206 フヨフヨ
①エサが来た
②ケルド、フィッシュ!
③パックンちょ
最初に見せた危機感は何処に行ったのか、谷の入り口付近の小さな結晶に一喜一憂し、今では場所も憚らず、本能のままに騒音を撒き散らす。
そんな、お世辞にも理性的とは言えない人間共が発する雑音が降り注ぐ中、峡谷の奥へと降りていく者達が居た。
「よっと、だいぶ深くまで潜って来たな」
「やっぱ深い方が、デカい結晶が見つかるみたいだな」
我先にと新たな素材に飛びつき、いがみ合い、奪い合う。そんな奴らを避け、可能性に賭けた彼等は、上とは比較にならない大きさと輝きを放つ結晶を発見していた。
無遠慮に無配慮に、目に付く結晶を根こそぎほじくり出し、ホクホク顔で袋に詰めていく人間共だが、崖縁辺りと比べて明らかにその採掘速度は落ちていた。
「気持ち悪いもんも生え出したし、足場も悪い。そろそろ戻らないか?」
その原因は一目同然。露出していた岩肌に見たことも無い植物が蔓延り、結晶を覆い隠してしまっているからだ。
さらに、歩くたびに苔や草から汁が滲み出し、広いながらも完全な平面でない地面と合わさり、気を抜くとずり落ちてしまいそうになる程に足場が悪い。
そんな場所に嫌気がさしたのか、茸や苔を踏みにじりながら、愚痴と共に撤退の声を上げる。苔や茸など様々な植物が蔓延っているこの場所は、彼等には馴染みが無いのか、相当異様な風景に映っている様だ。
新種の植物、それも特殊な効果を持ったモノが野晒しで茂っているのだから食い付いても良いものだが、彼等にはその価値が判らないらしい。
「袋もいっぱいになってきたし、ぱっと見、目ぼしい物も見つからなくなってきたしな。確かに、潮時かも……ん?」
撤退の言葉を聞いて、結晶がミッチリ詰まった袋を大事に抱えていた人間から、唸り声が上がる。今後の収穫を思ってかその視線は、峡谷の更に奥底へと向けられていた。
それに釣られ、仲間の人間達も視線を向けるも、そこには何もない。真っ暗な闇が広がっているだけだ。
だが、その闇が問題だった。
日が傾いた事でせり上がるその闇は、その深さも相まって急激に彼等の元まで迫る。影と言うには明らかに濃く、深く、暗いその闇は一切の光を飲み込み、切り取った様にくっきりと境目が別れているのが見て取れる。
明らかに自然に起きる現象ではない闇は、真っ黒な水が塗り潰すが如く、一切合切を飲んで差し迫る。その速度はとてもでもないが、足場の悪いここでは逃げ切れるものでは無い。
そして、碌な対応をすることも無く、全員呆気なく飲み込まれる。
一寸先すら見えない完全な闇と、襲い掛かる魔力の奔流。外からこの闇の中を覗くことは、並の者では不可能だろう。
「な、何が起きてんだ!?」
「俺が知るかよ!」
呼吸すら困難なほどの魔力濃度に警戒度を跳ね上げるが、その反応は余りにも今更だろう。既に彼等は、入り込んで良いラインを超えているのだから。
「な、何だ? 光?」
どれだけ時間が経っただろうか……足場の悪さも相まって動けない彼等の周りに、ポツリ、ポツリと色取り取りの淡い光が灯る。
更に、【魔力結晶】の粉末を大量に含んだ壁が、急激に上昇した魔力に反応して発光し、俄かに周囲が明るくなる。
だが彼等は、そんなモノに構っていられる状況では無くなっていた。
「っひ」
闇がせり上がるのに合わせて峡谷の奥底から浮かび上がってきたそれを見た人間から、小さく引きつった悲鳴が上がる。
半球状の笠と、幾本もの触手を携えた、見たことも無い魔物。真っ暗な暗闇の中で、優しくも眩い光を放つそれに気が付かない者など居るはずもなく、その場にいた全ての人間が、その存在に釘付けとなる。
だが彼等が釘付けになった理由は、そんな目新しい外見などでは無かった。
「でけぇえ……」
谷間の半分を悠々と埋める程の巨躯。
圧倒的なまでの存在感を醸し出すそれは、遠くからでも分かるほど、いや、遠くだからこそ、その大きさを視認することができた。
大量の魔力をその身に溜め込んで居るのか、半透明の体内で淡い魔力光が脈動し、体外に漏れ出した魔力に反応して、周囲の空気をかき回す様に蠢く幾本もの触手に合わせて壁の光が波打つ。
その光に吸い寄せられたのか、魚や虫など様々な魔物が周囲を飛び交い、泳ぎ、止まり、触手の中から顔を出す。
それは数十、いや、数百もの魔物の群れ。例え一体一体が下級の魔物だとしても、小規模のスタンピードと言っても過言ではない。
見た目だけならば、暗闇と合わさり、幻想的な風景を描き出すその姿は、一個の魔物ではなく、自然現象と表現しても差し支えない。明らかに、普通の魔物の規模を逸脱していた。
身体が大きければそれに比例して、保有する魔力量も上昇する。保有する魔力の殆どを肉体の維持に使っているとしても、強度も耐久力も、小型の魔物と比較にはならない。ステータスが同じだとしても、その差は如実に表れる。
100の魔力が籠った剣で斬られるのと、100の魔力が籠った縫い針で刺されるのとでは、効果が同じでも同じ結果にはならない様なものだ。とてもではないが、楊枝しか持ち合わせていない彼等が、手を出せる存在ではなかった。
如何する、どうする、ドウスル? 急激に変化する状況に考えが纏まらず、思考が堂々巡りする。彼等の選択肢はそれほど多くは無いだろう。身を潜め過ぎ去るのを待つか、それが辿り着く前にここから逃げ出すか……行動が間に合わなかった事もあるが、大半の者が選んだ選択は、前者だった。先ほどの光が一切ない暗闇と足場の悪さが、彼等の選択肢を極端に狭めていたのだ。
ゆっくりと、ゆったりと……いっそ雄大なその姿に息を飲みつつ、気配を最小限に抑え身を潜め、群れが過ぎ去るのを待つ彼等の元に、巨大な群れが到達する。
周囲に居る魔物が苔や茸、草などを口先で突き、壁面に張り付くように削ぎ取り空腹を満たし、お土産とばかりに結晶を口に含み戻ってゆく。
彼等の殆どは結晶を食料にはできないが、住処としている巨大な魔物は別である。
巨大な魔物の触手が、一際強く輝く結晶に向けて振るわれると、壁ごと結晶を削り、器用に巻き取り、そのまま胴体へと持って行く事を繰り返す。
「い゛ぃ!?」
「逃げ!?」
そして、結晶が大量に集まったところに目掛け触手が振るわれ、たまたま近くに居た人間達が巻き込まれる。
吹き飛ばされ、擦り潰され、結晶と共に巻き取られ、丁度人が二人並んで歩けるほどの平らな地面だけを残して消え失せる。
そんな事が立て続けに起これば、生き残っている者達は嫌でも察しただろう。狙われていると。
「登れ登れ登れ!」
「気配消してんのに、なんでバレんだよ!?」
「知るか! 兎に角逃げ!?」
中には隠れる事を放棄し、逃走に動く者も現れるが、今更逃げ切れるわけがなかった。
重力に逆らい滑る足場を駆け上る、重い荷物を背負った人間と、一振りで一切合切を削り取る触手。絶対的なリーチの差もあって、次々に狩り取られていく。
唯一助かる見込みが有るのは、初めから逃走を選択し、巨大な魔物よりも上に到達して居る者たちだろう。彼等に向けても触手が伸ばされるも、自分よりも上に触手を伸ばすのは苦手なのか、すぐに引っ込めてしまう。
行ける、助かると、ひぃひぃ息を荒げながらも安堵の声を上げる人間達だが、獲物を目の前にして理由も無く見逃す程、野生の魔物は優しくも甘くも無い。
「な、何だ? アイツ、何にする気だ?」
半球状の傘が裏返るかと思う程に撓むと、一気に閉口し、傘の中で滞っていた大量の魔力を含んだ空気が押し出される。
押し出された空気は壁面を殴りつけ、空中を逆巻き、谷の奥底から大量の魔力を含んだ空気が巻き上る。
暴風が如く荒れ狂う乱気流に晒された人間達は、圧し潰れ壁面に真っ赤な花を描き、崖下へと弾き飛ばされ、空中へと吹き飛ばされる。
「え? あ」
そして、その反動で浮き上がった巨大な魔物は、あっと言う間に逃げていた人間達を追い抜き、振るわれた触手が、人間達の声を命ごと消し潰す。
そして巨大な魔物は、騒がしい人間達の姿が消え静けさを取り戻した峡谷を、何事も無かったように通り過ぎる。
谷底から魔力と共に巻き上がった胞子や結晶の粒子が、新たに出来た平地へと降り積もり、一連の痕跡を覆い隠して行く。数日もすれば、植物や結晶が成長し、何事も無かったかのように元の姿を取り戻すだろう。
一連の騒動は、人間達の全滅と言う形で、幕を下ろした。
名称:巨大海月
氏名:
分類:現体
種族:軟体族
LV:1~50
HP:6000 ~20000
SP:6000 ~20000
MP:6000 ~20000
筋力:370 ~1000 E
耐久:1000 ~3000 C
体力:3000 ~10000 A+
俊敏:370 ~1000 E
器用:1800 ~5300 B
思考:1000 ~3000 C
魔力:3000 ~10000 A
適応率:5(Max100)
変異率:25(Max100)
スキル
・肉体:<触手><針><迷彩><帯魔>
・技術:<魔力操作><全魔法><補助魔法><自然魔法><鞭術><停魔術><魔力感知><属性感知>
・技能:<魔法強化><自己回復><捕食回復><解毒><中和><浄化>
称号:
空中を漂う大型の海月である大海月が、更に大型に進化した魔物。
高濃度の魔力が満ちている場所に生息し、大量の魔力をその身に溜め込みつつその巨体を維持している。その為、魔力の薄い場所には寄り付くことは滅多に無く、個体数も少ないことからも、遭遇することは稀である。
巨大系はその巨体故に、動くだけで周囲の環境に影響を及ぼす為、周囲に生息する者からすれば自然環境の一種か災害の様な存在となるが、巨大海月は大人しい分類に入る。
小さく下級の魔物などを気にしない個体が多く、漏れ出した魔力を求めて小型の魔物が寄り集まり、止まり木や隠れ家、寝床等、砂漠のオアシスに集まるが如く巨大な群れを形成する。
自身の住処の環境を整える意味でも、食料の回収や身体についたゴミ掃除を手伝ってくれるので、巨大海月も無下にはしない。
特徴の一つである半透明な体は、脈動する様に淡い魔力光を放ち、持っている属性によって様々な姿を見せる。
肉食でない事もあり、刺激しなければ比較的安全である。幻想的な風景を描き出すことからも、一生に一度はお目に掛かりたい魔物である。
注意!
餌を持ち込まないで下さい、野生動物が寄ってきて大変危険です!
餌となるモノを捨てないで下さい、野生動物が味を覚えてしまい大変危険です!
災害(竜巻)前にして、人は無力。人外レベルになってから出直して下さい。
魔物回はこれで終わりにして、迷宮側の動きをちょっと出しますがカッターナの方に戻りたいと思います。
更新速度を戻せそうです。これからは週2~3は投降できるように頑張りたいと思います!




