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165 竜王とダンマス⑨(精神疾患)

①決着

②最強と最凶

③エディさんの愚痴


「えっさ、ほいさ!」

「わっせ、わっせ!」

「フワフワさん、まだいけますか?」

「まだまだ! こうなったら、限界に挑戦するよー!」


 現在、竜族御一行がお帰りになるので、その準備中。フワフワさんの中に、お土産の食料と調味料を積み込んでいる。

 元から積み込んでいた古い薬やら、要らないものを運び出し、限界まで積み込むご様子。


 そうそう、通信係の粘液(スライム)さん方も準備中。プルさんから<分裂>した巨大な粘液(スライム)さんが、竜族の方々の目に前に鎮座している。直径10m位ありますかね?

 今も、粘液(スライム)さん達が列を成し、巨大な粘液(スライム)さんの中に突っ込んでいる。


「デカイな……まだ大きくなるのか?」

「どうです、運べますか? ダメなら、フワフワさんにお願いしますが」


 名称:千粘液(サウザンドスライム)

 氏名:

 分類:半虚現体

 種族:粘液族

 LV:10 / 25

 HP:2000 / 2000

 SP:1080 / 1080

 MP:3500 / 3500

 筋力:250

 耐久:530

 体力:530

 俊敏:70

 器用:70

 思考:530

 魔力:1350

 適応率:25(Max100)

 変異率:5(Max100)

 スキル

 ・肉体:<分裂LV8><融合LV8><群体LV5><上位状態異常無効LV5><属性耐性LV5>

 ・技術:<吸収LV5><放出LV5><超回復LV5><回復魔法LV5><強化魔法LV5>

<幻覚魔法LV5><精神魔法LV5>

 ・技能:<魔力操作LV5><念話LV5><鑑定LV5><自爆LV5>

 称 号:<一の全>


「ふむ…試しに持ってみるか」


 竜族の一体が、粘液(スライム)数十体分の巨体をプルンと持ち上げる。おぉ、力持ち。


「…行けるな、俺が運ぼう」

(((よろしく~)))

「それでは、お願いしますね」


  千粘液(サウザンドスライム)は、体内に他のスライムを大量に内包する、ちょっと変わったスライム。

 今回は、この子達に<念話>を中継してもらい、竜の谷とのホットラインを形成してもらう予定になる。後で、谷までの直通ルートの地下道も考え無いといけませんね。地上に剥き出しで、放置するとか可哀想ですもん。エンバ―までと同じく、交代シフト作らないと…


「マイロード、よろしいでしょうか?」

「あ、ゴトーさん、行きたい方はいましたか?」

「メルル、何名か興味を持った方はいましたが、芳しくありませんな」


 あらら、折角エンバ―からゴトーさんを呼び戻して、悪魔族の方に募集を掛けて見ましたが、ダメでしたか。瘴気に溢れている土地だから、興味を引けると思ったんですがね~。


「居付く訳じゃ無く、リゾート地みたいな感覚で行けると思ったんですがね。そうですね…報酬は出しますので、何体かお願いして、現場を見て行ってもらいましょうか。それで良ければ、行きたがる方も出るでしょう。現地の情報が知れ渡れば、行きたい方は勝手に行く様になるのでは?」

「成る程、承知いたしました」


 コレで、一体でも興味を持ってもらえたらいいのですがね。こればかりは仕方がない。

 今がだめでも、エレンさんが帰る時にまでに、もう一度募集を掛けましょう。


「私達は、エレン様の回復と共に帰還致します」

「おじいちゃんに~、よろしくね~」


 あぁ、そうそう。そのエレンさんは重傷の為、暫く家で預かる事になった。無理に動かせませんからね。


 エレンさんが、シスタさんとテレさんに感謝と感動の籠った視線を向けていますけど……エレンさんより他に、感情が向いている物が在りますね。テレさんは食事として、シスタさんは……この方向からして風呂ですかね? 

 ……言わなくていい事も、ありますよね、うん。


「あ、そうでした。エディさんにご提案が有ったんでした」

「おや、何だい? 何でも言ってくれ!」

「谷の竜の方々を、此処に連れて来てみてはどうでしょうか」

「ふむ…資源の取得が目的かい? ダンジョンは、余所の生物を呼び込むことで、成長すると言うしね」

「それを否定する気はありませんが、見た限り、皆さん瘴気に汚染されて、慢性的な鬱状態のようでしたから、瘴気の少ない場所での浄化を行うべきかと」

「瘴気に…汚染?」


 ゴドウィンさんもそうでしたが、魂が魔力を吸収する際に、瘴気も微量ながら取り込んでいる節があるんですよね。

 魂自体から発せられる、自身の瘴気なら問題無いのですが、余所の瘴気を取り込むのは、あまりよろしい状態とは言えない。例えるなら、食べ物に毒素が多すぎて、肝臓でろ過し切れていない状態に近い。


「鑑定にも出ていませんし、<呪い>の一歩手前状態と言ったところでしょうか。竜族の能力の高さが、発見を遅らせましたね。普通なら、既に発症していてもおかしくないでしょう」


<呪い>は、高濃度の瘴気に当てられることで発症する、状態異常の一種になる。瘴気の種類によって症状は様々で、今回は症状を見るに、精神に作用する感じなのでしょう。


「その、ウツ…とは、どんな状態なんだい?」

「あぁ、こっちには無いのか。そうですね、慢性的な気怠さ、やる気や関心、思考能力の減少、全体的に思考が負の方向へ向きやすくなり、最悪自分の現状に耐えられず、自傷行為や自殺にまで発展する……とかですかね? 専門じゃ無いので、参考までに」

「気怠さと、やる気や関心の減少……思い当たる節が多すぎる」


 その状態が当たり前と判断した場合、<鑑定>では状態異常と捉えない節がありますからね。あれです、毒を元から持っている魔物が、<毒>状態と判断されない様なものです。

 体や精神が不安定になっていたとしても、精霊や粘液(スライム)は状態異常と表記されませんし。

 当たり前の状態は表示されない、<鑑定>穴ですね。情報量が多くなると捌けなくなるので、仕方がないですけど。


 それに、竜は種族そのものが強い種ですからね。<呪い>として発症する一歩手前で止まって仕舞い、今までずるずると引きずっていたのでしょうね。


「……そう言えば、自分から手伝いを申し出るなんて、今までは考えられない事だね」


 元が酷かったので、回復も顕著なのでしょう。通信係の粘液(スライム)を運ぶと言い出した時の、エディさんの顔と言ったら。


 ここの魔力濃度が高いのも有って、どんどん体内の瘴気が追い出されているのでしょうね。でも、それはあまりよろしくない。急激な変化は、瘴気に纏わりつかれている魂に、少なからず負担がかかる可能性がある。ゆっくり抜けば問題ないのは、ゴドウィンさんの取り巻きの残りで確認済みです。


「つまり、定期的にここに訪れて、徐々に瘴気を抜くことをお勧めします」

「他の子も来ていいのかい?」

「ハイ、大丈夫です。あ、領域内を自由に行動しても構いませんが、命の保証はしません。自己責任でお願いします」

「分かった、世話になるのはこっちだからね、対価は、訪れる事で君に入る力で、構わないかい?」

「問題ありません。寧ろ、それが目的みたいなもんですからね」

「「……ふふふ」」


 あぁ素晴らしいかな、利害関係の一致。これ程分かりやすい関係も無いでしょう……感情は、思いは、唐突に変わってしまいますからね。


「では、やる気がない者を優先的に連れて来ればよいのだな」

「そうですね……後はセスティアさんみたいな方もですね」

「我もか?」


 俺の言葉に、セスティアさんが意外そうな声を上げる。自分は瘴気に侵されて居ないとでも思っていたのでしょうか。必要があるか? と言った感じの視線を向けて来る。


「では、そうですね……セスティアさんはとてもお速いですよね」

「うむ! 我より速い竜は居ないと自負している!」

「ま、その内家のルナさんや、他の竜の方が速くなるでしょうけどね」

「は?」


 俺の言葉に、セスティアさんから<威圧>が飛んでくる。うん、やっぱりここが肝か。


「だって、セスティアさんって速いだけみたいですからね。あ、もしかして、伸び悩んでいたりしません?」

「だまれ」

「自分の速度に、体が付いて行っていないのでは? 速さの為に絞るのは良いですが、それに体力と耐久が付いて「ダマレ!!」」


 今までの自信溢れる態度とは一変、周りを憚る事をせず、苛立ちのまま大声を上げる。その声に反応し、周りの竜達が振り向き、セスティアさんの姿を見て唖然とする。普段はこんな姿を見せないのでしょうね。


「フーフーフー」

「っと、まぁこんな感じで、一つの事に固執して他が見えていない、見る余裕がない、自分が竜の中で一番な事が誇りなのではなく、それに縋らないと平常心を保てない。もし、縋っているモノが崩れたら、糞虫の仲間入りになるかも知れませんね」


 一時期ゴドウィンさんも至っていた状態…強迫性障害だったか、多分それに近い。ひょんなことから、セスティアさんが同じ症状を発症するか分からない。


「精神面が強い個体が掛かりやすい症状の様ですね。瘴気に抗う為に精神力を注ぎ込んで、削って削って、最後に残ったことに固執する。ゴドウィンさんでは、強さそのものに固執していました」

「……治るのかい?」

「取り敢えず、ゴドウィンさんは回復しましたね。方法も荒療治でしたら確立していますよ?」


 俺の言葉に、片手で顔を覆いながら、深いため息を吐くエディさん。大丈夫だと思っていた子まで、他と同じ状態だったのが、思いの外ショックだったらしい。


「優先順位変更だ。セスティア、君は他の者を連れてくるときに先導し、一緒にここに滞在しろ」

「王!? わ、我は!」

「セスティア。私は滞在“しろ”と言ったよ。さっきの君の姿を見て正常だとは、私には到底思えない」

「わ……分かり、ました」


 ガックシと項垂れながら、エディさんの言葉に従うセスティアさん。あまり追い込まないで上げて下さいね、崩れる時は一瞬なのですよ。


(設定)竜の谷の瘴気


竜の谷から噴き出している瘴気は、長時間に渡り取り込むと、様々な精神疾患を引き起こす。

鬱から始まり、強迫性障害や依存症、適応障害

症状が悪化すると、ゴドウィンさんが陥っていた、解離性障害(自分が自分でなくなる)を発症し、トカゲモドキ化する。


瘴気は、魔力と結びつき物質化することからも分かる通り、周囲の環境に常に存在する有り触れたモノだが、自然に存在するモノから、生き物から発せられるモノと、その性質は多岐にわたる。


生物の成長に著しく関与し、特定の属性に関与する瘴気を吸収して成長すれば、その属性に適応した魂と肉体に成長する。また、穏やかな者達に囲まれて育つと、その者達が放つ瘴気を吸収し、穏やかな性格に成長する。

劇的に変化することは無いが、付き合う相手に影響して、考え方や感じ方が変化することがあるが、これも要因の一つ。相手の考えに”染まった”状態。


意思に反応する性質から、逆に精神に作用し、体内から発する以上の瘴気に晒されると、その瘴気の影響をもろに受ける。この瘴気に”塗りつぶされた”状態を<呪い>言う。


そして、魂と瘴気の性質が異なり過ぎると、拒絶反応を起こし、竜族の様な状態になる。

糞虫2号は、元の性質が近かったので、発症せずあの性格のまま成長した。その為、肉体と魂の波長に差異が無く、能力的には普通に成長し、Na.2に収まった。

才能が有ったのは確かだが、何もしていないで才能をドブ捨てている様なもので、結果、周りが病弱な中で真面だっただけ。真面な竜族全体から見たら普通レベル。


竜族は瘴気に”塗りつぶされた”のではなく、成長と共に体内に取り込んで”染まって”仕舞っている状態、表面だけでなく内側まで汚染されているので、<呪い>のように簡単には治療できないし、<鑑定>通常の状態だと判断され状態異常と捉えられない。


治療方法は、綺麗な魔力を大量に吸収することで魂の活動を活性化し、魂と体にこびり付いた瘴気を洗い流すか、内側から自分の意思(瘴気)で動かせる魔力を使って、こびり付いた瘴気を吹き飛ばす。


因みに、ゴドウィンさんは前者の後に後者。ダンマスに威圧された時に、こびり付いていた残りカスを気合で吹き飛ばして快復しました。

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