125 人生諦めが肝心
①獣人は感覚が鋭い
②獣人の今後の予定
③リリーさんの正体とは?
リリーさんの元へ<神出鬼没>で移動する。処理の負担? コアさんに全部丸投げですが、何か?
「リリーさん、無事ですか~?」
「ああ˝~~~!! 私を見捨てた奴が来た!」
「あはは、何気に楽しんでいるじゃないですか」
「楽しくない! ガルルルル」
うむうむ、元気そうで何よりです。しかし、完全に遊ばれていますね。犬顔のゴスロリとか、誰得なんでしょうか。
「動きにくい!」
嫌な理由はそこですか。この世界にゴスロリとか、無さそうですしね。良く分からない変な服を着せられて、羞恥心も何も無いか。
てか、周りに散らばっている服がニッチな物ばかりだ。水着や着ぐるみまであるぞ、しかも何故に犬に犬の着ぐるみを……
「はいはい、皆さんもちゃんと真面なものを選ぶ」
「これが真面じゃないと!?」
「そうだそうだー!」
「いや、趣味全開でしょうに」
リリーさんの要望は、動きやすい服です。今だって、完全に嫌がっているでしょうに。
「動きやすい且つ、元の服装に似たものを見繕ってください」
「「「え~~~」」」
「……ほうほう、その程度のこともできないと? テーマが決まっていると、まともにセッティングできないと? 装飾課が聞いて呆れますね~」
カッチーン
「言ったな!?」
「元の服、持って来ーーーい!!」
ふ、チョロいですね。
「リリーさん、親元に連絡を取りました。今すぐの帰還を希望していますので、準備をお願いします」
「皆、無事だったか?」
「あー、どうでしょう。聞いていないですね。怪我人が出たり、騒ぎになっていたりは、してなかったみたいですが」
「そっかー」
本当にこの子は呑気ですね~。初めて会った時の怯え方が嘘の様です。この子の将来が心配になってきますね。寧ろ、大物の素質が有るのかな?
「……リリーさん、今更言うのもなんですが、もう少し警戒心ってものを持った方が良いと思いますよ?」
「なんでだ?」
「俺たちは何もしませんが、良からぬ事を考える輩はいるものです。人間とかそうでしょう?」
「??? お前たちは、仲間だろ?」
「いや、リリーさんが思う人間と、同じ扱いはちょっと……」
「いや、私達と」
「え?」
「え?」
「「……???」」
私“達”って事は獣人全体を指しているんでしょうけど、何故そう思うに至ったのでしょう?
「悪い奴は見れば分かる!」
「じゃぁ、何で最初は怯えていたんですか?」
「? 狩りに、良い奴も悪い奴も無いぞ?」
成る程、命が掛かっていれば、相手の善し悪しなど関係ないですね。
リリーさんも、迷宮に着く頃には落ち着いて会話もできていました。最初話が通じなかったのも、怯えたと言うよりも人間を見てびっくりした感でしたしね。納得である。
「「「これで、どうだーーー!!」」」
選び終わったのか、服を何着も抱えながら、奥からぞろぞろと戻ってくるオタク共。
一着に絞れなかったのか……これ以上言うのは酷でしょうから、言いませんけど。
「さっさと準備しましょうか」
「うん! やっと真面な服が着られるよ」
―――
準備が整ったので、現在世界樹さんから出て、見送りの真っ最中です。
真面目にやれば、すぐに終わるというのに、これだから趣味全開の奴は、優秀かどうか、判断に困る。
「また会える?」
「そうですね~。ビャクヤさんとかは、外に居ることが多いですし、リリーさんが居る所も散歩コースですから、会おうと思えば、いつでも会えると思いますよ?」
「ううん、ダンマスに」
「俺に? まぁ、いつでも会えますけど……」
「本当だな? 約束だぞ!?」
「お、おう」
何故そんなに嬉しそうなんでしょう、懐かれる様な事でもしましたかね?
好意を持たれるのは、悪い事ではないですし、獣人の方々へのいいアピールにもなるかもしれない、外よりも内側から説得してくれる方が、効率が良いですしね。
……ついでですから、もっと印象を良くしておきましょうか。
「これ、お土産です」
「……小瓶?」
「御婆様に使って上げて下さい。元気に成ると思いますよ?」
「本当!!?? 良いの?」
ホロウさん情報によりますと、リリーさんの御婆様が倒れたらしく、その薬になるモノを探していたのだとか。無謀極まりないですね。
その症状を聞く限り、過労と思われる。状況が状況ですし、仕方ないですね。と言うわけで、滋養強壮効果が有る薬を渡しておく。他の方も使えるように、薄めて使うこともできる原液タイプだ。
そのまま飲んでも害にはならないですし、薄めて使えばそこそこな量になる。嵩張らないですし、持たせるには丁度いいでしょう。文字も読めるとの事なので、付属の配合表を基に使っていただこう。
「……なぁ、ダンマス。原液時の効果に、若返りってあるんだけど」
あぁ、それですか、実際に効果を見た訳では無いですけど、劣化した細胞を、再活性させる効果が有るみたいなんですよね。
更に薄め方次第で、その活性効果が治癒力増加から栄養剤レベルにまで変動する、便利魔法薬です。効果を自分で決められるので、お土産として渡すには丁度いいでしょう。
「あぁ、それと」
「ん?」
「きつめに叱られると思うので、覚悟をしておいた方が良いですよ?」
勝手に行動して、勝手に危ない目に合って、周りに迷惑をかけて、心配させまくったのだ。小言で済めばいいですね?
首をコテンと傾けるリリーさんに対し、現実を突きつけると、ワナワナと震え出した。相当怖いのでしょうね、毛で見えない筈なのに、青くなっているのが良く分かる。
「こ、ここに居「却下」キュゥ……」
捨て犬みたいな顔をしてもダメです。ここは、長居していい場所ではないですからね。体調を崩す前に出て行って頂けないと、治療した意味が無くなります。
「少しでも被害を抑えたいのならば、さっさと元気な姿を見せてあげなさい」
体を持ち上げて、強制的にビャクヤさんの背中に乗せる。
「ビャクヤさん、リリーさんの事お願いしますね?」
「うん、任せて!」
尻尾を全力で振るビャクヤさん。うむ、可愛くて大変よろしい。今度、お礼に何かして上げましょう、物欲無いですからね~、この子。
もう日も沈んでいるが、ビャクヤさんが一緒なら迷う事も、魔物が寄ってくることも無いでしょう。安全面は問題ない。
「では、吾輩が先に行き、リリー嬢が戻ることを知らせて参りましょう」
「僕は、リリーを落とさないように、ゆっくり行くね?」
「はい、伝言の方もよろしくお願いしますね」
「あ! えっと、薬ありがとう! またねー!!」
ぶんぶん手と尾を振る姿を見送る。ゆっくりとは言え、ビャクヤさんの元の速度が相当速いですからね、あっと言う間に見えなくなってしまった。
……さてと。
「世界樹さんや、もうそろそろ立ち直ってください」
「……」
「せめて無言で泣くのぐらい、どうにかなりません? リリーさんも相当引いていましたよ?」
「……なんでなの? 何で私はダメなの?」
「世界樹さんだからではなく、家族以外で毛繕いするのは無いって、言ったじゃないですか」
「う…うぅ~~~~~、ヒッグ、うえぇ~~~~~~」
あぁあぁ、もう。ガチ泣きじゃないですか。
……いや、逆に泣く位にまでは回復したと言うべきでしょうか。依り代を放置でもしていたのか、さっきまで能面みたいになっていましたからね。
明日ここまで来るように、ホロウさん達に伝言をお願いしておきましたから、その時にでもモフれるか頼んでみましょう。
種類が異なれば、常識も文化も異なる。モフらせてくれる種がいるかもしれません。
「ヒッグ、居な゛がったら?」
「……素直に諦めましょう?」
「なの~~~……」
お~よしよし、取り敢えず今日はもう遅いですし、休みましょうか。明日には、伝言を聞いた獣人さん達が、こちらに向かって来るでしょうからね。来なかったら…どうしよう? その時に考えればいいか。
世界樹さんを宥めながら、帰路に就く。モフモフ、モコモコ、フワフワの癒し三銃士でも招集しておきましょうかね~。
オタク側も迷宮主も、お互にやり取りを楽しんでいるので、見下したり険悪な雰囲気になったりはしません。
職人は、興味のある事に全力です。それが強さでもあり、弱さでもありますが、コントロールする側が優秀だと、その能力を大いに役立てられる・・・かも?
リリーさんに渡した薬は、迷宮内では普通に流通している一般的な薬です。迷宮主は、市販の栄養ドリンク程度の感覚で渡していました。
原液を飲んでも、あくまで肉体の細胞を活性化させるだけで、寿命の限界を超えるものではありません。死ぬ瞬間まで、元気になる程度です。それでも、とんでも薬ですがね。迷宮内では、基本は薄めて使っています。
次回は、伝言を聞いた獣人一行との、人類に当たる者達との初接触です。情報収集が捗りますね!




