140 狩りの時間だー!
①高速道路(気脈)
②どんな所にも、生き物は居る
③獣人発見!
「「「ガーーー!!」」」
ルナのその姿を見て、その場にいた竜族の殆どが、敵意剥き出しで襲い掛かる。
何十発ものブレスが撃ち込まれるが、避ける素振りすら見せない。爆音が響き渡り、黒煙で姿が見えなくなるが、それでも攻撃の手が緩むことは無い。それは、自身の攻撃が通じないからだけでは無かった。
彼等は言語を理解していない。その為、言葉遣いなどに意味はない。<念話>の中に含まれる、意味と感情を読み取っているためだ。
そして、その意味と共に、ルナが自分たち竜族に向けている感情も察することができた。いや、ルナの方に隠す気が無かった。
無関心
自分たちを見る相手は、常に怯え、恐怖し、逃げ惑うと言うのに、道端の小石を見る様な感覚で、全く興味を示していない。その態度が、彼等のプライドを刺激したのだ。
一通り打ち終えたのか、ブレスの炸裂音が止み、辺りを静寂が包み込む。
「煙たいですわね」
無傷で佇むその姿に、ブレスではダメだと、一体の竜が丸のみにできる程の体格差を利用して、突進する様に直接齧り付く。
……だが、その牙が届くことは無かった。
「ギャプゥベ!?」
ルナが球状に展開している障壁によって阻まれたためだ。その障壁は、足場の魔術と連動しているのか、一切揺らぐ事が無い。
全力で、不動の岩に齧り付くようなものだ。牙は根元から折れ、自身の勢いと体重を支えられなかった首がへし折れる。
ここに来て、竜族側に初めての死者が生まれた。完全な自爆なのだが、そんな事関係ないとばかりに逆切れし、群がる竜族。
爪で、牙で、尾で、拳で、できうる限りの攻撃で、障壁を破ろうとする。ガリガリと、障壁と牙や爪が擦れ合うが、破れる兆しはない。
― ッパン! -
「ギュワ!?」
そんな中、虫塊の如く蠢き合う竜の間をすり抜けて、魔力の球体が真っ直ぐ突き抜け、獣人を襲おうとしていた竜の目の前で破裂する。
「これ以上の攻撃は、敵対行為とみなしますわ」
散々攻撃して置いて、忠告を入れたのは獣人達への攻撃にのみ。自分の攻撃は、攻撃として認識されていない。
うすうす気が付いていた、認めたくなかっただけだ。だが、もう、何もかもが遅かった。
ルナへ興味を持たず忠告を聞く気も無い、ルナへの攻撃に参加していなかった個体が、最終警告を無視したのだ。
「はぁ……忠告いたしましたわよ?」
無機質、何処までも無機質な殺気。その中かに含まれる愉悦。まるで、玩具を手に入れた子供の様な無邪気な感情が、声と共に漏れる。
その感情には、覚えが有った。自身が格下の相手を、遊びで嬲り殺すときに抱く感情だ。
「風魔槍」
魔法陣が展開される。
そして、魔力を含んだ風の槍が、獣人達に向かおうとしていた竜を、大地に縫い付けた。
「「「……」」」
「ふむふむ、貫通力、強度、精度に、速度。消費の割に中々ですわね。応用も効きそうですし、メインに加えても良さそうですわ」
じりじりと後退さる下級竜たち、ここに来てようやく、自分たちの立場を理解した。狩る側ではなく、狩られる側である事に。
「ここは、何もありませんわ。誰のものでもない土地、主のいない場所。ここでは貴方達のルールは当てはまらない、貴方達を守るモノはありません、それに……」
地上が白い霧で覆われる。
その霧は、何処までも広く、深く、まるで生きているかのように蠢き、獣人達を覆い隠してしまった。
「お待たせー」
「遅いですわよ、フワフワ様。時間稼ぎが面倒でしたわ……さて」
ニコ……と、ここに来て初めての笑顔を見せるルナ。
「これで、獣人様方に被害が及ぶことが無くなりましたわね。ようやく動くことができますわ」
スカスカのスポンジから、水が溢れるかの様に、目の前の幼竜から、感じていた存在以上の魔力が溢れ出す。その魔力は、自分たちよりも、竜の谷の竜よりも、多く、濃く、重く……
「私は、散々忠告いたしましたわ。機会も与えましたわ。それでも、貴方達は攻撃を止めなかった……ここにルールはありません、力が全ての世界。ならば、こちらも貴方達と同じ対応を致しましょう」
三日月の様に口角を吊り上げながら、魔術を組む。
「それでは……反撃させていただきますわ♪」
この瞬間、ルナの中で彼等竜の価値が昇華した……ゴミから、動く的へと。
「魔刃」
魔力の刃が飛翔し、近くに居た竜の頭がズレる。
「ふむふむ、魔力だけでは、直ぐに霧散して仕舞って距離が短いですが、殺傷能力は中々。殺さないようにするには、威力を抑えるか、急所を避けるしか無さそうですね……風魔刃・乱」
腕を振るうと、その方向に居た数体の竜が、細切れになって地上へと落下していった。
「乱は、細かく対象を指定できないのが欠点ですわね。その分、特定のパターンが無いので避けにくいですし、殲滅用と考えれば、使い所はありますわね」
「「「ギャー!?」」」
ここに来てようやく現実に追いついたのか、逃げ出す竜達。本能なのか、その殆どが竜の谷へと向かう。
そんな中、自棄にでもなったか、逆に向かって来る者も居るが……
「魔刃・纏」
魔力の刃が、自身を中心に回転し、近づいてきた相手をミキサーの様に削り取る。返り血については、刃の更に内側にある障壁によって、浴びることは無い。
「これも有用ですわね、雑魚払いに最適ですわ……しかし、血肉への注意が必要っと。さてさて、お次は~」
懐から取り出した紙束を捲りながら、魔力を練りなおすルナ。ここまでで、周りに残った竜は居なくなっていた。
「姉御ー、それなんだー?」
「ん? あら、貴方達居たの」
「ひでぇな!?」
そこに現れたのは、連れとして同行していた噴竜と斬竜。実は、フワフワが獣人達を包み込み、保護した段階で近くに居たのだが、あまりにも姉御が楽しそうに技を使っていたので、落ち着くまで様子を見ていたのだ。
「……獣人、居た」
「そうそう、今はフワフワさんが守っているけど、俺達が不用意に近づく訳にもいかないだろ?」
「それもそうですわね、貴方達が動けば、場合によっては死人が出て仕舞いかねませんわ。でも、貴方達が近くに来れば、あの程度の相手、すぐに委縮して逃げ出したのではないかしら?」
「またまた~」
「……<隠蔽>、わざと」
「そんなことして獲物を逃がしたら、姉御が拗ねるだろ?」
「さぁ、どうかしらね~?」
目を細め、面白そうに答えるルナ。その表情はとても冷たく、ゾクリと寒気を覚える程の狂気と、幼い外見からは想像できない程の、背徳的な妖艶さを併せ持っていた。
その姿を見た二体は、視線を逸らし、話題を切り替える。
「そ…それで、その紙は何?」
「あぁ、これ? これは、お父様の覚書ですわ」
「……マスターの?」
「この中には、実用的な物から、冗談な様なものまで、技の構想が山のように書かれているのですわ」
「でも、地味なのばっかだな」
「効率が良いと、言ってくださいまし! それに、もっと凄いのだってありますわ!」
「……どんなの?」
「そうですわね~……丁度いいですわ。実際に使って見せますわ!」
そうして、谷へ逃走中の竜の群れへと向き直る。
幾ら弱いと言っても、そこは竜族。その中でも、飛行に長けた者達。既に、かなりの距離ができていた。
「逃げ足だけは速ぇなぁ、届くのかぁ?」
「まぁ、見ていなさい。この技は……今のままでは、使えませんわね」
そうしてルナは、技の為のリソースを確保する為に、足場の魔術以外の全ての魔術、魔法、スキルを、解除した。
― ドグン -
ドロリと、抑えていた魔力が流れ出す。空気中と魔力濃度の差が生まれる事で、陽炎の様にその姿が揺らめく。
そして、魔力濃度の差から、漆黒の鱗が月明かりの様な淡い魔力光で輝き、白とも黒とも見える、その特徴的な姿を現す。
存在するだけで、周りの魔力濃度を上昇させる圧倒的な魔力量。その存在感は、先ほどの比ではなかった。
「さて、久しぶりに本気で行きますわよ!」
「どなたか、ここに有ったメモ帳(黒歴史)を知りませんか? 見つけた方は、中身を見ないで届けて下さい」 by迷宮主




