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第二十話「静かに」

「この程度!」

「おりゃー!!」


 温泉旅行三日目。

 昨日は、食べ物関連の店などを多く回って食べ歩きをしていた。が、今日は、遊び場などをメインに周ることにした。

 今は、定番の射的をやっている。

 夏祭りの時もやっていたが、こういう遊び場だと定番だから仕方ない。射的もあるが、輪投げとかも。

 こういった定番のものからあまり見たことのないものもある。


 ここから見えるものとしたら、色んな絵が描かれているディスプレイがあって、ペンのようなものが。

 なんだこれ? と近づいてみると店員のお姉さんが出てきて笑顔で説明してくれた。


「これは、タッチでしりとりというゲームで。単純に、ここに出てくる多くの絵でしりとりをしていき、その総合ポイントで争う! というものです。百円玉を入れるとゲームが開始し、ディプレイに出てくる絵がランダムで表示されます。それをこのタッチペンでタッチ! 単純だけど、頭を使い、熱くプレイできる! 制限時間は三十秒! この短い時間でどれだけしりとりをしポイントを稼げるか! さあ、あなたもレッツプレイ!!」


 と、熱く解説してタッチペンを渡してくるお姉さん。

 仕事熱心な人だなぁっと思いつつ俺はじゃあやりますとタッチペンを受け取る。筐体の一番上には今まで挑戦した者達の総合ポイントとランキングが表示されている。


「一位は、総合ポイント三百十ポイント?」

「ちなみに、ひとつの絵につき十ポイントとなります。最初に表示された絵で全てしりとりをすると、次の絵に即座に! 切り替わりますので。制限時間内なら、いくらでもしりとりができますよ」


 つまり、一位の人は三十もの絵でしりとりをしたということか。よくまあ、こんなに密集した絵でそこまでしりとりができたものだ。

 今表示されているのは、見本のようなもの。

 今から百円を入れれば、ここの絵は切り替わり他のものになる。動物から道具、架空の存在まで色んな絵がある。相当の知識量じゃないと難しい。

 例えば、単純に犬と言っても、ここから見える限りでは柴犬だったり、ゴールデンレトリバーだったりと種類も豊富。

 更に、綺麗に並んでなくごっちゃ混ぜになっているから探す時にも少しのタイムロスがあるだろう。


「じ、刃太郎さん。大丈夫ですか?」

「やるからには、全力でやらないとな」

「お、お兄ちゃん。まず私からやってもいいかな?」

「有奈から?」


 挑戦者の目となっている有奈は、百円玉を持ちながら俺に告げた。そういえば、有奈もゲームが大好きだったもんな。

 特にこうやって動く系のものから考える系のものが。恋愛ゲームとか、格闘ゲームなどはあまり得意ではないが。

 俺は、わかったと頷き有奈にペンを渡す。

 そして、ゆっくりと百円玉を投入してポップな音楽が鳴り響き、ディスプレイの絵がまるでルーレットの切り替わったいく。


「……」


 刻まれていくカウント。

 後ろで見ている俺達にも緊張感が伝わってきている。

 三、二、一……スタート。


「まずはこれから!」


 一瞬の判断。

 有奈は、一番早く目についたのか椅子をタッチする。すると、椅子の絵はわかりやすく一という数字が中央に刻まれ光り輝く。


「これ! 次はこれ!!」

「おお! さすが有奈! 今のところほとんどのタイムロスがない!」

「普段は、ふんわりしているけど。こういう時は、雰囲気変わるんだよね有奈って」


 うん、凛々しい有奈もいいものだ。

 今のところは、百七十ポイントを越えて、残り時間十二秒。これは、いけるか? 


「えっと、これ!」


 しかし、一瞬躓いてしまった。

 それでも有奈は挫けずしりとりをし続ける。このゲームは考えながら体を動かすため、三十秒という短い時間の中で、かなりの疲労が襲うことだろう。

 そして。


『終了ー』

「あぁ……」


 筐体から終了の声が聞こえ、ディスプレイが一瞬暗くなる。そして、再び点くと今までタッチしてきた絵が次々に切り替わり、最終的には総合得点が表示された。

 有奈の得点は。


「二百八十ポイント」

「あー……後三十ポイントだったのに!」

「最初は勢いよかったけど。途中からスピードダウンしちゃったね」


 有奈のプレイを見ていた限りでは、最初はスムーズにしりとりを出来ていた。しかし、途中から明らかにスピードダウン。

 やはり、しりとりをしつつその絵を探してタッチするというのは難しいということか。


「それにしても、この一位の人誰なんだろう?」

「名前を入力できるみたいだけど。名前は……まいまい?」

「それは私よ」

「え?」


 聞こえ覚えのある声に、俺達は振り返る。そこに居たのは、サシャーナさんと駿さんと共に小物売り場へと行っていたはずの舞香さんだった。

 まいまいって……そ、そういうことだったのか


「惜しかったわね、有奈。まあでも、私も有奈よりも十歳以上も年上だからね。年の功ってやつよ!!」

「いやぁ、素晴らしかったですよ。舞香様のプレイする姿は」

「蝶のように舞い、蜂のように刺す! という言葉があっていましたからねー」


 そういえば、この大人三人組みは先日俺達が食べ物関係の土産屋に行っている間どこかに行っていたっけな。まさか、その時にってことか。

 それにしても、蝶のように舞い、蜂のように刺すって。

 この筐体の前で、そんな舞香さんの姿を想像する。

 蜂のように刺すはタッチペンで鋭くタッチしているってことだろうけど。蝶のように舞いっていうのは、無駄な動きに思えてしまう。

 まあ、例えってやつだろうし。蝶の部分はほとんど必要はないのだろう。


「でも、その歳でよく私の足元まで来たわ。やっぱり、有奈はすごいわね」

「舞香さんこそ。ランキング一位を取るなんてすごいよ」

「あ、でも有奈はさっきので二位になったよ!」

「って! 勝手に名前を入力しないでよ! リリー!」

「だって、制限時間が迫っていたし。次のお客さんだっているんだよ?」


 その通りだった。小学生ぐらいの子供達がまだかまだかと後ろで待っていた。それに気づいた有奈は、若干頬を赤く染めてどうぞっと筐体から退いた。

 ちなみに、リリーが設定した有奈のネームはアリーナとなっている。


「うむ。大量大量!」

「一杯取れたねー」

「丁度大人達も集まったみたいだし。次に行こうか」


 ロッサ達も、射的やら色んなゲームで商品を取り捲った模様。

 それから俺達は、観光地を散歩しつつ昼食時まで時間を潰すことにした。そして、神社近くに立ち寄った時、クロが突然華燐の後ろに隠れる。

 どうしたんだろう? と先を見詰めるとそこには先日出会った秋明という男が神社を見詰めていた。


「秋明さん。またお会いしましたね」

「ああ、華燐。隆造さんとは会ったみたいだな」

「はい。秋明さんはここでなにを?」

「あぁ、俺は……ん?」


 ここで何をしているのかと問われそれに答えようとした秋明。だが、口を閉ざし華燐の後ろに隠れているクロへと視線向ける。

 そこからしばらくの沈黙があり、こほんっと咳払い。


「すまない。急用を思い出した。俺はこれで失礼する」

「あ、秋明さん!」

「随分と慌しく行っちゃったね」

「それだけの急用だったってことじゃない?」


 急用か。俺は、クロを見る。明らかに、彼女は秋明さんに怯えていた。そして秋明さんも、クロを見て何かを考えていた素振りがあった。

 昨日の邪気のこともあるし。

 まさか、クロと秋明さんは何か関係があるのか? 本人から聞き出したいが。


「うっ……!」

「クロ? どうしたの?」

「あ、頭が痛い……」


 聞き出せる状況ではないな。だけど、もしかすると秋明さんと会ったことで失われていた記憶が蘇ろうとしているのかもしれない。


「それは大変だわ。駿さん、この近くに休める場所あったかしら?」

「そうですね……あちらのほうに公園があったはずです。そこのベンチで休ませましょう」

「はい、わかりました。クロ? 立てる?」

「うぅ……!」


 ちょっと無理のようだ。仕方ない。ここは、俺が連れて行くとしよう。ゆっくりと、慎重に俺はクロを抱きかかえた。 

 体が小刻みに震えている。それに、体温も上がっているな。


「さあ、こちらです」


 駿さんの案内で、俺達は公園へと向かう。その途中、ニィとコヨミがぼそっとこんなことを呟いた。


「邪気が、増え続けているのです。それもものすごい勢いで」

「確かに結構あるね。小さいものから大きいものまで。でも、出てこようとしていない。まるで、何かを待っているかのように」


 その影響もあってクロが苦しみだした、のかもしれない。だけど、今は隆造さん達がなんとかしているはずだが。

 なにかありそうだな、これは。

さあ、ここからです。

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