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第二十四話「全てを白に」

「随分と賑やかになっているみたいだな」

「あれ? あの人って」


 次元ホールを通り、華燐達側へと辿り着いた。そこで目にしたのは、俺達のほうへといたムロクがこちらに来ており、先日知り合った華燐の霊能力者仲間秋明さんに腕を突っ込んでいたところだった。

 おそらく、こっちのムロクが本物で、様子から察するに秋明とムロクは組んでいたってところか。

 そして、両側に邪魔が入ったためムロクは秋明さん側に来て作戦変更か早めることに決定した。


「刃太郎さん。そっちは、終わった……わけではないですよね」

「貴様、しくじったな? こっちに敵をよこすとは」


 登場と同時に嫌味を言ってくるロッサ。

 まあ事実だから、否定ができない。


「すまん。どうやら偽物に踊らされていたみたいだ」

「つくづく察知能力は低いようだな」

「だからそういうのは、仲間が得意だったから仕方ないんだよ」

「……クロ。どうしてここに。もう大丈夫なの?」

「うん。心配かけてごめんね」


 ロッサの嫌味もほどほどに聞き、俺はムロク達を睨む。秋明さんは、膨大な邪気に包まれていき、それはムロクをも包んでいる。


「ほう。貴様もこっちに来ていたか。出来損ない。元主人が心配でわざわざこっちに来たのか?」

「あなた達を止めに来た。これ以上、好き勝手にはさせない」

「元主人? ということはあの男が」


 クロに封印術をかけた張本人。

 ムロクは笑う。

 邪気を纏いながら、より一掃狂気に満ちた笑みを俺達に向けている。


「俺達を止めるとは大きく出たものだな。あの時は、結局止められず仲間を皆殺しにされたというのに」

「皆殺し……?」


 ムロクの口から語られる事実に、華燐はクロを見詰める。


「そうだ! 一度この秋明は仲間と共に俺に挑んできた。だが、結局無駄死に。生き残ったこいつは、命乞いをしたよ。それはもう惨めにな! せっかく、健気に式神が守ってくれたのというのに……人間というのは本当に愚かな存在だ!!」


 咆哮し、邪気は爆発する。

 秋明をムロクを引き込み、融合させた。角は二本から三本に増え、髪の毛は腰まで伸び、邪気による大きな翼が生えている。

 それも四枚。上半身は裸で、肌が紫に変色していた。俺達を睨む瞳は、もはや人間のものではない。まさしく獣。

 俺は、そんな中クロへと視線を向ける。


「クロ」

「うん……お願い、刃太郎」


 ここに来る直前、俺はクロから頼まれた。

 秋明を止めてくれ、と。

 その瞳からは、決意の光が見えた。そして何よりも、ニィから告げられた真実。もう、クロは長くはないと。

 これまでずっと邪気に耐えてきたが、これ以上は危険すぎる。

 このままでは抵抗力がなくなり、いずれは……悪鬼と化してしまうだろう、と。

 もう長くないから。

 その前に、自分の主人と。仲間達を殺した悪鬼と決着をつけるために。


「ニィ。あれ、使うけど。いいよな?」


 俺は、一人前に出て、後ろに控えているニィに問いかけた。華燐達は、あれと言われなんのことかわからない様子だったが。

 ニィはもちろんのこと、ロッサもなんとなく察したようだ。


「いいのです。責任はわたしが取るのですよ。これ以上この不快な邪気を放ってはおけない。早々に決着をつけちゃうのです。勇者威田刃太郎」


 許可。感謝するぜ。


「華燐」

「はい」

「一緒に行くか?」


 一度、クロを見て華燐は静かに俺の隣へと歩み、霊力を高めた。


「もちろんです。クロのためにも……決着をつけます!」

「では、我らは見学でもしているか」

「えー! わたしも戦いたいよ!」

「まあまあ、コトミ様。ここはお二人にお任せいたしましょう」

「そうだよ、コトミ。それに、刃太郎の力に僕は興味津々だからここでじっくり見てみたい」


 ロッサは、俺との共闘などまっぴらだ! という理由だろうが。すまんな、皆。せっかくの旅行なんだ。これ以上長引かせて、時間を潰すわけにはいかない。

 神様の許可も下りたことだし、ここからは勇者としての俺をちょっとだけ見せてやる。


《何が来ようと今の俺は、倒せん! 今の我らは、超完全体!! 人を、悪鬼を超えた存在なのだ!!》


 声が重なって聞こえる。もはや、秋明とムロクは完全に合体しているようだ。確かに、合体前よりも格段に力が上がっているのはわかる。

 すでに、空は黒き雲で包まれていた。

 これじゃ、街中にいる人達も不安がっているだろうな。まあ、その辺りはリフィルが何とかしてくれているはずだし……してくれているよな?

 それにしても超完全体って、小学生かよこいつ。


「威勢がいいな。だが、ここからの俺はマジで強いぞ。ムロク」


 第一から第二封印解除。

 魔力の増大確認。

 満ちる……満ちてきた。体中に、封印していた魔力が。

 さあ、行くとするか。


「出番だぞ、アイオラス!!」


 指輪は光り輝き、頭上に魔方陣が展開。そこからにゅっと出てきた柄を握り締め剣を引き抜いた。


「か、かっこいい!!」

「やはり、そいつか……まったくいつ見ても、不快な光だ」


 この光は、魔族などの魔なる者達にとっては不快。

 ロッサに限っては一回こいつにバッサリ切られているし。今は、力が弱まっているから抵抗力も低くなっているからな。

 でも、この邪気が漂う中ではこいつが一番なんだ。


『よう! 相棒! また呼んでくれて俺は嬉しいぜ! だがいいのか? また変な影響が及ぶんじゃねぇか? まあ、俺には関係ねぇがな。俺を抜いたのは相棒だ! 責任は全部相棒が負う事になるってことだ!! はっはっはっは!!』


 こいつは、登場早々よく喋る。ニィは、そんなアイオラスを見てふふっと笑っている。俺は、少しは空気を読めって言いたい。

 まあ言ったところでこいつはそう変わるものじゃないがな。


「だから、今回も早く決着をつけるんだよ。今回の相手はあいつだ」

『おお! これはなかなか活きのいい奴じゃねぇか!』


 と、アイオラスをムロクへと突きつけると、大喜びしている。


「華燐。ちょっとうるさい剣だが我慢してくれ」

「いえ、大丈夫です。……では、行きましょう刃太郎さん」

「おう!!」


 まず飛び出したのは、俺だ。

 アイオラスを構え、真っ直ぐ超完全体ムロクへと突撃していく。その後ろを、一定の距離を空けながら追ってくる華燐。

 はっきり言って、奴から溢れ出ている邪気で、通常はほとんど近づけないだろう。

 だが、俺にはアイオラスがいる。

 こいつの聖なる力で、こっちに突き刺さる邪気をかき消しているんだ。そのおかげで、押されることなく進める。


《どう足掻こうと俺には勝てん!》

「それはどうかな!!」


 膨大な邪気により生成せし剣と、元々あった太刀の二刀流で飛び出す超完全体ムロク。その一撃を俺は最小限の動きで回避し、もう一刀の邪気の剣をアイオラスで受け止めた。

 いや、切り裂いた。


「邪気をかき消しただと!?」

『残念だったな! 俺には、特殊な力は通用しねぇぜ!!』

《くははっははは!! ならば、物理で攻めるまでよ!!》


 もう一刀の太刀を手に俺へと切りかかってくる。普通、太刀を二刀流とか無理な話だ。しかし、今のムロクは普通じゃない。

 まあ、俺も普通じゃないから言えた口ではないが。

 一撃を華燐は受け止め弾く。もう一撃を俺も弾いた。。

 一度、華燐を後ろに下がらせ俺が盾となるように前に出て、剣を切り裂いた。


《まだまだぁ!!》


 いったい何本所持しているんだ。太刀が使えなくなるとそれを瞬時に捨て、また新しい刀を手に切りかかろうとまた手を邪気の渦に突っ込む。

 だが、そこが狙い目だ。


「華燐!」

「はい!」


 ムロクが邪気の渦に腕を突っ込んだタイミングで華燐が霊力を解放。そのまま腕を霊力により縛った。簡単に説明すれば、霊力で渦の穴を塞いだんだ。

 腕ごとな。


《ぬう!?》

『逝っちまいなぁ!!』

「ハアッ!!」


 動きが止まったところで、俺はムロクを切り裂いた。だが、ただ切り裂いたのではない。俺が切り裂いたのは……。


《ぐおぉ……おおお!? な、なんだこれは……!? 体が!》


 秋明さんとムロクを結びつける邪気。アイオラスは、特殊な力を切り裂くのが得意だ。こうして、物理的な攻撃の他にも、人体を傷つけず特殊な力だけを切り裂くことだってできるんだ。

 まあ、これには使い手の集中力と力の加減というものが必要になるため。

 少しでも間違えれば、普通に人体を傷つけることもある。

 だからこそ、華燐に動きを封じて貰ったんだ。


「ぐっ!」

「く、くそ! まさか、我らの融合を解くとは!! だが、まだだ!!」


 融合は解けた。秋明さんは、気絶しているようだが。ムロクは、無傷と言ってもいいだろう。多少の邪気は切り裂いたとはいえ、まだ周辺には膨大な邪気が漂っている。

 それを全て集めようとする。

 だが、そうはさせない。


「アイオラス!!」

『おうよ!』


 アイオラスを構え、共に呪文を詠唱する。


《全てを白き世界へ!》


 刹那。

 周辺に漂っていた邪気は全て消された。今まで、どんより曇り空だったが晴々とした空に変わり、太陽の日差しが差し込んだ。

おそらく、後二話ほどでこの章は終わりです。

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