162 竜王とダンマス⑥(お人形)
①「わーい、久しぶりの友達だー」byエディ
②「わーい、初めて友達出来たかもー」byダンマス
③ダンマス粉砕!
「りゅりゅ、竜王様!?」
「あ~…ごめん。加減を間違えた」
「そんな悠長(あーもう、びっくりした!)な!?」
粘液を経由して、俺の声が<念話>として現場に届く。
あーあー、見事に壊れて仕舞って、上半身なんて原型留めて無いじゃないですか……悪意や害意のない行動は、本当に予測できませんね。
「……あ~、これ~人形~?」(スンスン)
「うぇ!? 人形!?」
「……本当だ。エレン様、これ木製です」(コンコン)
今まで動いていた俺の匂いを、テレさんが嗅ぎ、シスタさんが爪で突く。
まぁ、遠隔操作できるように、着せ替え用のマネキンを改造した、即席人形でしたからね。耐久値は据え置きです。そりゃ、壊れますわ。
その事を知ったエレンさんが、素っ頓狂な声を上げている。よくできていますもんね~、遠目じゃ分かりませんか。まぁ、竜王様は気が付いていたみたいですがね。
……俺の人形が、セスティアさんが来た時既に有ったことに、突っ込みを入れたいところですが、役に立ちましたから今回は不問です。
「どうも私は手加減が苦手でね、壊すつもりは無かったんだ、許してくれ」
(まぁ、即席人形でしたから大丈夫ですよ。新しいのを用意しますので、少々お待ちを)
人形に仕込んだ術式の起動と、<思考同期>や<感覚共有>などのスキル発動に、少し時間が掛かりますからね。
先ずは、感覚を移す人形を持ってこないといけませんね。【倉庫】に作って入れてくれているはずなので、適当に取り出しますか。
「ん˝?」
【世界樹の木製人形】【世界樹の木製人形】【世界樹の木製人形】
【世界樹の木製人形】【世界樹の木製人形】【世界樹の木製人形】
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【世界樹の木製人形】【世界樹の木製人形】【世界樹の木製人形】
【世界樹の木製人形】【世界樹の木製…………
同じ顔の人形が、ずらりと並んだ光景が思い浮かぶ。怖ッ!
いや……うん、術式等を仕込む関係で、壊れた時の為に予備を用意して置いて下さいとは言いましたが、どれだけ用意したのですか。直接作成現場を見るのが、恐ろしいのですが。
え? 職人全員で作業? どれだけ優秀な物が作れるか挑戦? 競争することによる、技術能力の向上?
……理由を付ければ、何でも許されるわけでは無いのですよ? 今回は不問にしますがね。
取り敢えず、適当な一体を【倉庫】から取り出し、コアさんを通して、人形に自身の感覚を移す。これがまた、動けないし結構長いんですよね~。
― ススス… -
……おい、職人共。何をして居るのです? 止まれ、にじり寄るな、その持っている服を仕舞え!
――――
「んん˝! あー、あー…よし」
仕方が無い事ですが、リンク仕立ては、ちょっと違和感がありますね。すぐに気にならなくなるでしょうけど。
関節を動かして、調子を整える。しかし…は~、嫌になるぐらい着心地が良いですね、この服……デザインはともかく。
服を着せてきた奴ら? 主犯格の頭を、撫でくり回しておきました……時間が無いので、服はそのままです。だから、そんな切なそうな目で見ないで下さい。
「よっと、お待たせしました」
「いやいや、すまなかったね…おや? お色直しかい?」
「ははは……無理やり着せられました」
「あはは、似合っているじゃ無いか、君の雰囲気にぴったりだ! 選んだ相手は、君の事をよく見ているんだね」
「そうですか~? よいしょっと」
席に座りながら、改めて自分の恰好を見る。
【魔王の礼服】
黒を基調とした、紳士服の様な見た目の服。本来ならマントも付属しているのですが、見た目以前に着慣れなく落ち着かないので、外させて貰った……席に座ることが在ったら、マントはどうすれば良いんでしょうね? ……ん?
「う~む、よくできていますね」
「うむ、見事なものだ。関節はどうなっているのだ?」
ふと下を見れば、シスタさんとセスティアさんが、壊れた人形(元俺)をまじまじと観察していた。先ほどの玉座への反応といい、こういったものが好きなのでしょうかね?
「しかし、なんで人形なんて使ったのかしらね? ダンマスの事だから、本人が直接来ても、おかしくないと思っていたんだけど」
「流石に安全を優先するであろう」
「私も同意見です」
「あぁ、その事ですか」
確かに始めは、直接会う心算でいましたしね。その方が、相手の反応が見られますし、大半の相手なら、どうとでも対処できますからね……相手が、普通ならですが。
「あ、聞こえてた? ごめんなさい、気になったモノだから」
「まぁ実際、最初はエレンさんが言ったように、直接会う心算でしたからね、間違いでは無いですよ」
「……私が言うのもなんだけど、もう少し警戒心ってものを持った方が良いと思うわよ」
「相手は選んでいますよ」
警戒云々は、よく身内に言われます。てか最近、盛大にやらかしましたとも(クロスさん、大泣き事件)。
「竜族とは、友好的な関係で居たいですからね。多少のリスクを背負ってでも、誠意を見せますよ」
「じゃぁ何で、今回は人形なの?」
「俺は、迷宮主な訳ですよ」
「うんうん」
「その本質は、ダンジョンを運営する事です」
「うんうん」
「そして戦闘は、生み出した魔物にやらせるのが、一般的でしょう?」
「うんう…ん?」
「そんな、戦闘を他者に任せっきりのクソ雑魚な俺が、竜王なんて存在の近くに居られる訳、ないじゃないですか。漏れ出している魔力だけで死にますって」
「「「あぁ……」」」
う~ん、そんなすぐ納得されるのも、複雑な気分。まぁ、死ぬのは言い過ぎですけど、体調は崩すでしょうね。ダンジョンの魔力は拒絶反応が無いのか、いくら濃くても平気ですがね。
そんな訳で、人形を使用することになった訳です。そうでなくても、生身で行くのは止められましたけどね。一部の者たちの目が、現在進行形でぎらついていますし。
「……ダンマス、ちょっと良いかな?」
「なんでしょう?」
エレンさんへの説明が終わると同時に、エディさんが話しかけてきた。なにかありましたかね?
「先ほどより、席が離れているように感じるのだが?」
「気のせいでは?」(ずずず)
「いいや、離れているね! てか、現在進行形で動いているぞ!」
最初に会った威厳はどこへやら、軽いノリで突っ込んで来るエディさん。余裕に振舞っていましたけど、一定以上の警戒と緊張はしていましたからね…特に俺に対して。
緊張が解れたと言った所でしょか、大分態度が軟化してきました、これが本来のエディさんなのでしょう……ふむ。
「……お互い、適当な距離って、あると思うんですよ」
「悪かった! 私が悪かったから!」
「いえいえ、竜王様に害意が無いのは分かっていますから」
「呼び方が戻っている!?」
ははは、反応がいちいち可愛いですね。
エディさんは男? 性別何て関係ありませんね。可愛いもんは可愛い。性別なんざ二の次ですよ、大事なのは内面です、うん。
「痛覚のリンクは切っていましたけど、衝撃はダイレクトに伝わりましたからね~。死ぬ時ってあんな感じなんでしょうかね~…うん、貴重な体験でした」
「う~~~、友と呼べる存在など、この200年居なかったのだ、舞い上がって仕舞ったのだ~」
「大袈裟ですね…仲間なら、沢山いらっしゃるではありませんか。セスティアさんとか」
「…セスティアは弟子であって、友では無い。他の者達も、仲間、同族、部下であって、友では無いし……」
エディさんが、周りの竜達に視線を向ける。その視線を受けた方は、様々な感情が湧きたちますが、その大半が恐怖、緊張、警戒等々……あ~、怖いのか。
分身ですら、近づいただけで弱い相手なら、ダメージを受ける様な存在ですからね。友達になるのは難しいか。
「力を抑えたり、手加減の練習はなさらないので?」
「いや、ちょっとでも動くと、周りへの影響が馬鹿にならなくてね……」
成る程、自身の力を制御できないのか。周りからしたら、それは怖いでしょうね……あれ? 分身は記憶とか、経験を共有できると言っていませんでした?
「うん、できるけど?」
「でしたら、弱い分身を作って、それで加減の練習をして、経験を共有することを繰り返せば、被害を出さずに練習できるのでは?」
「………………は!?」
おい、気付けよ。何年生きているんですか……
「…友として、一言良いでしょうか?」
「な…なんだい?」
「馬鹿でしょ」
「ぐっふぅ!?」
うん、この方の扱い方が分かった。純真と言うか、ポジティブと言うか……弄られキャラだ、この方。
こっちの方が、本来のエディさんの反応なのでしょう、ちょっと楽しそうですもん。なんで王に成って仕舞いましたかね~……他に居なかったのか。仕方がないとはいえ、似合わない。
まぁ、弄るのはこの辺で止めておきますか。これ以上は、相手も不快感を抱くレベルになりますしね。引き際は大事です。
しかし、ふむ……手加減の練習ですか。あれが使えませんかね?
「手加減の練習に、これなんてどうでしょう?」
「…これは?」
「【魔吸石】と言います」
【倉庫】から、直径10㎝ほどの【魔吸石(小)】を取り出し、机の上に置く。
このダンジョンの至る所に、大型のものが設置されている【魔吸石】。空気中の魔力を吸収し溜め込み、大きくなる性質を持つ。
そしてもう一つ、溜め込んだ魔力を接触した物質…正確には、圧力が掛かった部分に放出する性質がある。
【魔力結晶】が吸収した魔力を、魔法の形で放出する現象と、ほぼ同じだったりする。そのまま魔力を放出するか、魔法の形で消費するかの違いだ。
俺がこれを、手加減の練習の為に提示した理由は、二つ目の性質が理由になる。
適度に圧力を掛け、魔力を絞り出す。
当然加減を間違えれば、砕け散ってしまうが、どれだけの力に耐えられるか、吸収以上の速度で放出されられるか…加減は流れ込む魔力の量で、判断できるでしょう。
その違いを見極める事ができれば、加減のコツを掴むことができるかも知れません。あと、大きく動く必要も無いので、とっても安全。
因みに、均等に圧力が掛かる水中などでは、魔力の吸収と放出もある程度止まるので、保存する場合は、水中に安置することをお勧めします。
「成る程、便利なものがあったものだ……どれ」
― パリン -
「「……」」
親指と人差し指で【魔吸石】を摘まんだ瞬間、ガラスが砕ける様な音をたてて、【魔吸石】が砕け散った。
これは、先が長そうですね~。仕方がない、在庫を放出しますか。魔力があれば、幾らでも増やせられますからね。
― ジャラララララ -
「取り敢えず、これだけあればしばらくは持つでしょう?」
「これ…全部?」
「はい。全部差し上げますので、しっかり練習してくださいね?」
そうでないと、俺の本体がまともに近づけませんからね。頑張ってもらいませんとね。(ニッコリ)
て、そうですよ。これを間に挟んでおけば、こちらにまで魔力が流れて来ないでは無いですか。
いや、結果からして、人形で接触して正解でしたけどね?
上半身粉砕とか、もしこれが生身なら、血しぶきすら残らない威力でしょ。
迷宮主のメモ帳:スキル、<~術>(その他)系
<魔術>術式で魔力に働きかけ発動する魔法。術式さえ組めば、後は魔力を込めるだけで発動する。しかし、術式は基点とした座標から動かすことができず、更に他者に見える為、戦闘中に使用するのは困難。その為普段は魔導具として使用される。
<呪術>呪文で周囲の魔力に働きかけ発動する魔法。自身の魔力に加え、周囲の魔力で威力を底上げすることができるが、音、魔力の放出諸々合わさり、周囲にバレやすい。
<契約術>発動条件を指定し、特定の物体(生物を含む)に宿る魔力に働きかけ発動する魔法。約束や従魔契約、奴隷契約に一部の魔道具などに使われる。
<付与術>物質に、特定の効果や属性を纏わせる。効果は一時的だが、武器等の威力を底上げできる。生物に対しては抵抗されて仕舞う為<補助魔法>の分類になる。
他にも有るが、普段の戦闘や生活で滅多に使われる事が無い為省略。




