201 魔物と人①
①搬送計画
②人攫いと、横領がお仕事の国境警備隊
③交渉(KOUSYOU)材料は、沢山
人族相手の護衛ですからね、実力が有るのは勿論、見た目を重視して、可愛げがあって、逞しく、友好的な関係を築ける子達が良い。狩るだけなら、隠密班の担当ですからね。
実力と言っても、相手を制圧する力ではなく、対象を守る能力が求められる。流石に町中で死人が出ると、印象が悪いですからね。手加減もできる子が良い。
「てな訳で、キョクヤさん、お願いできませんか?」
「私? 何でまた」
キョクヤさんなら、人とも普通に接せるでしょう? それに、他の子達とも連携を取れますし、お互いの能力だって把握している。種類が多いのもポイントですね、受けの善し悪しと、種族的な善し悪しも見られます。
「それで、私達に白羽の矢が立ったと」
キョクヤさんは、ダンジョンの森の中で生き残った、群れの主ですからね。上下関係もはっきりしていますし、キョクヤさん自体が元人な分、倫理観や人が持つ曖昧な感情にも、他に比べれば理解が深いので、人と密に接するなら丁度いい役でしょう。
「それに、人の国に興味ありませんか?」
「う~~~ん、ここの方が、文明度が高そうなのよねぇ……住んでいるのが魔物しか居ないけど。それに、修行もできないでしょう? 他の奴らに離されるのも嫌だし……あぁ、でも、ただ飯食らいの立場からの脱却も!」
う~んう~んと、頭を抱えだすキョクヤさん。
修行、特に魔法関係を積極的に取り組んでいましたが、生産的な事をしていない今の立場を、意外と気にしていたらしい。
ですが、研究員の実験にも協力していたでしょう? 魔力の流れとか、練り込みとか、色々助かっているって報告が上がっていましたし、ただ飯食らい云々については、気にしなくても良いと思いますがねぇ。
「あ、意外と役に立ってたのね。それなら良かったのだけど」
それに、向こうでも練習はできるでしょう? 体内で魔力を廻すだけでも大分違いますし、周りの者に気付かれないようにするとか?
「あぁ、それは、不意打ちに良さそうね……うん、ダンマス以外の人にも興味があるし、私達が適役って言うんなら、やらせてもらうわ。なんせ私達、獣人には受けが良くないのよねぇ。なんでなんだろう? はぁ……」
しょんぼりと、頭と尾を下げながら、ため息交じりに愚痴るキョクヤさん。モフラーにとって、モフモフに拒絶されるのは辛いでしょうね。
獣人さん方は勘が鋭いですから、キョクヤさんの実力を本能的に感じ取っているのでしょう。こればっかりは仕方がない。実力差による恐怖心が信頼に変わる様に、時間を掛けて接していくしかないでしょう。
劇的な事が起きて、信頼に変わる事もあるでしょうけど、その時は、何かしらの被害が発生している可能性がありますしね。
「じっくりやって行くしかないかぁ……」
「ですねぇ……言わせてもらえれば、今を楽しむことをお勧めしますよ。険悪な関係になるのはごめんですが、仲良く成れるステップを踏めるのは、今しかないですからね、今が辛かろうとも、良くなっていくのを楽しむのも、人生を楽しむコツですよ」
「成る程~。そう言えばダンマスって、若く見えるけど結構歳行ってるのよね。実感が籠ってるわ」
「まぁ通用するのは、興味のある事、楽しいことに限られるでしょうがねぇ。興味の無いことをイヤイヤやっても、やっと終わったとしか感じない可能性も有りますしぃ?」
「あーあー聞きたくない聞きたくない」
やっている内に、やる気やら興味やらが湧けば違うのでしょうがねぇ……。
「あーーーうん、で? 私は何すればいいの?」
「そうでした。<門>からカッターナに移動して、拠点に移動。そこから護衛対象まで案内するので、後は流れで」
「適当!?」
だってねぇ……護衛対象も、場所に人に物にと種類も多いし、相性だってありますからね。
俺がするのはバックアップ…セッティングはしますが、後は現場に丸投げです。そっちの方が上手く行くんですもん、何も分かってないのに、上から目線で指示だけ出されるのも嫌でしょうし、仕方が無いでしょう?
―――
「コアさん、第一拠点へ接続」
~ 了解、ポイント【第一拠点】へ接続します ~
目の前に聳える巨大な<門>が開き、カッターナに造った、第一拠点へと続く道が現れる。考えて見たら、ここを通って移動するのは初めてですね。
「皆さ~ん、元気でやっていますか~?」
「あ、主だ!」
俺の声に、作業をしていた子達が、一斉に振り向く。ほらそこ、掘り出した土を投げ捨てない。
(どうしたの~? 主がこっちに来るなんて、珍しいね?)
第一拠点にて、工作課たちの現場指揮を任せていた海月が、半球状の半透明の笠を動かしながら、フヨフヨと空中を漂うようにこちらに向かって来る。
軟体族の海月。見た目はまんま空中を漂うクラゲ。高魔力保有量かつ低燃費、魔力濃度が低い場所でも活動できるため、こういった場所での活動に打って付けの子だ。
「今回は連れが居ますからね、<神出鬼没>で移動する訳にはいかなかったのですよ」
(そっか。因みに、こっちは順調だよ。だけど、普段通り魔力が使えないから、ちょっと苦戦中でもあるかな)
あぁ、やっぱりですか。第一拠点と第二拠点を繋ぐ地下道を掘って貰っていたのですが、ここは魔力濃度が薄いですからね、魔物である皆さんからすれば、空気が薄いような状態なので、本来の力を発揮できないのでしょう。
(でも! 第二拠点に続く、地下道の開通は終わったよ!)
うぇ、もうですか!?
注文してから、五日しか経っていませんよ? 普段ならともかく、いくら何でも早過ぎません?
(造ったと言うか、見つけたと言う「お~、ここがって、空気薄っす!?」)
そんな俺の疑問に答えようとした海月の言葉を、<門>を潜ったキョクヤさんの声が遮る。
遮られた方は、見た方が早いかな~との事なので、今日のゲストであるキョクヤさんに向き直る。
「あ~……空気では無く、魔力が薄いと言った方が正しいですがね。地中から魔力を吸い上げる木々も、噴き出す亀裂や穴も無いので、魔物が住めるほど、魔力は濃くないのですよ」
キョクヤさんはまだいい方でしょう。なんせ魔石と、特に魂を備えているので、普通の魔物と違い、人族の様に魔力枯渇を起こす事にはならないでしょうからね。
内部に魔力を溜めて置く能力が、魂と魔石では比較にならないと、研究課達の報告書に上がって居ました。その代わり、成長速度は魔石の方が上ですが。
「それじゃ、私はともかく、他の子達が真面に動けなくならない? あれ、みんな普通に動けてるわね」
「その点は抜かりないですよ……ハイこれ」
【吸魔石】や【魔力結晶】を括りつけた革製の輪を、【倉庫】から取り出す。
「これは……首輪?」
名前を【従魔の首輪】と言います……まんまですね。
【吸魔石】や【魔力結晶】は、触れたモノ、正確には圧が掛かっている部分に魔力を放出し、他の部分から吸収することで魔力を蓄え、成長する性質を持つ。
つまり、後は魔力を放出する方向を指定すれば、魔力供給装置の出来上がりとなる訳です。魔力が濃い場所に置いておけば、勝手にチャージされますしね、こんな時の為に用意していたのです。
「へー、便利な物を作ったわね」
「ですが、自然に行動する分を補う程度の効果しかないですから、魔力を過剰に使う事になったら、すぐに交換してくださいね?」
「成る程、あくまで補助って訳ね。数は有るの?」
勿論ですとも、これ一つで従魔である証明と、魔力供給を同時に可能とする、便利グッズですからね。構造も単純なのもあって、大量に有りますので、ご心配なく。
「成る程……じゃぁ、あそこで酸欠起こしたみたいになってるうちの子達に着けるの、手伝ってくれない?」
― ぴくぴく ー
あぁ、こりゃアカン。やはり、環境に適応できるスキルや特性が無いときついか。魔力を保持出来る<帯魔>系のスキルがあるだけで、体内の魔力の流出を抑えられるので、習得をお勧めしますよ。
この手の環境で魔力を使った行動を取ると、体が適応しようとしますからね。適応力が高い子ほど早く習得できますし、慣らしておいて損は無いですよ。
「う~、頭がクラクラする」
「魔力欠乏症ですね、はい、MPポーション。幾つか渡しておくので、いざと言う時用に複数どうぞ」
「あ~い……ありがとうございます~」
「「「ありがと~」」」
「回復してからで良いので、後から付いて来て下さいね」
工作課の子達が掘った穴へと、足を進める。地上に感知されないように、かなり深めに掘ってもらう予定でしたが、この先に何があるのでしょうね?
……って、コアさんや、領域化をお願いします。
~ 解。既に領域化は終了しております ~
あれ、いつの間に?
~ ポイント【第一拠点】の領域化を執行した際です ~
あぁ~~~……つまりは、この先に在るもの、何かしらの空間と、屋敷が何処かで繋がっていて、ついでに領域化したと。
~ 肯定 ~
コアさんや、随分と柔軟に対応する様になりましたね、俺は嬉しいですよ。
穴を下へ下へと降りて行くと、先から水が流れる音と、異臭が漂って来た。
降り終わると、明らかに何者かの手が入っていると思われる石造りの空間と、汚物の溜まった溝が見て取れた。これは…遺跡でしょうか?
(進んでいくと分かるけど、たぶん下水道だと思うよ~)
海月さんからの<念話>に、成る程と納得する。まさか人間共に、そんな高度なものを造る能力が有るとは思っていなかったので、思いつきませんでした。
いや、管理ができていない様子から、他の種が作った物を、そのまま流用していると考えた方が自然でしょうか。
となれば、ここを悪戯に崩して仕舞うのも、気が引けますね。過去の人々が作った遺産です。領域化して有効活用する方が、建設的でしょう。
元々あったなら、ちょっとした物音や生物の動きを感知しても、いつもので済みそうですし、穴を掘る音を気にする必要も無くなるので、寧ろ有り難い。
地下水道なら、様々な場所に続いているでしょうし、ここを支配下に置ければ、動き易くなりそうです。
そんな事を考えながら歩いていると、急に視界が暗転した。
「なの? どうしたなの?」
「あれ、何かトラブルでもあったの?」
視界が開けたかと思えば……世界樹さんが、モフモフさんをモフっていた。
「え、何があった!?」
~ 解。端末が、領域外へと進出致しました ~
あぁ……領域化した範囲って、そんなに広くないのね。そして、人形へのリンクが途切れて、強制的に本体に戻ってしまったと。
「主も、そんなミスするんだね」
「モフモフさんは、俺を何だと思っているんですか。今までだって、ミスくらい何度もしていますよ」
しかしこれでは、地下を通って案内はできませんね、領域を広げる事はできますか?
~ 他の者の領域となります ~
そりゃ、下水道ですもんね、色々な生き物が生息しているでしょう。そんな場所を領域化しようとしたら、DPがいくらあっても足りませんね。
改めて、新たな人形に意識を移し、第一拠点の地下へと移動する。あぁ、人形も回収しないと……
「臭―――い!?」
「「「ギャー――!?」」」
到着すると同時に、キョクヤさんの悲鳴が耳を劈き、地下へと続く通路から溢れる様に、モコモコ達が押し出されて来た。
鼻が利く獣族には、下水道はきついか……うん!
「清掃!」
「「「ヒャッハー!!」」」
綺麗にして、流れ込んでくる汚物の流れを塞き止めて…時間が掛かりますね。
こりゃ地上を進まないと、移動は無理ですわ。
リアルが……暫く更新が不安定になるかもしれませんが、ご容赦ください。<(_ _)>




