112 黒狐が行く!⑤
はーーー、ぽかぽか~~~、ぬくぬく~~~、日向ぼっこ良いわ~。体が黒いから、余計に温いわ~。可愛いモフモフに囲まれながら、のんびり過す。良いわー、とってもいいわー。こんな優雅なひと時がずっと続けば……
「リーダー! 沼地の奴らが、攻めてきやがった!」
……良かったのに、偉大なる大自然は許してくれない、はぁ。
「またぁ? あいつ等、本当にしつこいわね。規模は?」
「中規模です、司令塔が居ます」
ガリガリと頭を掻きながら、大きくなった体を起こす。中規模相手だと、皆だけだとちょっと厳しいか。
「北はどうなの?」
「今のところ動きはありません」
「最近来ないけど、向こうも他所から攻められてるのかしらね~。ま、来ないなら都合がいいわ、迎撃しましょう。経験値兼食料確保よ!」
「「「オーーー!!」」」
あの蟻さん事件から数日、私達は森の一角を縄張りに生活している。なんせここは、食料が他に比べて豊富だ。木の実に果実、食べられる野草に沢も有る。生活するにはもってこいな立地だ。
そんなもんだから、外から入り込んでくる奴が多い事多い事。それも食料になるからいいけど、ちょっとしつこ過ぎるのよね。
余りにしつこいので、本気で叩こうと思って襲撃を掛けたこともあったけど、どこで判断しているのか……片方を攻めると反対の奴が攻めて来るのだ。
その為、両方に即時対応できるように、私は基本待機。今の様に攻めてきたら、速攻で潰しに行く形に落ち着いた。こちらから攻めなくても、相手もそこそこデカくて強い相手が揃っているから、経験値と食料が美味いのだ。皆のレベルが上がれば、その内自然に追い払えるでしょ。つい最近、私が進化したお陰で、今やこちらは空前の進化ブームが到来しているしね。
あいつ等、小さくて弱い子もお構いなしに殺すから、嫌いなのよ。お腹も経験値も溜まらないから、うちでは基本、小さな子には手を出さない事にしている。そのせいかな? いつの間にか進化した子が増えた事で大所帯になっちゃって、縄張りなんてできてしまった。どうしてこうなった。
因みに、蟻さんの種族はアルトって言うらしく、見せて貰った森の奥には、本当に何もなかった。故にその方向からは何も襲ってこないのは有り難い……その反対側の上空は、いつも霧が立ち込めててよく見えないけど、その方角からも何も来ないのは、何故なのかしらね?
―――
「黒いのが来たー!!??」
「逃げろ! 皆逃げろーーー!!」
「逃げてるんじゃねぇ! 進め! ぶち殺すぞ!」
私が到着すると、乱戦模様だった戦局は一変。蜘蛛の子を散らすように、相手側が沼地エリアへと逃げていく。人を化け物みたいに言いやがって! あ、もう人じゃ無かったわ。
ざっと見た感じ、こっちにさしたる被害は見られないわね。
こっちは可能な限り死者が出ない様に立ち回って、相手を一方的に倒して行って少しずつレベルを上げて行ったからね。逆に相手は、数も質もどんどん悪くなっていくし、無理やり従わされてるのか、すぐに逃げ出す、数も質も段違いですとも。
しかし可哀想な子達だ。前には私達、後ろには監視役の司令塔。板挟みになって逃げ場も無い。今みたいに一斉に逃げ出すのに便乗する位しかできないのだろう。
流石にそんな子達を倒すのは気が引ける。だがしかし、後ろでこそこそしてる奴! お前らだけは逃がさん!
足を踏みしめ、進化したことで3本に増えた尾を広げ、先端に意識を集中させながら狙いを定める。
私の戦闘能力は並みだ。体力も身体能力も他の子とほとんど変わらない。だけど一つだけ特出したモノがある。
「ぶち抜け!」
「逃げるな! 後で分かってりゅんら?」
「な、なんで俺らだ…け」
それは魔法である。今回は、空気の塊を針状にして打ち出しように使ったが、アルトに教えて貰った方法を自分なりにアレンジして、色々やった結果、ドハマりした。
アルト曰く、私は魔法特化型らしく、この手の事が滅茶苦茶あっているらしい。本当にアルト様には頭が上がらないわ。
彼に会わなかったら、魔法の存在そのものに気が付かなったかもしれない。感覚で分かるとか言っておきながら、アルト以外に魔法を使っている相手を見た事が無いんだもん。あ、家の子達の中には、使える子は結構いるわよ。って、お?
LV:6→7 / 25
おぉ、レベルが上がった。これで次の進化にまた一歩近づいたわね。次の進化は何時になる事やら。
名称:黒妖狐
氏名:
分類:現体
種族:獣族
LV:7 / 25
HP:1103
SP:1103
MP:2370
筋力:517
耐久:534
体力:534
俊敏:534
器用:825
思考:972
魔力:972
適応率:30(Max100)
変異率:30(Max100)
スキル
・肉体:<爪><牙><尾><毛皮><状態異常耐性><状態異常無効><魔法耐性>
<魔法無効><精神耐性><精神無効><物理耐性><物理無効>
・技術:<魔力掌握><身体操作><踏ん張り><属性魔法><回避><受け流し>
<急所抜き><飛行><遊泳><飛翔><察知><隠蔽><連携><憤怒>
<隠密><指揮>
・技能:<身体強化><連撃><全力攻撃><集中><高速移動><威圧><突進>
<自己回復><念話><鑑定><瞑想><限界突破><開魂><狂気化>
称号:<下剋上><獣の王><名君><転生者>
ふむ、悪くないわね。
「お疲れ様です、姉御! ですが、俺達も進化して強くなりました。任せてくれても良いんですぜ?」
「それだと、私のレベルが上がらないじゃない。それに貴方達じゃ、前線に立たされている相手は倒せても、奥に居るクズは無理でしょ?」
「それは、まぁ、そうですが…」
「遠距離攻撃か~、如何にかしないとね~」
私も、色々練習しないとな~。レベルはなる様にしかならないし、とにかく自分ができる事の幅を増やさないと、いざ強い奴と会った時、何もできませんでしたじゃ話にならない。
先ずは、自分が持って居るスキルを、完全に使いこなすことを目指そう。あれを自在に使えれば、滅多な相手には負けないでしょう。
「姉御! 大変だ、北の奴が攻めてきやがった!」
北側の守りに入っていた伝令係が、息を荒げながら報告してきた。
あいつ、相変わらず嫌らしい性格してるわね、そんなんだからモテないのよ。
「了解、規模はどれくらい?」
「それが、見たことのない奴が単身で乗り込んで来やした!」
「はぁ?」
あの、卑怯で傲慢で憶病なあいつが単身で来る訳無いし、見た事が無いって事は、更に他の奴に乗っ取られでもしたのかしらね。もしかしてあいつ、死んだのかしら? 私が殺したかった。
「俺達じゃ全く歯が立たねぇ、もう何体も食われちまった!」
「何でそれを早く言わないのよ、馬鹿!?」
「姉御!? 置いて行かないで下せぇ!」
皆が勝てないどころか、弱った子を逃がす事すらできない相手とか、どう足掻いても私じゃ無ければ、対処できないでしょ!
魔法も併用して、全力で走る。他の子達は置いて行くしか無いわね。寧ろその方が良いか。相手が何かわからないのに、ぞろぞろ引き連れても、動きにくくなるだけだし。
む、血の匂いと、余所者の匂い。こっちか!
―――
近づくにつれて、匂いと音がハッキリして来る。く、血の匂いが濃い、木が倒れる音と衝撃音、それに混じって皆の鳴き声が聞こえてくる。
なぎ倒されたのだろう、森を抜けて視界が開ける。
むせかえるような血の匂い、周囲に散らばる肉片、見たことのない赤紫色をした巨体が、今まさに、家の子へと牙を突き立てようとしていた。
「テメェーーー!!」
<突進><集中><身体強化><魔力衝撃><威力変換><全力攻撃><限界突破>
私な中の何かが反応し、魔力が形を変え指向性を持つ。無害だった魔力が、相手をぶっ飛ばす事だけを考えた形に変わって行く。
更に速度を上げ、間合いを詰める。腕に込められるだけ魔力を込め、敵の眉間へと叩きつける。油断していたのでしょう、回避も防御も反撃もせず、無防備なまま私の攻撃をもろに受け、吹き飛んでいく。
「ッ!?」
堅!? 殴ったこっちの手の方が痛いわ! どんな体してるのよ。
「姉御!?」
「邪魔! さっさと下がって治療しなさい!」
のそりと体を起こし、立ち上がってくる。ダメージは無しか、物理攻撃じゃ意味ないわね。しかもこの匂いはあいつの…まさか進化したの?
「くは、くははははは、驚いたぞ! まさか最強たる俺を吹き飛ばすとは、流石だ!」
「やっぱりあんたか、暫く合わない間に、随分形が変わったじゃいの、えぇ?」
前に襲って来た、北の群れのボス。同族同士で群れる子は多いけど、私みたいに、複種類の者を連れる奴はかなり珍しい。
こいつもその内の一体だ、従えてる種類が多いと何して来るか分かりにくいし、注意はしてたのよね。
「他の奴らは如何したの? 臆病者のアンタが、一人で来るはずないでしょ、後ろに隠れてるの?」
「この前の戦いで学習したんだよ、お前の所の奴は中々使える様だが、役立たずが幾らいても、意味は無いってな」
「意味が無い? だったらアンタが消えれば? トップのアンタが無能だから、私に勝てないのよ。実際、家の子とアンタの所の奴、そんなに強さに違いは無かったわよ」
ただ突っ込んでくるだけなら、常に多対一を心がけて、一体一体囲んで叩くだけで良いもの。こいつは、群れで動く子も関係なく突っ込ませるだけ。お陰で、さして苦労せずに撃退できたけどね。
「話は変わるけど、あんたこの短期間で、どうやって進化したのよ」
「くは、くははははは……役立たずだったが、最後は役に立ったな、お陰で俺は、最強の存在に成れた!」
「はぁ? ……まさか、あんた」
「くははははは! あいつ等も、俺の血肉になれて光栄だろうよ!」
「下種が!」
こいつ、仲間を食いやがった!?
「光栄に思え、お前は俺のメスにしてやる! 他の奴は飯だ! くははははは、最強の俺の前にひれ伏せ!」
「チィ!」
くそ、突っ込んできた、時間稼ぎもここ迄か。皆は…よし、言う事を聞いて後ろに下がってる、良い子!
「くはははは! 精々良い声で鳴け!」
「汚らしいもん見せるな!」
クッソ、汚いもんおっ立てやがって、目が腐るじゃない!
速度は、通常時の私と同程度か、それなら余裕で躱せる。
振るわれる前足を、バックステップで躱しながら、魔力を溜めていた尾の狙いを定める。
<火魔法><鑑定>
「爆ぜろ!!」
外に吐き出し圧縮した、火球となった魔力の塊を、3つ全て叩きこむ。ついでに<鑑定>もぶっこむ。他の事に意識が向いていた方が、<鑑定>し易いのよね。
名称:淀み猫
氏名:
分類:現体
種族:獣族
LV:11 / 50
HP:3501 / 3830
SP:3750 / 3800
MP:1207 / 1326
筋力:776
耐久:1864
体力:1864
俊敏:776
器用:776
思考:696
魔力:629
適応率:1(Max100)
変異率:1(Max100)
スキル
・肉体:<爪><牙><毛皮><衝撃耐性><魔法耐性>
・技術:<身体操作><魔力操作><幻覚魔法><精神魔法><気配感知>
<危険感知><隠密><指揮><HP回復速度上昇><HP回復効率上昇>
・技能:<身体強化><念話><鑑定><自己回復><連撃><全力攻撃>
称号:<獣の王><暴君><負け犬><裏切り者><共喰らい><最終進化>
全然減ってない!?
クッソ、耐性関係のステータスが4桁いってる。固い訳よ! 然も、スキルも衝撃と魔法に対して耐性持ちとか、爪で引っ掻けばよかった。
「くははははは! ぬるい、ぬるいぞ!」
ああああ、どんどん回復していく!? ぶっ倒すなら、回復速度を超える速度で叩かないと、魔法に耐性が有るのがきついわね。爪による引っ掻きが一番効率よさそうだけど……
「あ、いたいた~」
「「!?」」
この緊張した場面に似つかわしくない、余裕のある声で話しかけられる。
「なんだぁ、テメェは?」
そこには、私と同じ位の大きさの白銀の狼が居た。




