199 解放奴隷と搬送計画①
①ゴキブリホイホイ
②人間はクズ
③ダンマスのストレスがマッハ
内側に溜まった不快感を吐き出す様に、深く長い溜息を吐きつつ廊下を歩く。
身体は人形なので自律神経とかその辺りは全く関係無いのですが、元の世界の体の名残か、幾分か気分は晴れる。
書斎に戻ると、書類の束を机の上に置いた状態で、ゼニーさんが待機していた。どうやら待たせてしまったようですね。ちょっとしたトラブルで、予定時間を過ぎてしまいましたね、おのれ人間め。
「申し訳ありません。遅れました」
「人間の件だろう? それについては構わんが…どうしたお前さん、随分と顔色が悪いが」
「そうですか?」
「眉間に皺が寄って、目付きも悪い。いつもの温和な仮面が剥がれているぞ?」
うわ、本当だ、眉間がガッチガチに固まっている。
両手で顔を覆いながら、指で眉間の皺を揉み解す。この程度の事で表情が崩れるとは、緩んでいますね。最近はストレスらしいストレスも無かったので、耐性が落ちているのかもしれません。
「あ~…それで、ゼニーさんの方も、被害は無かったって事で良いので?」
「ああ、日除け窓が割られたくらいで、被害は皆無だ。警備が優秀だと、安心して仕事ができる」
それは良かった。今は支配領域が少ない事も有って、仕事の割り振り先が足りなく、一か所での戦力が過剰気味ですから、この結果も納得と言うものです。
ですが、これからどんどん増える領域を全てカバーするとなると、その内足りなくなるでしょうし、早めに対処しておきたいところですね。
「そうだな、今も店舗内なら問題ないのだが、商品の運搬時などに絡んで来る奴が多くて、開店業務の妨げになっている。道中、ぞろぞろと護衛を引き連れるのも、勘繰られて更に面倒になりそうでな」
あぁ~、道中ねぇ。一応領域は繋がってはいますけど、未だに買い取りができない箇所があり、遠回りしないといけないんですよね。特に、道中に在るイラ教の教会が邪魔過ぎる。
そして、その分時間が掛かってしまって、見つかる可能性と絡まれる確率が上がると。
「はぁ……仕方がない。うちの者達を護衛に付けましょう」
平和的な関係を築くにも、一緒に仕事をするのは効率が良いでしょうし、タイミング的には問題ないでしょう。見た目だけでも牽制効果になる…かなぁ。相手が人間じゃなぁ。寧ろ、ヒャッハー! 新鮮な素材だー!! とか言って、従魔とか関係なく襲われるかもしれませんね。連れて来るのは、ちょっと強めの子を優先しましょう。
……何ですかゼニーさんや、その不安そうな表情は? 商人が素直に顔に出すもんじゃ無いと思いますがね。
「あ~、うむ。お前さんの仲間か? 想像しにくいんだが」
「そちらに卸している、回復薬を作った方の同僚と言ったら、想像できませんかね?」
「あれをか!? それは凄いな。あれを作った者と同等レベルと考えると、最低でもBランクの戦闘職か……」
ほむほむ、Bランクですか。それは随分と高評価ですね。今この街に居るのは、良くてD寄りのCランク程度らしいですし、各々の場所に数体護衛に付けば、戦力としては十分でしょうかね?
「では、手配しておきますね。明日にはこちらに着くように話を通しておきます」
「明日? 随分と早いな。事前に用意していたのか?」
「予定には組み込んでいましたからね」
別拠点を作った場合を想定して、配属する者は以前から募っていたので、後は呼びかけるだけで問題ない。
なんせ、守るだけではなく、侵入してきたものを狩る役も要りますし、折角人と関わるのですから、その技術を吸収したいと要請も受けていましたからね。その護衛だけでなく施設の警備も必要ですし、事前の根回しは完了済みですよ。
「あれだけのものを作る職人か。是非とも師事を…と請うものが現れても、何らおかしくないな」
あ~~~、まぁ……技術交流は、こちらも願ったり叶ったりなので、それ自体は良いのですが、受け入れられますかね~。
俺からしたら可愛くても、相手から見たら魔物ですからね。その辺りは、護衛任務を通じて、無害であることをアピールしつつ、じっくり行きましょう。
「職人と言えば、解放した方々の仕事の割り振りとかは、全部終わったんでしたっけ?」
「うむ、ゴトーを中心に、ここを管理していた元管理者が捌いている。大工や料理人は、今も店舗の改築や、生産に携わっているし、革関係や薬関係も、お前さんが用意した物資から随時生産中だ。数日中には試作品を出せるだろうと、報告が上がっている」
他にも、宿屋や飲食店、雑貨屋の様なものや、回復魔法が使える者による治療屋、金持ちを狙った美術品など、続々と開店している。大体の店が他よりも質、量、価格共に凌駕している為、他の店への客足が、目に見えて落ち始めているらしい。順調順調。
「それでなんだが、お前さんに会って貰いたい奴らが居るんだが、どうだろうか?」
「はいはい、構いませんよ。どなたで?」
「自国への帰還を願う者達だ」
あぁ、そりゃ居るでしょうね。なんせ目の前に居るゼニーさんが、まさに外国の人ですし、国に残してきた家族やら友人も居るでしょう。帰りたいと願うのは普通の事だ。
既に待機しているとの事なので、案内に従い移動する。会議に面会にと、広い部屋が複数在ると、何かと便利ですよね。
この調子ですと……マップからして、この部屋でしょうか。現在人が居る部屋で、ここ以外は普段使っている部屋ですし、座っているのか殆ど動きが無い。
ですが、思っていたよりも大分少ないですね。もっと沢山居ると思っていたのですが……。
ちょっと短いですが、中途半端になったのでここで区切ります。




