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第一話「娘を頼む」

「どういうことですか? 娘さんと遊ぶって。しかもアルバイト」

「困惑するのも無理はない。だが、世の中には忙しい親の代わりに子供の相手をしてくれる仕事があることは、わかるね?」

「まあ、それぐらいは」

「それと似たようなものだと考えてくれ」


 似たようなものって。

 ちょっと無理があるんじゃないだろうか。そう思いつつも、俺は黙って卓哉さんの説明に耳を傾ける。

 映像機に映し出されるのは、その娘さんの写真ばかり。

 赤ちゃんの頃からの成長記録というものだろう。


「僕は、異世界で知り合ったとある獣人と結婚し、一人娘を授かった。これがとてつもなく! めちゃくちゃ!! 可愛くてね。もう仕事に手がつかないほどに可愛いんだ」


 その気持ちはわかる。

 可愛い子のことを考えると、なんだか思うようにいかないんだよな。やっぱあれだな。可愛いは正義っていう言葉はマジなんだよ。

 しかし、仕事が手につかないのはここの社長としてどうなんだろうか。


「だが。僕と妻の力を純粋なまでに受け継いだためにか。力を持て余していてね。僕やサシャーナ達もついに手がつけられないほどに。成長してしまったんだ」


 映し出された映像には、サシャーナさんの部下達がその娘さんに立ち向かっているが容易に打ち負かされる姿が。

 こんな小さな体でよくもまあ、あんな力を。


「そこで、どうしたものかと考えた結果。僕と同じ体験をしている者達に依頼をしようという結論に至った。しかも、もっとも強く、若い者を」

「それが、俺ってことなんですか?」

「その通りだ! 実はね、天宮遊園地は娘の相手をしてくれる人を探すために作られたようなものなんだ」

「マジっすか?」

「ああ」


 なるほど。娘のためっていうのは、そういう意味だったのか。確かに、今思えば、あの遊園地にある施設ってなんだか人を試すっていうか、測るような感じのものが多かったから。

 ローリングシップだったり、鏡の迷宮だったり、VR体験だったり。

 まさか、そういう理由で作られていたとは。


「だけど、そう簡単には見つからなかったんです。だから! 刃太郎様を見つけた時はもう一同大喜びでしたよ!!」


 わーい! わーい! とその場で跳ねてから俺に抱きつくサシャーナさん。うっ、なんていい匂い。それに、頬がすげぇ柔らかい。

 スキンシップのつもりなんだろうが。

 青少年には刺激的ですよ。

 だが、俺は鋼の精神で堪える。


「こらこら。刃太郎くんが困っているだろ? サシャーナ」

「お困りですか?」

「それほどでも」

「だそうです!!」

「まったく……では話を続けさせてもらうよ。刃太郎くん。君は、最近地球に帰ってきた。そうだね?」


 最近といえば最近かな。

 一ヶ月はもう経っているけど。卓哉さんに比べれば一ヶ月なんてたいした時じゃないだろうし。


「はい」

「そして、この映像だが」


 次に映し出されたのは、俺が光太やザインと戦っていたものだった。カメラは壊したはずなのに。もしかして、もう一台あったのか?


「素晴らしい力だ。まさに圧倒。これだけの力を持っているなら、娘の相手もきっと務まるはずだ。そう思ったからこそ、君をここに招いたんだよ」

「ずっと監視されていたってことですか」


 あのバニーガール達も、サシャーナさんの部下だって言っていたし。監視カメラなしでも可能だったわけだ。

 そして、施設のひとつひとつに何か測定機のようなものがついていたんだろう。


「すまないね。でも、これはこの世界のためでもあるんだ」

「世界のため?」

「君もわかるだろ? 大きな力は、使い方次第では滅びの力になる。娘は、自分の力を制御し切れていない。僕もサシャーナもなんとかしようと頑張ってはいるんだけど。いや! 普段は可愛い娘なんだ! しかし、力が暴走し始めると……」


 そういうことか。

 暴走しないように、俺が相手をしてやりながら、力の制御の仕方を教える。言わば、遊び相手兼教育係ってところだな。

 とんでもないアルバイトを頼まれたものだ。


「説明は以上だ。次に、報酬だが」


 ぴっとボタンを押す音が聞こえたと思いきや、床が開き札束が目の前に現れた。


「えっと」

「百万だ」

「マジすか?」

「マジだ。君もまだ若い。友達や家族との思い出作りに何かと金が必要になるだろ? とりあえず、それは前金だ。後の報酬は、仕事ぶりを見てからということで」


 百万って……とんでもないアルバイトだ。そもそも、アルバイトではなく、映画である特殊ミッション的な感じだよ。

 アルバイトで百万は絶対ないからな、常識的に考えて。まあ、かなり危険を伴うし、妥当なんだろうか? 

 でも、世界が滅びかねないって言われたらもうちょっと。

 いや、だめだ。

 金に目がくらんでいたら。そもそも、百万もあれば十分恩返しができるじゃないか。


「娘も夏休みだ。夏休みとなると学校も休み。だが、こちらは仕事を容易に休むことは出来ない。サシャーナ達にも頼むつもりだが……」


 そうか。その娘さんは、普通に学校に通っているのか。だからこそ、心配なのだろう。普通に暮らしていて力が暴走し、誰かを傷つけないかって。

 そういうことなら、力ある者が引き受けるのが道理。

 俺も、こんな可愛い娘の幸せってものを守りたい。


「わかりました。そのアルバイト、お受けします」

「おお!! やってくれるか!?」

「わーい!!」

「どうなるかはまだわかりませんけど。やれるだけのことはやります。娘さんの笑顔、俺が守ってみせます!!」

「ありがとう! 刃太郎くん! 身勝手なお願いだとは承知だが、娘のためなら僕はどんなことだろうと協力を惜しまない!! それに、夏休みの間だけの限定アルバイトだ。さっきも言ったがサシャーナ達もいる」


 サシャーナさんへと視線をやると、笑顔を作る。

 まるで、お任せを! と言わんばかりに。

 あ、そういえば重要なことを聞き忘れていた。サシャーナさんが、百万をバックに詰めている横で俺は卓哉さんに問いかけた。


「すみません。娘さんのお名前は?」

「おっと! そういえば言っていなかったね。天宮コトミだ。サシャーナ。コトミのところへ案内してあげてくれ」

「かしこまり!! ささ! こちらですよ、刃太郎様!!」

「それじゃ、失礼します」

「娘のこと、頼んだよ」


 卓哉さんに一礼し、俺はサシャーナさんと共に部屋から出て行く。そして扉を完全に閉めたところで、俺は。


「ごふっ!?」


 倒れた。


「あわわ!? ど、どうなされたんですか?! 刃太郎様!!」


 突然のことに、さすがのサシャーナさんも困惑しているようだ。俺は、うつぶせになったままこう呟いた。


「いや……俺の異世界生活って改めて考えるとすごく灰色だったなって」


 卓哉さんの話を聞いて、俺はずっと思っていた。

 悔しい、羨ましいという感情が俺の中でぐるぐると渦を巻くように暴れていたんだ。だが、俺は堪えていた。

 今は大事な話だ。卓哉さんは、娘のために真剣に俺へと頼んでいる。

 ここで倒れちゃだめだ、と。 

 だから、俺はよく堪えたと自分に言い聞かせ力尽きた。


「俺なんて、一緒に旅をしてくれた子に好きな人がいたんですよ? しかも、最初に仲間になってくれた子なんです。とっても優しくて、料理も上手で、凄腕の魔法使いだったんです。そんな彼女に、自然と惹かれていたのに……へへ。仲間には恵まれていたんです。でも、恋愛系はありそうでなかったっていうね。だから、卓哉さんとのこの差は何なんだろうって。俺の異世界召喚って、なんだったんだろうって……」

「刃太郎様! お気を確かに!! これからコトミ様と遊ぶという重要なお仕事があるんですよ! ファイトー! オー!!」


 頑張れ、頑張れと応援しながら、俺のことを助けお越しエレベーターへと連れて行ってくれるサシャーナさん。

 そうだ。こんなところで倒れている場合じゃない。

 俺には、今がある。異世界での生活が灰色だったから何だって言うんだ。俺は、この地球で待っている家族のために頑張ってきたんじゃないか。

 そして、帰ってきたからには今を大事にしなくちゃ。

 こうして、俺はサシャーナさんの励ましもあり何とか正気を取り戻した。

 待っていてくれ、コトミちゃん。俺が、今遊びに行くぞ!

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― 新着の感想 ―
恋人できなかった程度で灰色って言い出すキャラじゃないし、さては魔族って人間の別種族パターンだったとか? バケモノを殺すお仕事です!って思ってたら自分が殺してたのは人間だったみたいな
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