203 魔物と人③
①有言実行
②護衛(魔物)
③ふれあい広場
ちょこっと移動して、こちら集合住宅、兼治療院。ケガやら、精神的に病んでしまっている方々のお住まいも兼ねている場所です。
ここは、周囲への警戒が内外共に充実しているので、エッジさんには残ってもらいました。
先ず、治療院の方に顔を出す。前々から気になってはいたんですよね。
どの程度の薬が使われていて、治療が行われているか明確に分かって無かったので、この世界の専門家に任せていたんですよね。滅菌とか消毒とか、この世界じゃ意味無いですし。
それに、俺が近づくと、お体に障る可能性があるとか言われれば、余計に近づく気にはなりませんって。
ピンと来ていませんでしたが、先ほど本店に表から顔を出した時、従業員の皆さんが、業務とかガン無視して整列してきましたからね。あんな感じかと考えると、確かに避けた方が良いかもと実感しましたよ。
まぁ、俺の外見は知らないはずなので、周りが変な事を言わなければ、騒がれることも無いでしょう。なので、可能な限り気配を消しながら、視察中。
ここに居るのは、殆どクーシーさん達ですか、見た限りですと、混乱は無しっと。支えたり、先導したり、話し相手になったり……やる気に満ちているところを見るにここに誘ったのは、間違いでは無かったようですね。
本来であれば、迷宮内で、真面な人達の世話をする予定でしたが、殆ど居ないんですよね~。今では九割方が、牢屋の肥やしです。ケットシーさんたちの仕事が、皆無の状態なのです。
なので、こっちで人族相手にしないか~と声を掛けた所、いや~来る来る、参加懇願が来る。皆さん相当暇していた様ですね。
ケットシーやクーシーさん達であれば、会話が可能であることは、レイモンドさん達で証明済みなので、そこは問題なし。それも有って、会話が出来ないとは思っていなかったんですよねぇ。何故でしょう……妖精や悪魔は、魔力の割合が多い為か、声に意思が乗りやすいのでしょうかね?
それに、妖精族がよくて、他の魔物は何故ダメなのでしょうね? いや、モフモフ陣営は受け入れられていましたけどね? 反発する者が全く居ないのは、何故なのでしょう?
「ワ」
あ、シー! シー! クーシーさんや、気が付いても気にしないで下さい。唯の様子見なので。
気付かなかった事にして欲しいと、口元に人差し指を立てると、目礼した後に、何事も無かったように通り過ぎて行ってくれた。
察しが良くて助かります。これがケットシーさん達だと、興味が無くて無視するか、騒ぎ立てるかのどちらかですからねぇ。
ざっと見て回りましたが……平和そうでなによりですね。まぁ、ケガが完治していない方や、欠損が酷く真面に動けない方や、奇声を上げて暴れる方など、場所によっては、今までの爪痕が深く残っているが、まぁ、そこは仕方がない。
欠損を治せる魔法薬を支給しても……問題ないだろうか。
これだけの方達をただ生かしておくだけなのは、損失が大きい気がしますね。今後皆さんがどうなるかは別として、選べる位の選択肢があっても良いでしょう。
「おや、そこの方、不思議な気配をお持ちですね」
……あ、俺か。全身包帯でグルグル巻き状態の森人さんが、声を掛けて来ていた。
両手足と、両耳、目も潰れているのか、目元まで覆われていますね。口元の骨格と、植物に近い落ち着いた精神構造で、如何にか分かるレベルだ。
「こんにちは」
「えぇ、こんにちは。今日は良い天気の様ですね。陽だまりの温もりを感じ取る事ができます。それもこれも、貴方様方のお力とご慈悲あっての事。この様なお見苦しい姿で大変恐縮に御座いますが、平にご容赦を」
「……バレています?」
「えぇ、もし一般人を装うのでしたら、その内から漏れ出す気配を、抑える事をご進言致します」
マジか~。匂いとか、動作の際の音とか、かなり改善されているはずなのですが、それだけでは足りませんか。気配とかは、俺の問題かもしれませんが、何が漏れているのかが分からないので、どうしたものか。
「ふふ、そこまで真剣に捉えることも無いでしょう。視力を失ってからと言うもの、どうも気配に敏感になりましてね。気が付く方はそうそういないでしょう」
それなら良いのですがね。
そこいらに備えつけられていた丸椅子に、腰を下ろす。
「残り短い人生、この様な穏やかな時間を過ごせるとは、思ってもみませんでした」
「森人は、寿命が無いと言われる程の長寿と、聞いていましたが?」
「ふふふ、この姿を見ても、同じことを言えますか? 例え生き永らえたとしても、この体では何もできないでしょう?」
「何もできないとは、思えませんがね。現に今、俺と会話しているでしょう? 何かをしたいと言うのであれば、話を聞いてもよろしいですか?」
「ふふ、ふふふふふ。えぇ、えぇ、こんなポンコツの老いぼれが知りうることでしたら、幾らでもお答えいたしましょう」
てな事で、ちょこっと長居させて貰いましょうか。
―――
ここの現状や、種族間のいざこざに、歴史的な面からみた抗争関係やら……いや~、情報が出る出る。伊達に長生きして無いですわ。やっぱり年長者は敬うべきですね。老害は除く。
「因みに、ここにクーシーとケットシーが来ているのは、御存じで?」
「えぇ、貴方様が来る少し前に、いらっしゃいましたので」
「魔物ですが、危険視しないんですね」
「シーは我々の…森に住まう者達にとっての隣人。歓迎すれど、敵視する理由は御座いませんとも」
ほうほう、元々この世界の魔物ですからね。昔からの良き隣人だったのでしょう。今も森とかにはいるのでしょうかね?
「私が若かった頃には、ちらほらと見掛ける事はありましたが、今ではさっぱりですね。まぁ、何十年とここに居るので、短命種の方々からすれば、相当昔のことでしょう」
皆さんが受け入れられていたのは、話せるのも大きなポイントでしょうが、その辺りの事を知っていた方々がいたからでしょうかね。
……あれだ、蛍が帰ってきた感じでしょうか? そりゃぁ、受け入れられますわ。
―――
流石に話しっぱなしってのも体力的に辛いでしょうし、適当な頃合いを見計らって、会話も程々に次の場所へ移動。
保育所と言うか、孤児院と言うか……まぁそんな所です。ここは影から覗くだけに留めておく。ここは大人入室禁止ですからね。見つかって発狂されたら、堪ったもんじゃありません。
ひと際騒がしい部屋を覗いてみる。
中央でポヨンポヨンしている、巨大な半透明の半球はプルさんですね。護衛兼監視兼遊び相手。
プルプルの反発が楽しいのか、飛びついて遊んでいる子が目立ちますね。ウンウン、あれば良いものですからね。
部屋の隅っこには、丘人と穴人の女性が居ますね。可能な限り威圧感を与えない様に、小柄な女性を採用しているのでしょう。
あと、こっちにはクーシーでは無く、ケットシーが居ますね。追いかけっこしたり、無遠慮になすり付いて、強制アニマルセラピーを執行していたり、ボードゲームに勤しんでいたり、早々に馴染んでいるご様子。
「チェック!」
「ニャニャー!? あ、あり得ニャい! ニャーが負けるニャんて、あってはニャらないニャ!」
「ケットシーよわーい」
「よわーい」
「おみゃーらが威張る事じゃニャいニャ! もう一勝負ニャ!」
「ふふ~ん、返り討ちだ!」
まぁ、反応が良いですからね、遊び相手には最適な相手でしょう。って、あの負けて駄々をこねている白いケットシーさん、レイモンドさんの所を担当していた方ではありませんか? こっち来ていたんですね、仲良くやっている様でなによりです。
ケルドの爪痕は確実に残っています。身体欠損、精神疾患、はたまた孤児まで、選り取り見取りです。
「やるからには、やられる覚悟が有るんでしょうね~? 無くてもやるけど」byダンマス




