23 私のモッテイナイモノ
さて、この先どう動くか。
「水無月さん、生徒指導室で聴取を受けているらしいぞ」
風見が俺にスマホを見せてくる。
どうやら風見ファンクラブのグループLINEのようだが、風見のファンはストーカー適正でもあるのか。
……つーか本人もグループに入ってるのか。
「じゃあ、風見は蜂須賀先生を捕まえてくれ。登呂川は他のカメラの画像も確認してもらえないか」
「オッケイ」
「分かったよー」
「私は?」
穂乃果は不安そうに俺のシャツを掴んでくる。なにそれ可愛い。
「呼び出された水無月がそのまま帰っちゃわないように、生徒指導室の前で待っててあげてくれないか」
「分かった。たっくんはどうするの?」
「電子遊戯同好会の鳥海真美子をここに連れてくる」
――――――
―――
扉を開けた瞬間に分かった。ここは完全にアウェイだ。
電子遊戯同好会の部室。俺は敵意のこもったいくつもの視線にさらされていた。一瞬立ち尽くす俺に、恰幅のいい部員が吐き捨てるように言う。
「寒いんだけど。用があるなら入って閉めてくれないか」
「ああ、ごめん。失礼します」
多分お前寒くないだろ。失礼なことを考えながら俺は扉を閉めた。
「うちに何の用? コソ泥の件なら、先生を通してくれよ」
あふれる敵意を隠そうともしない。向こうからすれば、こっちは盗人の仲間だ。脅しにでも来たのかと思われているのだろう。
見れば部室の奥には鳥海真美子が得意げな顔をして、男子部員とレトロゲーのアイスクライマーをやっている。
「その件というかなんというか、鳥海さんと話がしたくて。ちょっといいかな」
言い終わるが早いか。やたら背の高い男子部員が俺の前に立ち塞がった。なんだなんだ。戸惑っている内に、部員たちが俺を取り囲む。
「お前、鳥海さんに何の用だ。悪いけど帰ってくれ」
鳥海真美子は一層得意げな顔をして、こちらを横目にゲームを続けている。
これか。これがオタサーの姫と騎士なのか。
「えーと、今日の5限の件と言えば、分かるんじゃないかな」
びくりと肩を震わせて、鳥海真美子のゲームをする手が止まった。律儀に一時停止をしているのがちょっと好感度アップだ。
「あんた、誰」
「BL部の秋月。君にちょっと聞きたいことがあるんだ」
「そういえば、水無月と一緒にいた男じゃない」
彼女は暫く考えると「分かった」と立ち上がる。
「俺達も一緒に行くぞ」
鳥海真美子は手ぶりで騎士たちを制すると、不敵な笑みを浮かべて俺の顔を覗き込む。
「秋月君だっけ。場所を変えましょうか」
――――――
―――
「へえ、随分いいもの揃ってるじゃない」
鳥海真美子はソファに腰かけ、余裕のある態度で大きく足を組む。勝手にリモコンでテレビの電源をつけたので、俺は間髪入れずに消した。
「なによ、呼び出しといてけち臭いわね」
小動物系の見た目にも関わらず、えらいデカい態度だ。登呂川は横目で、しかし値踏みするように鳥海を眺めていたが、風見を狙う敵ではないと感じたのか。パソコンの操作に戻った。
「早速だけど水無月の件。ゲームを彼女のカバンに入れたのは君だよね」
まずは直球ど真ん中。さて、どうでるか。
「まさか。私がなんでそんなことするのよ」
微動だにせず。敵地のど真ん中でいい度胸をしている。
「登呂川、さっきの画像見てもらおうか」
「おっけい」
登呂川はノートパソコンのキーを叩くと、画面を彼女に向けた。
鳥海は自分が画面に現れても表情を変えるでもなく、立ち去るまでの一連を微動だにせずに眺めた。
見終わると、嘲るように鼻で笑って手を振った。
「そもそもこの映像で、これが盗まれたゲームだってことが判るの? ちらりとしか映っていないじゃない」
「じゃあ、水無月のカバンに何かを入れたのは認めるんだな」
「そうそう、思い出したわ」
鳥見の笑みが大きくなる。
「昔、彼女に借りた本を返しに来たのよ。まさか、こそこそと盗撮しているなんてね。これって問題じゃない?」
「わざわざ授業を抜け出して?」
「だって水無月さんと元友達だなんて知られたら困るでしょ。猫にワサビを盛るわ、今回はゲームまで盗む問題児なんだもの」
「猫にワサビ?」
「そうよ。騒ぎになったじゃない。あなたたちも知ってるでしょ」
「ワサビの件は先生と、犯人くらいしか知らない情報だよ。やっぱり君が」
「じゃあ、それを知っているあなたも容疑者ね」
これじゃ水掛け論だ。その時、
「はい、じゃあアングルを変えまーす」
登呂川が映像を切り替える。
カバンのファスナーを開けて、ケースを入れる場面がアップで写っている。ゲームのタイトルまでも鮮明だ。
「私、A組だからねー。持ち物検査で花火ちゃんのカバンから出てきたのはこのソフトに間違いないよ」
「ちょっと待ちなさいよ! この手が私のだって証拠は無いわ!」
「じゃあ二つの映像を同期させて一緒に流そうか? 検証するんなら、広ーく大々的に公開しなくちゃね」
無言で黙り込む鳥海。何かを言おうとして、止めるのを何度か繰り返してから大きく溜息をついた。ついに観念したか。
俺が気を抜いた瞬間だ。鳥海は突然登呂川に飛び掛かった。俺は寸でのところで鳥海の腕をつかんで引き寄せる。
「おまえ! なにするんだよ!」
「あ、データはクラウドに保存してるから、壊しても無駄だよ」
登呂川は挑発するようにパソコンをひらひらと鳥海の眼前で振って見せる。鳥海は今度こそ力なくソファに崩れ落ちた。
「私にどうしろっての」
「俺達は水無月の疑いを晴らしてもらえればそれでいいんだ」
スマホの着信に気付いて画面を見る。穂乃果からだ。
『今、水無月さんと一緒。しばらく校内待機なんだって』
「あ、うん。ちょうどよかった。水無月と一緒に部室に来てもらえるかな」
間もなく穂乃果と水無月が部室に来た。
穂乃果からあらましを聞いていたのだろう。水無月は驚くでもなく、鳥海の向かいのソファに座る。
無言で動画を見終えると、静かに尋ねた。
「鳥っち。何でこんなことしたのさ」
鳥海はそれには答えずにうつ向いて、何かをブツブツ呟いている。
「やっぱ菅原の件なのか?」
その名前が出た途端、怒りに満ちた表情で鳥海が顔を上げた。
何かを堪えているのか奥歯を噛みしめる音が俺まで聞こえる。
「なあ、あんたを責めるのは俺達の仕事じゃない。水無月の疑いを晴らしたいだけだ」
「鳥海さん、だよね。水無月ちゃんの潔白さえ証明できれば、私達はそれでいいの」
俺の後を継ぎ、穂乃果も言葉を続けた。それがきっかけだったのか。鳥海がはじける様に叫んだ。
「みんな、口を開けば花火花火って! あんたばっかりちやほやされて、菅原まであんたに取られて!」
「それは違う。菅原は勝手に私に惚れて、振られただけだ」
水無月、何故火に油を注ぐ。
鳥海は両手で顔を伏せると、絞り出すようにうめいた。
「花火は昔から私の憧れだった。花火は私の持っていないものを全部持ってる!」
『えええっ!』
思わず叫ぶ俺達。
「……お前ら、後で話がある」
ヤバイ。水無月の怒りがこちらに向いたぞ。
暫くは鳥海の嗚咽だけが部室に響いた。泣き声が収まってきたころ、俺は水無月にどうしたいのかを聞いてみた。
「別にいいよ。今更私の評判が落ちたって」
「お前じゃないって、はっきり認めてもらわないと」
その時、俺達の会話を盗み聞いていたのか。扉が突然開いた。
「そうよ、あんたが疑われたままだと、私の管理責任が問われるの―――」
みんなもう少し水無月ちゃんに優しくしてあげましょう。
水無月編、次話で完結です。




