225 名付け
①アルベリオン王国の辺境村
②名前
③今発覚する衝撃の事実!
「「「わーわー」」」
世界樹さんの発言を受けて、ものの数分で広場に集まる主要魔物達。
世界樹さんの名前ねぇ……世界樹さんが外の人と接触する事を考えていませんでしたし、そもそも世界樹と言えば大体納得するでしょうから、全然気にしていませんでした。
あーでもない、こーでもないと、ワーワー話し合う姿をながめる。どれぐらい時間経ちましたかね~、軽く半日は経ちましたかね~。確かに大事な事かもしれませんが、君ら本気過ぎるでしょ。
「お母様の名前ですわよ!? お父様みたいに適当に決めて良いものではありませんわ!!」
「「「そうだそうだーーー!!」」」
「ちょ、酷くない?」
名は体を表すでは無いですが、シンプル且つ分かり易くて良いではありませんか。ルナさんだって、その後何も言わなかったじゃ無いですか。
「その場のノリで決めたお父様がイケないのですわ! 相談する暇すらなかったではありませんか!?」
いや、確かにあの時は必要に迫られて、その場のノリと勢いで決めましたけどね? そんな事言ったら、世界樹さんの方が酷いですよ?
「お母様の名付け方?」
「なの!?」
何故に驚くのですか。俺が皆さんの名前を決めた時もスパッと決めましたが、世界樹さんの方がよっぽど酷いでしょうに。
「モフモフしてるからモフモフなの~……とか、フワフワしてるからフワフワなの~……とか、命名理由も、掛けた時間も一瞬「な~の! どんどんアイディアを出すなの!」お~い」
都合が悪くなると、す~ぐ話を逸らすんですからこの植物は……まぁ、良いですけどね。
しかし、名前ですか……う~ん、世界樹にちなんだものが良いですよね。もしくは、神様の名前からとるとか?
「お母様がその程度の存在から名前を取るなど、有り得ませんわ!」
「神は敵だー」
「「「だーーー!」」」
えぇ……ほぼほぼ全員拒絶って、何故にそこまで嫌がるのですか?
「お父様を攫いましたわ!」
「「「そうだそうだーーー」」」
あぁ、そんな事も有りましたね~。いやはや懐かしい。
……そう言えば、以前コンタクトしようと念じてから、反応無いままでしたね。機能しているのか、称号?
「見えない、感じない、干渉しないならまだしも、邪魔する上に管理もできない! そんな存在、意味がないを通り越して害悪でしかありませんわ!」
「神様全部が、ショタ神みたいな存在じゃ無いと思いますがね。寧ろ幼いだけで、真っ当な部類かと」
下界の生物は崇めるものと思っている同僚とか、自分の物に手を出した相手を自分が寝込むまで報復する上司とか……そんな中に居ながらあれだけ素直なら、十分に当りでしょう。
「そもそも、お母様はそんなちっぽけな存在に収まる方ではありませんわ! もっと、こう……そう! 世界の象徴、世界そのもの! 森羅万象、全てを内包する、そんな存在ですわ!」
お~、過剰評価……と、一概に言えない評価だ~。なんせ世界樹ですからね~。
因みに世界樹って、どんな言い方がありましたっけ?
「世界の龍脈の一端を担うモノ?」
「大地に根を張り繋ぎ止めるモノ?」
「魔力を留め潤すモノ?」
世界樹を表す表現として、抽象的なモノを上げるとこんな感じらしい。はっはっは、規模がちげぇ。
「後は……ユグドラシル?」
「それじゃ結局、世界樹様って呼ぶことになるじゃん」
「ユグ様? シル様?」
「「「安直だから却下」」」
ック! 早速案が潰された。
世界樹に由来するモノ全般がだめだとすると、自然や世界に関する名前が良いでしょうかね? 山や海などは直接関係無いですし植物では荷が重い、宇宙とか星とかでしょうかね……あ、一番大事な事を忘れていました。
「世界樹さんは、何か要望とか有りますか?」
「名乗る時に必要なだけだから、何でも良いなの」
「では、そうで「分かり易くて、覚えやすくて、優雅で、大きくて、強くて、カッコイイ私に相応しい名前なら、何でも良いなの!」ア、ハイ」
うん。それ、何でもよくないね。まったく、この植物は……自分大好きか。
う~ん、世界樹さんを連想させる言葉ね~……ぱっと思いつくものが無い。仕方が無いのでコアさんネットで検索っと。何か良いものありません?
~ 了解。人族の名前一覧より抜粋。翻訳します ~
そんなデータがあるので? って、画面に文字の羅列がズラッと表示される。
これ、全部名前ですか。昔の英雄の名前やら言葉の意味などなどこみこみで……コアさん、マジでコアさん。
当然のことだが、意味が同じでも言語が違えば発音は違う。まぁ外国人の名前が何を意味するとか普通は知らんでしょうし、意味は参考程度に、最終的には音のニュアンスで決めるのが良さげでしょうかね?
「一覧が有るので、皆さん参考にどうぞ」
「丸投げなの!?」
だって~、俺ネーミングセンス無いんですも~ん。スキル解除と反動のせいで、割とマジで思考力落ちているんですよ。いや、本当にすまん。このままやってもロクな結果になりませんって~。
「言っておきますが、お父様に決めて貰いますわよ」
「え?」
「立場的にも格的にも、お父様しか居ないのですわ」
(親の名前を子が付けるって、変じゃない?)
「「「そうだそうだーーー!!!」」」
うぐ、言われてみれば、確かに一理ありますね。世界樹さんより上の存在となると、俺と……あとコアさんしか居ないのか。
「休めといった手前心苦しくもありますが、こればかりはお願いしますわ」
「まぁ確かに。あの姿を見るとね~」
「な~の! な~の! 名前なの~♪」
何がそんなに嬉しいのやら……短い足をプラプラさせながら、楽しそうになのなの言っている世界樹さん。適当でいいとか言っておきながら、とても嬉しそうですね。
「では手始めに……これはどうです? “カミラ”。高貴な、高潔な、気高い、立派な、自由などの意味合いがある様ですね。悪くないんじゃないですか?」
「「「う~ん、微妙」」」
クッソ、辛辣……妥協する気皆無ですねこいつ等。あ~もう次々、どんどん行きましょう。
「“クロエ”若々しく美しい、全盛の、咲き誇る……って、世界樹って花咲くので?」
「……分からないなの」
~ 解。極めて稀 ~
「「「うん、却下」」」
えぇい、次!
「“シャーロット”小さくて女性らしい、自由人」
「依り代はそうかもしれませんが……」
「世界樹の偉大さを出すには、少々可愛らし過ぎませんか?」
俺的には、自由人って所に着眼したのですが……まぁいいや。他に何か良いの無いかな~と。
「あ、主様主様!? これなんてどうです“カトリーヌ”! 純粋って意味です」
「……純粋?」
「なの?」
今のを言ったのは誰ですか、世界樹さんが純粋? 真っ黒なんだよな~。いやある意味純粋かな? まっくろくろすけ的な意味で。
「……その目は何なの?」
「いえ、なんでもっ……と、これとかどうですか? “ジェニー”肥沃なって意味ですね」
「おぉ~おぉ? ……それってどっちかと言うと、私じゃ無くて土地の事にならないなの?」
「そんな当たり前な事じゃな~」
「名前が、世界樹様に完負してるよね~」
「「「却下」」」
好感触でしたが、もう一歩が足りないご様子。グヌヌ、世界樹さんもそうですが、周りの皆さんの評価に遠慮がない。ちくせう。
「では、もう少し規模を大きくして……“エマ”全宇宙、全てを抱える、ですね。規模的にも語呂的にも悪くないのでは?」
「「「おぉ!」」」
お? 漸く審査員の方々から好感触をいただきました。後は世界樹さん次第ですが。
「気に入ったなの! エマが良いなの!」
「理由は?」
「二文字なの! ダンとコアとお揃いなの!」
随分簡単に決断したと思って理由を聞いてみれば……あ ん ち ょ く ! やっぱり人のこと言えないですよね?
「外用の名前なの。人は、自分の役割や役職、所属を名前に入れることが有るって、コアの一覧に在るなの。それなら、ダンマスのマスが立場を表すマスターの略なら、お揃いにした方が都合が良いなの。ダンマスも、外ではダン・マスで通ってるはずなの。なら私も、マスを取って、エマ・マスにすればいいなの!」
訂正、結構ちゃんとした理由が有ったわ。
なるほど、マスを苗字にしてしまえって事ですね。そうすれば、俺の身内って事で紹介もし易いですし、身元保証も容易……あれ、結構有りなのでは?
「では、エマって事で良いので?」
(名前だけで良いの~? 人族用の名前な訳だし、人寄りの名を付けるべきじゃない~?)
「でしたら、マスを役職として、ファミリーネームも付けましょう!」
「「「賛成―――!」」」
折角決まりそうだったのに、プルさんの指摘にルナさんが乗って周りが便乗した。あ、この流れは面倒になる流れだ。あまりに長ったらしいのは嫌ですよ~?
この世界の人の名前って、どんな感じで付けているんでしょうね? ちょちょっと検索。
え~……生まれた土地や士族、部族名・信仰している神や貴族名・名・職業や階級・苗字……等々、一般市民は氏名しか無かったり、最後に職業を付けたりしたりしなかったり、順番が違ったりと言った感じで、地域や種族によって違いはありますが、名前の付け方としてはこんな感じでしょうか。
身近な人で言うと……ポー・チェットさんだと、ポー士族のチェットさん。エッジさんは名しか無いので、そのまんまエッジさん。ゼニー・バランさんは、バラン商会所属(主人)でゼニー・バランさん……てな感じですね。
今回ですと、ダン・マス・何とか。エマ・マス・何とか。ついでに、コア・マス・何とかとなる感じでしょうか。
「ダンジョンはお父様のダンで使っているので、他が宜しいですわよね」
「迷宮とか?」
迷宮と言うと……ラビリンスとかメイズですかね? ……あ、一覧の中にあったわ。
「“ラビリア” 迷宮の覇者って意味ですね。迷宮攻略で王国貴族にまで至った一族が元になっているみたいですね」
「「「おぉ」」」
攻略はしていませんがね~。寧ろ創る方だ。覇者って意味なら、別に間違いでも無いでしょう。
……あれ、否定意見が上がらない。良し、このまま押し切ってしまいましょう。もう疲れたっす。
「これから世界樹さんはエマ・マス・ラビリア。俺はダン・マス・ラビリアって事で……否定意見はありませんね、ハイ決定!」
~ 了解。これよりマスターの氏名に、ダン・マス・ラビリアを追加登録します ~
~ サブマスター世界樹の氏名を、エマ・マス・ラビリアへ変更・登録します ~
「「「ワーワー」」」
よしよし、漸く命名の儀が終わりま……ん? なんか……なんか体の中に、なんか、なんだ?
~ 名付けにより、サブマスターエマと、マスターとの間に魂の回路が形成されました ~
~ 番となった事により、マスターとサブマスターの魂の回路が拡張します ~
~ 魂への負担が一定値を超えました。マスターへの負担を一部請け負います ~
~ 警告。マスターの負担が危険域に到達しました ~
~ 魂の保護の為、強制スリープモードに移行します ~
「るぅれ?」
視界が暗転する。あぁ、この感覚、なんか久々だな~。




