194 解放と契約②
①焼肉!
②出勤
③「あ……これって面接だ」byうぷ主
「つまり、持ってきた商品を寄こせと脅迫され、それを拒絶したら、貴方達が持ってきた物資を指して、窃盗を行ったと冤罪をかぶせられた…と」
「メルル、奴らにとって、人間以外が持っているモノは全て自分達のモノなのでしょう」
なぜ奴隷となったか聞いてみましたが……うん、やっぱ人間って害悪ですわ。
……ふと思いましたが、よくそんな所に商売に来ましたね? 何かに追われていたとか、やましい商売に手を染める様な方々には見えませんが。
「今、各地で深刻な物資不足が起きているのだ」
「物資不足……正確には、どの様な物が?」
「復興の為の木材や、魔法薬の原料となる魔草。そして、目下最も深刻なのが食料だな。エスタール帝国では、緊急時の備蓄が各要所に蓄えられているが、カッターナの人間連中は碌に蓄えなどしない」
おっとぉ? もしかしなくても、森が無くなったのが原因でしょうか?
食料も、森からの狩猟分の供給が減れば……って、この世界では魔物が居る関係で、酪農や農業よりも、狩猟や採取で得られる食料の方が多いんでしたっけ。被害甚大ですね。
「それでわざわざ、エスタール帝国より食料を持ってきたと……志は素晴らしいとは思いますが、他人に、それも人間に対してやる事ですか?」
「人間は知らん! だが、ここにも人間以外の人種は大勢いる。そして、最初に死ぬのはその者達なのだ。人として、商人として、手を伸ばせる場所に、求められたモノを、求められた場所へ、求める者に卸さずどうする! それができるのは、我々しか居ないのだ!」
ひねくれ者が聞けば、偽善とでも思うのでしょうけど、この方に限っては、信条や信念と言ったほうがしっくりくる。更に他人を雇い入れるだけの実績と、憧れに近い信用を得ているのを見るに、相当優秀な方ですね。
夢や信念を抱くことは素晴らしい事ですが、貫くだけの力が有る者は少ない。これは……一発目から当たりか。
「では、この国で安全に商売ができる場所を提供すると言ったら、どうしますか? 必要な物資を提供すると言ったら、どうしますか? やり方を任せると言ったら……どうしますか?」
「……その様な都合の良い事があるのか?」
ふふふ、商売人の顔になりましたね~。
「商売って言ったな。つまりはワシらに何かを売らせる心算か?」
ほうほう、乗ってきましたか。いいねぇいいねぇ、仕事をやり切る姿勢もそうですが、儲け話に慎重に食い付く姿勢も悪くないですよ。
いやね、素材は有るのですがね? 何分人手が足りないのですよ。
最初は、雇い入れる事を考えていましたが、既に商会としての形が有るのでしたら、テナントの様に業務提携を結んで、こちらの商品を買い取ってもらえば、こちらがいちいち指示を出さずに済みますし、土地を含め店舗を提供すれば、相手方の事業展開が加速する。なんせこちらが提供する商品は、ほぼほぼ元手が掛かっていないので、換金さえできてしまえば問題ないのだ。
商品の提供含め、ある程度の契約は結んでもらう事になるでしょうが、企業秘密と考えれば、別段何も変な事は無い。商会のトップと契約をすればいいのだから、手間もそれほどかからない。利用権だけであれば、ダンジョンの領域を取られることは無いでしょうし、こっちも露出が減りますし、手間も省ける。折角ノウハウが既にある商会のトップが目の前に居るんですから、これを利用しない手はありません。
商会の方達も、興味を持ってくれたようですが、ゼニーさんがちょっとしぶっていますね。やる気はあるけど、他に懸念条件がある感じ? 他にやらなきゃならない事が有る感じ?
「……条件がある! 頗る個人的な事だが、もし協力してくれるならば、ワシはお前さんへの協力を惜しまん!」
「なんでしょう?」
「ワシの孫娘、ターニャの生活を保障する事……それが、ワシが協力する最低且つ最高条件だ。他は何も望まん!」
「今その方は何処に?」
「エスタール帝国に……国境の町に住む友人に預けて来た……が」
歯切れが悪いですね。何か懸念に思う事でも有るのでしょうか?
「ここに捕らわれた時、強制的に口を割らされた。その時にターニャの事も話した」
「ゴトーさん、資料」
「こちらに」
ターニャ、ターニャ……有った、けど。
「既に、売却済みですね」
「そんな!?」
「…やはり、捕まっていたか」
あぁ、ゼニーさん達の気分が一気に落ち込んでしまった。
売却分類は、うっわ、性奴隷かよ。って、8歳!? 誰だよ、こんな子供買ったの。いやいや、そもそも子供をこんな分類で売るなよ。
「お嬢が!?」
「この、糞野郎が!」
今にも殺しそうな剣幕で立ち上がる商会メンバー。流石にここで殺されるのは、困るんですよね。
「へびゅ!?」
「「「……」」」
なので、手を出されるより先に蹴り飛ばし黙らせる……力加減を間違えましたかね? ぴくぴく痙攣して動かなくなってしまいました。四つん這いにならない所を見るに、気絶でもしましたかね。まぁ、死んでないなら別に良いか。
「もともと、他の奴隷にも手を出すつもりでいましたが……最優先で探しましょう。生活の保障も確約します。その為にも、金が要ります」
「何をすれば良い」
「商品を買い取ってください。支払いは後払いで構いません、店舗も用意します。後は貴方の腕次第です」
先ほどまで絶望していた表情とは打って変わって、憎悪に近いやる気に満ちていた。そりゃ、肉親が売られたって聞かされたらそうもなるか。
「こちらは、得た金で土地と奴隷を回収、保護します。勿論、ゼニーさんのお孫さんを見つけ次第、最優先で助け出します」
「保護と来たか……見つけられるのか?」
「こちらの情報収集能力は高いですよ? って訳で、キークさん、ミールさん、お仕事ですよ~」
(あー、はいはい、探しますよ。後で資料見せてくれよ? 流石に情報なしで探すのは無理だからな)
天井に向けて話しかけると、ちゃんと返事を返してくれた。相変わらず、キークさんは話してくれないのね。
「分かった、因みに品は何処から仕入れているのだ?」
「ん? 品では無く、仕入れ先を真っ先に気にするんで?」
「ターニャは、エスタール帝国に住む、信用できる者に預けて来たのだ。情報を無理やり吐かされたとはいえ、国境を超えて捕らえてきた事になる」
成る程、エスタール帝国に内通者が居ると。それは、注意しなければなりませんね。まぁ、エスタール経由では無いので、その点は大丈夫ですよ。
「そうか……では何処で何を売るのだ?」
「それなんですよね~。売れそうな物資は沢山あるのですが、何分ここには無いものが大半ですし、実際に見て貰っても良いですか?」
「そうだな、物を見なければ始まらないか」
おっと、その辺りの話は、諸々の注意事項や、禁則事項を守る契約を結んでからですね。ここからは、こちらの情報を幾つか開示することになりますから、こちらの【契約書】にサインをお願いします。
「どれ……ふむ、要約すると、アンタたちの情報を流さない、に、集約している感じか」
「ですです、まだ身バレはしたくないですからね」
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甲及び乙は、甲領域内にて作業するにあたり、以下の事項を厳守することを、ここに誓う 。
1 甲の技術および営業に関する秘密情報に関して、知り得た全ての情報を、甲の許可なく発表、公開、漏洩、利用しないこと。
2 乙が甲から脱退した後も、業務上知り得た技術および営業に関する秘密情報を甲の許可無く発表、公開、漏洩、利用しないこと。
甲:ダン・マス
乙:
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こちらの技術や、物資の搬入やら販売に関し、脱退後も含めて外部に漏らさないこと、ですね。
仕事以外に縛っていませんし、ちゃんとサインしてくださいね?
商品の出所を余所に探られるのは面倒ですし、ぽろっと口にして、要らぬ危険に晒されるのは、お互いに避けたいでしょう?
この契約は原則として、他の事柄についてはその時その時、必要に応じて結んで行きましょうね。
かなり高位の【契約書】になります。それこそ魂を縛るレベルのヤバいブツです。
それと知らずにサインすると、契約を破ったことがばれても気にしない連中からすれば(低位の【契約書】では拘束力までは持たない)罠以外の何ものでもありません。
端から見れば【奴隷の首輪】が無い為、自身の意思で動いているように見える事でしょう。厄介ごとはケルドに押し付けるに限りますね!




