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94 冒険者とダンジョン③

アルト「えっさ! ほいさ!」「掘り返せー!」「耕せー!」

②ラッチ「メシ―!!!」

③ラッチ・・・・・・あなたは強かった(過去形)


 さてと……これから如何するか。

 あれからしばらく観測していたが、特に目立った変化は見られず、時間と魔石だけを消費していった。太陽も傾きだし、そろそろ次の行動を考無いといけない。

 然り、ここに留まるか、撤退するか……


「向こうは気が付いてねぇ、もう少し残って変化があるか見てみるか?」

「……ぶっちゃけ、夜とかめっちゃ怖いんだけど」

「私も同感。それに、スピールの件もあるし……」


 居たな~、ヘタレ従魔。しかし、いったい何に怯えてたんだ? 確かに強い魔物は居そうだけど、あいつの感知範囲を考えると、察知できたとも思えないし。


「……ん? 何の音だ?」


 ゴッコが何かの音を捕らえたらしく、一旦会話を中断する。

 息を潜め、耳を澄ませる。森の方を見ると、森から続いていた虫族の魔物の列が途切れ、森から出て来なくなった。今までと違い、何かしらの変化が有る事は間違いない。


 暫くすると、遥か遠くから断続的な衝撃音を響かせながら、何かが接近して来るのが分かる。

 ……そして、索敵の迷宮具がその姿を捕らえる。


 それは白と黒、二体の中型魔物。


 光の当たり方次第で、幾つもの色彩に変化する、艶やかな黒い体毛に覆われた獣族の魔物。

 片や一点の曇りも無い、真っ白な体毛に覆われた獣族の魔物。

 この世のものとは思えないその姿に、俺たち三人は目を奪われ、言葉をなくす。それほどまでに、美しい魔物だった。


 だが、その二体の魔物の攻防は、苛烈を極める。尾による攻撃は空気を弾き、鋭い爪による攻撃は地面に大穴を穿つ。魔法が入り乱れ、辺りの地形が変わって行く。俺達では、その全ての攻防を捕らえることができない。


 そして、争う二体の魔物を中心に、数体の魔物が一定の距離で追従し、周囲に飛来する戦闘の余波を、各々障壁や魔法で相殺することで、周辺への被害を無効化していた。

 その魔物も、どれもこれも見たことが無い魔物ばかり。虫や獣…そして、竜

 彼等は森と土を掘り返していた虫族の魔物の間、掘り起こされた後の大地を駆け抜け、そのまま見えなくなった。


 完全に俺達より上位の存在、しかもそれが数体。奥地には、更に存在すると考えていいだろう。


「……逃げよう」

「「異議なし」」


 俺達は、早々に撤退を開始した。


 ―――


「ふー…迷宮具は運び終わったぞ」

「了解、こっちに異常は見られない」

「そうか、スピールの方が限界っぽかったぞ? ベズが急かしてきた」

「あぁ、すぐに動こう。俺も生きた心地がしないよ」

「隠蔽魔法を張るわね」


 ゴッコとスチーナに道具の運搬を任せ、俺は警戒に当たっていた。あんなモノを見た後で、索敵の迷宮具なしでの警戒は、精神的にキツイ。

 山を迅速かつ警戒しながら降りていく。視界が開けているのが、こんなに怖いとは思わなかった。あいつらがこっちに来たら、俺達じゃ逃げるのも不可能だ。スピールが走り出せば、街まで止まらずに移動できる。スピールの足なら……だ、大丈夫だよね?


「遅い! 早く! 直ぐ出るぞ!!」


 到着して早々、スピールが急かしてくる。既に出発準備は整っている様で、帰路を向いているスピールの姿は、車に隠れて見えないが、相当焦っている様だ。何だかんだで、待っててくれるから律儀な奴だ。

 今なら、コイツが焦るのも分かる。あんな奴が近くに居たら、生きた心地がしないよな。本能的に察知したのか? まだコイツに、野生が残っていたことに驚きだよ。


「ゴッコにも聞いたが、大丈夫か?」

「ヤバいね。あのレベルの魔物がうじゃうじゃいるとすると、高レベル冒険者が相当数要るね」


 留守番をしていたベガが話しかけて来たので、向こう側について軽く説明する。後で記録の迷宮具の映像を見せれば、納得してくれるだろう。


「そんなものはどうでも良い! 早く! 早く!!」

「おいおい、どうでも良くないだろ。お前だって、あんな化け物レベルの魔―――」

「死が! 死が迫ってくる!!」


 どうでも良い? あの魔物に怯えてた訳じゃないのか? 本当は走ったりして、気配を漏らしたくないのだが、スピールのせいで今更なので、急いで駆け寄る。


 車まで数十メートル、殿を務めた俺が最後だ。このまま乗り込んで、すぐさま出発―――


 ― ジワリ… -


「!!!??? ション!! 跳んで!!」


 突然、スチーナが車の中から俺に向かって叫ぶ。その顔には、驚愕と焦りに染まっていた。

 こんな場所で叫び声を上げるなんて、冒険者ならば“ありえない”行為だ。つまり今、ありえない事が起こって居ると言う事!?

 俺はその言葉に従い、全力で車に向かって飛び……それと同じくして、足に激痛が走った。


「があーーー!!??」

「ション!?」


 中途半端に跳ぶ形になって仕舞い、車の手前で失速し転がり落ちる。足が焼ける、溶ける、痛い! 痛い!! 痛い!!??

 余りの痛みに意識が飛びそうになるが、それすらも痛みで覚醒する。俺が見たものは、ぐずぐずに溶けていく自分の足だった。


「クッソ! 許せ!」


 ゴッコが俺の足を、持っていた片手斧で切り落とす。


 原因も治療法も対処法も分からない現状、最短の解決法は、異常部位を切り離す事。

 普通の治療では、欠損部位を癒すことはできないが、冒険者ギルドに戻れば治療可能だ。こいつの判断は正しい。


 ゴッコの後に続き、スチーナが駆け寄ってくる。手を伸ばし、担ぎ上げようとした彼女を俺は……突き飛ばした


「…え?」

「!!?? クッソ!!」


 何故そうしたかは、分からない。だけど、そうしないといけないと、本能的に思ったんだと思う。そんな俺の行動を見て、ゴッコも距離を取る。尻もちを搗きながらも、再度向かって来ようとしたスチーナを、ベズが咄嗟に取り押さえる。


「ション!?」

「なんなんだよ! …チクショウ!!」

「……死毒」


 ベズが俺の名を呼び、ゴッコが悪態をつく。そしてスチーナが、絶望に打ちひしがれる様に何かを呟く。


「死毒? 何だそれ!?」

「…蝕むモノ…世界を喰らう毒…人が生み出した……災厄の禁忌」

「毒か? どうすれば良い? 治療法は!?」

「無いわよ!! ……そんなの、無いわよ…」


 スピールが怯えていたのは、これだったのか。クッソ、もう少し分かりやすく言えよな。お陰で、もうまともに声も出ない。だけど、最後までリーダーとしての役目は果たす。


「い…げ~~~~!!」

「~~~、~~~~~~!」

「……行くぞ」


 良い、これで…いい。もう皆は大丈夫だろ。触れさえしなければ、侵される心配も無さそうだし、情報もちゃんと持ち帰れるだろうしね。

 こんな稼業だ、何時か死ぬとは思ってたけど、まさかこんな死に方になるとは…………悔しいな~。こんな事なら、さっさと告っとけば良かったかな~。……今となっては、ヘタレて良かったか。こいつなら、良い男捕まえられるだろ。


 ― モゾモゾ…ボコ! -


「…キ?」


 安心して見送ろうとした直後、スピールの直ぐ側の地面に穴が開き、黒い虫族の魔物が顔を出した。


迷宮主のメモ帳:人種ヒトシュ


知能が高く、基本的に集団行動を取る、文明を持つ集団を表す。


身体的な特徴から、亜人族、獣人族、蟲人族、魚人族、蜥蜴人族など様々な種族が存在するが、全てまとめて人種又は人族と呼ぶ。

また、同じ種族同士でしか繁殖できない。(亜人族+獣人族=ケモミミっ子はできません)

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