110 黒狐が行く!③
攻撃しなくてい、威嚇して進路を塞げ!
「「「ジュジュジュジュジュジュ!!!!」」」
回り込め! 私達は、反対からだ!
「「「きゅきゅーーー!!!」」」
全力疾走して進路を塞いでた子と交代! 突出するな、円陣を組め!
「ジュ…ジュ、ジュ!?」
逃げ場を探して視線を泳がせる巨大鼠。隙だらけよ、がら空きの背中に突撃―――!
「「「きゅいーーー!!」」」
「キュピィァ!?」
ふーははは、立ったな? お前の動きは既に把握済みよ! 第二陣、両足に攻撃! 転び次第、全軍突撃じゃーーー!!
「「「きゅいきゅいーーーーーーーーーーーー!!」」」
あれから何日経ったか……日の光が無いこの地下空洞では分からない。ただハッキリしていることは、これは夢なんかじゃ決してない事だ。
痛いし、眠くなるし、お腹空くし。
そして何よりも、皆は可愛いし、可愛いし…可愛いし! これが幻想なんて有り得ない、一匹一匹に個性があって、好みがある。これが私の妄想、夢である訳が無い!
あれから私をトップに、群れができた。皆を死なせるわけにはいかないからね。皆で行動している内に、命令を出していた私がトップになっていた。
私達の事も分かってきた。まず私達は、困ったことに、理解不能な事に、この光る池から定期的に生まれて来るらしい。それも有って、絶滅することが無い。
更にさっきも言ったが、生まれて来る子にも個性があり、温和な子も居るが、基本凶暴な子が多い。そんな子達が、他の子を殺し続ける事で、あの巨大鼠になるらしい。
巨大鼠は、そんな殺し合いの中で生き残った強者だ。それこそ私達じゃ、逆立したって勝てる相手じゃない。数十体で囲んで叩けば、余裕だけど。
私達の狩りの対象は、巨大鼠だ。その方が、食料が多く手に入るし、一斉に攻撃できるから、さっきみたいに一方的に攻撃することができる。
更に生まれる瞬間、あいつ等必ず鳴き声を上げるのだ、見つけるのが容易だ。
なんせ、こっちは大所帯だからね、温厚な子を仲間に迎えていたら、こんなに大きくなってしまった。そろそろ、食料の供給が追いつかなくなるかも。ここから出る事も考えないと。
そんな中、ちょっと困ったことがある。
相手を倒すと、何かが体の中に入って来る感覚が有るんだけど、それが一定以上溜まると、力が漲ってくるんだよね。他の子も同じ様なんだけど……
LV5(MAX)
皆を見ると、こんなイメージが流れて来るのだ。どうやら彼等は、敵を倒しても体に何かが入って来ることが無くなって仕舞ったらしい。MAXって事は、これ以上成長できないって事なのかな? そうなると、外に出るのは危険かもしれない。何が居るか分からないもの。
巨大鼠になりそうな固体を観察したことが有るけど、LV5(MAX)になった時点で、体が大きくなって、あの巨大鼠になったのよね。何かしらの条件が有る? 例えば群れてるからダメとか? でも皆が、あの巨大鼠になるのは、見たくないな~。
私のレベルは4、もしレベルが上がってLV5(MAX)になっても、姿が変わらなかったら、ここに引き籠るか、危険を覚悟で群れから外れて、穴の奥…外に一人で出る事を考えないといけないかもしれない。
<牙LV5>→LV6
<爪LV5>→LV6
<連携LV7>→LV8
<疾走LV8>→LV9
<指揮LV10>→<命令LV1>
<高速思考LV3>→LV4
<念話LV3>→LV4
「「「きゅきゅーーー!!」」」
今回の狩りも上手く行き、今日の糧を手に入れる。取り敢えず今日一日? 皆を飢えさせることは無さそうね。
ストンと体の中に、何かが入って来る。この瞬間が結構嬉しかったりする。貯金箱にお金が溜まって行くような、俗物的な嬉しさだけど、悪い気はしない。
― ドクン -
突然、心臓の鼓動が跳ね上がる。貯金箱の中身が零れ落ちる様な喪失感と共に、体が熱くなる。
LV5(進化中)
レベルが上がった? え、進化中!? 私、あの巨大鼠になっちゃうの!? あわわ、心の準備が!?
ぎちぎちと骨が軋む音と共に、ボコっと体が膨れ上がる。痛くは無いが、体中を何かが駆け巡る。何かが溢れ出しそうな……やっば、ナニコレ、すんごい、とんでもないわ。なんて言えば良いか分かんない。多分人だったころに無い感覚。第六感ならぬ、第7感とでも言うべき感覚が震える。
あ…い………ダ、ダメ。も、もう無理、辛抱堪らん!
「クォーーーーーーーン!!」
駆け巡り、溢れ出そうとする何かを吐き出しように、全力で叫び声を上げて仕舞う。
な、成る程。これが進化か。あの巨大鼠共が鳴き声を上げる理由が分かったわ。これを耐えるとか無理。
「きゅ!?」
「きゅきゅきゅい!」
「「「きゅきゅきゅーーーーーい!!」」」
あ…あひ…ちょっと待って。少し休ませて。止めて、触らないで、擦り寄らないで! 今全身、正座後みたいに痺れて敏感だから! 響くから、びゅわ!? 尻尾はダメ―――!?
―――
あーうん。なんかすんごく恥ずかしい姿を晒した気がするけど、私、獣だから大丈夫だよね、モフモフだから問題ないよね。よし、問題ないことにしよう、そうしよう。
で…だ。色々落ち着いたから、状況を確認しましょう。
先ずは自分の体からだけど、凄い大きくなった。進化前に比べて、3倍くらいになったんじゃないかしら? 視界が高いから、周りを見渡すことができる様になったのは大きいわね。
見た目も大分変ったみたい。見える範囲だと黒い犬、だと思う。顔が見られないからハッキリしないけど。
でも、普通の犬じゃ無いのよね~、肩の可動域とか大分広い、うつ伏せに大の字になれるもの、骨格は全く違うわね、指もかなり自由が利く。これって、ちゃんと四足歩行できるのかしら、肩外れたりとかしないわよね?
後あれだ、この姿凄い見覚えがある。黒い毛並みと言い、フワフワな尻尾と言い、私がデザインした黒狐だ。私がここに来る直前、散々試行錯誤したからよく覚えている。
更に、他の子達も進化した。私が進化したのがきっかけだったのかな? 私の下に居るから、私以上に進化できないとか? 積極的に進化を目指した方が良いかもしれないわね。
犬に猫、兎、鼠、豚、色々である。あ~ん、可愛いよ~、スベスベだよ~、モフモフだよ~、天国だよ~。こっちだ野郎共、モフリ倒してやる~。
「姉御!」
ふわふわな兎をモフっていると、後ろから声を掛けられた。そこには灰色の犬、狼がズラリと並んでいた……ってあれ、え、しゃべった?
「命令を下せぇ姉御、おいら達、姉御の為なら何でもしますぜ!」
「狩りですか、追い立てますか」
「獲物を見つけて来ましょうか」
「行くぜ行くぜ行くぜーーー!」
「「「ワンワンオーーー!!」」」
テンションが高い相手を見た時、その反応は二つに分かれる、そのテンションに乗るか、逆に冷静になるか。どうやら私は後者だったようだ、私もさっきまで同じだったから分かる、こいつら進化して興奮してやがる。
こういう時やる事は一つだ、動物を落ち着かせる唯一無二の方法、即ち…全力で毛繕いしてやる! おらぁ、お前ら落ち着きやがれー!
「「「ワッフゥ♪」」」
ちょっとゴワゴワした毛並みを堪能しながら、今後の事を考える。外に出るしかないよね、今まででもギリギリだったんだ、食料的にも広さ的にも、ここじゃもう活動できないでしょう。
上を、地上を目指そう。ここがどれだけ深いか分からないけど、地上にはつながっているはず……繋がってるよね? ち、地上が無いとかそんな落ちとかないよね?
ここって、ゲームの世界に酷似してる部分が多そうだし、きっと有るよね!
地上に向けて進行を開始する。全員で動くと、トラブルでも発生したら対処できないだろうから、何人か偵察のために先行する。私も行こうとしたけど、皆に全力で止められた、解せぬ。
どれだけ時間が掛かるか分からない、安全な場所を見つけては、少しずつ進んで行こう。私の他に指揮をとれる子を、見繕っておく必要がありそうね。当面は、初期メンバーの皆を中心に活動しましょう。何故か皆バラバラな奴に、進化したし。
なんて事を考えながら待って居ると、偵察に出てた子が戻ってきた。何かあったのかな?
「どうしたの?」
「広い所に出た」
「すんごい、ものすんごかった!」
生れたてだからなのか、言葉を話せるようになったばかりだからなのか、皆感情表現が単調なのよね。話を聞くに、明るい大きな空洞に出たらしい。案外地上が近いのかな?
確認のために、戦闘に特化した子と共に移動する。あまり狭いと身動きがとれないからね、ちょっと急な坂だけど、他と比べて大きめな穴を上がって行く。
多分まっすぐ伸びた道を進み、一度二度とターンしながら上を目指す。何だろ、何処か既視感が……ビルの階段? 何故か人工物のような感じがするわね。
「姉御、明かりが見えやした」
「え、もう着いたの?」
こんなに近いとは思わなかったわ。こんな事なら、もっと早く向かえばよかったかな?
でもな~、何が居るか分からないからな~、踏ん切りがつかなかったのよね。進化とか、スキルとか、訳わかんない世界なんだもん。まるでゲームだわ。
ゲームと言えば、この手の事はあいつに聞けば一発なんだろうけどな~。私があのゲームを買った原因だもの。もしかして、あいつもこっちに来てたりするのかな? 確か、ダンジョンマスターやってたっけ。近くにダンジョン見つけたら、潜るのもありね。




