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第五話「夏はこれからだ」

「まずは、結界を!!」

「破壊する!!」

「せーの!!」


 今から突撃する空間の裂け目を守っている結界を、俺達は力をあわせて砕いた。


「リリー、ちょっと力入れすぎじゃない?」

「そ、そうかな?」

「大丈夫だ。力が入りすぎるぐらいが丁度いい。さあ、中に入るぞ」


 結界が砕け、容易に中へ入ることができた。てっきり、結界が砕けても、また別の邪魔をする何かがあるかと警戒していたが、取り越し苦労だったようだ。

 宇宙にあった空間の裂け目の中は、思っていたより明るいものだった。いや、これはまさか……青い空、白い雲、そしてこの照りつけるような太陽。


「まさか、この空間は夏そのものだったのか?」

「確か、ここの奪った夏があるって話でしたよね?」


 その通りだ。

 つまり、この南国のような風景が広がっているのは、奪われた夏が具現化したもの?


「くぅ! この暑さ! 夏ですねぇ!」

「そうだけど、お兄ちゃん、どうするの? 夏を奪い返すってことだけど」


 見渡し限りでは、ボスのような存在はいない。そもそも、あいつはこの空間に居るボス的なものをどうにかしなければ夏は取り戻せないと言っていた。

 具体的にどこに居るのか。それを聞きだしておけばよかったな。まだまだ詰めが甘いってことか、反省だな。


「ともかく、探索してみよう。急ごしらえで作ったみたいだからな、この空間は。それほど広くはないはずだ」

「じゃあ、二人ずつ分かれて探そう。私は、お兄ちゃんとね」

「え? い、いや! 刃太郎さんとはあたしが!」

「だめだめ。リリーちゃんは、さっきまでお兄ちゃんを独占してたでしょ?」

「ど、独占してないよ! サシャーナさんが居たし!」

「それだけじゃない。私達よりも、お兄ちゃんに会っている回数が多いんだよ!」


 と、どこからともなく取り出した一枚の紙に、なぜか俺と出会った回数が正確に書かれていた。いや、俺自身も数えたことがなかったから、正確かどうかはわからないけど。

 紙に書いている通りなら、確かにリリーは有奈よりは俺に会っているな。


「う、ううぅ!!」

「というわけで、今日は私がお兄ちゃんと一緒に行動します」

「できるだけ、刃太郎さんに会おうという計画が仇となってしまった……!」


 がっくりと膝をつくリリーに対し、華燐がドンマイと肩に手を置く。


「こら、お前達。じゃれ合っている時間はないぞ」

「はーい! じゃあ、二人とも! そっちは任せたからね!」

「う、うん」

「そっちも何か見つけたら、すぐ知らせてね」


 こうして、俺と有奈、リリーと華燐とで分かれ、夏を取り戻すヒントを探しに行く。念のため、新しい情報をゲットしていないかニィに連絡を入れてみるか。

 今の世界状況も気になるしな。


『はいなのです、こちらあなたのニィなのです』

『馬鹿なことを言ってないで、今の状況を教えてくれ』


 まだ空間の裂け目に入って間もないが、それでも地球がどうなっているのか。


『今のところは、そこまで変化はないのです。地球の人達も、大分異変に慣れてきているみたなので』


 それは、素直によかったと喜んでいいものなのか。


『クロッサから、新しい情報は?』

『聞き出せたのです。どうやら、その空間の中には宝箱があるらしくそこに夏を封印しているそうなのです』

『つまり、そこに守護者が居ると。その宝箱がある場所は?』

『それが、失神しちゃって聞き出せなくなっちゃったのです。やりすぎはよくない! と反省したのです……』


 ……敵ながら可哀想に思えてきた。ともかく、宝箱を探せばその守護者とやらは居る。夏を護るほどの守護者だ。

 相当でかいか、目だった特徴があるに違いない。


『わかった。俺達は、引き続き夏を取り戻すため、探索を続ける。そっちも何かあったら、連絡してくれ』

『了解なのですー』


 念話を切り、俺は探索を再開する。


「お兄ちゃん!」


 すると、有奈が声を張り上げた。何かを見つけたようだな。


「見つけたのか?」

「うん。こっちに宝箱があったよ。リリーちゃん達にも知らせないと!」

「ああ。こっちから連絡しておく。行くぞ!」


 やはり、そこまで広大な空間ではなかったようだな。

 それに。


「もう少し隠す場所を考えたほうがよかったんじゃないか? これ」

「というか、全然隠れていませんね」

「取ってみろと言わんばかりですもんね、あれ」


 有奈が見つけた宝箱は、全然隠れていなかった。塔のように高い岩の上に、宝箱は野ざらしにされていた。本当に思いつきで、奪っただけみたいだな。

 てっきり、嘘をついているかと思ったが。


「どうします? 明らかに、罠っぽいですけど」


 まあ、あんな野ざらし状態を見れば、誰でも罠っぽいとは思うだろう。しかし、ここまで来たら罠という罠があるとは思えない。

 それに、ここまでのことで、あのクロッサはそういうことをしないと確信した。


「大丈夫だろ。おそらく、近づけば守護者が出てくるはずだ。そいつを倒して、封印されし夏を解放するぞ」

「わかった、お兄ちゃん。皆の夏を取り戻そう!」


 俺が先行して、宝箱へと近づいていく。

 一歩、また一歩と近づき、残り十メートルまで近づいた刹那。


「この揺れは!」

「お出ましのようだな」


 砂浜が揺れ、抉れたと思いきや、そこから出てくる頭に小さなヤシの木が生えたゴーレム。こいつが、守護者か。なんというか、わかりやすい守護者だ。

 

「わー、おっきいですねぇ」

「どうしますか? 刃太郎さん」


 正直、このメンバーだったら負けるイメージが湧かない。俺は、右拳に神力を集束させ、三人に伝える。


「皆で一斉攻撃!!」

「了解!! 来たれ! 神光! 我が右足に!!」

「夏を早く楽しみたいですもんね! 吹き荒れよ! 神風!!」

「あんまりはしゃぎ過ぎないようにね。招来せよ、神々の威光よ!!」


 宝箱を護らんと、五メートルを超える巨体から振り下ろされる拳を俺は受け止め、そのまま空中へ投げ捨てる。


「いきます!」

「せーのだよ?」

「うん、刃太郎さん!!」

「ああ! せーの!!」


 空中でなす術も無い守護者へと、俺達の容赦のない一撃が四方から叩き込まれる。完全にオーバーキルのように思えるが、これも地球に夏を取り戻すため。

 悪く思うなよ、守護者。


「よっと……さて、さっそく宝箱を開けるとするか」

「気をつけてね、お兄ちゃん。結構あっさりしてるから、宝箱に罠があるかもだよ」

「わかってる」


 最後まで油断はしない。俺は軽く跳び、宝箱のところに辿り着く。そして、神眼を使い何も罠がないことを確認して、宝箱を開けた。

 

「おお! 夏が飛び出してきたよ!」

「夏ってあんな感じなんだね」


 宝箱から勢いよく飛び出してきたのは、青と赤が入り混じったような光だった。それが、空間を貫き、どこかへと去って行く。おそらく、地球へ向かったんだろう。

 自分が飼えるべきところへ。

 それを見届けた俺は、再度ニィへと念話を繋げる。


『夏は解放した。そっちの様子はどうだ?』

『まだ寒いですが、徐々に温かさが戻ってきているのです。政府のほうにも夏は取り戻したとこっちから伝えておくのですよ。ご苦労様、なのです刃くん』

『ああ』

『あっ、それといい忘れていたのですが、そっちに』

「ふははははは!! さあ! 者ども!! 我らの手で夏を取り戻すぞ!!」


 念話でニィが何かを伝えようとした時だった。なんとも騒がしい声が響き渡る。なるほど、ニィが言いたかったことはあいつらがこっちに向かって行った、ということだったか。

 俺はため息を漏らしながら、まだ今の状況を理解していない馬鹿な魔帝に俺はこう伝える。


「もう解決したぞ?」

「なん、だと?」

「ついさっき、夏を取り戻したところだよ」

「……くっ! 一歩遅かったか!!」

「ば、バルトロッサ様! お気を確かに!」

「こうなったら……刃太郎! 今すぐ我と勝負だ!」


 なんでそうなるんだ。

 だが、結局俺は、いや俺達はロッサ達と色々と勝負することになる。そう、取り戻した夏を満喫しながらな。

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