119 犬っ子獣人
①【深化】はゴミ機能?
②モフモフ天国
③モフラーの心得!!
~ マスター、<配下>ビャクヤより通信が入っております ~
おぉ? コアさん経由とは珍しい。
最近では、クロスさんやプルさんから情報が入ることが殆どでしたからね。いやー、懐かしい。
ビャクヤさんは、<念話>が得意では無いですからね。そうでなくても、遠距離<念話>は盗聴される危険が有るので、普段から使用は禁止していますけど。
クロスさんとプルさんについては、クロスさん達虫族は、短距離念話による伝達組織が出来上がっていますし、プルさんには<群体>によるホットラインが有りますからね。
さてさて、ビャクヤさんの現在地は~、森の中ですか……なんか近くに、侵入者マークが有るのですがそれは。
「コアさん、繋いでください」
~ 了解 ~
(ご主人~、助けて~)
キャンキャンと、なんとも情けない声が響き渡る。切羽詰まっていますけど、危険ってわけでは無く、どうしたらいいか分からないって感じですかね?
「何があったんですか?」
(え~と、侵入者が第二防衛ライン近くまで来たから、挨拶しようと思って、会いに行ったんだ)
ふむふむ、確かにその辺りは、ビャクヤさんの縄張り付近でしたね。
(そしたら、僕が着く頃に、丁度野生の魔物に襲われたみたいで、ケガをした子を庇って戦っていたところに、僕が顔を出しちゃって……)
ほうほ……ん?
(……ケガをした子を置いて、皆逃げちゃった)
おう……この侵入者マークはそれですか。その逃げた奴らは~、これかな?
領域の外周、森と荒野の境目に陣取っている、一団の方に向かっている集団が居ますね。おそらくは偵察部隊って所ですか、結構な速度ですね。速度だけ見れば、ステータス500前後って所ですか、ステータスだけ見ればそこそこ強いですね。
「成る程、状況は大体分かりました。それで、俺にどうして欲しいのですか?」
(え~と、僕じゃまともに会話もできないの!)
あー成る程ね。見た途端に、仲間を見捨てて逃げ出さざるを得ない様な存在と、面と向かって会話は難しいか。
(落ち着いて会話ができれば情報も入ると思うから、まともに会話できそうなのが来て欲しいです! ワッフゥ!)
確かに、彼らがどの様な一団か知ることができれば、対処の仕様が有りそうですしね。ビャクヤさんも、そこら辺考えた上での要請でしたか。我が子の成長がみられてちょっと感動。
で、まともに会話ができる存在ですか。
ビャクヤさんを見て逃げるなら、他の子達もほぼ無理でしょうね。見た目可愛くても、中身は立派ですから。獣人は、そこら辺敏感そうだ。
向かわせるなら、力を偽装できる子か、本当に弱い子でしょうか。
どっちもできるのはプルさんですけど、初見の魔物、しかも粘液とまともに会話ができるかは、微妙なラインですね。
世界樹さんは論外。
そもそも、フワフワさんのフワフワ効果で、現在就寝中。あれに抗うのは、相当な精神力が必要ですね。
この手の事が得意なゴトーさんは、現在エンバー。この程度の事で呼び戻すことも無い。
……あれ? 外交能力が殆どない?
ヤバイ、完全に盲点でした。
普通に会話できていましたから、まったく気にして無かったですけど、皆さん魔物なんですよね~。最初に会話したのが竜族だったのも、気が付かなかった原因の一つですかね?
人っぽい、又は人型の魔物も居ないですし、如何したもんか。
(……ご主人?)
「あ~、分かりました。そっち行きますから、ちょっと待っていて下さい」
(え?)
仕方がない、この事は今後の課題って事で次の集会で上げるとして、今は俺が対処しましょうか。
「コアさん、ビャクヤさんの側に移動お願いします」
~ 了解。魂の回路を拡張、情報処理を一部請け負います。スキル<神出鬼没>を使用致します ~
視界が切り替わる様に、一瞬の内に森の中へ移動する。やっぱり便利ですね~これ。
「お待たせしました」
「キャイン!?」
真横に居たビャクヤさんに声を掛ければ、悲鳴のような鳴き声が上がる。
うんうん、びっくりしますよね~。この<神出鬼没>ってスキル、殆ど気配も無く突然現れますからね。前にゴトーさんに遣られましたから、良く分かります。
「え、え~? どうやって来たの?」
「その事については、追々。それで、ケガした侵入者は何処ですか?」
「あ、僕が近くに居ると怯えちゃうから離れているんだ、あっちに居るよ」
「あぁ、成る程。護衛は任せますね?」
「うん! 任せて!」
ビャクヤさんが居れば、万に一つも無いでしょう。怯えられたら本末転倒なので、視界に入らない程度に、離れて待機してもらう。
さてさて、人と話すのは苦手なんですがね。
「ヒッグ、エグ」
森の中を進んですぐ、何かがすすり泣くような声が聞こえて来た。ダンジョン画面で、周りに侵入者以外誰も居ない事を確認した後、前へ進む。
泥にまみれた毛、所々赤黒く血が滲み出し、挫いたのか折れたのか、腫れ上がった足を庇う、犬の獣人の……
「子供?」
「キャイン!?」
……子供が居た。
な~んで、偵察隊に子供が混じっているんですかね?
いや、見た目が子供なだけで、小型犬の獣人とか、実際は成体の可能性も有るか。
「大丈夫ですか?」
「ギャ―――!!!???」
声を掛けたとたん、這う這うの体で逃げ出そうとする小型の犬獣人。こっちは、人畜無害な雑魚迷宮主だというのに、なんでこんなに怯えているんでしょうね?
「はいはい、苛めたりしませんから、落ち着いて下さい。ケガが悪化しますよ?」
首根っこを捕まえて、落ち着くように促す。その足で動くのは、避けた方が良いでしょうからね、速めに治療したほうが良いでしょう。
「放せーーー!」
「聞きたいことが有るだけですから、そのケガも治療しまッテェ!?」
痛ッ、コイツ噛付いてきやがった! しかも全力だ、裂ける! 千切れる!?
「痛い痛い痛い、あーもう。怖くない怖くない、大丈夫ですから」
離したら直ぐに逃げ出そうとするでしょうから、逃げない様に抱え込んで、頭をわしゃわしゃ。
……う~ん、完全にこちらを拒絶していますね。一切受け入れる気配が無い。このままだと、何を言っても聞きそうにないですね。
如何したものかと思案していると、突然硬直しガクガク震え出した。どったの?
「ご主人、コロス? ソイツコロス?」
「ビャクヤさん…大丈夫ですから、いろんな意味で戻っておいで」
おぅ、怖い怖い。いつの間にか、ビャクヤさんが後ろに立っていた。気配無いね? 愛犬の野性的な一面を垣間見た気がしますよ。
どうやら、ビャクヤさんの存在に気が付いて、動けなくなってしまった様だ。そんなに怖いですかね? こんなに可愛いのに。
近くまで来たので、つやつやフサフサの頭をわしゃわしゃ。いつものビャクヤさんにお戻り~。
「ワッフー♪」
うむ、可愛くて大変よろしい。寝転がりお腹まで見せてくる始末。仕方が無いですね~、ついでにお腹の方もわしゃわしゃ。
……警戒は、ちゃんとしてくれているんですよね?
暫くしてから、犬っ子獣人の方を見れば、唖然としながらこちらのやり取りを見ていた。
「えー、落ち着きました?」
「……な、なん」
「あぁ、こちらはビャクヤさん、ここ一帯の主です」
話すことはできなくとも、聞くことができる程度には落ち着いた様なので、まずは自己紹介から。こちらの事を知れば、少しは安心して貰えるでしょう。未知程恐ろしいものは無いですからね。
取り敢えず、一番気になっているであろうビャクヤさんの紹介から。この付近で活動するなら、知って置いてもらいたい……今は、主としての威厳が全くないですけどね。
「で、俺はここ【世界樹の迷宮】の主です。よろしく」
「……は?」
理解が追いつかないのか、又もやフリーズ。仕様が無い、もう少し待ちますか。
ビャクヤさんを紹介した時はまだ平気そうだったのに、俺が迷宮主だとそんなに変ですかね?
威厳でも出せれば、初見で理解してもらえるだろうか……面倒ですね。その辺りは、他の子に任せましょう。
何が何だか分からないのか、頭を抱えてブツブツ自問自答を繰り返す犬っ子獣人。そんな状態などお構いなしに撫でていると、その毛並みが気になった。
ビャクヤさんと違って、ゴワゴワで汚れも酷い。
う~ん、これは、ブラッシングした程度じゃダメそうですね。本格的に洗わないと……あかん、気が付いたら我慢できなくなってきた。
「ビャクヤさんビャクヤさん、この子を連れて行くので、運んでもらえませんか?」
「ん~? 分かった~、乗って乗って!」
「え? え? えぇ!?」
「ほれ、乗った乗った。どうせ考えたって答えなんて出ないんですから、その目で見て判断しなさい」
立ち上がったビャクヤさんの背中に、犬っ子獣人を乗せ、俺もその後ろに跨る。犬っ子が落ちると、いけないですからね。
「何処まで?」
「風呂場までお願いします」
「分かった、行ッきまーす!」
「待って! ま゛―――」
犬っ子獣人の訴えは、ビャクヤさんの移動によって掻き消された。
迷宮主のメモ帳:状態異常(魂)
<乱魔><呪い><封魔><封印>など、魂などに作用し、魔力やスキルなど、使用に制限が掛かっている状態を表す、滅多に掛かる事も、掛けられる者も居ない、かなり珍しい状態異常。
<乱魔>
魔力の反応を乱され、真面に魔法を扱う事ができなくなっている状態。自分の意思で発動するスキルも、同様である。
<呪い>
体内に瘴気が溜まり、様々な弊害を引き起こしている状態。その症状は、瘴気の質によって変わる。溜まった瘴気に妨害され、自身の意思(瘴気)の反応が悪くなる関係で、スキルや魔法の精度が、著しく低下する。
<封魔>
魔力が体外に出ない状態。主に魔術や、他には<呪い>の副作用で発症することがある。
<封印>
魂から発せられる特定の意思(瘴気)を阻害され、特定の魔法やスキルが使用不可能なっている状態。主に魔術や、他には<呪い>の副作用で発症することがある。




