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第五話「お説教」

「で? いつからこっちに来ていたんだ?」

「い、一ヶ月ぐらい前、ですかね」

「ほう。結構前から来ていたのか」

「は、はい。ほら、あたしって隠れるの得意じゃないですか? ですから、目立たないようにこっちの世界を楽しんでいたんです」


 俺とニィの目の前で正座をして淡々と語る赤髪の女性。

 リフィルという名で、ニィと同じ三柱の内の一柱だ。

 見た目だけは、絶世の美女。

 しかし、性格はとてもわがままでお調子者である。ヴィスターラでも、度々騒ぎを起こしてはこうして怒られてる。


「俺に気づかれずか。さすがだな」


 まあ、俺は察知はあまり得意じゃないけど。


「いやぁ、こっちからは刃太郎さんを見つけていたんですけど。ほら? 声をかけたらかけたで今みたいに捕まえてお説教しちゃうと思いまして」

「賢明な判断だ。お前も成長したなぁ」

「そう! あたしも成長しているのよ! だから、こっちの世界に来てからというもの大人しく神様だと悟られないようにこっちの世界を堪能していたわ! だけど、そろそろ帰らないとニィやおっさんに気づかれると思って一度は帰ろうって思ったのよ!」


 成長したと言われて嬉しかったのか。先ほどまでの、低いテンションから一変。元のテンションになり、叫びだす。

 俺とニィはそれにただただ耳を傾ける。


「でも、あたしがこっちに来るときに通ってきた次元ホールはもう閉じちゃっていたの。だから、どうしようかと迷いに迷って……信仰を得ようと考えたわけ!!」


 こいつは神様であるが次元ホールを扱えない。なので、ニィのように自由自在に次元を移動できることはできないのだ。

 おそらく、こいつがこっちの世界に来る時に通ってきたのは俺がアイオラスを抜いたことで発生したものだろうな。


「あたしって神様でしょ? だから、人々の信仰を得て次元ホールを発生させるためにちょちょっと世界のバランスを崩そうと思っていたのよ」


 おそらく、リフィルの考えはこっちの世界のバランスを崩すことでまた次元ホールが出現するだろうと思ったのだろう。

 俺がアイオラスを抜いたことで起こったように。こいつも伊達に神様をやっているわけじゃない。世界のバランスを崩すぐらいはできるはずだ。


「んで。どうして鳳堂家にいるんだ?」

「ここが信仰心を集めるのに最適な場所だったのよ! 信仰を集めるにはあたしが神の姿で居なくちゃならない。そうしたら、普通の人には見えなくなる。普通の人に見えるようにするとちょっとどころかなりこっちに影響が出ちゃって……」


 チラッとニィを見る。


「そんなことになったら、こっちの神様と一緒にあなたにすっごいお仕置きをするのです」


 とても気持ちいい笑顔だ。

 三柱の関係性を軽く説明すれば、ニィが一番で、リフィルが二番。今ここにいないグリッドという男の神が三番になっている。

 つまり、ニィが三柱の中では一番強く偉いということだ。


「ですよねー。だから、あたしはちょっとだけって考えたの。ここの人間達なら、特別な力を持っていてちょっとの力でもあたしのことが見えるから」

「それで、自分が神様だと信じ込ませて召使のように働かせた、と」

「さ、最初は本当に信仰を集めるために真面目にやってたの! でも、こっちの世界のゲームが楽しくて、料理がおいしくて……! あたしは悪くないもん! こっちの娯楽と食べ物が悪いのよ!!」


 はいでた。自分は悪くない宣言。

 調子に乗ると、本当に乗りに乗るからなこいつ。しかも、リミッターが外れたかのようにドンドン過激になっていくから性質が悪い。

 誰かが本気で止めないと、全然止まらないからな。まあ、何度も言っているがこいつは神だ。止めようにも簡単には止められない。

 だから、鳳堂家も他の霊能力者もこんな状態になってしまった。


「ねえ! 刃太郎! 許して! お願い!! マジで! だって、元はと言えばあんたがアイオラスをこっちで抜いたせいなんでしょ!! あたしはただ巻き込まれただけなの!?」

「確かに、始まりは俺のせいだ。それは反省している」

「じゃあ!!」

「だが!! ニィから聞いたところ、お前は自ら次元ホールに飛び込んだそうだな」

「ぎくっ!?」


 巻き込まれたんじゃない。

 こいつは、こいつの意思で次元ホールに入ってこっちの世界に来たんだ。つまり、自業自得というやつだ。


「あの時、わたしは言ったのですよ? 誰かが入る前にすぐ閉じておくようにと」


 開くことはできないが、閉じることは出来る。

 だが、こいつはそれをしなかった。

 どうせいつもの調子で面白そうだったから。毎日が退屈だったからという理由で飛び込んだのだろう。ニィは、他にやることがあったらしく手が回らなかったそうだ。

 次元ホールを閉じるぐらいならリフィルだけでもできるだろうと。さすがのリフィルでも、もう懲りている。だから、馬鹿なことはしないだろうと信じていたニィだったが。


「まったくもう。リフィルは懲りない子なのですね。神様として恥ずかしくないのですか?」

「うぅ……」


 ニィも言えたことじゃないけどな。こっちに来て、一週間も引き篭もってリフィルを放置していた。それも、リフィルと同じようにこっちの世界の娯楽に魅了されて。 


「さて、お説教はまだし足りないが。そろそろ元の世界に戻って貰おうか。続きはそっちでだ」

「そうなのです。では、この特性の光の縄で亀甲縛りにして」

「ま、待って! まだあたしはここを離れるわけにはいかないの!!」


 光の縄を笑顔で伸ばしながら近づいてくるニィから遠ざかりながら訴えてくる。まだ、ここで遊び足りないということなのか?


「だめなのです。あなたにはお仕置きが必要なのです」

「ち、違うの! 聞いて! マジで聞いて!! これ真面目な話だから!! 遊びじゃないんだからね!! か、勘違いしないでよね!」

「ニィ。こいつがここまで言うんだ。聞いてやろうぜ」

「……いいでしょう。そこまで言うのなら聞いてあげるのです」


 リフィルの必死の訴えに、ニィも光の縄を収める。ほっと胸を撫で下ろしたリフィルは真剣な表情でなぜここにまだいなくちゃならないのかを語った。


「実はね、ここには別世界へと繋がる穴があるのよ」

「次元ホールみたいなやつか?」

「そう。この地球には、本当に小さな世界がいくつもあるみたいなの。それは止め処なく増えていってそこから生まれる悪しき者達と鳳堂家や他の霊能力者達が戦っているらしいわ」


 なるほど。それで、華燐や響は別世界に行った事があると言ったのか。それにしても、そんなものが地球にいくつもあるなんて。

 本当、地球って思っていたよりファンタジーだな。

 俺達が気づかないようにずっと昔から鳳堂家を初めとした霊能力者達、陰陽師達は平和を守ってきてくれた、か。


「それでね。ここには、すごく強力な奴らが封印されているの。どうやら昔鳳堂家の人達が挑んだけど封印しかできなかったらしいわ」

「それで、その封印が解けかかっているのをリフィル様が再度封印してくれたんです」

「華燐。もう大丈夫なのか?」


 さっきまでゲームのやりすぎで倒れる寸前だった華燐だったが、若干回復したらしい。とはいえ、まだ顔色が良いわけじゃない。

 響も、姉である華燐を支えている。


「はい。ちょっとは。ここに封印されているのは、三百年前の鳳堂の当主が身を削って封印した悪鬼。私でも、近づいただけで身震いがしました。負けない、と思いますが周りにかなりの被害が出るかもしれないから、不用意には封印は解けなかったんです」

「でも、三百年の時を得て封印が解けかかっていたんだ。んで、そこに現れたのがリフィル様ってわけだ」

「倒すなんて簡単だったけど。あれほどの力を持った相手を倒すとなると刃太郎達にばれちゃうかもって」


 つまり、こいつはその悪鬼の封印をしていることで信仰を得ていたと。んで、自分が神様だって祭られている内に、調子に乗って……うん。


「封印はお前がいなくなったら継続しないのか?」

「……えっと」

「包み隠さず言うのです」

「はい! 全然余裕だと思っていたから、後一時間で解けるかと思います!!」

「なるほど。それじゃ、ちょっくら行って来るか」


 パシッと掌に拳を当て俺は気合いを入れる。それを見た華燐と響は、首を傾げた。


「どこに行くんですか?」

「そんなの決まっているのです」


 ニィは俺がやろうとしていることがわかっているらしく小さく笑い後をついてくる。


「ま、まさか」

「ああ。その悪鬼とやらを倒しにだよ」

「ほら、リフィルも逃げずに来るのです。案内のために」

「ちょっ!? 逃げないから! 亀甲縛りはやめて!! あたし神様だから!! こんな姿見られたくない!! 案内ならちゃんとやるから!!」


 鳳堂家とその他の皆さん。

 威田刃太郎がお詫びとして、頑張らせて貰います。

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