142 ルナちゃんの特別授業①
①魔導砲、ヒャッハー!!
②獣人回収
③肉回収
「さてゴドウィン、あれから数日経ちましたし、ここにも慣れた頃でしょう。そろそろ始めましょうか……お父様も目覚めませんしね…はぁ」
世界樹から見て東に存在する高山地帯。土属性の魔力が多く渦巻き、【魔力結晶(土)】の影響もあり元の山よりもさらに高くなった、霧と風が渦巻く岩石地帯。そこに二体の竜が向かい合っていた。
「お父様から貴方の面倒を見る様にと言われたからには、手加減するつもりはありませんわ、全身全霊を持って鍛えて差し上げます。既にその覚悟は、おありなのでしょう?」
「勿論だ、よろしく頼む!」
「本当に性格が違いますわね、調子が狂いますわ」
片やこの【世界樹の迷宮】へと敵対し、紆余曲折の後に配下に加わった暴竜のゴドウィン。
片やこのエリアを担当する、迷宮の<幹部>であるルナ。
見た目はゴドウィンが圧倒的に大きいが、その立場と実力はお互いの反応を見るに、明らかだろう。
「それで、俺は先ず何をすれば良いんだ? 周りに何も無いのを見るに、色々と動く事になりそうだが」
「では、最初の課題を言い渡しますわ、心して聞くように」
「おう!」
やる気十分と言った様相で、覚悟の籠った視線を向けるゴドウィンに対し、高らかと言い放つ。
「深呼吸ですわ!」
「……は?」
思っていたモノと明らかに違う、呆気ない内容に素っ頓狂な声が漏れる。
「先ず貴方は、その凝り固まった体を解さなければ話になりませんわ」
「アァ……うん、瘴気は抜けたって聞いてたが」
「それとは別ですわ。今まで全く動かなかったからなのか、瘴気のせいで動かせなかったかは分かりませんが、魔力の流れが悪すぎますわ。真面に魔力を使う事もできないはずですわ」
「そんなにか?」
「ふむ、先ずは理解することが大事、でしたわね。先ずは実践して見せましょう。はい」
そう言うと、ルナの体の周りに魔力の層が現れる。その魔力は外に漏れることは無く、綺麗な真球を保ち、高速で流れ、巡っていた。
「す…げぇ」
「取り敢えず、これができる位にならないと、お話にならないですわね」
生唾を飲み込む音が、静かな空間に響く。
これが最低レベル……この段階で、圧倒的な練度の違いを突きつけられたゴドウィンは、先ほど上げた声が嘘の様に、歓喜の色を表していた。
自分の周囲にいた者たちとは、明らかにレベルが違う。ならば、可笑しな事と思う事も、寧ろおかしいと思う事程、他の者がやらないこと程、何かしら重要な要素が含まれているはずと。
「分かった、深呼吸だな!」
「コツは、とにかく深く吸う事、さぁ開始ですわ!」
―――
「全然足りないですわよ~、もっと体の奥まで、ガチガチに固まった体を押し広げて、吸い込んだ魔力を体に流し込みなさい」
「す~~~……は~……」
「吐き出すときは口からでなく、体から出る様に。そうすれば、魔力の流れと放出がスムーズになりますわ」
「す~~~……どれ位やる事になるんだ? は~……」
「まだまだ、これは初歩中の初歩、魔力を使えない子供が行う準備に過ぎないですわ。ほらもっと深く吸う!」
「す~~~~「もっと」~…~……は「もっと!」…!…ッ……げっほ、ごほごほ!?」
「むせるのは、魔力の圧縮が不得手な証拠ですわ。碌にブレスも撃てないのではなくて?」
「うぐ」
深呼吸
魔力の柔軟体操。体の中の魔力の流れを円滑にし、魔力の使い方の基礎を覚える方法。
この動作だけで、魔力の操作、吸収、圧縮、放出、保持の訓練が行え、且つ慣れて仕舞えば、他の事と同時に行える。
<魔力操作>の習得に大きく関わり、これを自在に行えるかで、スキルレベルの壁であるLV5を超えられるかが決まり、体質や才能によっては、<魔力吸収>や<MP回復速度上昇>等、様々なスキルの習得に至る。
「はいはい、どんどん吸う!」
「す~~~~~~! ……は~」
―――
魔力の球を周囲に浮かべて回しながら、両手で大道芸張りに複数の球をジャグリングしているルナの横で、深呼吸しながら歪な魔力の球を、必死に球体へと近づけようとしていた。
「呼吸を忘れていますわよ?」
「むぐ…す~~~~~~」
「今度は魔力が外に漏れますわ、集中集中」
「ど、同時並行は、難しいな、す~~~~~~…」
「最終的に、無意識下で行えるようになるまでやり込むことになりますわ、今は、とにかく慣れるまで続けなさい。休憩は無しですわ」
「おう、す~~~~~~~」
お手玉
魔力の球を作り、それを放り投げた後に回収する。複数同時に行う事で、最終的にお手玉の様になる。
体外での魔力の操作、圧縮、集中、形状変化、複数操作、体からから離れた状態での維持、および操作可能範囲の把握と、拡大に繋がる。魔法を使う前段階としては、とても優良であり、体外での魔力操作の基礎。
― ツン ―
― パン -
「あぁ!?」
不意にルナが、魔力の全く籠って居ない尾で、ゴドウィンが維持していた魔力の球を突くと、簡単に壊れ霧散して仕舞った。
「う~ん、圧縮と魔力の維持が全然ですわね、原因は分かっているのかしら?」
「ぎ、技量不足か?」
「技量だけなら、小さな弱い球体ができるだけでしょうね。大きさや、形の問題ではなく、何故これだけ歪で脆いかですわ」
「む、むぅ?」
「理解した上で行うのは確かに効率が良いでしょうが、自ら気が付くのも大事ですわ。やりながら考えて見なさいな」
「分かった。す~~~~~~~~」
―――
空中に浮かぶ大量の魔力の球体、それはルナを中心に回り続け、さらに増え続ける。だがしかし、それが溢れる事は無い、何故ならば作った端から消費されているからだ。
― ドスドスドス、ドスドスドドドドドス……ドスドス -
「う、ぐ、う゛、~~~~~~~! ウギ!?」
「ほらほら、呼吸が止まっていますわよ~、吸って、吸って。でなければ、魔力が尽きますわよ~」
「す~~~(ドス)げっほ、ごほ!?」
「気を抜き過ぎですわよ~、ほら、球も作り直す」
「お、う!」
ピンポン(ピンポイントガード)
魔力の球を放ち、それに対して着弾部位に魔力を集中させることで防御する。それ以外は魔力を纏わない事で、ミスした時に悶絶することになるので、簡単にミスが判断できる。込める魔力を一定にすることで、死ぬような事にはまずならない。
体内での魔力操作、圧縮、操作、集中、魔力配分、それに伴う反応速度と防御力の向上が見込める。体内での魔力の動きを把握する基礎にもなる。
同レベル同士では、お互いに魔力の球をぶつけ合い、相手にクリーンヒットさせた方が勝ちの遊びにもなる。
「はいはい、どんどん行きますわよ~」
―――
― ドスドスドス、ドスドスドドドバン! ドドスバン!……ドスドス -
「うぎぎ、だぁ! おら! うぐぐぐ、うら、あ!?」
「は~い、赤への反撃ですわ!」
「ぐほ!?」
高速で飛んで来た、攻撃性を伴った魔力の塊が、ゴドウィンの脇腹へと突き刺さる。威力はそこまでなくとも、魔力による防御が無い状態では、無視できない一撃となる。
「今の私の一撃だって、来るのが分かっているのだから、ちゃんとガードしなさい」
「う……す! す~~~~~~~~~」
「攻撃の種類をもっと見極めなさい、必要な時に、必要な箇所へと、必要な分だけ回し、相手の行動を見極め、常にその場での最適解を見つけ出しなさい。練習でできなければ、本番では役になんて立ちませんわよ?」
色付きピンポン
魔力の色が属性によって変わる事を利用した、ピンポンの派生。迎撃、回避、防御、反撃、等々を割り当て、瞬時の判断を強要する。魔力の質を瞬時に切り替える必要があり、より実践的な訓練に繋がる。
他にも形などを組み合わせることで、より複雑にすることもできる。また今回は、失敗時にルナによる高速攻撃が襲ってくる。
青色を大量に含んだ魔力の球が、他の色と上空から降り注ぐ。
「これを回避とか無理だろ!!??」
「ちゃんと穴はありますわ、見極めて、防げる攻撃を選びなさい! 後、呼吸!」
「うぉーーー!?」
―――
「ほらほら、急がないと時間切れになりますわよ~?」
「ぬおーーーー!! 遠すぎるだろ!!」
「<身体操作>さえ使いこなせれば、問題ないですわ。はい黄色失敗ですわ」
ルナの手元から離れ、崩壊が始まっていた黄色い魔力でできた立方体が、ゴドウィンの手が届くその前に消滅する。それと同時に、ルナの一撃が飛んでくる。
「グ!」
「お、今回はちゃんとガードできましたわね、順調に成長していて、私は嬉しいですわ」
「お、う。まぁな…て、もう次始まってねぇか!?」
「15~、14~……」
「うぉーーー!」
ピンポンラン(ピンポン+シャトルラン)
特定ポイントに向け、時間内に到着することを繰り返すシャトルラン。
常に動き続ける体力、新たに設置されたポイントを探す索敵能力、放たれる攻撃を見極める判断力、ミスした時の咄嗟の判断、攻撃を受ける事前提で行動を起す決断力を試される。
移動スキル、感知スキル、情報処理スキル、その全ての基礎的なスキルをこれ一つでほぼ習得可能。
競争の場合、お互い妨害しながら、先に取得した方の勝ちとなり、相手によって対策が異なるので、遊びとしてもかなり人気。
「もっと体に魔力を込めなさい鈍足! 反応が遅いですわよ愚鈍! 相手の攻撃を見極めなさい鈍感! お父様へ切って見せた啖呵は如何した!! 見せかけだけの口先野郎か貴様は! 根性見せろや!!」
「ギ……ガァァァァーーーーーー!!!」
「……姉御楽しそう」(ぼそ)
「あぁ、うん。帰るか? それとも残って巻き込まれるか?」(ぼそ)
「「「撤退で」」」(ぼそ)
その裏で、トラウマを刺激された者達がチラホラと……
―――
「ひゅー、ひゅー、ひゅー」
「う~ん、体力も魔力も底をつきましたわね、ほら呼吸が乱れていますわよ。そんなんじゃ回復もできないでしょうに」
「す~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……んぁ?」
「大分スムーズにできる様になりましたわね。完全にマスターすれば、魔力回復速度は目に見えて速くなりますわよ」
外から魔力を吸い込み取り込む。スキルとしては<魔力回復速度UP>や<魔力吸収>などのスキルと同じような効果が見込める為、殆どの者が習得している基礎にして、最重要技術である。
「さて、そこそこ体も魔力もほぐれた所で、そろそろ本番に行きましょうか」
「本番!?」
「何を驚いているの? 今までなんて遊んでいただけですわ」
「マジか……」
練習と言う意味でなら、今まで行った事だけでも十分な効果は見込めるが、ゴドウィンが望んだのはあくまで訓練。それもここのトップ、迷宮主に直談判しての先行投資での結果であり、彼を敬愛しているルナが、生半可なもので済ますはずが無かった。やるからには全力で限界まで、それがルナである。
「先ずは、その貧相な魔力使用限界量の拡張からして行きましょうか。今までで、一度に使える魔力の量が少なすぎる事は、嫌でも実感できたでしょう?」
「おう、それはマジで実感したわ。対応が追い付かねぇ」
「その後は操作可能量の強化で、訓練効率を上げた後、身体への強化限界量、魔力性質変化速度、操作可能範囲の拡張、やる事は山積みですわよ! ……覚悟はできているわよね?」
「……俺が望んだことだ、確認するまでも無い!」
「ふふ、それでいいですわ。貴方の覚悟を見せる場を作ってくれたお父様に、感謝する事ですわね」
「覚悟?」
「そう、お父様の<威圧>を受けながら、あれだけ動いて見せたのです。能力はともかく、本気である事は皆に伝わりましたわ。後は実力が伴えば、貴方は本当の意味でこの迷宮の仲間として迎え入れられるでしょう。だからこそ、死に物狂いで挑みなさい! 手心などしませんわよ!」
迷宮主さんが目覚めないので、その間にルナさんによる、養生が済んだゴドウィンさんの強化計画が始動。なおこの後、ゴドウィンさんはぼっこぼこにされます。
斬竜、噴竜、その他多数「「「頑張ってんな~……」」」




