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172 ピヨピヨ

①「獲物居ねぇ…」byハンター

②「獲物がきたぁ…」byワンワンヲ

③首ぽっきん

 

「おかしい……何で、何も出て来ねぇ」


 魔物


 それは、感知した生き物を出鱈目に襲い、喰らい、殺す事しか考えない、人類の敵、世界の害悪。彼等の、いや、殆どの者達の認識では一部の例外を除き、魔物とはその様な存在である。

 流石に、自分より圧倒的に強い相手には挑むことは少ないようだが、無い訳でもない。それ程に好戦的であり、狂った存在と言っても過言ではない。


 一度僻地に入れば、近くに潜む魔物がこぞって向かって来るのだ。故に、普通の動物(魂を持つもの)は極端に少なく、居たとしても、小さく、気配を隠すのが上手い種が大半である。


 そして人族とは、得てして魔物よりも弱いのが多い。彼等の様に複数であろうとも、それは変わらない。そんな彼等を襲ってこないのは、不自然極まりないのだ。


「これじゃ、獲物が得られねぇ」

「折角、武器新調したってぇのによう」


 ではなぜ、彼等のような人種が生き残っているかと言えば、偏に技術力という、気配として捉えにくい力が大きく関わっている。


 剣や鎧による能力の上昇

 魔法や剣術などを体系化することによる、取得速度と効率の向上

 魔術とそれらを要して作られた魔道具や、魔法薬などの道具による、選択肢の拡大

 魔物に対しても、行動パターンや弱点の観測、


 それらの知識の蓄積が、人が生き残った、魔物を圧倒し生存圏を確保することができた、最大の理由だった。


 では、その知識が全く培われていない相手の場合、どうなるだろうか?


「流石にこれ以上は、不味くないか?」

「そうだな、視界が悪くなってきやがった」

「狭い所での戦闘は嫌だぜ、この前みたいに刃が木に食い込んだりしたら、堪らねぇ」


 辺りを見渡し、退路を確認しながら、ぶんぶんと自身の得物を振り、間合いを確かめながら、各々懸念を口にする一行。


「だけどよぅ、このまま何も成果が無しじゃ……」


 引くか引かないか、正にその境目に居る彼等は、揺れ動いていた。だが、人の欲望とは際限がないモノ。抜け駆けを考える者達ならば尚の事。切っ掛けさえ与えてやれば、容易に傾いて仕舞う。


 それが、魅力的であればあるほど、感情に直接語り掛ける様な物であれば、尚の事である。


「ピピピ、ピ~ピヨピヨ」


 今までに聞いた事のない音が、鳴き声が聞こえてくる。まるで誘う様なその音色に釣られ、彼等は反射的に振り向く。


「金色の…魔物?」


 彼等の視界に入るのは、一匹の魔物。森の中にして、余りにも目立つその金色の羽毛を、まるで見せ付けるかのように、彼等の目線上にある、光が差し込む枝に止まる、小型の鳥族の魔物。


「ピピピピ、ピ~ピピピヨ」


 ― バサリ -


 鳥族の魔物は彼等を一瞥し鳴き声を上げると、ゆっくりと飛び上がり、森の奥へと飛んで行く。


「な!? 逃がすな!」

「ありゃぁ、高く売れるぜ!」


 その姿を見て、咄嗟に、焦ったように追いかける一行。


 足場の悪い中、泥濘を避け、木の根を跳び越え、急ぐあまりに転びながらも、見失いながらも、鳴き声を頼りに追いすがり一定の距離を保って飛ぶ魔物を、森の奥へ奥へと追いかける。


 彼等が冷静であれば気が付いたであろう、その鳴き声がただの鳴き声でない事にも、その目に付く姿そのものが罠である事にも、誘われて居る事にも……


「へへ、ようやく追いついたぜ」


 そうしてたどり着いたのは、光を遮る木々が鬱蒼と茂る薄暗い森の中で、不自然なほどにぽっかりと空いた、光が差し込む開けた空間。

 その空間に、彼等は何のためらいも無く、最後まで気が付くことなく、足を踏み入れて仕舞う。


「ピヨ」


 金色の鳥族の魔物は、その空間の中心に鎮座する、岩の上に降り立っていた。


「はー、はー、なるべく傷つけるなよ、価値が下がるからな!」

「へへ、へへへへへ。金、金だぁ~」


 鼻息荒く、血走った目で獲物ににじり寄る一行。端から見れば、正常では無い事は明らかである。

 何度も魔物の鳴き声を聞き、少しずつ少しずつ蝕まれていた彼等は、最早後戻りができないレベルにまで至っていた。

 彼等の思考は、目の前の魔物をどう得るか、その一点にだけである。もし一人でも正気を保っていれば、如何にかなったかもしれないが、この場に足を踏み入れて仕舞った時点で、それももう叶わない。


「ピヨ」

「んぁ?」


 そんな中、鳴き声が響く。

 その鳴き声は金色の魔物から放たれたものでは無く、その下の岩から響いてくる。


 岩の表面が不自然に揺れ動く。

 二対の丸い瞳が浮かび上がり、怪しく揺れ動き彼等を捕らえる。

 その隣に、更に二対の瞳が浮かび上がり、その隣、更にその隣と、波紋が広がる様に、岩が、地面が、木が、木の葉が…広場の全てが、彼等を捕らえる。


「な…なん!?」


 そして……


 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ


「おぼろぇ!?」

「おご!?」

「いだ、痛いいたいイダイダイイダイ!?」


 一斉に鳴り響く鳴き声、それは絶望の音色。狂気に染まった歓喜の歌。

 その音色を聞いたものは、狂い、崩れ落ち、のた打ち回る。


 視界が歪に、臓が捩じれ、穴と言う穴から汚物を撒き散らす。

 手足の感覚も狂い、肉体の構造を無視して、あらぬ方向に曲がろうとする。


 だが、そんなさなかでも、彼等に苦痛は無かった。イヤ、それすらも狂ってしまっていると言っていいだろう。


「あひゃ、あひゃあひゃあひゃ? はyはやはや!? ひゃhっはやh!?」


 狂い、笑い声を上げながらのた打ち回る。

 自身の意思とはちぐはぐに動き、体の構造を無視し、反対へ曲がった手足の関節が砕ける。

 最後には首の骨まで捩じれ、その後、その口から笑い声が上がる事は無くなった。


(やばい、やばい、やばい!?)


 その姿を目の当たりにした、比較的に真面な一人は、体を起こそうと、地面に腕を添え起き上がろうとする。

 だが、頭から体への命令が滅茶苦茶になって仕舞っている状態では、普段通りに体が動くことは無く、その代わりに、足や腰など全く違う部位が動き捩じれる。


 ブチブチと、肉が引き千切れる音がするが、彼に痛みが走る事は無かった。


「甘い? はぁ?」


 痛みの代わりに感じるのは甘み。全身が砂糖にでも浸かっているかのような錯覚を覚える。


 痛覚が甘味に置き換わって仕舞っている。経験したことのない、する事が無いであろう事態に、彼の思考は混乱の極みへと至る。

 その状態が、更に事態を悪化させる。抵抗力が低下した状態に、狂気の魔力を孕んだ鳴き声が、更に深く染みわたり、狂わせる。


「ピヨ」


 狂気が満ちた空間に、一匹の鳥の魔物が彼等の体の上に降り立った。

 ちょんちょんと、体の上を飛び跳ねる様に移動し、防具に覆われていない、首筋に辿り着くと、その嘴を突き立て、肉を引き千切り、咀嚼する。


「痛い! 痛い! 痛い! 痛いのに気持ち良いぃ? 痛いの気持ち良い、なんで 何で気もち良いのぉ!?」


 抵抗できない、狂いに狂ったその姿を確認すると、周りの森が騒めき、鳥の魔物が一斉に飛び上がると襲い掛かる。


「あひゃ、あへへひゃは、気持ち良い~、食わるるるるの気持ち良いいぃぃ~」


 全身を啄まれながら、笑い声を上げ、食われていく。皮膚を、肉を、内臓を、眼球を、脳を、余すことなく食い尽くされる。

 後に残ったものは、骨と彼が所持していた装備だけである。


「ぁ…ぁ…ぁ…」


 歪んだ視界で辺りを見渡せば、森の中にできた開けた場所は、地面も、岩も、木々も、生命を感じない白一色に染まっていた。

 どうしてそうなったのか、これも幻覚によって見せられているものなのか、彼がそれを知る事は無いだろう。


「ピヨ」


 何故なら彼の目の前には、既に鳥の魔物が止まり、焦点の定まらない瞳を覗き込んでいたからだ。


「ピヨ」

「ピヨピヨ」


 ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ


「ぁ……甘ぇ……」


 全身に甘味を感じながら、彼の意識は目覚めぬ闇へと沈んでいった。


「「「ピヨピヨ!」」」


 ―――


「「こっわ(なの)」」

「創った本人がそれを言うなの!?」


名称:気取り鳥

氏名:

分類:現体

種族:鳥族

LV:1~25

HP:300 ~3800

SP:300 ~3800

MP:800 ~4500

筋力: 85 ~375  E

耐久: 75 ~360  E

体力:140 ~1900  B+

俊敏:190 ~2136  A-

器用:380 ~2145  B+

思考:380 ~2145  B+

魔力:380 ~2145  B+

適応率:1

変異率:1

スキル

・肉体:<爪><嘴><迷彩>

・技術:<身体操作><魔力操作><幻覚魔法><精神魔法><見切り><滞空>

<飛行><気配感知><隠密>

・技能:<身体強化><高速移動><念話><鑑定>

称 号:<最終進化>



名称:気触れ鳥

氏名:

分類:現体

種族:鳥族

LV:1~25

HP:180 ~800

SP:180 ~800

MP:800 ~4500

筋力: 85 ~375  E

耐久: 75 ~360  E

体力: 80 ~370  E

俊敏:120 ~500  D-

器用:380 ~600  E

思考:380 ~2145  B+

魔力:380 ~2145  B+

適応率:10

変異率:25

スキル

・肉体:<爪><嘴><迷彩>

・技術:<魔力操作><精神魔法><幻覚魔法><気配感知>

・技能:<威圧>


肉体面の能力を捨て、魔法に特化した20~30㎝程度の大きさの魔物。

小さな体の為、それに比例して魔力を体内に留めておくことが難しいが、ほとんど動かず、体内に押し込める事で魔力を蓄えている。


群れで行動し、縄張り内に侵入した獲物を集団で襲う。

巣に侵入した獲物に対して、四方八方から一斉に<精神魔法>や<幻覚魔法>を放ち、行動不能に追い込んだ後に捕食する。


<隠密>や<迷彩>など、隠れる事に適したスキルを多く習得し、なお且つ動かないので、その隠密性はとても高い。その為、彼等の縄張りに気が付かす迷い込む可能性があり、大変危険である。


彼等は、自分たちの縄張りを大きな一つの巣と捉え、巣作りする習性がある。周囲から適当な素材を集め、組立たてたり積み上げたりして、周囲の地形に溶け込む巣を作る。周囲が森ならば、木に似せた巣を作り、外見については<迷彩>を使用し、自身の姿を周囲の環境に溶け込むモノに変え、そこに潜む。

彼等が巣に使う素材は、組み立てる関係で、頑丈且つ細長いものになる。その為、最も近い素材として、最終的に捕食した獲物の骨を使った、真っ白な巣ができ上る。


巣は群れの大きさに合わせて、際限なく大きくなる、だが一定以上の大きさの群れができる頃になると、巣へ近づいてくる獲物もいなくなる。そうなると、群れの中から変異した魔物、【気取り鳥】が生まれ、外へと飛び立つ。

周囲の環境に溶け込む<迷彩>を、周囲に目立つ姿に、獲物の目を引く姿になる形で利用し、<精神魔法>によって獲物となる対象の思考、冷静さを奪いつつ、巣まで誘い込むようになる。

【気取り鳥】は通常の進化では至る事は無く、【気触れ鳥】の群れの中から【変異】でのみ生まれ、巣の外で死ぬ事があろうとも、後に新たな個体が【変異】し、活動を継続する。


捕食者に襲われた場合、巣を捨ててばらばらになって逃げる。

その後、近くの者達と集まり違う場所に新たな巣を作る形で、実質の巣分けを行う。小さな体も合わさって、殲滅するのは困難。

大量の骨でできた森を見つけたならば、そこは気狂い鳥の住処の名残だろう。


周囲の地形に触れれば、<迷彩>でできた巣か判断が可能なので、警戒する場合は、慎重に確認すると良いだろう。

……冷静さを保って居られたならばだが。

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