116 黒狐さんと迷宮
「ねぇ、ダンジョンマスター」
「はいはい、何でしょうか、キョクヤさん」
「ビャクヤから聞いたんだけど、あんた、人間の国を亡ぼすとかマジなの?」
「マジですよ~」
「マジだった!!??」
まぁ、元人間からしたら、思うところはあるでしょうね。皆さんは細かい事情を説明しなくても、他種族の事ですし、世界樹さんの怨敵ってだけで、特に気にしませんからね~。ここはちゃんと説明して、理解を得て貰いましょうか。おっと、その前に……
「この話をする前に、一つ良いですか?」
「な、なによ。引き返せないぞ、とか?」
「違う違う、そんなの既に終わっているじゃないですか~「エ゛?」、話すときの注意事項、世界樹さんのことです」
毒とか、エルフとか、人間とか……取り敢えず、大まかな経緯を説明。その上で、現在の世界樹さんの状態を話す。見た目は普通ですが、中身はぐちゃぐちゃドロドロですからね~、少しでもその話題を出すと、負の感情が溢れ出して、本樹では制御ができなくなるのですよ。
「なので、世界樹さんの前では、この手の話は禁句です」
「話すとどうなるのよ」
「う~ん、その時の精神状態によるとは思いますが……バグる?」
「バグる!?」
「怨霊化? エネミー化? 発狂? ゲーム風に言うと、バーサクモード突入。最悪、世界の崩落を招く裏ボス的存在へ進化とか?」
「オッケー、ぜったい話さないわ」
「そうして下さい」
「じゃぁ、攻めるのは、もっと後?」
そうなりますかね~、他にも色々と根回しとかしたいですし、まだまだ先の話になりそうですね~。
「おぉ!? モッフモフなの! モフモフ並みにモフモフなの!」
「え、人? ……エル「世界樹さんじゃないですか、どうかしましたか?」世界樹!?」
あぶねぇ……、もう少しでキョクヤさんが地雷を踏むところだった。人間じゃ無くて、人って言ってくれて助かった。
いつもならまだ昼寝の時間なのに、何故に今日に限って……モフモフさんが居ましたね。成る程、ここに居るのは必然でしたか。寧ろ俺が居る時で良かった。
「モフモフ、モフモフしても良いなの?」
「モフモフ?」
「あぁ、世界樹さんはモフラーなんですよ」
「モフモフは至高なの!」
「なんと! こんな所に同士が居るとは!」
「なの?」
「モフモフは至高! モフモフこそ正義! モフモフは癒し! モフモフは世界を救う!」
おう、お前もモフラーかい。成る程、元の世界への渇望が少ないのは、その為ですね? ここには、モフモフが溢れていますからね~。しかも、普通なら近づくこともできない猛獣クラスの子にも普通に触れられますし、モフラーにとっては天国なのでしょう。
「なの! 中々見どころがある奴なの!」
「うんうん、私達仲良くなれそうね!」
同じ趣味の相手か、これは美味しい。これだけでもキョクヤさんを迎え入れた価値がありますね。是非とも世界樹さんと仲良くなって貰いたい、
「触るのは良いけど、私も触っていい?」
「なの? 私、モフモフしてないなの」
「いやいや、その髪とか、絶対さらさらしてて触り心地良いでしょ! 私も触らせるんだから、いいでしょ?」
「むむ、確かに。一方的なのはいけないなの。バランスは大事……分かったなの、思う存分撫でるといいなの!」
「うへへ、ではでは~「キョクヤさん?」ひゃい!?」
呼びかければ、びくりと跳ねるキョクヤさん。何でそんなに怯えているんでしょうね? やましい気持ちがあったからでしょうかね?
「……程々にね?」
「りょ、了解でありますボス! サー、イエッサー!!」
そんなに怯えないでくださいよ、何もしませんって。自分では微笑んでいるつもりなんですけどね~。そんなに怖い顔していますかね?
―――
「ダンマス、ダンマス」
「なんでしょうか、キョクヤさん?」
「ダンジョンマスターって長ったらしくて呼びにくいから、名前教えて貰えない?」
「「「!?」」」
あぁ名前ね~、そう言えばステータス画面、未だに空欄でしたね~。
「そう言えば、私知らないなの」
「僕も」
「私も」
「え、皆も? 僕も!」
「誰も知らないの? え? あなた達の上司でしょ!?」
「主様は唯一絶対」
「そもそも、名前を誰が付けるのさ」
「え? そんなの親でしょ?」
(パパのパパ~?)
そう言えば、クロスさん以外に、俺の話って全くして無かったですね。誰にも聞かれませんでしたし、必要も無かったですしね~。
「名前……有るなの?」
「ありますよ~…………………なんでしたっけ?」
「忘れたんかい!?」
おぉ、ナイス突っ込みですキョクヤさん。貴方突っ込みキャラだったんですね。
しかし、本気で忘れましたね。生まれ変わった弊害でしょうかね? ……思い入れも無いですし、弊害も無いですから、別に良いですけど。
「アンタ、ちょっと薄情過ぎない?」
「25年以上顔も合わせていない相手が付けた名前ですからね~」
「思ってた年齢より、大分行ってた……歳幾つよ?」
「え~~~~~と、32か33歳くらい?」
「え゛? 7.8歳から? 小学生? え? えぇ?」
おう、思いっきり引かれた。やっぱり普通じゃないですよね~。自分にとって、親がいない事が普通でしたから、別段辛いとかさみしいとか、全く無いんですけどね~、周りはそう思わない。こう言った細かい感性の違いが、普通に接していても問題起すんですねよね~。人付き合い面倒。
「……ま、まぁいいや。人それぞれよね。じゃぁ、他人に名乗る時、なんて言うの?」
そんな俺の気持ちが伝わったのか、驚いたけど別に興味が無かったのか、気持ちをすぐに切り替えて、話題を戻すキョクヤさん。良い方向に気が利きますね、その切り替えの早さは、才能だと思いますよ。
しかし、名乗る時か。確かに、これから余所と接する機会も増えるでしょうし、名前は必要か。書類に書く時くらいにしか使わなかったし、学生時代は名前とは関係無いあだ名でしか呼ばれなかったですしね~、元の名前なんかに興味は無いですし、この際キョクヤさんに見習って心機一転、新しい名前でも付けましょうか。
「てなわけで、何か良いもの無いですか?」
「「「はいはいはいはい!!」」」
迷宮の王!
魔王!
迷宮の支配者!
皆のご主人様!
いや、それ名前と言うか称号とか役職でしょ?
鬼畜外道
冷血漢
おかん
おい、誰だ今の言った奴! 誰がおかんだ、誰が。俺は男じゃい!
「……ダンマス」
(だんますぅ?)
「……ダンジョンマスターの略」
お、比較的真面な案がモコモコさんから出た。ダンマスね~、ダンさん、ダンくん……うん悪くないんじゃないですか? シンプルで分かりやすいですし、他に碌なのが出ないし。これにしましょうか。
「では、それにしましょうか。ダン・マス。他人に名乗るときは、使わせてもらいますね、モコモコさん」
「……す、好きにする」
あらら、そっぽ向かれて仕舞いました。拗ねている? 恥ずかしい? う~ん、良く分からん。少ししたら元に戻るし、放置が正解なのかな~。
~ 了解。これより、マスターの名称「ダン・マス」と致します。 ~
~ よろしくお願いいたします。マスター「ダン・マス」 ~
はい、これからもよろしくお願いいたしますね、コアさん。




