219 お休み
①肉堀り
②自爆特攻
③ダンマス崩壊
「う~っす、邪魔するぞ主……って、どうしたこの状況?」
「あっはははは、ぬっしーが沈んでる♪」
「め、珍しいね。主様が休んでる所なんて」
ダメ人間育成装置に浸かっていると、扉が開け放たれ、三体の蟻が入室して来る。
誰かと思えば、コクガさんに、クロカゲさんに、アンコさんですか。皆さんがここに居るって事は、他の場所の掃除も終わったって事かな?
「報告~……てか、これはお見舞いの方が合ってる感じ?」
「なの。結構ヤバいなの」
「まじか……良し、情報規制を引け! 特にあのバカに感づかれるなよ!」
コクガさんの指示の元、<念話>による情報を遮断。さらに何処から湧いて来たのか、守護蟻が扉に陣取って、経路を物理的に封鎖。う~ん、隔離されてしまった。
「それで~、報告は?」
「あ~、細々した事はあるけどよぅ……主は、働きすぎなんだよ」
「そうそう。取り敢えず、問題なく終わったから、休め休め」
「えっと……予定通り進んでいるから、この後も基本プランで進める予定、です」
問題ないなら良いですけど。そんなに働いている様に見えるんですかね~。自分の感覚では、かなりだらけながらやっていたんですが。
働くって言っても、書類整理して、情報統括して、大雑把な目標を決めた後は、皆さんに丸投げ……ゲフンゲフン、指示を出すだけ。かな~り、良い御身分だと思うんですがね~。
「お茶飲んでるときだって、何か書類見てるじゃん」
「うん、特に最近は、寝る時以外、何かしてる」
う~ん? あぁ、外からじゃ分かんないか。
「どんな些細な事でも、思考を巡らせていると頭はそう簡単には休まりません。ですが<平行思考>があれば、そんな些細な事はどうとでもなります」
“最大出力の半分の能力しか使わない”のと、“出力を半分に分けて、片方を休ませる“では、意味が大分違う……まぁ、常に思考能力が半減しているとも言えますが。
「「「……つまり?」」」
「<平行思考>で思考能力を分けて、片方で思考して、もう片方を寝かせれば、休みながら延々と活動が可能! ぶっちゃけ寝なくて「「「休めーーー!!!」」」」
休んでいると言っているのに……解せぬ。
(何さ何さ! 僕達には休めって散々言ってるくせに)
(((そうだそうだー!)))
(もっと資源を寄こせ~!)
(((寄こせーーー!)))
(あ、ケルド共の施設からかっぱらって来た、研究資料の内容ですが、大雑把ですけど纏まりましたので送りますね~)
おう、情報規制ゆるゆるじゃねぇか。クロスさん以外には、<念話>繋がりっぱなしかよ。
てか、文句を言っている奴らは、疲労が溜まった状態で無理やり動こうとするからです。そして、何気に欲望をねじ込もうとするんじゃない。更に、さらっと報告を混ぜるんじゃァない。聞き逃すところだったでしょう。
「兎に角、こっちは順調だから、緊急事態以外では俺らで何とかなんだろ」
そうですね~。定期的に報告してくれるなら、それもいいかな? 自動的に稼働できる組織作りは順調ですし、試しに全部ぶん投げるか。
領域、領域外含めると、管理する範囲が膨大ですからね~。放置していても回る環境、実際大事。
「てか、主ってずっと<平行思考>使ってるん?」
「最近はそうですね~。なんせ24時間、休憩できますからね~」
「うん、馬鹿なの」
辛らつな言葉を投げて来る世界樹さんに視線を向けるも、周りにいる方々が、世界樹さんと同じ目をしていた。そうですか、皆さん同意見ですか。ちくせう。
「普通、24時間スキル発動とか、狂気の沙汰だからね?」
「あの、大丈夫なんですか?」
「呼吸しているのと同じ感覚で使えますよ~。魂が慣れたか、馴染んだ感じでしょうかね~」
「あ~、【変異】した様な感じか」
【変異】は環境への適応。魂(魔石)にスキルができるのではなく、能力そのものが備わるような変化……確かに似たような感じかも知れませんね~。
でもまぁ、コアさんに処理を任せているだけなので、出力するだけの俺は、実際に負担は少ないのだ。
……そこの共感を得られないのは残念ではありますが、これについては仕方が無いと割り切ろう、そうしよう。
「因みに、他に使ってるスキルがあったりする?」
フワフワさんが、上から質問を飛ばしてくる。そうだね~、え~と、今発動しているのは~……
<思考加速><平行思考>とかの情報処理系スキルでしょ~
各種<耐性>系でしょ~、各種<感知>系でしょ~、各種<魔力操作>系でしょ~
魔道具作成の為の、各種<魔法><魔術>系と~、運動する時は、各種<武術>系も発動するし~、<神出鬼没>とかの有用なスキルとか~……
「「「多い多い多い!?」」」
……必要なモノ、興味のあるモノに使うスキルを詰め込んで行ったら、どんどん増えていたんですよね~。うん、ちょっと整理が必要かも。あ、魔力無いけど、周囲の魔力を使えるのは今回証明できたので、<魔力操作>や<魔法>関係は今後も上げていきたい所存である。
「折角休むんなら、スキル全部切るなの」
「え~?」
「僕達に任せんのは、不安?」
「ぐぬ」
世界樹さんの提案に、何となく難色を示すと、耳元から不安そうな声色で問いかけられた。ぐぬぬ……モフモフさん、それは卑怯と言うものです。仕方がない、断る理由も少ないですし、全部切ってみますか。
― 了解。発動中のスキルを停止します ―
「…………」
「……どうしたなの?」
「思考能力が突然落ちると、自分が馬鹿になった気がしますね」
「今までが、異常だっただけな気がするなの」
そっか~、出力できる幅が上がる度に更新していたけど、思っていた以上に能力上がっていたんですね~。うん、継続は力。
……でも、やっぱり落ち着かない。
「……コア、こいつがスキルを使うの禁止にするなの」
「うぉい!?」
「そわそわしてるのが、もろバレなの」
マジか~……仮面を半端に被った状態じゃ、バレバレか~。
― 否定。上位権限者の行動を規制する事はできません ―
「なの……使わないって約束できるなの?」
「出来る出来る」
「……コア。禁止がだめなら、スキルを使ったら報告してなの」
― 了解 ―
ぐ、信用してねぇ……そして、コアさんが敵に回った。こりゃ、もうどうしようもない。俺は、コアさんが居ないと無能なのだ。
― 上位権限者であるマスターであれば、サブマスターの命令を拒否可能です ―
「じ~~~……なの」
「しないしない、拒否しない」
「……ならば良し! なの」
「と、言う訳で、後の事は皆に任せて、しばらく休むわ~」
「なの、それが良いなの」
取り敢えず、今日はこのまま寝ちゃおうか。あ~、癒し空間に飲まれてく~……
―――
夜が明け、太陽の光がカッターナの街に降り注ぐ。
カッターナ国内の最南端に位置するこの街は、今日、変転期を迎えていた。
イラ教の教会への襲撃。そして、捕らわれていた者達の奪還と、イラの人間の撃退の成功。例え一時とはいえ、今まで散々苦汁を飲まされていた彼等は、その成果に沸く……事は無かった。
「早く、こっちに運んで!」
「心臓動いてない!? 強心薬!?」
「出血止めて!」
「魔力が、足り、ない……誰か、魔力回復薬、を」
「薬が足りないわよ! 追加早くして!!」
「その人抑え込んで! 鎮静剤打って!」
薬の詰まった箱を持って駆けまわる者、治療魔法を行使し続ける者、暴れる者を抑え込む者……
疲弊して動けない者、狂ったように暴れる者、延々と自傷行為に走る者……
イラの人間を駆逐し、平和を取り戻したかと思われた街に、狂気の爪痕が木霊する。
建物から溢れた人が広場に溢れ、その姿を白日の下に晒す。
広場に腐臭と血の匂いが漂い、建物の外へと悲鳴と奇声が漏れだす。教会での惨状を目にしていない、所謂一般人に該当する者達はその悲惨さに目を背けるが、それを許されない者達もいる。
「こんなの……こんなの酷過ぎる」
「無駄口叩く暇があったら、手を動かしなさい!」
薬師、治療師などに従事する者達……彼等はあの日、あの時、突如現れ、瞬く間にこの地を手中に収めた者の前で、宣言した。忠告までされた上で、覚悟を口にしたのだ。今更逃げだす事など許されない。
それこそ何日も、何十日も、何カ月も……イラの人間が残した傷跡を、間近で、一生見続ける事になったとしても。
―――
「て~事は、旦那は……戻ってこないのか?」
(……うん。おつかれみたいだから、休むって~)
「マジかよ~、こんな時に旦那無しとかどうすりゃいいんだよ~。ゴトーの旦那はゼニーの旦那に付きっきりだしよ~」
未だ疲労が回復し切らない状態もあって、その場で膝をついて項垂れるエッジ。昨晩から今までで、何度膝をついた事か……。
襲撃を成功させた者達も、休んでいる訳ではない。街の殆どを掌握しているとは言っても、すべてではない為だ。また、イラ教の人間だけではなく、街の住人として生きている人間も未だ多く居る。油断などできない。
特にイラ教の教会は、他にも支部と言う形で存在するのだ。報復と称してこれ幸いと襲われる可能性も有る……はずだった。
「もぬけの殻だぁ?」
「もぬけの殻……どころじゃねぇな。な~んも無かった」
「人も、人間も、貴金属や魔道具の類、争った跡どころか残り香も埃一つもない。隠し扉とかも全部開け放たれて、中で何をやっていたのかすら分からないレベルで、何も無かった」
「隠蔽する気すらない隠蔽……いっそ清々しいぐらいだぜ」
追撃を恐れ、すぐさま他の教会へと襲撃を掛けた者達から上がってきたのは、そんな予想外の報告だった。
とても人の仕業とは思えない。で、あれば、誰がやったのかなど、容易に想像できる。
「旦那が帰って来ないのは、ここに居る理由がもう無いからか?」
既にイラ教の連中を一掃済みだとしたら、後残っている危険は、住民として街に蔓延っている人間と、河を挟んで北に存在する街に居るイラ教となる。
ならば、街に残る危険因子は彼等だけで充分対処できる。戦力は北に集め、外からの襲撃に備えれば……
「エッジ! やべぇ!」
「今度は何だ! 例の化け物共か? 人間共が報復にでも来たか!?」
「北からドラゴンが、それも三体も出やがった!」
「……は~~~ぁ~~~!?」
混乱に、混乱が合わさり混沌と化す……
ケルドに……イラ教に襲撃を掛けたのですから、何かしらの報復がある事は容易に想像がつきます。幾ら完璧に隠蔽しようとも、連絡がなければ何かしらあったと思うでしょう。
ではどうするか……こちらに向く意識を他に移す、構う余裕をなくしてしまえばいいのです。
相手の戦力がハッキリしていて、保護対象に配慮しなければ、保護する準備ができていればこうなるという一例となります。
混乱の上塗り、被害の上塗り……次回、災害がカッターナを駆け巡ります。




