123 説教
①エルフ?
②異文化交流は難しい
③職人に妥協は無い!
「ご主人……リリーちゃん運ぶ話、どうするの?」
「攫われちゃいましたからね~……」
本当なら、この後ビャクヤさんにお願いして、リリーさんを仲間の元まで運んでもらう予定だったのですがね。
本人を連れて行った上で、説明したかったのですがね~。
「取り敢えず、リリーさんが無事な事を教えておきましょう」
「僕が行く?」
「いえ、リリーさんが一番慣れているのはビャクヤさんでしょうから、側に居てあげて貰えますか?」
「分かったー、行って来るね~」
「はい、お願いします」
さて、どれだけ時間が掛かるか、分からないですからね~。明日に持ち越す覚悟はしておきましょう。
だがしかし、保護とはいえ、余所の子をこれ以上黙って預かるのも不味い。
それに、魔力濃度の高いこの空間に、長居させるのも避けたい。直ちに影響はないが、数日も居ると体調を崩しかねないですからね。どうにかして、親元に知らせないとな~。
俺が行くのは無い。流石に護衛なしで外に出る程、楽観していません。
それに相手は、人間を絶対的に敵視している可能性が高いです、危険を冒すことも無い。
残りは、コアさんを通しての<念話>って手段も有りますが、この前使った時は気が付かず、後の報告で知りましたけど、あれ、ダンジョン内全てに響くんですよね~。
身内なら、魂の繋がりってラインが有りますけど、部外者には無いですからね、かと言って、容量を割いて機能を取る程の事でも無い。う~ん、痒いところに手が届かない。
うん、誰かに伝言を頼むので良いか。適当且つ、暇そうな子は居ませんかね~~~。
こういう時、映像を見て良さげな子を探していますけど、これってプライベートガン無視な行為ですよね~。気にしないとか言っていたけど、こっちが気にするんですよ。
その内、相手の状態が分かる様な工夫でもしましょうかね? もしくは、利便性と応用性が高い、利用できそうな機能が有ったら、取るのもありですね。
……お、丁度暇そうにしている子を発見。
身内ならコアさん経由の<念話>でいけますけど、折角スキルを使える様になったんです、今回は直接御願いに行きますか。
日常に取り入れて適度に使って行けば、少しずつ成長するでしょう。訓練なんて、そうそう長続きしませんからね。
コアさんと繋がり、スキルを使う。
今回は、さっきよりも多めに処理を負担してみる。こうやって、少しずつ負荷をかけて行けば、それに合わせて成長するのは確認済み。
筋肉と違って、加減とか限界とか、良く分からないですからね。程々に、のんびりやって行きましょう。
<神出鬼没>が発動し、視界が歪む。先ほどは一瞬で切り替わったが、今回は自分で処理する分が多いですからね。コアさんの凄さが分かるってもんですよ。
目を回した様な感覚を覚える。勝手に体が傾くように、重心がずれる様に、まるで球体が引き延ばされて、巻き取られる様な……って、ヤバいヤバいヤバイ! 引き千切れるーーー!?
ヘルプ! コアさんヘルプ~~~!!!
~ 承知しました。魂の回路を再拡張。スキルの処理を請け負います ~
「ぜーぜーぜー」
一瞬で処理が終わり、視界が切り替わる。
し、死ぬかと思った。さ、流石上位スキル、軽い気持ちでやっちゃダメですね。全体の処理量を考えたら、1%も満たない処理量だと言うのに、危険すぎる。
……始めて使った時よりはましでしたけど。
やはり始めは、下級スキルから始めましょう。負荷を掛けたいなら、中級のスキルで……、<念話>に挑戦するのも有りかな?
「ダレダ?」
薄暗いうろの中。
丸い輪郭をした、空間に溶け込む様に揺らめく体躯が、音も無く、気配も無く佇み、光の灯っていない真ん丸な二つの目が、こちらに向いていた。
「どうも、ホロウさん。お邪魔しています」
「……主!? どうして、いや、大丈夫ですか? 顔色が悪いですぞ!?」
「あはは、大丈うブフ!?」
一瞬で間合いを詰められ、抱え込む様に、翼と体の羽毛で挟まれる。本当に大丈夫ですから、モフモフの羽毛で飲み込もうとしないで!
「あわわわわ、如何したら如何したら!? 主が、主が~!! ハッ! ま、まずは落ち着かなければ!す~~~~~は~~~~~……」
羽毛が逆立ち、更にフワフワ度が増す。あ~~~、羽毛に沈む~~~~~~…………
ハッ!? イカンイカン、体調も合わせて、このままだと本当に寝てしまう。
押しのけようと腕を伸ばす……が、最後まで抵抗がなく、腕が伸びきってしまう。本体どこぉ!?
―――
「それで、吾輩に伝言を頼みに来たと」
「はい、御願いできますか?」
「えぇ、問題ありませんぞ。お任せあれ」
ホロウさんが慌てふためいて、手当たり次第に周りに救援要請を掛けるもんですから、一時迷宮内が騒然となった。何だ何だと話が周り、あっという間に、俺の今日一日の行動が知れ渡って仕舞った。
しっかし、いきなりだったのに、良く混乱も錯綜もしないで鎮静化したもんです。<念話>による情報の高速収集に加え、情報精査と統合が速い速い。
それもこれも、クロスさんが俺の容態が悪いと、聞きつけたのが始まりだった。そこからは一瞬でしたからね、クロスさんの全力を見ましたよ。
「では、行って参ります……早めにクロス殿の元に向かわれて下され」
「あーうん。分かりました」
誤報な事は、理解して貰えているとは思いますけど、何を言われることか。
近くに居た子は、既にクロスさんが居る広場に集まっているらしいのですけど、クロスさんの様子を聞いても教えてくれ無いんですよね~。なに? そんなに怒っているの? ちょっと憂鬱なんですけど……
―――
伝言の為に、ホロウが飛び立って直ぐの事。
世界樹の中にある、いつもは魔物達が集う広場。普段は魔物たちの交流の場であるが、今はその姿を一変させていた。その原因は、一目瞭然。
広場の中心で正座する迷宮主と、その前に立つクロス。
彼等が原因である。
周りの者たちは、そんな二人を、固唾を飲んで見守っていた。
「護衛も付けずに外に出るなど、それも、侵入者の元に向かうなど、言語道断です!」
「えっと、ビャクヤさんも居ましたし、ダンジョンで周りに他の魔物が居な「問答無用です!!」ア、ハイ」
彼が敬愛する主に対し、声を荒げるなど、今までに無かったことである。普通では有り得ない事。そう、今、彼は普通では無かった。
「もし主様に何かあっだら、我は、我あ˝~~~!!」
「分か、分かりましたから! 外に出る時は一声掛けますし、護衛も付けます。だから、怒りながら泣くのを止めて下さい。せめてどっちかにして、ね?」
「お~~~ん! 主ざま~~~!!」
「あ~、はいはいはい、心配をお掛けしました。申し訳ありません。よ~しよしよし」
結局、最後は錯乱したクロスを慰める、迷宮主であった。
迷宮主のメモ帳:魔力酔い
高濃度の魔力に曝され続ける事で発症する。
本来、体内で循環し最終的に体外に自然排出される魔力だが、体外の魔力濃度が体内より高い、又は近い濃度の場合、排出が遅れて仕舞い、体内の魔力濃度が従来より高くなる。
眩暈や、倦怠感など、熱中症に近い症状を示す。
体外に魔力を放出できればすぐに解消するので、魔法を使う、又は魔力濃度が低い場所に移動すれば、回復する。
先天的に、魔力の自然排出が苦手な体質の者がおり、その場合重症化する恐れがあるので、注意が必要。
迷宮主がリリーさんを早めに親元へ帰したいのは、これが理由。一晩程度で発症はしませんが、危ない事には変わりないですので。
今時期は災害扱いされる程の猛暑が続いていますので、皆様も熱中症にはご注意を。




