第111話 安心しろ、峰打ちだ
「な、なんでお前が私の邪魔をする! どうしてそいつを守る!?」
【(ルーナが脅迫するから)】
命令を脅迫と捉える暗黒騎士。
被害者意識は常に持ち合わせている。
「そいつは、お前を操って魔族に大きなダメージを与えた最低の女だぞ。それを、どうしてお前が守る!?」
エドウィンからすれば、暗黒騎士が自分の邪魔をする理由が分からない。
魔族に喧嘩を売り、魔剣騒動で大きなダメージを与えた黒幕。
多少の護衛はつけたとしても、魔王軍最高戦力がわざわざ助けに来る理由が分からなかった。
それに対して、暗黒騎士は短く答える。
【どうでもいいからだ】
「はっ……?」
想定していなかった言葉に、エドウィンは固まる。
魔王軍の幹部が、魔族を虐げられたことに対して、どうでもいい?
【こいつが魔族に打撃を与えたことは、どうでもいいのだ】
これは、暗黒騎士の本心である。
どうでもいいのだ、魔族が魔剣持ちに攻撃を受けたことなんて。
魔族全体のことを考えている魔王軍幹部なんて、魔王以外に存在しない。
【私にとって、こいつは(鎧を解除してもらうために)必要な女だ。だから、守る】
「え、あ……」
言外に含まれているのは最低な言葉なのだが、それを聞き取ることができる者はいない。
ユリアなんて、純粋な好意を直接ぶつけられたように、顔を赤らめてしまっている。
「ふ、ふざけ……!!」
「おーい、まだ終わらないのか? もう早く帰って飯を食べて寝よう」
エドウィンは怒りのままに怒鳴ろうとする。
そんな彼の言葉を遮ったのは、外から聞こえてくる女の声だった。
殺し合いをしている現場に明らかに不釣り合いな言葉を言い放った女は、のんきに警戒すらせずに入室してくる。
そこに暗黒騎士がいる以上、敵が優勢ではないと悟り、絶対に自分に攻撃が来ることはないと信頼しているからであるが、暗黒騎士は不快そうな声音だ。
【ふざけるなよ、ニート】
「なっ……あ、あなたは!?」
ギョッと目を見開き驚くエドウィン。
絶対に目を離せない暗黒騎士からも視線を外し、ただただ入ってきた女……フラウを凝視する。
【あなた?】
「ふっ……私も有名人のようだな。この美貌が原因かな?」
【人類の裏切り者としてじゃないか?】
「止めろ」
震え上がるフラウ。
全人類が自分を殺しに来ることを想像し、ただただ怯える。
調子に乗りやすいくせに、超小心者だった。
そして、そんな会話をしていた二人を……いや、フラウを凝視していたエドウィンが、ついに口を開く。
「どうしてあなたがこんなところに!? あなたは、王国の……!!」
その瞬間、フラウの目が煌めく!
「ずぇえりゃああああああ!!」
「がはっ!?」
剣を抜き放ち、その峰で思いきりエドウィンの頭部を殴りつけた!
ゴキャッ! と人体から聞こえてはいけない音が鳴り響き、エドウィンは白目をむいて倒れ込んだ。
「安心しろ、峰打ちだ」
【……すさまじい音がそいつの頭からしたんだが】
ふっと息を吐くフラウに白い眼を向ける。
死んでそう。
【……口封じしたな】
「何のことだ? さっぱり分からないが」
暗黒騎士の目も知らんぷりで、フラウは口笛を吹くのであった。
へたくそで吹けていなかったが。
◆
「ユリアとつながっていたのは、王国でしたか。魔族との敵対色が強い帝国ではないのは、少々意外ですわね」
ルーナはそう言って目を閉じる。
ユリア……とんでもない女だった。
裏切るわ、内通しているわ……。
いや、元々人間だったのに無理やり魔族にされているのだから、それくらいするのは当たり前か。
俺も、自分がされたことは何年経っても忘れない。
【人間の国だし、帝国でも王国でも不思議ではないだろう】
「いえ、国の色はありますわ。帝国はかなり魔族に対する嫌悪が強かったですが、最近は鳴りを潜めていますわね。最大派閥の武断派が大きく勢力をそがれたからでしょう。あのままだと、いずれ大きな衝突になっていたかもしれませんわ」
へー……。
全部人間とか一緒だと思っていたわ。
別に争ってくれていいんだけど、俺の関係ないところでやってほしいんだよなあ。
少なくとも、今戦争をされたら困る。
「王国は日和見主義で、敵対もしなければ友好関係を築こうともしない連中ですわ。だからこそ、少々今回のことには驚きましたが」
ブツブツと呟くルーナ。
まあ、魔族のことはこいつに任せていいだろう。
俺は俺のためだけに行動しなければ。
「王国との衝突が近いかもしれませんわね」
王国、と聞いてふと思い出す。
そういえば、今俺の後ろにいるフラウがどうたらこうたら……。
【……そういえば、フラウが王国の人間に……】
「どうぇええええええい! 私、今から裸踊りします!!」
突然武装を脱ぎ始めるフラウ。
適度に実った肢体が露わになる。
誤魔化し方がへたくそ!
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