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220 ドラゴンパニック①(陽動)

①ダンマスお休み決定

②阿鼻叫喚の地獄絵図

③ドラゴン(災害)登場! (バレると困るスキャンダル? もっと酷いネタで塗りつぶせばえぇねん)

 時間は少し遡り、エッジ達がイラ教教会への襲撃準備に奔走していた頃。【世界樹の迷宮】でも、物資を運ぶもの、街に隠れ潜む者、受け入れ態勢を整える者など、多くの魔物達が準備に奔走していた。


 そしてここにも、行動に移そうとしている三体の竜がいた。


「しっかし、あの主が命令を出すとはな~」

「群れの長が命令を出すなど普通だろう、そんなに変な事なのか?」


 跳ねる様に歩む噴竜が発した呟きに、ゴドウィンは疑問の言葉を放つ。


 ダンマスの命令(・・)

 ダンジョンに所属する魔物、いや、群れで行動する者であれば、当たり前の行為だが、ここでは本当に数える程しか出された事が無い。

 そんな事を知らないゴドウィンが疑問に思うのも、仕方がない事だろう。


「……ん、主は過保護」

「過保護? …………あれがか?」


 音も無く滑る様に歩む斬竜の呟きに、ゴドウィンは首を捻る。

 なにせ、彼が抱いているダンマスのイメージは、あの強烈な<威圧>だ。当然、斬竜が言う過保護と結びつかない。


「うんじゃぁまぁ、時間も無いし、さっさと行動に移しますかねぇ」

「む……むぅ」

「……ん。これ(・・)、やる事になるとは思わなかった」


 斬竜が口にしたこれ(・・)とは、以前より上がっていた作戦の内の一つであり、数ある作戦の中でも、かなり過激なものである。

 そして今回、ダンマスの命令を受け、ゴドウィン、噴竜、斬竜……この三体で行う事となる。


「最終確認だが……簡単に纏めれば、目的地点までお前達から逃げ切ればいいのか?」

「そうそう、俺らは後からゆっくり追いかけるから、道中は気楽に飛んでけ」


 真剣な面持ちで発したゴドウィンの問いに、同じ竜族である噴竜が答える。気軽になどと言っているが、とてもではないがそんな気持ちにはなれない。

 何せゴドウィンにしてみれば、日々の鍛錬の成果を見せる時であり、今後の進退を決めかねない重要な日なのだ。無様な姿など晒せるわけがなかった。


「お前達と合流するのは、人間の巣……カッターナと言ったか? 其処に到達した時になると」

「だな。道中に在る目標は~……余裕があれば、だな。他よりでかくて目立つ建物だから、すぐにわかるとは思うが、まぁ、無理することは無ぇ」

「……流れ弾である事が重要。意図的に壊す必要はない」

「俺達の役目は、引っ掻き回して注意を引くこと。微調整はこっちでやるから、お前は全力で逃げてろ。御膳立てはしてやるって」

「……本気で逃げればいい。手加減はする」

「最悪、途中で捕まっても気にすんな。そんときゃ、他の奴が動くからな」

「むう……」


 二体の言葉に、思わず渋い声が漏れるゴドウィン。


 あの頭がおかしい環境(【世界樹の迷宮】)の中でも、この二体は、上から数えた方が早い立場なのは、周りの竜族の反応を見れば一目瞭然だ……なにせトップ(ルナ)があれである。強さと面倒見の良さ故に、敬意と尊敬を得ているが……あれ、である。

 一度あの地獄を味わった者は、素直に近くに居たいとは思わないだろう。故に、大半の竜族は、この二体と絡んでいることが多い為、その立場を察するには十分だった。


 だが、戦っている所を見た事が無い。実力の程を実感できない内から、手加減してやると言われても、実感が湧かなくても仕方が無いだろう。


「ま! 気楽にいこうや」

「……ん。やれることをやればいい」


 そんな二体の竜の言葉と共に見送られながら、ゴドウィンは飛び立つ。上空では無く、何もない地上擦れ擦れを逃げ隠れする様に飛ぶ。


 道中に襲われることは無いだろうが、あくまで自然な形の逃走を演出しなければならない。故にゴドウィンは、全力の逃走を試みる。


 高度が高い方が速く、楽に飛べるが、遮蔽物がない空では丸見えになる。だが逆に、黒い濁流に呑まれ何もなくなった地上は、彼の暗色の鱗と相まって、上空よりもはるかに見つけ難い。追手から逃げるのであれば、間違った選択では無いだろう。


 そして、体力を温存しつつ飛ぶこと数時間……


「む、見えた……あれがカッターナか」


 地平線の先に、石材でできた垂直な壁が見えて来る。平地に住む人族の巣が、その様な様式であると聞き及んでいた事もあって、道中に何も無かった事からも間違いは無いだろうと当たりを付ける。


「むう……どうしたものか」


 あっさりとここまで来られてしまった事に、軽い戸惑いを抱きながら、これからの事を考える。


「そろそろ接触するはずなのだが……影も気配もない。人間共の意識をこちらに向けさせなければならないと言うのに……まぁ、このまま飛べば良いか。それで十分目立つだろう」


 そのままの速度で石の壁擦れ擦れを飛び越え、街の上空を滑空する。抵抗らしい抵抗も無い。突如、前触れもなく現れた竜を前に、防壁で警戒に当たっていた人間は右往左往する事しかできていない。


「ふむ……見られているな。これだけ派手に登場すれば、問題ないだろう」


 唖然としながら見上げる街の人間。驚きが大きいが、その視線には明らかな畏怖が込められていた。


「……ふふん」


 そう、例え下位であったとしても、他種族に畏れられ、誰もかれもが避けて通る。竜族とは本来、その様な存在なのだ。


 その事を再認識したゴドウィンの口元に、自然と笑みがこみ上げる。なにせあのダンジョンでは、その常識が全く通用しないのだ。下手な所で寝れば尾や翼を噛み千切られ(ガジガジされ)、空を飛べば啄まれる(ツンツンされる)。種族なんてお構いなしだ。


 さらに竜族以外でも、おかしいレベルの奴が溢れている……ぼろっぼろになっていた竜族としてのプライドが、ちょっとだけ回復する。悦に浸る事ぐらいは許してほしい所である。


「む、あれが目標の建造物か。確かに無駄にデカいな」


 そんなゴドウィンの視界に映るのは、周囲の建物の三倍の大きさはあろう巨大な建物。御存じ、イラ教の教会だ。


 今回の作戦では、あれも目標の一つになって居る。ついでとは言え、壊しておいて損は無いだろう。だが、意図的に壊しては作戦の趣旨に反する。

 予定では、ここで追っ手役が追いつくはずだったが、未だ姿が見えない。ここは、翼を休める目的であの場所(教会)に陣取り、適当に踏みつぶせばいいか……と、思った矢先である。


「なん? ……ぬぅお!!??」


 遥か後方、地平線の彼方から、街の上空を横断する様に魔力の帯が伸びる。

 それに気が付き何事かと意識を向けるも、それは薙ぎ払うような動きで、ゴドウィンへと迫り襲い掛かる。


 咄嗟に高度を上げる事で間一髪回避に成功するも、その魔力の帯は容易にゴドウィンの爪先を焼き切り、ついでとばかりに教会を真横に切断し、その接触で噴き出した魔力が衝撃となって吹き荒れる。


 余波に巻き込まれ吹き飛ばされる体を無理やり捻り、後方を確認するゴドウィンの目に、何もない虚空が煌めくのが映る。


「ちょ!? ぬぉおおお!?」


 直感に任せ無我夢中で羽ばたき、咄嗟にその場から退避すると、先ほどまでゴドウィンが居た場所に寸分の狂いなく、串刺しにせんと魔力の帯が突き刺さる。


「これ、は、まさか【焼き切り】か!?」


 竜族が使うブレスの一つ、【焼き切り】。力を一点に集中し、対象を文字通り焼き切るそれは、ブレスの中でもトップクラスの貫通力を誇る。

 だが、姿が見えない超遠距離からの狙撃など、聞いた事などない。最初の薙ぎ払いが無ければ、気が付きさえできなかった。


 その魔力の帯は空気を焼き、削り合い、飛散した魔力が周囲の魔力濃度を急激に上昇させる。そして、限界を迎えた空気が魔力の帯に沿う様に弾け、魔力の花が連鎖的に咲き乱れる。


「な!? ごっふ!?」


 その衝撃がゴドウィンに襲い掛かり、地上へと叩き落とす。余波だけでこれである。直撃すれはタダでは済まない。


「ぬがーーー!」


 すぐさま体制を立て直し、全力で前へと掛け(逃げ)出すゴドウィン。


 全力の逃走、なりふり構わない脱兎のごとくの逃走。


 初めの頃は、放たれる攻撃は迎撃し、時間稼ぎをしながら逃げる事を考えていたが、そんな甘い考えは早々に消え去っていた。


「不味い不味い不味い、ここは不味い!?」


 助走をつけて、上空へと逃げる様に飛び立つ。障害物がない上空では狙われ放題だが、既にそんな事を言っていられる状況ではなくなっていた。


 舐めていた訳でも、油断していた訳でもない。だがしかし、失念していた。かの二体は、あのルナ(化け物)の隣に並び立つことが許された、唯一の竜族であるという事を。


 ……そう、あの二体(・・)は。


「!?」


 足が地面から離れたその瞬間……真横の建物が砂の様に崩れ、砂塵の中から鈍く光る鋭利な爪が顔を出す。


 音も、気配も、立ち並ぶ建物も、人も、何もかもを纏った魔力の刃で切り刻み、最短距離を突っ切った斬竜(二体目)の奇襲が、ゴドウィンの喉元へと迫る。


 地面に手足が付かず踏ん張りが効かないこの状況では、咄嗟に距離を取る事も、抑え込むことも不可能。そう判断したゴドウィンは、その場(空中)で体を捻り、拳を振り上げた。


 動作としてはフックに近いか……迫る攻撃に合わせるように、捻りを加えて振り上げられる拳に迷いは見られない。


 攻撃に合わせられなければ、当たっても逸らせなければ、そもそも外してしまえば、ただでは済まない。だが、一瞬の迷いもなく迎撃に移した判断力と胆力に、斬竜は感心したように目を細める。


 だが斬竜に、手加減するつもりはない。今から他の場所を狙うのは流石に無理だが、向かい撃つと言うのであれば、軌道を少し逸らせばいいのだ。


 そうすれば、この一撃で終わる。作戦は失敗に終わるが、不審な動きを見せるぐらいならその方が良い。他にも二重三重に用意しているのだから、問題ない。


「シュロロ♪」


 何よりも、抵抗を見せる極上の獲物が目の前に居るのだ。理性は残っていても、一旦火がついてしまった狩猟本能を止められる程、彼は成熟していなかった。


 狩る。一撃で仕留める……そんな斬竜の想定は、大きく崩れる事となる。


 ゴドウィンの拳は斬竜の爪へ向うのではなく、迫る斬竜の爪と、ゴドウィン喉元の間に割り込む様な軌道を描く。


 多少軌道を逸らして放ったと言っても、終着点は同じ。今更止まる事など出来ず、斬竜の爪はそのままゴドウィンの腕に突き刺さる。


「!?」

「ぬぅらぁ!!」


 このままでは腕を貫き、急所()まで届きかねないが、振り抜く勢いで放たれたゴドゥインの拳は勢いを緩めることなく、突き刺さった爪を巻き込む様に斬竜を引っ張り上げる。


 更に身体を捻り、その場で一回転。その勢いのまま相手の突撃の勢いを乗せて、反対へと受け流す。尾で斬竜の体を押し上げて吹き飛ばすおまけ付きだ。


 斬り飛ばされた腕が宙を舞い、反対の建物へと突っ込んだ斬竜の姿は、舞い上がる粉塵で覆い隠される。


 片腕を犠牲にした一本背負い。


 傷は決して浅くはない。片腕はもちろんの事、斬竜が纏う魔力の刃は、鱗を刻み、肉を削ぎ、骨を削る。胴体を庇う為に斬竜の体を押しのけた尾など、殆どミンチ状態となって居た。


 だが、飛行に必要な部位だけは守り切った。追撃が来る前に、今度こそ上空へと飛び上がる。


「……おぉ、凌いだ」


久々登場、斬竜と噴竜さん。前回登場は獣人さん方の保護にるなに同行していた程度ですが、今回、実力の一旦をお見せできるかと。


そして、追いかけまわされるゴドゥインさん。うん、頑張れ(笑)


因みに、辺境や国境線の方が需要があるので、国の内部程人の戦闘力は低めです。能力の高い人(奴隷)は特に少ないです。一部権力者ケルドの近くに居なくは無いですが、ケルドの命令がなければ動けないので、迎撃される可能性も少ないです。

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