158 竜王とダンマス②(力比べ)
①お薬の時間ですよ~
②「使ってくれるかな~」そわそわ
③暗躍するには、下調べが大事
「それは置いておいて…そうですね、通路を開けますので、そちらから外に出て来てもらいましょう。ルナさん」
「ハイですわ!」
「足止めをお願いします」
「分かりましたわ!」
「ちょっと、ダンマス! ルナちゃんを死なせる気!?」
飛び立とうとしたルナさんを、エレンさんの叫び声が引き留める。エレンさんや、お体に障りますよ?
「エレンお姉さまは心配性ですわ」
「竜王様には全く敵わないけど、あれでも谷では最強の竜なのよ!?」
「まぁ、所詮? ステータスが高いだけの木偶の坊みたいですし…行けるでしょう?」
「もちろんですわ! あんなポテンシャルに胡坐をかいて、体に使われている様な無能に、負ける道理はありませんわ。寧ろ、倒してしまっても構いませんこと?」
「ルナさん、それは死亡フラグと言うのですよ」
「知っていますわ、それを正面から叩き折ってこそ、本当の強者ですわ!」
「あはは、ヤバかったら援護しますので、全力で当たってきなさい」
「君ら、本当に楽しそうだね」
そりゃあ、心身ともに楽しく健康に、のんびり行きましょうが俺のモットーですので。今まで碌な相手と接した経験が無いので、余計にそう思うのかもしれないですね~。
そんな事を思っていると、今度こそルナさんが飛び立っていった。その姿を、唖然としながらエレンさんが見送っていると、わちゃわちゃと暴れ出す。
「あわわ、あわわ! ルナちゃんが、ルナちゃんが!」
「うぉお!? 治療中なんだから動くな!」
「エレンさーん。今動くと死にますよ~」
じたばたと、無様にもがくエレンさん。治療に当たって居る方たちが、困っているではありませんか。あーもう、仕方が無いですね。
「そんな状態で向かっても、足手まといになるだけですよ? ルナさんを困らせたいのですか?」
「そんなもん! 盾になるだけよ!」
あ~~~うん、説得は無駄っぽいですね。仕方がない、物で釣るか。
「エレンさーん、これは何でしょう?」
「なによ! ……瓶?」
「これを飲めば、動くだけならできる様になりますよ?」
「本当!?」
お、興味をひけましたね。
「差し上げても良いですが……その前に自分の体を、指でちょっと強めに押してみて下さい。そうですね、傷づいた腕辺りが良いでしょうか」
「??? それをすれば、その薬くれるの!?」
「ええ」
肯定すると、すぐさま自分の腕、残った二の腕部分に、親指を押し込んだ。
― ボコ -
そうすると、エレンさんの体が、湿った砂の様に指の形にへこんだ。
これには本人も驚いたのでしょう、今までの暴れ様が嘘の様に動かなくなった。
「……え˝?」
「因みに、全身同じような状態とだけ言っておきます」
「「「ファ!?」」」
「エ、エエエエエエレン様!? う、ううう動いてはなりません!!」
「動いちゃ~、ダメ~」
シスタさんとテレさんが、涙ながらに制止を促す。様子を見るに、もう暴れないでしょうけど、ここでもう一押ししておきましょう。
「因みに、この薬を飲めば動けるようにはなるでしょうけど、今の状態で飲めば、多分数秒で死にますよ…それでも飲みます?」
「え……遠慮します」
「賢明な判断です。ルナさんなら大丈夫ですよ。即死でもしなければ治せますし、すぐに助けに入れます」
自分よりも強い相手に、助かる目途がある中、死闘を行える…こんな好条件、滅多に無いですからね。そうでも無ければ、意味も無く危険地帯に送り出したりしませんって。
「……分かった。でも、その薬は頂戴」
「エレン様!?」
「今は飲ないわよ。でも、飲む機会があるかもしれないし、約束は約束よ」
「プッククク! 思いの外に強かですね。そうですね、効能の説明もありますし、後程説明した後、お渡ししますね」
「今じゃ無いの?」
「お渡しする時期を、指定した覚えはありませんが?」
「グヌヌヌ」
エレンさんと遊んでいると、障壁の向こうから、石が擦れる様な音が鳴り響いてきた。音の発生源に視線を向ければ、俺達とトカゲモドキの対角線上、広場の反対側の地面に大穴が開き、そこからルナさんが飛び出してきた。
「皆さま! こちらにお越しくださいまし! ここから外に出られますわよ!」
「なに!?」
ルナさんの言葉に最初に反応したのは、意外にもトカゲモドキだった。
トカゲモドキが、ルナさんの方を向く。視線は、地面にぽっかり空いた通路に釘付けだ、ルナさんの事など、全く眼中に無い。
自分が置かれた状態は、そこそこ理解している様ですね、どたばたと真っ直ぐ穴へと向かって行く。う~ん、必死。ルナさん風に言うならば、品が無いでしょうかね。
ですが真っ直ぐとは…罠などは全く考慮していないのでしょう。その様子からも、短絡的な思考をしているのが見て取れる。あれは……親子ですし、腐っていた頃のゴドウィンさんと、同じ扱いで良いでしょうね、脳筋ですわ……そんな事を言ったら、ゴドウィンさんと脳筋の方達に失礼か。
穴に向かって行くトカゲモドキに対して、ルナさんも真正面から突撃して行く。先ずは純粋な力比べかな?
一切速度を緩めることなく、二体は衝突する。
― ドゴン! ―
重い物がぶつかる様な衝撃音が響き渡る。ルナさんは錐もみ回転しながら上空へと飛び上がり、トカゲモドキはその衝撃を押し切れず、その場で止まって仕舞った。
「ッぐ! 邪魔をするな、小娘がぁ!!」
「あはは! 貴方の言う事を聞くとでもお思いですか? 愚かですわねぇ~」
ルナさんの挑発に乗り視線を動かすも、すぐさま穴の方へと向き直る。おや、思った以上に冷静のようですね。ですが、止まって仕舞った時点で終わりでしょうけど。
ルナさんが、服に取り付けられた装飾品を手に取り、地上へと向けて放つ。それはトカゲモドキを囲うように、地面へと突き刺さる。よく見れば、糸が繋がっていることが分かるでしょう。
【有線式・遠隔魔法発動ユニット】
職人達によって作られたこの魔道具は、自身が操作できる魔力の範囲を広げる事を目的としており、突き刺さった地面とルナさんを物理的に繋ぐ。
「操土」
「ぐぉ!?」
糸を通じ、魔法が発動。トカゲモドキの両手足に当たる部分の地面が消失し、まるで飛びつく際に足を滑らした猫の様に、顔から地面へと突っ伏した。
「大地剣」
「ゴボ!!??」
更に、地面から飛び出した剣先の様に鋭い円錐の石が、無防備な腹や喉に突き刺さる。柔らかいとはいえ、流石に鱗を突き破るまではいかない様ですが、弱点は弱点。その衝撃に、もがき苦しんでいる。
しかも、石の針によって体を支えられてしまっている為、地面に両手足が付かず、わちゃわちゃとむなしく空を切る。
その間も、どんどん避難が進んでいく。だが、トカゲモドキの回復も早い。石の剣を砕き、地面に手足を付け移動を再開した。妨害の排除よりも、脱出を優先する様ですね。
「稲妻剣」
「ギィィィイイィィイ!?」
真上に陣取っていたルナさんから、閃光と共に幾つもの落雷が降り注ぐ。
幾ら頑丈であったとしても、高圧電流を流されたら流石に動きは止まりますよね。魔力で強化なり、受け流すなりすれば防げますが、他の魔法に比べてこつがいるみたいですし、この場で攻略することは難しいのではないでしょうか?
「嵐矢、稲妻槍、火炎剣、雷球、水撃―――」
「~~~~~~~イギィ!? ~~~~~ゲェ!? ~ガ!!??―――」
実験なのか、ここぞとばかりに色々な魔法を使用するルナさん。合間に<雷魔法>を挟み、動きを阻害するのも忘れない。
そして、無事に竜族方の避難が終了し、唯一の出入り口である穴が、魔法で押さえつけられているトカゲモドキの目の前で、閉じた。
「あ…あ…あぁ!」
諦めきれないのか、穴があった場所まで進み、地面を掘り返そうとしている。障壁すら破れないのに、ダンジョンの壁を、その程度の攻撃で切り崩すことができる訳無いでしょうに。
「はぁ…諦めの悪いお方ですわね。せめて最後位、意地を見せて頂きたいものですわ」
「き、き……(((貴様――――!!!!!)))」
魔力の籠った叫びが木霊する。まぁ、魔力は障壁で遮断されているので、こちらにはただ馬鹿でかい声でしかありませんが。
迷宮主のメモ帳:スキル、<~術>(収穫)系
素材の<存在感知>や、対応した素材への採取及び鮮度維持などに補正を掛けるスキル。
下位<収穫術>:収穫行為に当たる行動に修正を掛ける。これらのスキルが無ければ、収穫することも、収穫したものを保存することができないものがある。(対象や行為によって、下記スキルを重複して習得可能)
<摘取術><採掘術><解体術><伐採術><停魔術>等々
中位<上位~術>
上位:<超位~術>




