202 魔物と人②
①キョクヤさん再登場
②魔物は人が住む場所では行動し難い
③ダンマスは領域外には出られない
「ねぇ、ダンマス」
「なんですか? キョクヤさん」
「これで何回目だっけ?」
「確か、8回目ですね」
「多すぎんでしょ!?」
「もう少し大所帯で動けば、少しは違ったかもしれませんね~」
幾ら日が昇り切る前とは言え、集団で移動すると他の方の迷惑になるので、数体で移動することにしたのですが……いや~、人目が少ないのも相まって、襲われる襲われる。
これは、襲われないようにするには、最低でも二桁くらいで移動しないとダメそうですね、5体は少なすぎた。
流石はカッターナ、と言ったところでしょうか。人様の従魔でもお構いなしに、金になると思えば襲って来るんですから。
理由? 魔物が居たから狩ったとか、人間様が有効活用してやるんだから、有り難く思えだとか、そんなとこじゃないですか?
「いやいや、そんなの通用する訳ないでしょ」
「それが通用するんですよね~、ここでは。日本人の感覚は、捨てた方が賢明ですよ~」
だからこそ、こちらも手加減する気が起きないのですがね。何よりも、こいつ等は繁栄なんて考えていない、繁殖が精々でしょうか。あれの存在理由から考えて、自分達が増え、肥えることが全てなのでしょうね。
「こんなの、どうやって国として成り立ってるのよ」
「殺して奪って擦り付けて、足りなくなったら余所から持ってくる」
「……蛮族?」
「いやいや、それは蛮族に失礼ってもんでしょう」
蛮族は、生きる手段として暴力を主軸にしているだけに、自分たちの力で生きているとも言えますからね。文明人を騙り、他者の文明を侵して奪って、誇りも信念も無く、自分たちが良ければそれでいい、的な考え方の連中と一緒にしては……ねぇ。
「よく今まで、残って来れたわね。普通に、他の国から報復されてそうだけど」
「そこら辺が、上手いんですよねぇ」
なんせ、入って来るのは自由、出る相手は全員捉えて奴隷の、半分鎖国状態ですし、外へのポジティブキャンペーン的な事までやっているらしく、住み心地が良すぎて誰も帰って来ない、的な事までやっているらしい。
あからさますぎますが、現状に満足できない一部の人や、噂を知らない人が、引っ掛かるらしい。この国の財源の一つです。
そして、情報規制も完璧で、あくまで疑念以上の事を抱かせない様にしている。特殊部隊とかが侵入して、各国のトップはこの国の現状を知っていたり、一般人でも不審がったりはしますが、確証はないし、国が弾圧すれば、そのまま戦争にまで縺れ込む為、安易な行動に出られないと見ています。他国の事情は未だに疎いですが、そんな所でしょう。
「そんな事をできる程の技術を持っている、持ってても扱えるように思えないのだけど」
「支援している国が居たとしたら? この国を隠れ蓑にしている奴がいるとしたら?」
「そんな大規模な工作………国レベル? …………人間……イラとか言う国?」
少し思案したかと思えば、今までの少ない情報から、その可能性に行きつきますか、お見事。
「いや、この付近の国で、それ以外に知ってる大国が無かっただけなんだけどね?」
「実際に国境線には、イラ国所属の人間が多く見られますので、その可能性はかなり高いと思いますよ」
掃除しなきゃならない所が、どんどん増えるんだから、やってられませんよ~。
「あ、大ボス! 敵、追加っす」
ワンワンと、付いて来ていた子から、追加の襲撃のお知らせが届く。
確か、プリンさんでしたか。今までも、襲撃される前に察知していましたが、皆さん感知能力が高いですね。敵とそうでない者の動きも把握していますし、これは思っていた以上に優秀。流石は野生で生き残ってきた子達です。
してキョクヤさんや、貴方は何故に視線を逸らすのですか?
「見つけられれば分かるのよ……見つけられれば」
スキルはあるのに、何故感知できないの? と、心の内を漏らすキョクヤさん……本当、なんでなんでしょうね? 俺もわがんね。
―――
「ここが、第二拠点?」
「ですよ~」
結局、ここに到着するまでに12回も襲われた。ゴトーさんの証言を、地で行きましたね、二桁達成です。
「改築中なの?」
「周りを見れば分かると思いますが、あの見た目の建物を、そのまま利用するのは、ちょっと」
「「「あ~~~」」」
キョクヤさんだけでなく、他の子達も納得してくれた様子。
なんて言えばいいのでしょうか……下品? 汚らしい? 嫌らしい? 装飾過剰なのですよ。元の家屋の良さを、完全に潰している。人間の美的感覚には、付いて行けません。
カランコロンと、来客を知らせる鐘の音を奏でながら、正面の大きな門を開け放つ。巨人族とかも少ないですがいるので、扉は大型のモノを採用。これなら、他の子達も軽々中に入れますね。
「いらっしゃいま……だ、旦那様でございましたか!? 正面からお入りになるとは、いかが為さいましたか?」
建物に入ると、スレンダーな体躯に、きっちりとしたスーツ姿が似合う、青い長髪の超絶イケメン森人が、笑顔で迎え入れてくれた。相手が俺だと分かった途端、営業スマイルが消し飛びましたが。
「おはようございます、皆さん」
「あ、おはようございます! ご挨拶が遅れ申し訳ありません! お前達も」
「「「おはようございます!!」」」
うんうん、他の方達も、元気な様でなりよりです。仕事ははかどっていますか?
「はい! 旦那様から提供して頂いた土地を使い、順調に事業拡大が進んでおります。宿や飲食店、加工施設に、それらを行う為の物資の提供! これだけの支援をして頂いて成果を上げられなければ、無能も良い所でしょう!」
「更に、従業員となった者たちが、安心して休むことができる住居まで用意して頂けるとは、これ程の好待遇、他にはありません!」
「貴方様は、私達の救世主なのです!」
「必ず! 必ず貴方様の力になって見せます!」
お、おう? ちょっ、圧が凄い。そんなキラキラした目で見られても困ります。
それに、救世主とか大袈裟……いや、無実の罪を着せられた状態から解放したと考えれば……普通なのでしょうか?
ま、まぁ、現状に不満が無いなら……い、いいですよね?
「おぉ~……中はいい感じね」
「俺らが入っても、十分余裕がありそうっすね」
キョクヤさんが建物内に入って来ると、今まで騒がしかった建物内が、一気に静まり返る。如何したのでしょう? 混乱…恐怖? 怖がっている?
「だ、旦那様。この、ま、ものは?」
「え~っと、お仲間?」
「「「よろしくっス!」」」
「「「ひ!?」」」
プリンさん達が一斉に挨拶をすると、悲鳴を上げるわ、書類は落とすわ、尻餅はつくわ……軽いパニック状態に陥ってしまった。その姿を見て、挨拶をかました皆さんも困り顔だ。挨拶しただけでこんなに怯えられたら、そりゃこんな顔にもなりますわな。
「どうした!? 何が…って、旦那か? 何で表か……」
騒ぎを感じ取ったのか、奥からエッジさんが駆けつけて来てくれた。いや~、助かりました。早速で悪いのですが……助けて?
「いや、そのだな、うん……旦那、後ろの魔物は、なんだ?」
「今日からここに配属する、護衛の皆さんです。仲良くしてくださいね?」
「……」
硬直したかと思えば、片手で頭を抱えながら項垂れ、剣の柄を指先で、高速で叩きだした。なぜでしょう、物凄く…苛立っている?
「あ~~~~~~~~~~……旦那。こいつはダメだろ」
絞り出すように言葉を発したかと思えば、駄目だしされてしまいました。何故でしょう?
「強すぎるわ!?」
心の内を吐き出すかのように、強烈なツッコミが飛んで来た。護衛なのですから、強くなければ意味が無いでしょう?
「いや、いやいやいや! そんなのが近くに居たら、誰も店に寄り付かなくなるぞ?」
「そこまでですか? その割には、ここまで来るのに、人間に12回も襲われましたが?」
「……感知能力が極端に低い、チンピラ共だろう、参考にするだけ無駄ってもんだ。周りの状態を参考にした方が良いぜ」
これが、普通の人の反応ですか……。
「襲ったりしないわよ?」
「そうそう、ほれ、撫でてみるっす」
キョクヤさん達も訴えかけていますが、全く持って聞く耳を持ってくれいない。ちょっと頑なすぎません?
「頼もしいのですがねぇ、見た目だって、こんなに可愛い……可愛いですよね?」
「……その点は否定しねぇよ」
良かった、そこの感覚迄違っていたら、予定を大幅に調整しなければならなくなる所でした。
「アンタがここのボスっすか?」
「よろしくお願いするっす!」
「頑張るっすよ!」
「「「ワンワンオー!」」」
「旦那、なんかこいつ等にめっちゃ吠えられるんだけど、おっさん、何かしたか?」
吠える? …………ま、まさか。
「何言っているか、分からないので?」
「魔物の言葉なんぞ、テイマーでも無けりゃ分かりませんって…旦那は分かるんで?」
ここか! ここからか!? さっきから何か微妙にずれている感じは、それが原因ですか! キョクヤさんが友好的に歩み寄ろうとしても、そもそも言葉が通じていなかったのですか。
「……すぐに分かる様に、なりません?」
「ならんならん。旦那だって、何年も一緒に居て、漸く分かる様になったんでしょう?」
「いえ、俺は半日ほど「早すぎるわ!?」えぇ~?」
マジか~。それなら、どうやってこの子達の安全性を証明しましょうか……
「感知能力が低い方なら、問題無いのですよね?」
「そりゃまぁ……今度は、何やらかす気で?」
ならば、護衛にもなって、愛らしさからうちの看板にもなる、一石二鳥の方法があります。いつもと同じです、現実を突き付ければ良いのです。
あ、それと打って付けな方がいましたね。当初予定していた仕事がほぼなくなってしまっていますから、誘ってみましょう。
―――
「可愛い!!」
「モフモフだ~」
「おっきぃ!」
「ワフ、ヘヘヘヘヘ!」
邪魔な建物を取っ払い、広場の様な空き地となっている場所、第二拠点の目の前ですね。そこでちょっとしたイベントを開催。感知系のスキルを持っていない方を集めて、ちょっとした触れ合いの場を設けた。
やはり、子供受けはいいですね。大人しいのを良いことに、叩くわ抱き付くわ、遠慮なしに構うのを、周りにいる大人たちが、ヒヤヒヤしながら遠巻きに見ている。
俺が大丈夫と言ったので、手出しはしませんが、心配なのは変わらないってところでしょうか。元の世界観的に言えば、子供が熊やライオンにちょっかいを掛けている様なものなのでしょう、そりゃ心配にもなりますわ。
…まぁ、大人の中にも例外は居ますがね。
「あら、大人しいわね。何で皆、怖がるのかしら?」
「強すぎるらしいけど……守ってくれるなら、強くないとダメじゃない?」
「可愛ければ、全て良し!」
「「「異議なし!」」」
客寄せや、飲食店でウエイトレスをして居る方達も招集している。殆どが若い女性なのは、見た目を重視した結果なのでしょう。それも有って、絡まれることが多々あったらしいので、信用できる、睨みを利かせてくれる子が近くに居れば、仕事がし易くなるでしょう。見た目がよければ、集客率も上がるってもんです。
「でもよ旦那、あの娘らに任せるのか? テイマーじゃねぇが、大丈夫か?」
皆さん俺と接していたからか、人の言葉は分かりますからね。基本的に、パートナーになった方の命令を聞くようにしておけば、人の言葉を理解し、しっかりこちらのルールに従って行動する良い子と、その内周知されるでしょう。
それに、危険度については、エッジさん達と同じようなもんでしょう? エッジさん達だって、殺そうと思えば、簡単に人を殺せるんですから。
個体差(スキルや、生息地の環境、群れの数等々)があるので目安でしかありませんが、通常、中位の魔物と言うと最大レベル25前後の魔物を指します。
連れて来た魔物は最大レベル25帯の子ですが、上位に片足突っ込んでいる方も居るので、かなりヤバイ集団です。辺境で出会ったら死を覚悟するレベルです。そりゃ、エッジさんも突っ込まずにはいられません。
個体2500 集団1000×5人 ランクB(災害)中の上
個体1000 集団 500×5人 ランクC(脅威)中位
個体500 集団 250×5人 ランクD(危険)中の下
但し、魔力濃度が低い土地で生活している一般人は、生きている魔物、特に強い魔物に出会う事が少なく、対象の実力を察知する能力は低いので、どれだけ強いかなんてわかりません。




