「あぁ……そりゃ、駄目だろ」


 だがその一撃は、間に入った荷物持ちが懐に隠し持っていた短剣で受け止められる。

 甲高い金属音の後、ギチギチと押し合い擦れる音が室内に流れる。それは寸止めなどでは決してなく、言い訳不可能な敵対行動だった。


「な、テメェ!? ゴハ!?」

「こりゃ、殺人未遂って事で問題ないよな」

「先ほどの行動は、明らかに私に対する敵対行為、殺意ある行動ととらせていただきますね」


 鳩尾に蹴りを受け押し戻されるケルドを尻目に、護衛は商人に向け最終確認を取る。反対の手にはもう一本、短剣が握られていた。


「て、テメェ!?」

「なめてんじゃねーぞ!」

「この状況を分かってないのか? ああ゛!?」

「はぁ、分かってねぇのはそっちだ、まったく……これだからケルドは」


 ギャーギャー喚くケルド共に揺れる様に近づくと、両手に持った短剣で首を掻っ切り、肋骨の隙間から肺と心臓を突き刺し、返り血を浴びる前に蹴り飛ばす。


「「「え?」」」


 一瞬の出来事。余りにも自然に行われる攻撃に全く反応できないケルド共を余所に、隣に立っていたケルドを、更にその次と、同様に殺して行く。


「やるからにはさっさとやれボケが。口の前に体を動かせ、その手に持ってるブツは飾りか、あぁ? 暴力が売りだろうが、それ以外何もできねぇ奴が、それすら放棄してどうすんだよ、ほら4体~5体~6体~」

「こ、殺せーーー!!」


 的確に、確実に、順々に殺されていく仲間を前に、漸く現実を理解したのか本気で殺しに掛かるケルド共だが、彼等が動く前に外から放たれた矢が窓を突き破り、的確に急所を撃ち抜く。


「い、痛ぇ!? 死ぬ! 血が、血がぁ!?」

「お~い、右端の奴肩に当たったぞ~。ちゃんと狙えよな」

(うるせぇ! 壁のせいで狙えねぇんだよ!)


 耳につけた通信用の魔道具で、外から狙撃した仲間に連絡を取りながら、生き残ったケルドに止めを刺す。


「おっと動くなよ貴族様よぅ、ちょっとでも逃げる素振りを見せたら、風通しのいい頭になっちまうぜ?」

「う」


 最早、隠れる事も逃げることもできない。何処から放たれたのか分からないが、既に取り囲まれている事は容易に想像できる。

 反撃する理由を、暴力を振るう理由を与えてしまった時点で、ケルド共に抗う術は残されていなかった。


「それで、どうです?」

「おっとイケねぇ……報告と同じで反応なし、だな」


 懐から円盤の様なものを取り出し、中を確認する護衛。貴族ケルドからは中身は見えないが、何かしらの魔道具であることは察することができた。


「ん? あぁ、これか? 簡易的な判断しかできないらしいが、契約内容の合否や執行を判断できる魔道具だよ。今回の場合だと土地に仕掛けられたルールが対象だな」

「なん!?」


 そんなモノなど聞いた事が無いと、貴族ケルドは目を丸くする。もしそんな魔道具が有るのであれば、相当な額の代物。それこそ、この屋敷を売り払っても手に入れられるか分からない。


「やはり土地に敷かれた契約(ルール)の中でも、暴力に関することで、ケルドを特別扱いするルールはない様ですね」

「国って体裁すら守れなくなるから……てぇ旦那様の仮説、当たっているのかもしれねぇな」


 何でもかんでも自分だけが許されるのであれば、ケルド共はカッターナと言う国を食い荒らし尽くしていただろう。建前だとしても、国などと名乗れる代物が維持できるわけがない。


「まぁ、馬鹿なお前らに分かりやすく言うと……ここに敷かれているルール上、俺達の今の行為は肯定されてんだよ……あんた等が今まで他の亜人達にして来たのと同じようにな」

「ふ、ふざけるな! 貴様ら劣等種と我等至高の存在を同列に扱うなど、ぶ、侮辱するのも大概にしろ!」


 威嚇する様に机を叩きつけ、喚き散らする貴族に対し、無言で立ち上がった商人は間髪入れず……そのケルドの拳にナイフを叩き付けた。


「え? い、イギャーーー!?」

「ただでは済まない? そりゃこっちにセリフだ、ゴミカス」


 予想外の行動と暴言に、何が起きているのか判らない貴族に対し、態度を豹変させた商人は追い打ちをかける様に捲し立てる。


「そっちが先に暴力を交渉に持ち出したんだからよぉ? こっちも交渉に暴力を持ち出しても、何も文句は無いよなぁ? ああ˝~? もう商品の納品は済んでんだよ、金がありませんじゃぁすまないよなぁ? なぁ?」

「し、支払いは……宝石や美術品が「おいおい……おいおいおいぃ? まさかこんな見た目だけの欠陥品に、何かしらの価値がるとでも思ってんのか? 舐めてんのかテメェ!」


 貴族ケルドの頭を掴んで、机に叩き付け物理的に黙らせる。


「そうだな~、俺の見立てでは例えばこの机も二束三文だな。まぁ、素材として見ればそこそこ良い木ではある。他の貴金属関係も潰せば再利用できるが……手間賃を考えればタダ同然だな」

「こ、これは……職人に造らせた一級品、だぞ」

「へ~、こりゃ驚いた。まさかケルドは木や金属を食える(・・・)とは知らなかった! 試しに食って見せてくれよ、おら!」

「~~~!!??」


 新たに取り出したナイフをケルド貴族の口に突っ込み、無理やり頭を揺らす。


 死ぬ、殺される……初めて直面する命の危機に狼狽えるケルド貴族は、完全に委縮し、なすがままにされていた。


「今この国で、一番価値のあるモノは、必要とされているモノは何だ?」

「しょ……しょれは…………食料れふ」

「そうだよなぁ~? 机やナイフで腹は膨れないよな~? で、これが、今のカッターナ国内での、所謂贅沢品と言われる物の大まかな価格推移表だ」

「げほ、ごほ! え? な、何だ、この価格は!?」


 ナイフを口から引き抜かれ、ようやく解放されたケルド貴族は、投げ捨てられる様に寄こされた紙を見て呆然とする。

 貴金属に魔道具、宝石に装飾品に美術品とありとあらゆる品が、軒並みゴミ同然の金額まで暴落していた。


「もしもよぅ、このデータに間違いがなければよぅ? 俺が言ってる査定額に間違いがあると思うかぁ?」

「ま、間違い……無い「あ˝」間違いありません!」

「だよなぁ? だったらよぅ……この契約内も、別におかしな金額じゃねぇよなぁ?」


 ひらひらと契約書をチラつかせれば、顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうな程に動揺を露わにする貴族ケルド。


 既に結んでいる契約の中でも、支払いが済んでいない案件を多数抱えている。その支払いを済まそうにも、暴落した物品の価値では支払いには到底足りない。


「さぁ、サインは、ここ……だぜぇ?」


 新たに取り出した契約書を貴族の前に押し出し、トントンと署名欄を指で小突く。それは、現在ケルドが抱えている未払金の合算と、物品の差し押さえへの合意、そして土地の所有権……


「はーはーはーはー!」


 権力も、武力も、財力も……あらゆる方面から抑え込まれ、足掻くことすらできない。

 心臓が高鳴り、自然と息が荒くなる。絶望のあまり視界が狭まる。

 ケルド貴族は振るえた手でペンを持つと、契約書へと持ってゆく。


「良いですか? 嵌めるってのは、こうやるんですよ……反論できない様に、逃れられない様に……ね」


 もとの温和な表情で、耳元で囁くように語り掛ける。もうお前は終わりだと、教え込む様に……


「うっわ、おっかねぇ。借金なんてするもんじゃねぇな」


 そのやり取りの最中、念のために倒れた武装ケルド達の急所に短剣を突き刺していた護衛は、商人の態度の変貌ぶりに顔を引きつらせていた。

ヤクザ怖いでしょう、商人怖いでしょう。商人(物流の支配者)を本気で敵に回しちゃいけないです。

物流封鎖、買い占め、飢餓商法……独占禁止法って大事ですね!

あくまで正当価格で商売をしているので、こっちは何も悪くないですよ~。

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