表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/334

107 環境って大事ですよね

①トカゲモドキは、本当にトカゲモドキ?

②寝言&トラウマ

③瘴気抜き

 瘴気の抜けたトカゲモドキが居る、会場へと移動する。そこにはトカゲモドキだけでなく、他にもたくさんの子達が集まっていた。玉座の間と銘打ったこの場所は、中央の吹き抜けと、壁に幾層もの観客席の様な場所が、設置されている。オペラ会場をイメージすれば、分かりやすいですかね?


 柱には灯草(あかりそう)が巻き付き、吹き抜けの天井部分には、光の魔力結晶が埋め込まれ、会場を昼間の様に明るく照らしている。灯草のツタが結晶にも巻き付き、ある種の模様の様になっていて、中々にキレイだ。


 地面は白黒のチェック柄を基調に、入り口まで伸びる赤が映える配色となっている。

 地面に魔力結晶でも、埋め込んでいるのでしょう。実はこの模様、タイルとかではなく結晶花の花畑で再現している。

 吸収した魔力によって色を変える【結晶花】の特性を生かして、今の柄を作ったのだ。

 何でも世界樹と言う事で、如何にか植物で作れないかと、試行錯誤した結果、完成したとか。


 良くこんなの造りましたね。これが趣味で造ったってんですから、感心していいのやら、呆れて良いのやら…全部自費なんだぜ、これ。


 そして俺は、そんな会場の入り口の反対側、そこに造られた高台に設置された席…てかよくファンタジーとかで出て来る、王様が座る様な玉座の裏手にある通路から、入ってきた所になる。


 玉座の左右には、ルナさんとクロスさんが控えていた。


「我らが主! 迷宮の王の御前である、控え「あ、そうゆう堅苦しいのは無しで」……はい」


 クロスさんがしょんぼりしてしましましたが、此処で止めなければ、恒例行事に成り兼ねませんからね、阻止です阻止。


 さてと、これに座るのか~、場違い感半端ないですね~、視察した当初はここを使うとは思っても居ませんでしたし。仕方がない、覚悟を決めますか。


 意を決し、玉座に腰を据え…


(プルプル)

「……」


 プルさんや、座りたいので玉座から退いて貰えないでしょうか? ……え? 上に座る? いやいや、親と慕ってくれる相手の上に座るとか、心情的に辛いのですが?

 クッションに偽装? 護衛をかねて? 早くしないと相手が不審がる? ああ、もう、分かりましたよ、座りますよ。だから拗ねないで下さい。


「よいしょっと……おぉ」


 何とも絶妙な反発感、えぇわ~、これ。

弾粘液(クッションスライム)】……名前に偽りなしですね。


 さてと、本粘液も気にしていないようですし、俺の精神衛生上考えない方向で行くとしましょう。まっすぐ前を向けば、5m程の竜の姿が視界に入る。本題に入りましょうかね~。


「気分はどうですか、暴竜」

「……あぁ、悪くない。悪夢から目覚めたような気分だ」


 おやおや、随分大人しくなりましたね。これは、対応を考え直さなければなりませんね?


 しかし……悪夢ねぇ。

 まぁ、瘴気が原因だったのでしょうね。それが抜けたことによって、元の性格に戻ったとか? 変わり過ぎではありあませんか?


「では改めて、確認も兼ねて君の口から名を聞きましょうか」

「む…俺の名はゴドウィン。ここより北の竜の谷…いや、もう俺には、関係ない場所か」


 寂しいような、安心した様な……そんな苦笑いを浮かべながら、名乗りを上げるゴドウィンさん。


「ふむ、記憶はハッキリしている様ですね。しかし、初めて会った時と比べて、随分大人しくなりましたね。どのような心境の変化でしょうか?」

「何と言えばいいか……夢の中で、違う俺が勝手に行動している様な、だけどそれも俺の意思の様な……どんどん何かに、俺じゃない俺に塗りつぶされていって、俺が消えていくような……そんな、感じだ……何と言ったらいいか俺も良く分からん」

「まぁ、言わんとする事は分からなくは無いです」


 記憶と感情を共有して居ますし、多重人格は…違うか。瘴気に汚染されて、感情を塗りつぶされていたと考える方が自然ですかね。

 催眠状態で、操られていた様な状態と考えれば、この子に責任を負わせるのは酷と言うものでしょう。


「……因みにクロスさん、浄化作業を行った他の個体は、どうなったのですか?」

「ハ! 三体の内、一体は覚醒と同時に敵対行為を取ったので、再度拘束。一体は意識不明か感情が欠落しているのか、反応なし。一体は浄化作業中に死亡、その後直ちに蘇生し今は安静にしております」


 あらら、意外と負荷が大きいようですね、残りの個体は、ゆっくり浄化して経過を見てみますか。そうなると、この子がリーダー的な位置でしたし、思いの外強かったのかな? それとも他の要因かな?


「今までの貴方とは、別だと理解しました。であれば、俺は既に思うところはありません。直接の被害にあったクロスさんはどうです?」

「ハ! 死は覚悟の上でございます。我等(アルト)一同、全会一致で主様の意に従う所存でございます」

「あら、もうすでに結論が出ていたのですね。では、お言葉に甘えまして、俺の方で決めさせてもらいますね」


 では、俺の独断と偏見で処理させていただきましょうか。あ、本蟻達は、命を軽視している訳では無いので、死を云々は突っ込まない方向で。


「では、うちの子を殺したことに対して、“今の貴方”には責任を問わないものとします。但し、厄介ごとを持ち込んだことには間違いありません。ですが、それに対する迷惑料は、既に貴方から徴収済みです。故に、貴方は自由です、好きにしなさい」


 実際、もうこの子達の鱗とか、素材としての価値がそこまでない感じなんですよね。家にも竜族の子達が成長してきましたし、抜け落ちた鱗とか普通に供給して貰っていますからね。


「自由……自由か」

「何か御不満でも?」

「いや……もっと厳しい判断を受けると思っていた……他の奴はどうなる?」

「その方の行動と、態度次第ですかね。心配ですか?」

「いや……考えて見たらそこ迄でもない。ただ俺と一緒に居る事で甘い汁を吸っていた奴らにすぎんからな。ただ、俺と同じ状態だとしたら、不憫に思っただけだ」


 う~ん、こればっかしは、直接会ってみないと結論を出せないですからね。この子と同じ状態なら、同じく解放しますし、変わらないなら……処分ですかね?


「そうか……分かった」

「それで、これからどうするので?」

「……俺には、もう、居場所が無い。何よりも、あんたに俺は礼を何もしていない」

「礼?」

「あの悪夢から解放してくれた、それだけで俺がどれだけ救われたか」


 おやおや、意外と律儀。解放すると言っているのだから、そのまま出て行く事もできたでしょうに。ですが、礼と言われましても、特に何か欲しいものがある訳でもないですしね~。


「俺をここに置いてくれ、役に立って見せる」

「あら、あなた程度が何の役に立つと言うのかしら?」

「あぁ、分かっている。俺は戦う以外の能が無い、だが俺程度の力では、此処では何の役にも立たないだろう。実際、あんたにも勝てる気がしないしな」


 ルナさんの方を向いて、ハッキリと言ってのける。う~ん、実力差が分からない訳でも無いと、なのに配下に加わる事を望むとは、どうする心算なのでしょうね? 


「だから頼む、俺を強くしてくれ、俺に生きる力を、あんた達の役に立てるだけの力を」

「へぇ……?」

「イ˝!?」


 ほうほう、そう来ましたか。つまり、自分に投資しろと言う事ですね。面白い事を言うではありませんか。


 ですが、そうなるとこちらも妥協できなくなりますね~。どれ程の覚悟が有るか、見せて貰いましょうか。


 手始めに軽く<威圧>してみましたが、ふむ、まだまだ余裕がありますね。

 圧迫面接? この弱肉強食の世界で、ひるんでいる余裕は無いですからね、俺程度の存在に睨まれる位流せなきゃ、やってられませんわ。


「つまり、俺達に君を鍛える労力を割けって事ですか?」

「お……俺は強くなる、それだけの素質がある! その力を、全てお前に捧げる! その労力以上の成果を立てて見せる!」

「その根拠は?」

「俺は、谷の№2の息子だ! 才能だけなら、どの竜よりも在る!」

「ほう?」


<魔王威圧>


「おぐぅ……グぎ」

「お、お父様、ちょっと、おさえ……」


 玉座から立ち上がり、ゴドウィンの前まで進んでいく、<威圧>は近くに居る程、その威力を増す。

 手を伸ばせば届くほどの距離まで近づくが、目を背けたい、逃げ出したい気持を、意志の力でねじ伏せ、倒れないように様に踏ん張って見せる。


 ……あぁ、これは……悪くない。


「死んだ方が、マシな扱いでも?」

「自分を偽って生き…る、のも、怯えながら生きるのも! ウッギ……死んだように、生ぎるの……も、もう……御免(ごべん)、だ!」


 恐怖と絶望と悔恨を味わいながらも、折れず挫けず前を向き、目の前の僅かな可能性に必死に、怒りまで力として抱きながら、縋るのではなく、己の力でつかみ取ろうとする姿。


 ……鼻先に向けて、腕を伸ばす。触れた部分から、直接威圧を叩きこむ。


「ォギィ、い! ギグ!!」


 白目をむき、気を失いそうになるも、舌でも噛み切ったのか口の端から血が流しながら、その痛みで無理やり意識を保つ。


「だがラ……俺に、ヂガラヲ、ヨゴセ!!」










<覇王威圧>












 ―――


「ふふ……くふふふ」


 気絶し、白目をむいているゴドウィンさんの鼻先を撫でながら、先ほどの光景を思い出す。


 あぁ、久しぶりに良いものを見たな~。これが、この子の意思の力、とても良い輝きでした。元居た世界では、まず見る事が無かったもの……はぁ、綺麗だった。


「ぬ、主様。その、<威圧>を行うのでしたら、一言お声を掛けて下さい。心構えが……」

「ん? あぁ、ごめん。気が回らなかった。君達なら俺の<威圧>なんて、そこ迄でもないだろ?」


 <威圧>関係のスキルは、使用者と効果範囲にいる者との実力差がもろにでる。糞雑魚な俺の<威圧>なんて、皆さんからしたら、そよ風みたいなもんでしょう。距離も離れていますし、特に身内に対しては、効果が落ちるみたいだしね。


「なんだろうね、汚泥の中から、宝石の原石を見つけたような…そんな感覚だ」


 あれだけの啖呵が切れれば、問題ないでしょう。では、お望み通り鍛えてあげましょうか、本竜もやる気に満ちているようですし、ハードモードで良いかな? 適任者がいますね。


「ルナ」

「は、ひゃい!?」

「この子の面倒を見ろ。本人の意思だ、徹底的に鍛えてやれ」

「わ、わわわ分かりましたわ! お任せくださいまし!!」

「……あぁ~~~うん。はいはい、皆さんお開きですよ~。撤収撤収~。あ、ゴドウィンさんの治療もお願いしますね~」

「ハ! 後のことはお任せください!」


 後のことはクロスさん達に任せて、元来た道を戻る。あ~、疲れた。ちょっと興奮して、素が出ちゃいましたね。反省反省。


 ―――


「うへ……うへへへへ、呼び捨てされましたわ~、クワァ~」

「やべぇ……主やべぇ……」

「何あれ怖い」

「こいつ息してねぇ!? メディック、メディ~ク!!??」


 迷宮主が居なくなった会場は、先ほどの静寂が嘘の様に、途端に騒がしくなる。


「しかし、何時の間に主様は、スキルを使える様になったのだ?」

「「「……あれ?」」」


 誰が言ったか、その一言が迷宮内に小さな波紋を呼ぶ事になるが、それはまた別の話。

迷宮主のメモ帳:状態異常<液化>


魔力の状態を変質させ、肉体を軟化させる状態異常

現体に近い程(ハッキリした肉体を持っている程)その影響が大きく出る。


肉体内の魔力を、<水魔法>の要領で軟弱な物質に変化させる。変質する物質は、水や油など条件次第で変わる。


魔法やスキルによる浄化によって解除が可能。時間が経過する程、変質した部分が安定し、解除が困難になる。

症状が進行すると、軽い衝撃で崩れて仕舞う様になり、最悪完全な液化まで進むと、形を保てなくなり死亡する。


適応すれば、影響を抑制する耐性を取得することができる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ