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144 ルナちゃんの特別授業③

①戦闘経験の確保

②バトル開始!

③ゴドウィン「(一本)とったどーーー!!」


「やはり、格上相手に戦いを挑むと効率が良いですわね。基礎だけで、他の修行を後回しにして、弱い状態で模擬戦をしたのは正解でしたわ」

「うわぁ、効率厨が居るわ。いててて」


 腕や尾を摩りながら起き上がるキョクヤの発言に、う~んと考える素振りをするルナ。


「<毒>や<乱魔>状態などにして、体や魔力を動かしにくくしても良かったのですわよ? 抵抗力も上がるでしょうし……まぁ、随時更新するのが面倒ですからやりませんが」

「最後のが本音でしょ」


 ~ マスターの帰還時期が決定致しました ~

 ~ 帰還予測は4日後となります ~


「「おぉ!?」」

「おぉ!? お父様が帰ってきますわ! クワ、クワァ!」

「この声って、ダンジョンコアよね。え? ダンマス、どっか行ってたの?」

「声…何のことだ?」

「あら、貴方にも聞こえたのですか? ゴドウィンは聞こえなかったと。ふむ……コア様の声が届いたと言う事は…成る程。コア様の許可は出たと考えて宜しそうですわね」

「おーい」

「ん? あぁ、そうですわよ、何処に行っているかは存じませんがね」


 しばし思案した後、ニヤリと良いことを思いついたと笑みを浮かべるルナだが、すぐに質問されていたことを思い出し、その問いに答える。


「師匠! 次は何をするんだ?」

「もう夜になるのに、頑張るわね~あんた。私はもう眠いわ」

「何を言っているのかしら? 次は貴方がメインですわよ」

「ふぁ~~…あぃ?」


 そんな二人のやり取りに我慢できなくなったのか、ゴドウィンが会話に割り込んでくる。先ほどの戦闘の余韻か、疲労などお構いなしにテンションが振り切っている様子を見て、キョクヤがあくびを堪えながら呆れたような視線を向けるが、ルナによって無情な現実が突きつけられる。


「さて、ゴドウィンの戦闘勘(野生)も戻ってきたところで、次に行きましょうか」

「おす!」

「え゛、チョト待テ?」

「先ず貴方は、その魔法タイプとは思えない程貧弱な<魔力操作>の強化、ゴドウィンは魔力保有量に直結する体内魔力の圧縮ですわね、丁度いい場所もありますし移動しますわよ」

「おす!」

「待って、せめてちょっと休憩入れても良いと思うの、ねえ、聞いてる?」


 ―――


 キョクヤの儚い訴えが聞き届けられることは無く、結局ずんずん進んでいく二体の後を、渋々と言った様子で付いて行く。自身の実力アップにつながるのもそうだが、無視して帰るのは元日本人の残滓が許さなかったのだ。

 そして、大して時間が掛かる事無く目的の地点へと辿り着く。


「おぉ~」

「何、この穴?」

「ここは、地下迷宮への入り口の一つですわ」

「こんな分かりやすい形で、隠し通路? があっても良いの?」


 目の前には、地下へと続く直径10mはある野晒にされた巨大な縦穴。地上からならば、近付かなければ分からないかもしれないが、上空からでは丸見えの構造をみて、キョクヤが疑問を口にする。


「問題ないですわ、ここ一帯は常に霧に覆われていますので、上空からも見えませんし、仲間以外が入れば即迎撃するシステムになっていますわ」

「成る程、ある意味罠の一つって事ね……私達が入って大丈夫なの?」

「ゴドウィンは、(わたくし)と一緒であれば問題ないですわ。貴方は、いつでも入って構いませんわ」

「え、良いの?」

「コア様の声が聞こえたのでしょう? つまり、既にお父様から許可が出ている事になりますわ。但し、貴方の配下は入らない方が良いですわね。恐らく許可が下りていないでしょうから、侵入者として処分されますわよ」

「ヤバいとこじゃ無いの!?」

「まぁ、警告は入るので、そこまで心配しなくてもよろしいですわよ。心配なら、そこに居る担当に確認を取れば問題ないですわ」

「「え?」」


 そう言って指さす方向には、小さな水溜まりの様なプルプルしたものが静かに鎮座していた。


「プル様、この二体を通しますわ」

(りょうか~い。キョクヤのほうはいいけど、ゴドウィンのほうはせきにんもってね~)

「分かりましたわ。さ、許可も頂きましたし下りましょうか」

「お、おう!」

「ちょ、私飛べないんだけど!?」

「跳べるでしょう…しょう…しょう……」


 ふわりと飛び上がり、縦穴の奥へと落ちていくルナとそれに続いて行くゴドウィン。飛べないキョクヤの嘆きとルナの無慈悲な声が縦穴内に木霊する。

 ぱっと見何もない様に見えるが、壁には螺旋状に凹凸が存在し、機動力がない者でも降りる事はできる様になっているが、平地で活動していたキョクヤにしてみれば、無茶振りに変わりは無かった。


(いってらっしゃ~い)

「あぁ~~~もう! ここまで来たら最後までやってやら~!」


 ―――


 下へ、下へ、更に下へ、地の底にまで続いているかと錯覚するほど奥深くへと降りていく。進むごとに濃くなる魔力は薄い場所へと流れ込もうと、未だ体内の魔力が薄い二体の中に、呼吸する度に流れ込んでくる。

 どれ程潜っただろうか…纏わりつくような重さを伴う様なった頃、終着点へと到着した一行の目に映ったものは、光が満ちた巨大な空間。壁一面には魔力を吸って光を放つ【光苔】や【灯り草】が隙間なく茂り、着地と同時に足元から魔力光が舞い上がる。地下とは思えない程の明るさを放っていた。


「何……ここ?」

(【世界樹の迷宮】、【東エリア・地下一階・連絡通路・合流地点】だよ~)


 キョクヤの呟きに、地上にも居たプルプルした物体が答える。

 地上に居たのに何故ここに居るのかと疑問が顔に出るが、言葉にするよりも前にルナが話を進める。


「話は後ですわ、時間は有限! サクサク行きますわよ!」

「何するんだ?」

「それは……全力疾走ですわ!」


 ふふんと踏ん反り返り、高らかに言い放つルナの言葉に、すぐに気持ちを切り替えるゴドウィンに対し、ちょっと期待していたキョクヤは、肩透かしを受けた様に呆れ顔をする。


「なんて古典的な……」

「貴方はそれと並行して、ゴドウィンが行った基礎訓練ですわ!」

「走りながら!?」

「おぅ…それは……きついな」

「きついの!?」

「ここでなら、外から魔力を吸収し続けられるので、回復が追いつく限り訓練し放題ですわ!」

「休憩なしぃ!?」


 ―――


「さっきのプルプルしたあいつは、何だったんだ? す~~~…」

「あれって、スライムよね? …って、崩れる崩れる!?」

「あの方は粘液族のプル様、この迷宮の最古参の<幹部(ボス)>ですわ」

「あれが? とてもじゃ無いが強いようには見えないが…す~~~…うっぷ」

「サポート特化とか、特殊能力が凄いとかじゃない?」


 魔力の球体維持しながら走るキョクヤの適当な考察に納得し、呼吸と共に体内に入って来る魔力の圧縮と、循環消費に専念する。周囲から高濃度の魔力を吸収する関係上、身体へと回している魔力の消費が追いついていない為、油断すると圧縮した魔力が内側から膨れ上がり負荷がかかるのだ。

 そこでふと思ったのか、ゴドウィンの頭の上に鎮座するルナが口を開く。


「そう言えば貴方、よく初見の相手を投げられましたわね。武術の心得がおありで?」

「ん? あ~、何というか、魔力の流れを見てると、何となく分かるのよね。こう、流れに対して垂直に力を加えると、受け流しやすい気がするのよ」

「魔力の流れが見える? まさか魔力視持ちですの?」

「「魔力視?」」


 初めて聞く言葉に、仲良く首をかしげる二体。

 魔力視とは、魔力の可視領域の様なもので、本来目で見ることができない魔力を視認することができる程、その領域が広い者、又は魔眼やスキルを指す言葉である。

 後天的にスキルとして習得することが無い訳では無いが、その可能性は極めて低い、所謂ユニークスキルに分類されるレアな存在になる。


「師匠は見えないのか?」

「ええ、こればかりは才能と体質ですわね~、羨ましいですわ」

「でもよ、師匠が放った魔力の球体とか、目に見えるぞ?」

「あれは魔力に指向性を持たせている為ですわ、魔力が直接見えているというよりも、その中に含まれている瘴気や、濃度差から来る魔力光、可視できる属性の波動が見えているだけで、魔力そのものは見えていないのですわ。それと、精霊族の方を直接視認できるのも、魔力視を持って居る方だけですわね」


 魔力の塊である精霊族は、見る者によっては朧気に見えたり、全く見えなかったりするが、魔力視を持たない者以外、その姿を完全に視認することはできないのだ。


「お父様曰く、風の強い日に木々が揺れ、頬に風が当たれば風が出ていることが分かるが、空気が流れていること自体が目に映る訳では無い…との事ですわ」

「成る程……」

「他に質問は? ないなら……体もこ慣れてきたでしょうし、難易度を上げましょうか」

「え?」


 確かに、空気自体を見る事はできないと納得する二体は、特に何も無いと頭を振る、振って仕舞う。

 先ほどからキョクヤは“深呼吸”と“お手玉”、ゴドウィンは体内で“魔力圧縮”をしながら走っている訳だが、基礎練習には“ピンポン”も含まれている訳で……


 ―――


(迎撃)(回避)(防御)……」

「何故簡単にできる!? 「はい、(回避)ミスですわ」 フベラ!?」

「いや、うん。何となく? ほい(ターゲット)撃破!」


 色とりどりの魔力球が降り注ぐ中、二体の魔物が全速力で疾走する。未だ見切りと魔力の切り替えに難のあるゴドウィンとは打って変わって、キョクヤはミスなく捌いて行く。


「う~ん、魔力視持ちはこれだから。これでは訓練になりませんわね……頃合いもいいですし、難易度を上げましょうか」

「なんですと!?」

「魔力配分と操作、属性変化の訓練ですわ! 確か、全属性扱えるのでしたわよね、同じ属性で相殺しなさい!」

「ちょっと待って! 今の状態でも結構きつ 「行きますわよ!」 話を聞けーーー!!」

「ちょ、俺の方も増えて無いか!?」

「アンタはもっと気張りなさい、愚図! 何ですかその貧弱な<身体強化>は! 消費魔力の多さに腰が引けているのが見え見えですわ! そんなんだから、魔力消費が追いつかないのです。自分でできないのならば、私がせざる負えない場を用意してあげますわ!」

「うぉーーー!?」

「キャーーー!?」

「走れ! 足掻け! 根性見せろ!! 限界と言う名の壁を乗り越え、前へと進めーーー!」


 悲鳴と怒号が、地下通路に木霊する。


迷宮主のメモ帳:魔力視


魔力そのものを見ることができる存在や、魔眼やスキルを表す。

赤外線や紫外線の様に、人の目では視認できない領域、可視領域の波長が見える様なもので、習得した者の聞き取りをもとに再現を行っても、習得に至らなかった所を見るに、体質や才能がない者は、習得できないと思われる。


魔力を纏った物質や魔法が通った後には、魔力の残滓や流れができるので、通常点で捉える所、(軌道)で捉えることができる為、他よりも見極めが容易になる。

また、体内に流れる魔力の流れも見ることができる為、相手の行動を先読みできたり、流れに割り込む様に力を咥えれば、合気道の様に簡単に力を逸らすことが可能。


迷宮内でも数体しか持って居ないレアスキル(体質)。迷宮主()でも、コアを通さなければ見ることはできない。

世界樹さんはがっつり見えている模様。ドヤァするので、話すときには注意する事。

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