222 ドラゴンパニック③(報告)
①体力お化けなゴドウィンさん
②蜥蜴に睨まれた竜
③ケルドが不幸でお茶が上手い!
「―――報告は以上です。今の所、第二拠点、及び撹乱担当に襲撃が行われる雰囲気はありません。時間稼ぎは成功かと」
襲撃から一夜明け、お昼頃。ポチポチとダンジョンの項目を弄りながら、クロスさんの報告を受ける。う~ん、情報処理能力が低すぎる。普段どれだけコアさんに頼っていたか分かりますね。
「相手の反応は?」
「こちらの存在に勘付いた様子はありません。さらにこちらの目論見通り、カッターナに向けた襲撃では無く、一部の地域では巻き込まれたとの印象を受けている様です」
逸れの竜が、他の地域に住む竜から逃げる道中で、たまたま人の国の上を通り、追撃に出た魔物のちょっと過激な攻撃の流れ弾が飛んでしまっても、魔物がやった事であり、ある意味仕方がない事……人為的な意図を汲み取る事は難しいでしょう。
「少々、派手にやりすぎた感はありますが」
「あ~……初めての外に、テンションでも上がったのでしょうかね?」
「思いの外、あの暴竜が抵抗を示した様です。最後の方は、少々本気で落としにかかったと報告を受けております」
ほうほう? あの二体に少しでも本気を出させますか。中々の成長具合ですね。
ゴドウィンさんは、【世界樹の迷宮】の所属では無く<逸れ竜>。高位の<鑑定>を使用したとしても、その事実は変わりません。
所属が異なる者達による抗争と印象付けるには打って付けの役割だったので、今回抜擢されましたが……いやはや、予想以上の成長を遂げていたようですね~。ルナさんが推薦するだけあります。
取り敢えずは~、カッターナの方は一段落、散々引っ掻き回したので、情報も錯綜しているでしょうし、街との間には噴竜さん、斬竜さん、ゴドウィンさんの三体が陣取ったので、北側から群れて襲って来る事は無いでしょう。
そもそも、今のあいつ等に戦力は殆どない。
北側に居た奴らは、家のダンジョンに居ますし距離的にも難しい。
中央は東の山脈鉱山に集中していて、廃坑に滞った魔力のせいでポップした魔物しか狩らない奴らなので、実力的に警戒に値するレベルではない。
一番戦力が集まっていたのは南ですが、それは森に住む獣人などをとっ捕まえる為に集まった奴隷狩り共でしょうが……チマチマと犯罪者として捕まえて間引いているので、そのうち消えるでしょう。
捕まっていた方達も、大概奴隷から解放しましたからね~。街中のケルド共が行動に移そうにも、人数的にも環境的にも針の筵でしょう。皆さん気が立っているでしょうし、手を出そうものならリンチにでもなるんじゃなかろうか。
南側の森から経由して入って来る可能性も有りますが、あそこはそこそこ魔力濃度が高いので、皆さん遠慮なく動けるので問題なし……もう放置で良いですね!
「次の工程ですが……混乱に乗じて、有用そうな魔道具や契約書……奴隷などを片っ端から回収しておりますが、今の所気が付かれている気配はありません」
「ほうほう」
大体の建物の構造は同じでしたからね、捕まっている方達は大概地下に居るので、流れ弾に巻き込まれてはいない。
地上に居て、巻き込まれた方は……うん、必要経費、コラテラル・ダメージってことで。
家の子達が一番、安全二番、敵の排除が三番で、その他全て同率四番。ほっとけば死んでいたんですから、少しでも助かるなら御の字だと思って貰いましょう、そこまで面倒見てられません。
「八方に伸ばしていた地下道の内、南南東の通路を優先的に拡張。カッターナ国内を横断する様に中央通路を展開し、そこから各地の目的地へ採掘を進めております。第二拠点からも進めておりますので、数日中には埋まっている方々の保護を完了できる予定となっております」
数日は生き埋め状態でしょうが、普通にケルド共の管理下にあるよりもマシでしょう。その途中で死ぬ事になっても、仕方が無いって事で以下同文。
「回収した方は、契約の破棄を随時行っております。契約主が居なくなった方はすぐに終わるのですが、契約主が生きている場合が少々苦戦している模様です。まぁ彼等の事ですから、何とかすることでしょう」
「へ~……研究部と生産部、総出で当たっているんですね」
「何せ部署違いなもので、詳しいことは……詳細はプル様とタクミにお伺いください」
「あいあ~い」
まぁ、これは気が向いたらでいいですね。コアさんのサポート無しでこの手の事を理解するのはきついですし。
あ~と~は~……隣接しましたし、今家に来ている獣人さん方の事もありますし~? 獣人さんと森人さん方が住む、カッターナの南の森にも挨拶した方が良いかも知れませんね~。その方が後腐れは無いでしょうし、解放した方々の送還先も確保しておかないといけませんし~……
「……主様」
「あ~はいはい、仕事はしませんから安心してください」
緊急でも無いですしね~。今カッターナの皆さんは忙しいでしょうから、一旦落ち着いてからでないと、事情説明も次の行動もあったもんでは無いでしょう。暫くは、落ち着くまで保留です。
「ふふ」
「どうかなさいましたか?」
「いえいえ、ただ、こうやってクロスさんと話すのが楽しいだけですよ」
「お、お戯れが過ぎます!」
クロスさんがアワアワしている。う~ん、可愛い。
……あぁ、いけませんね~。仮面が半端なせいで、どうも素直に感情が表情に出てしまう。こんな状態では、外には出られませんね~。
クロスさんとこの手の話をしていると、どうも和んでしまうんですよね~。クロスさんがイキイキしているからでしょうかね?
「ん、ん゛! お休みのところ申し訳ないのですが、先ほどの報告に関係する事で、二三許可をいただきたい内容が御座います」
「はいは~い、何でしょう?」
誤魔化す様に咳払いをしつつ、書類を取り出す。許可申請だけで、何かする訳でも無いので、この程度であれば仕事の内には入らないでしょう。変に遠慮されて滞るほうが、よっぽど疲れる。
「表層で燻ぶっている邪魔物の監視に当たらせている者達なのですが、現地の頭数の補給をかねてカッターナの救助に廻そうかと考えております」
「あ~……あいつ等、毎日やっていること変わらないですからね~」
ポチポチっと画面を操作して、映像を出す。
今日もせっせと森を切り開いていますね……獣人さん方が。
「少しづつスキルを絞り、存在感を出してはいるのですが、全く気が付かれる様子がなく……今ではスキルをほとんど使っていない状態でして、やりがいが全く無いと報告が上がるほどです」
「マジで?」
「奴隷となっている獣人方には気が付かれている様なので、やはり、ケルドの感知能力は極端に低いと思われます」
おぉう、そこまで酷いかケルド共。
五感は肉体由来でしょうが、スキル関係は魂由来。所詮は消耗品の性能って事ですか。
「いかがでしょうか」
「皆さん暇でしょうし、危険も無いでしょう……両方共許可します」
「ハ! 有難うございます。では、早速取り掛からせていただきます!」
「頑張ってくださいね~」
ウキウキ気分で席を立つクロスさんを見送りながら、茶を啜る。
「ふへ~~~~、お茶が上手い」
これから如何しましょうかね~……暇だし~、第二拠点の皆さんに説明もしないといけませんし~、ケルドの報告書でも読み返してみましょうかね~。
「…………あ」
監視している皆さんが居なくなると、ケルド共の居る所に野生の魔物が寄って来るかも……まぁ、良いか。獣人さん方の救助体制だけ整えておいてもらいましょう。
と、言う事で、強硬手段にでた理由と、ゴドゥインが選ばれた理由でした。




