107 環境って大事ですよね
①トカゲモドキは、本当にトカゲモドキ?
②寝言&トラウマ
③瘴気抜き
瘴気の抜けたトカゲモドキが居る、会場へと移動する。そこにはトカゲモドキだけでなく、他にもたくさんの子達が集まっていた。玉座の間と銘打ったこの場所は、中央の吹き抜けと、壁に幾層もの観客席の様な場所が、設置されている。オペラ会場をイメージすれば、分かりやすいですかね?
柱には灯草が巻き付き、吹き抜けの天井部分には、光の魔力結晶が埋め込まれ、会場を昼間の様に明るく照らしている。灯草のツタが結晶にも巻き付き、ある種の模様の様になっていて、中々にキレイだ。
地面は白黒のチェック柄を基調に、入り口まで伸びる赤が映える配色となっている。
地面に魔力結晶でも、埋め込んでいるのでしょう。実はこの模様、タイルとかではなく結晶花の花畑で再現している。
吸収した魔力によって色を変える【結晶花】の特性を生かして、今の柄を作ったのだ。
何でも世界樹と言う事で、如何にか植物で作れないかと、試行錯誤した結果、完成したとか。
良くこんなの造りましたね。これが趣味で造ったってんですから、感心していいのやら、呆れて良いのやら…全部自費なんだぜ、これ。
そして俺は、そんな会場の入り口の反対側、そこに造られた高台に設置された席…てかよくファンタジーとかで出て来る、王様が座る様な玉座の裏手にある通路から、入ってきた所になる。
玉座の左右には、ルナさんとクロスさんが控えていた。
「我らが主! 迷宮の王の御前である、控え「あ、そうゆう堅苦しいのは無しで」……はい」
クロスさんがしょんぼりしてしましましたが、此処で止めなければ、恒例行事に成り兼ねませんからね、阻止です阻止。
さてと、これに座るのか~、場違い感半端ないですね~、視察した当初はここを使うとは思っても居ませんでしたし。仕方がない、覚悟を決めますか。
意を決し、玉座に腰を据え…
(プルプル)
「……」
プルさんや、座りたいので玉座から退いて貰えないでしょうか? ……え? 上に座る? いやいや、親と慕ってくれる相手の上に座るとか、心情的に辛いのですが?
クッションに偽装? 護衛をかねて? 早くしないと相手が不審がる? ああ、もう、分かりましたよ、座りますよ。だから拗ねないで下さい。
「よいしょっと……おぉ」
何とも絶妙な反発感、えぇわ~、これ。
【弾粘液】……名前に偽りなしですね。
さてと、本粘液も気にしていないようですし、俺の精神衛生上考えない方向で行くとしましょう。まっすぐ前を向けば、5m程の竜の姿が視界に入る。本題に入りましょうかね~。
「気分はどうですか、暴竜」
「……あぁ、悪くない。悪夢から目覚めたような気分だ」
おやおや、随分大人しくなりましたね。これは、対応を考え直さなければなりませんね?
しかし……悪夢ねぇ。
まぁ、瘴気が原因だったのでしょうね。それが抜けたことによって、元の性格に戻ったとか? 変わり過ぎではありあませんか?
「では改めて、確認も兼ねて君の口から名を聞きましょうか」
「む…俺の名はゴドウィン。ここより北の竜の谷…いや、もう俺には、関係ない場所か」
寂しいような、安心した様な……そんな苦笑いを浮かべながら、名乗りを上げるゴドウィンさん。
「ふむ、記憶はハッキリしている様ですね。しかし、初めて会った時と比べて、随分大人しくなりましたね。どのような心境の変化でしょうか?」
「何と言えばいいか……夢の中で、違う俺が勝手に行動している様な、だけどそれも俺の意思の様な……どんどん何かに、俺じゃない俺に塗りつぶされていって、俺が消えていくような……そんな、感じだ……何と言ったらいいか俺も良く分からん」
「まぁ、言わんとする事は分からなくは無いです」
記憶と感情を共有して居ますし、多重人格は…違うか。瘴気に汚染されて、感情を塗りつぶされていたと考える方が自然ですかね。
催眠状態で、操られていた様な状態と考えれば、この子に責任を負わせるのは酷と言うものでしょう。
「……因みにクロスさん、浄化作業を行った他の個体は、どうなったのですか?」
「ハ! 三体の内、一体は覚醒と同時に敵対行為を取ったので、再度拘束。一体は意識不明か感情が欠落しているのか、反応なし。一体は浄化作業中に死亡、その後直ちに蘇生し今は安静にしております」
あらら、意外と負荷が大きいようですね、残りの個体は、ゆっくり浄化して経過を見てみますか。そうなると、この子がリーダー的な位置でしたし、思いの外強かったのかな? それとも他の要因かな?
「今までの貴方とは、別だと理解しました。であれば、俺は既に思うところはありません。直接の被害にあったクロスさんはどうです?」
「ハ! 死は覚悟の上でございます。我等蟻一同、全会一致で主様の意に従う所存でございます」
「あら、もうすでに結論が出ていたのですね。では、お言葉に甘えまして、俺の方で決めさせてもらいますね」
では、俺の独断と偏見で処理させていただきましょうか。あ、本蟻達は、命を軽視している訳では無いので、死を云々は突っ込まない方向で。
「では、うちの子を殺したことに対して、“今の貴方”には責任を問わないものとします。但し、厄介ごとを持ち込んだことには間違いありません。ですが、それに対する迷惑料は、既に貴方から徴収済みです。故に、貴方は自由です、好きにしなさい」
実際、もうこの子達の鱗とか、素材としての価値がそこまでない感じなんですよね。家にも竜族の子達が成長してきましたし、抜け落ちた鱗とか普通に供給して貰っていますからね。
「自由……自由か」
「何か御不満でも?」
「いや……もっと厳しい判断を受けると思っていた……他の奴はどうなる?」
「その方の行動と、態度次第ですかね。心配ですか?」
「いや……考えて見たらそこ迄でもない。ただ俺と一緒に居る事で甘い汁を吸っていた奴らにすぎんからな。ただ、俺と同じ状態だとしたら、不憫に思っただけだ」
う~ん、こればっかしは、直接会ってみないと結論を出せないですからね。この子と同じ状態なら、同じく解放しますし、変わらないなら……処分ですかね?
「そうか……分かった」
「それで、これからどうするので?」
「……俺には、もう、居場所が無い。何よりも、あんたに俺は礼を何もしていない」
「礼?」
「あの悪夢から解放してくれた、それだけで俺がどれだけ救われたか」
おやおや、意外と律儀。解放すると言っているのだから、そのまま出て行く事もできたでしょうに。ですが、礼と言われましても、特に何か欲しいものがある訳でもないですしね~。
「俺をここに置いてくれ、役に立って見せる」
「あら、あなた程度が何の役に立つと言うのかしら?」
「あぁ、分かっている。俺は戦う以外の能が無い、だが俺程度の力では、此処では何の役にも立たないだろう。実際、あんたにも勝てる気がしないしな」
ルナさんの方を向いて、ハッキリと言ってのける。う~ん、実力差が分からない訳でも無いと、なのに配下に加わる事を望むとは、どうする心算なのでしょうね?
「だから頼む、俺を強くしてくれ、俺に生きる力を、あんた達の役に立てるだけの力を」
「へぇ……?」
「イ˝!?」
ほうほう、そう来ましたか。つまり、自分に投資しろと言う事ですね。面白い事を言うではありませんか。
ですが、そうなるとこちらも妥協できなくなりますね~。どれ程の覚悟が有るか、見せて貰いましょうか。
手始めに軽く<威圧>してみましたが、ふむ、まだまだ余裕がありますね。
圧迫面接? この弱肉強食の世界で、ひるんでいる余裕は無いですからね、俺程度の存在に睨まれる位流せなきゃ、やってられませんわ。
「つまり、俺達に君を鍛える労力を割けって事ですか?」
「お……俺は強くなる、それだけの素質がある! その力を、全てお前に捧げる! その労力以上の成果を立てて見せる!」
「その根拠は?」
「俺は、谷の№2の息子だ! 才能だけなら、どの竜よりも在る!」
「ほう?」
<魔王威圧>
「おぐぅ……グぎ」
「お、お父様、ちょっと、おさえ……」
玉座から立ち上がり、ゴドウィンの前まで進んでいく、<威圧>は近くに居る程、その威力を増す。
手を伸ばせば届くほどの距離まで近づくが、目を背けたい、逃げ出したい気持を、意志の力でねじ伏せ、倒れないように様に踏ん張って見せる。
……あぁ、これは……悪くない。
「死んだ方が、マシな扱いでも?」
「自分を偽って生き…る、のも、怯えながら生きるのも! ウッギ……死んだように、生ぎるの……も、もう……御免、だ!」
恐怖と絶望と悔恨を味わいながらも、折れず挫けず前を向き、目の前の僅かな可能性に必死に、怒りまで力として抱きながら、縋るのではなく、己の力でつかみ取ろうとする姿。
……鼻先に向けて、腕を伸ばす。触れた部分から、直接威圧を叩きこむ。
「ォギィ、い! ギグ!!」
白目をむき、気を失いそうになるも、舌でも噛み切ったのか口の端から血が流しながら、その痛みで無理やり意識を保つ。
「だがラ……俺に、ヂガラヲ、ヨゴセ!!」
<覇王威圧>
―――
「ふふ……くふふふ」
気絶し、白目をむいているゴドウィンさんの鼻先を撫でながら、先ほどの光景を思い出す。
あぁ、久しぶりに良いものを見たな~。これが、この子の意思の力、とても良い輝きでした。元居た世界では、まず見る事が無かったもの……はぁ、綺麗だった。
「ぬ、主様。その、<威圧>を行うのでしたら、一言お声を掛けて下さい。心構えが……」
「ん? あぁ、ごめん。気が回らなかった。君達なら俺の<威圧>なんて、そこ迄でもないだろ?」
<威圧>関係のスキルは、使用者と効果範囲にいる者との実力差がもろにでる。糞雑魚な俺の<威圧>なんて、皆さんからしたら、そよ風みたいなもんでしょう。距離も離れていますし、特に身内に対しては、効果が落ちるみたいだしね。
「なんだろうね、汚泥の中から、宝石の原石を見つけたような…そんな感覚だ」
あれだけの啖呵が切れれば、問題ないでしょう。では、お望み通り鍛えてあげましょうか、本竜もやる気に満ちているようですし、ハードモードで良いかな? 適任者がいますね。
「ルナ」
「は、ひゃい!?」
「この子の面倒を見ろ。本人の意思だ、徹底的に鍛えてやれ」
「わ、わわわ分かりましたわ! お任せくださいまし!!」
「……あぁ~~~うん。はいはい、皆さんお開きですよ~。撤収撤収~。あ、ゴドウィンさんの治療もお願いしますね~」
「ハ! 後のことはお任せください!」
後のことはクロスさん達に任せて、元来た道を戻る。あ~、疲れた。ちょっと興奮して、素が出ちゃいましたね。反省反省。
―――
「うへ……うへへへへ、呼び捨てされましたわ~、クワァ~」
「やべぇ……主やべぇ……」
「何あれ怖い」
「こいつ息してねぇ!? メディック、メディ~ク!!??」
迷宮主が居なくなった会場は、先ほどの静寂が嘘の様に、途端に騒がしくなる。
「しかし、何時の間に主様は、スキルを使える様になったのだ?」
「「「……あれ?」」」
誰が言ったか、その一言が迷宮内に小さな波紋を呼ぶ事になるが、それはまた別の話。
迷宮主のメモ帳:状態異常<液化>
魔力の状態を変質させ、肉体を軟化させる状態異常
現体に近い程(ハッキリした肉体を持っている程)その影響が大きく出る。
肉体内の魔力を、<水魔法>の要領で軟弱な物質に変化させる。変質する物質は、水や油など条件次第で変わる。
魔法やスキルによる浄化によって解除が可能。時間が経過する程、変質した部分が安定し、解除が困難になる。
症状が進行すると、軽い衝撃で崩れて仕舞う様になり、最悪完全な液化まで進むと、形を保てなくなり死亡する。
適応すれば、影響を抑制する耐性を取得することができる。




