188 壁に耳あり、障子に目あり
①「愉悦!」byゴトー
②都会の空気は汚い
③「言葉? 猛勉強したんだよ! <高速思考><平行思考>諸々使ってな!」byダンマス
カッターナ連合国の、とある一等地。
かつてここ一帯の街を収めていた、今は亡き領主の館。敷地は広いが、時代遅れの様式と、無人となりボロボロの状態となったこのおんぼろ屋敷に、突如、買い手が現れた。
今までどこに居たのか定かでないが、金が有るのは間違いない。相手が人間でなければ、良い金ずるである。強請ってよし、身代わりに擦り付けるのもよし、誘拐してよし、脅迫してよし。この国を支配している者たちにとって、余所者の扱いなどその程度だ。
そして軽く調べた結果、出身不明、所属不明、性別不明、名前不明…実力不明、一切の情報が不明。しかも、元の所有者を当たろうにも、転々と所有者が入れ替わっており、既に所在不明という状態になっていた。
未知は恐怖を生み、知る事とは愉悦へと繋がる。何者か調べようとするのは、人の性であろう。それが地獄へと続く底なしの穴であろうとも……自分が覗き返されるとも考えずに。
「んぁ? なんか出て来たぞ?」
「おかしいな、屋敷には誰も入って居ないはずだが」
屋敷の正面に建つ比較的高い建物の屋根の上で、屋敷から出て来た者達を見て動き出す、二人組の男が居た。
片や耳に片手を当て、片や指で輪を作りそこから対象を覗き込む。
ここから屋敷まではそれなりに距離がある上に、角度もあって相手からはこちらの姿を目視するのは困難。気配についても、職業柄隠密関係のスキルは取り揃えている為、屋敷から出て来た二人が彼等を発見するのは、通常ならば不可能だろう。
「こっちはダメだ、遮音関係の魔道具か何かを持ってやがる、そっちは分かるか?」
耳に手を当てていた方が、もう一人に話しかける。
何やら話をして居るのは雰囲気で分かるが、指に着けた指輪型の【収音】の魔道具を使っても、その会話を聞くことは叶わなかった為だ。
そしてもう片方は、同じく指に着けた指輪型の【望遠】の魔道具によって、対象を観測する。
「見ないタイプだな。異国の亜人か?」
ここ一帯では見る事のない、黒髪黒目の若い男。側に仕えるのは従者なのだろう、常に一歩下がった位置で控えている。二人共、見た事のない服装をしている為、他国の人である可能性が高い。
だがしかし、その様な者がこの街に入った情報は、表も裏も合わせて掴んでいない。恐らく、彼等が把握していない新たなルートか、強力なコネが有るのだろうと当たりを付ける。
そんな黒髪の青年の口は、話すときは常に片手で覆われていた。
「……ダメだ、口が見えねぇ」
彼の特技は読唇術。口の動きだけで相手の会話を盗み見ることができる、特殊な技を身に着けていた。
彼等はその特技を利用し、数々の情報を掻っ攫って来たのだ。今回も、相手の情報を掴むだけの簡単な仕事だったが、癖なのか警戒心が強いのか、難航しそうだと軽く息を吐く。
もしこの場で対象の会話を観測できたとしても、詳しい内容までは読み取る事はできない。<翻訳>のお陰で口を読んだとしても、その者が住んでいた地域の言語を把握していなければ、読唇ではその内容を正確に把握する事はできない。だがしかし、頻繁に使う言葉さえ分かれば、どの地域の者かはすぐにわかる。
だが彼等は、そのままその場を後にし、屋敷へと引き返して行く。その姿を見て、今回は外見的特徴だけでも持ち帰るかと思案する二人。
だがその前に、前を歩いていた黒髪の青年が、何かを話しながら振り向いたのだ。
「お、読めるか?」
「え~と、これはイラ語だ!『あ そ こ で こ ち ら を か ん さ つ し て い る 』!?」
その言葉と向けられた視線に、即座に屋根から飛び降り、複雑に枝分かれした裏路地の奥へと、全力で掛け出す。
「何でバレた!?」
「探知系のスキルか魔道具が有ったんだろ! それも高位のな!」
「ふざけんな、装備型の迷宮具持ちとか、俺らでどうにかなる相手じゃねぇ!」
右に左に、ゴミの山を飛び越え、家々の間を飛び越えながら、下の道へと飛び降り、素早く、且つ人目に付かない様に気配を殺しながら疾走することしばし、道の先から光が差す。
その先から、ワイワイと活動を始めた人々の話し声や、行きかう姿と足音が聞こえてくる。
「大通りに出たら散るぞ。その後、アジトに集合だ」
「分かった……念のため聞くが、この仕事続ける気有るか?」
「この情報を伝えたら、一抜けだな。死ぬのはごめんだ」
「通るとは思えんがな、言うだけはタダだ。異議はな!?」
「!?」
人が込み合う大通りに抜け出す、正にその瞬間……彼等の足元が、消失した。
声を上げる暇もなく、足掻く隙も無く、何が起きたのか理解する暇もなく、咄嗟に伸ばした腕は空を切り、黒い影が巻き付き、彼等は暗い裏路地へと引きずり込まれる。
そこには何事も無かったかのように、いつも通りの光景が、いつも通り繰り広げられる。
今日もいつもと変わらない日が紡がれるだろう。裏で動いている者たちなど、知る由も無く……
―――
(つかまえた~)
「ご苦労様です、プルさん」
よしよし、流石は隠密特化プルさんズ。俺達が屋敷内に戻っている内に済ませるとは、仕事が速い。
「生きたまま捕らえ、どうなさる御積りで?」
「種族次第ですね~、ここで普通に活動している亜人種の方なら、ちょっとお話ししてみて、協力を依頼してみるのも良さそうですし」
「協力ですか?」
「所謂、情報屋ってところでしょう? 情報の宝庫では無いですか。可能なら専属雇用もありですね~」
人の国の中で活動できる個体や協力者は、多いにこしたことは無い。魔物だと、バレた時に対処が限られますが、人種であれば、そもそも迷宮との関与を疑われるような事にはならないでしょう。そう言った意味でも、人種の手札は多いに越した事は無い。
今ですと、獣人の方々か、捕らえた人間以外のハンターの中から、協力者を募るぐらいでしょうか。もう少し選択肢が欲しい所ですね。
「成る程……では、今この屋敷に無断で侵入している者達は、如何致しましょう?」
「あ、そっちは狩っといてください。可能なら生け捕りで、情報を搾り取ります」
「おや、そちらは随分と対処が厳しいですな」
「普通に見える範囲で情報を得るのと、無断で人様の敷地に土足で踏み入る連中……どちらを生かしますか?」
「メルル、愚問でしたな! 承知いたしました」
そう言うと、ゴトーさんは空間に溶けていく様に、<神出鬼没>で移動。更に部屋のあちこちで何かが動く音がし、気配や影が部屋の外へと向かって行く。何体居た事やら…うん、隠密特化ってすんごいわ。
拠点のゴミ掃除はゴトーさんとプルさんに任せて、こっちはこっちで<神出鬼没>で地下へ移動する。
「う~ん、埃っぽい」
生身なら、確実に咳き込むほどに降り積もった埃が、歩くたびに空中へ舞い上がる。これは掃除の必要がありますね~。
仕方が無いので、汚れても問題ないようなものから順に、箱詰めされた物資を【倉庫】から取り出していく。当面の活動物資と、換金用の素材や道具ですね。後で、ゴトーさんに姿を変えて換金してもらいましょう。先立つものは必要ですからね。
後は~、この国の重要人物とも、話がしたいんですがね~。
それについては、他の国に、迷宮の存在を認めて貰ってからになりますかね。エディさんの伝手に期待しましょう。最悪一国でも同盟が組めれば、後はごり押しできそうなんですよね~、いろんな意味で。
「さてと、ではコアさん。次の段階に移行しましょうか」
~ 了解。<深化P>を1,000使用します ~
~ 機能容量が 15,000 になりました ~
~容量1,000を使用し、【迷宮】<門>を習得しました~
「世界樹さんの中から、この領域に<門>を設置できますか?」
~ 肯定。50,000DPを使用します ~
おう、結構かかるね。距離の問題か、<門>のレベルの問題か…機能を取得できさえすれば、コアさんもどんな設定なのか分かるので、そこんところを聞いてみると、どうやらレベルの方らしい。
<門>の根幹を作るにはDPが掛かるが、やっていることは<空間魔法>の応用らしく、距離はあまり関係ないうえ、維持には周囲の魔力を使うらしい。その為、機能<門>のレベルは、上がれば効率が良くなるだけで、他は関係ないとか。
DPがある現在ではレベルを上げる必要は無さそうですし、【世界樹の迷宮】に溢れる魔力があれば、維持する分は十分賄えるっぽい。世界樹さん様様ですね。
「そうですね、ではここに設置お願いします」
~ 了解。50,000DPを使用し、門を設置します ~
地下倉庫の最奥を指定して、<門>を設置してもらう。そうすると空間が渦を巻くように歪みだし、戻ったかと思ったら、四角い両開きの大きな門が現れた。
~ 設置、完了しました ~
う~ん、随分アッサリ。ま、良いんですけどね。
因みに、向こう側は逆に侵攻されても良い様に、世界樹さんの中に造った殺し場を挟んで設定している。いろいろな場所に繋がっても居るので、行き来もそれ程手間では無いでしょう。
まぁ、バレる様な事態になったら、即効で繋がり切りますけどね。
(みなさ~ん、通路ができたよ)
(((確認しました~)))
(ちょっと汚いので、皆さんでお掃除お願いできますか?)
(((は~い)))
別段音も無く、ゆっくりと<門>が開き……
「「「ゲッホゴホゴホ!!??」」」
「……汚いでしょ?」
「「「もっと真面な所に繋げて下さい!!!」」」
うん、ごめんね? それはそうと前の子達、ちょっと避けて貰えます?
「「「え?」」」
「「「ヒャッハー!! 汚れは洗浄だーーー!!」」」
「「「うおぅ!?」」」
ぞろぞろと、汚れ絶対許さないを体現した清掃員一同が、ぞろぞろと室内に入ってきた……まだまだ来そうですね~。
「この<門>、開けっ放しとかできるんで?」
~ 可能です。その場合、周囲の魔力を消費し続けます ~
~ 現在の環境では維持可能時間は日24時間になります ~
「実質、常時稼働可能って事ですか」
~ 肯定 ~
それでは、気にすることは無いですね。掃除の邪魔になりますし、戻りましょうか。
<空間魔法>を応用すれば、機能を取得しなくとも、領域内の空間を繋げて道を造ることもできますが24時間体制で、安定した空間を維持すると考えた場合、魔道具、魔法、諸々検討しても厳しいと判断し、機能<門>を習得しております。
「世界樹さんならできませんか?」byダンマス
「一日中とか、面倒なの」by世界樹
特性:植物・水・土
DP:250,000
迷宮 創造 作成 倉庫 その他
処理能力:10,900 / 11,010
機能容量:14,000 / 14,000 → 15,000 / 15,000
深化P: 6,990 → 5,990
機能
・創造:<想像ノ創造>
・迷宮:<効率化LV2><成長><門>new
・領域:<高速化LV2><吸収><範囲選択><深化><飛地>
・機能:<鑑定><散布><カメラ><選択・予約><数値化><一覧化><解放>
<マーキング>
追加機能
・迷宮:<門> 容量 1,000




