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第九話「勇者一行、街へ」

この作品もそろそろ百話になりそうなんですね……早いものです。

「ふむふむ。これが、刃太郎さんの過ごしてきた街並みですか。聞いていた通り、私達の世界とは随分と文化が違うようですね」

「わぁ。お洋服もなんだか、色々あるね。あ、あのぬいぐるみ可愛い!」

「女子達は楽しそうだな」

「ですね。ですが、大丈夫でしょうか? 僕達はまだこっちの服を持っていないので、普段の私服で歩いていますが」


 昼食を終えた後、俺達は街へと繰り出していた。やはり、こっちの世界に来たからには帰るまで存分に楽しみたいとのこと。

 さて、アデルが心配していることだが。

 ナナミとアデルは心配ないだろう。

 服装は、ちょっとファンタジーよりだが問題はない。いや、問題なくはないか。やはり、周りから見れば外国人達がショッピングに来ている、そんな風に見えるだろう。

 俺は見慣れてしまっているが、一般の人達は若干ちらちらとこちらに視線を向けている。


 特に目立っているのが、リリアだ。

 マジで、楽しみにしていたのか。メモ片手に色んな店を見て、メモをしている。ナナミもナナミで、色んな服屋や小物店などを見て回っている。


「大丈夫なのです。私なんて四六時中白衣なのですよ?」

「最初はかなり目立っていたもんな」


 今もあんまり変わらないと思うけどな。女子二人が、街並みに興奮している中男子三人は仲良く並んで歩いている。

 そうそう、この場にいないロッサとリフィルは家で仲良くゲームで対戦しているよ。

 この発端は、リフィルがロッサがアプリゲームをしている時、からかうように笑い煽ってきたのだ。ロッサはそれを軽くスルーしたのだが、逆にロッサに煽られリフィルが簡単に乗ってしまった、とさ。

 リフィルも退屈をしていたのか。

 それとも、煽られた耐性が低かったのか。それは最中ではないが、神と魔帝によるバトルが始まり、俺達はマンションを後にしたんだ。


「刃太郎さん! このお店でお買い物をしたいです! 早く来てください!!」

「俺は財布じゃねぇっての」


 そもそも今の俺はどう見たって小学生。

 小学生に何かを買ってもらうって画的にどうなんだ。とりあえず、ある程度の金を渡して自由に買い物をさせるようにした。

 こっちでは、簡単に金は稼げないからな。

 あっちでは、魔物を倒したり、クエストを達成すれば金が入ってくるがこっちは違う。

 まだまだ天宮家で働いていた時の金が山ほど残っているからこいつらの生活費に当てることにした。


 いつまで滞在するかはわからないから、多めに。

 金の使い方などは、教えてあるから何も問題は起こさない、と思うけど。一応、監視役として二人を見失わないようにしないと。

 ナナミは、普段はとても優しく世話焼きな性格なんだが。

 ああいう可愛いものを見ると、興奮してしまうのだ。

 最初ナナミの変わりようを見た時はびっくりしたっけなぁ。


「食後のアイスは格別だな」

「確かにおいしいですね。このチョコが入っているのも、すごくおいしいですよ」

「チョコチップ入りか。そういえば、バニラしか食べた事がなかったな。貰ってもいいか?」

「あ、はい。いいですよ」


 コンビニでカップアイスを購入して、近くの公園のベンチに座りまったり。

 すると。


「あっ」


 丁度通りかかった御夜さんを発見。御夜さんも、俺が小さくなったことは知っている。だが、実際に会うのが今日が初めてだ。

 肩には、式神のさくらが乗っていた。


「こんにちはです。刃太郎さん、ニィさん。それに、そちらの方は?」


 最初に挨拶をしてくれたのはさくらだった。御夜さんも、小さくこ、こんにちはと挨拶をしてくれた。俺達も、挨拶を返しアデルのことを説明する。


「初めまして。アデルト・ラインコードと言います。刃太郎先輩のご友人の方ですか? それと……使い魔、でしょうか?」

「こっちでは、式神っていうんだ」

「御夜様の優秀な式神さくらと言います! 今は、御夜様とお散歩中だったんですよ」

「な、凪森、御夜です。刃太郎くんには、とてもとてもお世話になっています。よ、よろしくね?」

「はい! よろしくお願いします!」


 眩しい、さわやかな笑顔を作り手を差し出すアデル。

 しかし、そんなアデルに押され御夜さんは一歩引いてしまう。


「あ、あう……」

「あっ。すみません。握手はいや、でしたか?」


 そうではない。そうではないんだ。彼女はただ、人見知りが激しいというか。これでも少しはマシになったのだが。

 やっぱり、初対面の人にはまだ時間がかかりそうだな。


「いやぁ、とてもいいお買い物ができました。ニィーテスタ様からおすすめされた漫画やライトノベルというものも買いましたし。教会の皆さんへのお土産も……おや? そちらのお方は?」

「もしかして、刃太郎くんのご友人の方ですか?」


 一通り買い物を終えた二人が戻ってきた。

 二人とも、両手に買い物袋である。

 紹介したばかりだが、二人にも御夜さんやさくらのことを軽く紹介した。すると、リリアはさくらのことをじっと見詰める。


「なるほど。式神ですか……確かに、聖なる力を感じられます」

「えへへ。そうですか? でも、前はこれよりも大きかったんですよ?」

「その辺りの事情は、あえてお聞きしません。ですが、とても優しい主に仕えることができているようですね。目に見えなくとも、私にはわかります」


 さすがは、シスター。

 そういうところは、よく見抜くよな。真っ直ぐ、そんなことを言われたさくらは嬉しそうに笑い、御夜さんは恥ずかしそうに頬を染めた。


「ありがとうございます。でも、御夜様の式神になってすっごく忙しくなりました。だって、御夜様。ちょっと目を離すと、すぐお部屋を散らかしてしまうんですもん」

「そ、それは言っちゃだめ……!」

「えっと、お掃除お手伝いしようか?」


 その辺りは大丈夫だと思うぞナナミ。

 まったく、幸せそうだな。

 あの時と比べたら、別人じゃないかってぐらい楽しそうに過ごしいるのが目に見える。やっぱり、普段はしっかり者のさくらが御夜さんの身の回りの世話をしているってところかな。

 華燐や響には、二人のことは聞いているけど。実際、こうして見るとあぁ、確かにって思う。


「そ、それじゃ私はこれで……!」

「またお会いしましょう!!」


 恥ずかしさが頂点まで達したのか、逃げるように御夜さんは俺達の元から去って行く。


「ああいう関係。とてもいいですね」

「だな。それで、これからどうする? 俺達はこれからアデルの服を買った後、ゲームセンターに行こうと思っているんだが」

「私もついていきますよ。ゲームセンターなるものも、すごく楽しみなので」

「私も。あ、でも一度荷物を置きに行かないと」


 確かにそうだな。こんな大荷物を抱えてちゃ邪魔になる。


「大丈夫なのです。私がなんとかするのですよ」


 なるほど、次元ホールで一斉に運ぶのか。

 そうと決まれば……よし、丁度人目がないな。それがわかったニィは、次元ホールを開きその中へナナミ達の荷物を放り込んだ。


「これで、大丈夫なのです。荷物は刃くんの部屋に全部置いておいたのですよ」

「なんで俺の部屋なんだよ」

「刃くんの部屋じゃないと、どこかのお馬鹿さんが、勝手に開けちゃいそうですから」


 なるほど、そういうことか。

 確かに、あの中には漫画やライトノベルが入っているからあのジャージ神が見つけたら、絶対開けそうだよな。


「では、荷物もなくなったことですし。さっそくアデルくんの服を買いに行くのですよ」

「すみません。僕のために」

「大丈夫だ。しばらくこっちにいるんだろ? だったら、服は絶対必要だ。それに、街を紹介するついでだから何の問題もない。あ、それとも俺の服を着るか? 俺、ちっちゃくなったから元の服を着れなくなっちまったんだよ」


 刹那、ニィの目が輝く。


「刃くんの服なら、私が着るのです!」

「お前はだめ」

「えー」

「ぼ、僕も大丈夫ですから。それに、刃太郎先輩の服を着るなんて僕にはまだ。選んで頂けるだけで、僕は嬉しいですから」


 まあ、アデルがそういうならそれで良いんだろうけど。遠慮がちな後輩のために、俺達は服を買いに行く。その後は、ゲームセンターで楽しみに楽しんだ。

 特に、ナナミなんてクレーンゲームに熱中。リリアもリリアで、ニィに太鼓を叩くゲームで一緒にやろうと誘われ、爆発。

 あ、爆発と言っても、マジで爆発したわけじゃない。感情が、だ。そのせいもあってか、初めてなのに高得点を叩き出すという見ていた者達を驚かせていた。

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