149 竜王
①迷宮のレベルを把握
②挑戦者生還!
③魔道具のレベルを把握
私達が【世界樹の迷宮】から戻って、既に十日。道中は特に何も問題なく、テレとシスタ共々五体満足で帰還することが叶った。
今思い返しても、よくもまぁ生きて帰って来れたものだわ。
当時、帰還した時には既に日が傾きだしていたが、早朝から出立したこともあり、竜王様が活動している内に到着できた。なので、到着早々竜王様方に事の顛末を、全てそのまま時系列通りに説明した。周りに馬鹿な奴がいなくて、信用できる方だけだったのが、幸いしたわね。
その時にも思いましたが、なぜあのような状況になったのか、今でも不思議でならない。
始めはスタンピードの発生源の調査だったと言うのに、気が付いてみれば、迷宮に迷宮主に世界樹に新種の魔物や植物、しかも私と同等以上の戦力が複数……こんなの、どうすれば良いのよ。
まぁ、調査結果は報告したし、私たちに与えられた任務は終了。
道中、穏便に済ますために、どうやって説明しようかと考えていたけど、全部無駄に……ならなかった、畜生。
「す~~~~~~……は~~~~~~~~~……」
「大丈夫ですか、エレン様?」
「えぇ、問題ないわ」
そして今、私達は薄暗い洞窟の中を真っ直ぐ進んでいる。その先は竜王様と、今回の為に集まった上級竜の面々が待って居るはずだ。
そう、今からその方々に、説明しないといけないのよね~。気が荒い方や、自尊心が高い方が多いから、発言には注意しないと。そんな方々だから身勝手な方が多く、招集にも時間が掛かって仕舞った訳だ。
ここは、東西に渡って伸びる渓谷の中間、地下の気脈から噴き出す魔力が最も多い場所。
何処からでも、例え谷の端であろうとも、竜ならば一日も有れば着く場所だ。やる事なんて無いんだから、二、三日も有れば集まれるでしょうに。
「は~~~…」
あー、やだやだ。もう全部知っているのだから、竜王様方だけで説明して貰えないかしらね?
そんなこんな私達は、薄暗い洞窟を抜け、目的地へとたどり着いた。
「ッ」
薄暗い中から日の下に出た為、目がくらみ細める。視力が戻った瞳に入るのは、広場の様に半円形に開けた平地、その奥には巨大な大穴。光が全く届かない、谷の中でも最も深い穴、魔力が噴き出す深淵がそこにはあった。相変わらずとんでもない所よね。周りには、今回の為に集まった上級竜が、広場を見下ろすように鎮座していた。
「来たか、待っておったよ」
最初に声を掛けてきたのは、山竜のローバン様。
この谷の最年長かつ、山のごとき巨体を持つ、この谷の生きる歴史と言っても過言ではないお方。
大穴の淵に沿って囲うように、その巨体を横たわらせている。歳は……5000歳はいっていたかしらね?
「おじいちゃん、久しぶり~。今日は起きてた~」
「うむうむ、久しぶりじゃのうテレ。元気にして居ったかな?」
「うん! 美味しいモノ、たくさん食べた~」
「ほっほっほ、そりゃよかった」
「おじいちゃんも、今度食べよ~ね~」
そして、テレの曽祖父なのよね~。報告の為にここを訪れた時は、眠っていらっしゃったので、実質会うのは久しぶりになる。
テレとローバン様は、とても仲が良い。御年の為か、眠っていることが多いローバン様だが、起きている時に会えて、テレもうれしそうだ。
「ッチ、七光りが」
「雑魚が長々と待たせやがって」
「早くしろよな」
……周りからやっかみの声が聞こえてくるが、当の本人は気にする様子も無い。特に、付き添いで付いてきた若い竜がぐちぐち言っているが、文句があるなら、直接言えと言いたい。魔力濃度が濃すぎて居心地が悪いのは分かるけど、その苛立ちの矛先をテレに向けるのはお門違いだ。まぁ、テレとローバン様の会話を邪魔する気はないので、言わないけど。
……テレの魔力量が異常なのは、ローバン様と一緒にここにいる事が多かったからなんじゃないかしらね?
「うん、よく来たね二人も。楽にしていいよ」
そんな中、大穴の淵に作られた台座に座る、草人が話しかけて来る。この方こそ、私達竜の頂点。竜王エゼルディア様だ。
本体は、大穴の反対側からこちらにせり出した地面に、眠る様に丸まり佇んでいる。感覚は、依り代の方に移しているのでしょう。
自身の分身を作り出す方法は幾つかあるが、竜王様の様に、魔力で体である依り代を作り、それに自身の意識を乗せる依り代方式は、その中でも最高難易度の方法になる。その代わり自由度が高く、極めれば本物と全く変わらない姿と、感覚を持った依り代をつくることができる。
「さて、エレン、シスタ、テレ。お前さん方が見てきた事を、説明してもらおうか」
「分かりました、ローバン様」
ローバン様が先を促してきた。どうやら、テレとの会話が終わった様だ。さてと、まずは無難にスタンピードの発生原因からかしらね?
―――
「ほうほう、世界樹が有ったか」
そう言うローバン様は、何故かとても苦々しい顔をしている。世界樹に何か嫌な思い出でも有るのでしょうか?
「……災厄樹か」
竜王様の呟きに、ローバン様の顔が明らかに歪む。
「あれは酷かったのう。あの一件で、残っていた優秀な竜も、殆ど居なくなってしまった」
「位置的に、その時の世界樹が残した種か苗が成長したんだろうね」
御二方が仰っているのは、200年程前に起きた災害。災厄樹による世界の汚染の事でしょう。
私達が生まれる前、この大陸には、それは巨大な世界樹が有ったらしい。大地に根を張り、遥か上空まで伸びるその大樹は、大地と天空に流れる気脈を繋ぎ、世界の魔力の流れを担い、吐き出した魔力で世界を満たしていた。
そんな、世界の安定を担っていた世界樹が突然、変異した。
変異した先は、世界を蝕み災厄を撒き散らす、災厄樹。世界の安定を担う世界樹と正反対の存在だという。原因は分かっていない、辺り一帯は汚染され、証拠も手掛かりも何も残らず、狂ってしまった世界樹では話をすることもできなかったそうだ。その時は人種と共に、総力戦を上げてその災厄樹を滅したらしい。
その唯一の生き残りが、現竜王のエゼルディア様とローバン様。他の方々は、戦いの果てに亡くなり、生き残った方も、その時の怪我と災厄樹の呪いによって、お亡くなりになって仕舞ったという。
その為、今この場に居る上位竜ですら、当時子供だったか、その後に生まれた者、戦闘に付いて行けないと判断され、残った者達だ。その能力は、当時の比ではない程に低下している。
「成る程のう、それでわしを起こしたのか」
「その時の世界樹と知り合いだった爺さんなら、相手が同じ奴かかどうか、分かるだろう?」
「うむ、奴の性格は知っておる」
え? ローバン様、世界樹……災厄樹と知り合いだったの?
「苗ならば、元の人格と記憶を残すことができるはずじゃ。狂っていたとはいえ、奴の性格上、保険を残していなかったとは限らん。どんな奴だったか、分かるかのう?」
「直接話をしたわけではありません。ですが、恐らく世界樹だと思われる者と、迷宮主との会話は聞いております」
そんな私の言葉に、首をひねるテレとシスタ。
「居たっけ~?」
「覚えが有りませんが……」
「ダンマスの首を、絞めていた奴よ」
「「……あぁ」」
二人とも思い出した様ね。私的には、それ以外にそれっぽい奴が思い当たらないのよ。
迷宮の主であるダンマスの首を、冗談とは言え締められる奴なんで、同等以上の相手だけでしょう。そうなると、世界樹以外に思い当たらない。
「して、どんな性格じゃった?」
「私見ではありますが…………子供、で、しょうか」
「子供?」
そう、無邪気で活発な、子供。まるで父親に甘える様に、ダンマスにじゃれ付く、幼い子供だ。
「……奴は、見下されるのが大っ嫌いじゃった。子供のふりなんぞやらんじゃろ」
「なら別モノ、子供の方かい?」
「そちらの方が、しっくりくるのう。はぁ…記憶が有れば、なぜあんな事になったのか、聞けると思ったんじゃがのう」
「ふむ、確かに残念だね……でも、世界樹が復活したのは僥倖だね。これで、この辺りの環境は安定するだろうさ」
おぉ! 竜王様の沙汰が出た。どうやら、あのダンジョンと敵対することは無さそうね。無いとは思っていたけど、あれと戦争とか、本当に勘弁よ。200年前の二の舞に成り兼ねない。




